機能性表示食品を今後どう販売すべき?新井消費者庁長官記者会見要旨

奥山晶子

小林製薬の紅麹原料を含む機能性表示食品問題をめぐり、波紋が広がっている。サプリ等の類似商品を扱っているEC事業者の中には、今後自社がどのような対応をしていくべきなのか知りたいと考えている方も多いだろう。2024年3月28日に行われた新井ゆたか消費者庁長官記者会見を要約しつつ、今回の問題に関するこれまでの流れを確認しながら、今後事業者に必要な対応を解説したい。

新井長官記者会見で話されたこと

2024年3月28日に行われた新井消費者庁記者会見では、冒頭で以下5点の発言があった。

■企業不祥事における内部通報制度の実効性に関する調査・分析の結果
2019年以降に公表された企業不祥事に関する調査報告書265本を収集・分析し、経営トップに対する提言としてまとめたもの。内部通報制度を導入済みの事業者において、上司や窓口への内部通報を不正発覚の端緒と回答した事業者の割合は76.8%となった。

■食物アレルギーの表示対象品目及び外食・中食における情報提供について
容器包装された加工食品における表示対象品目の削除と追加。「特定原材料に準ずるもの」について、マカダミアナッツの追加及びまつたけの削除を行った。また、外食事業者等が行う食物アレルギーに関する情報提供の取組の一環として、消費者庁が動画で学べる教材を作成した。

■「賃金上昇と物価上昇との関係に関する動画」の公表
消費者庁では、賃金上昇と物価上昇の関係について中高生にも分かりやすい言葉で伝えるという視点から動画を作成している。このたび、「日本の物価・賃金、世界と比べてここが変!」、「物価はなんで上がらないの?」、「物価をウォッチしよう!」というテーマで動画3本を作成した。

■消費生活相談デジタル化アドバイザリーボードの開催について
地方公共団体が新システムの導入準備を進める際の手順や、予算要求のポイントについて、地方公共団体の皆様に情報提供を行うことをメインとして開催。

■小林製薬が販売する機能性表示食品について
機能性表示食品のすべての届出製品約7000件について、届出事業者に対して、健康被害の情報の有無や、適切な報告が行われているかなど確認を行うよう大臣から指示を受けた。3月28日付で約1700の事業者に質問状を発出、4月12日までに回答を求めている。
とくに会場からは、5点目の小林製薬関連の話題に関する質問が相次いだ。この記事では、記者からの質問と新井長官のコメントから、機能性表示食品の今を整理する。

機能性表示食品とは

まずは、そもそも機能性表示食品とはどんなものかを押さえておきたい。機能性表示食品とは、2015年4月に始まった「機能性表示食品」制度に基づき消費者庁に届けられた食品のことだ。届出を行えば、「おなかの調子を整えます」「脂肪の吸収をおだやかにします」といった機能性についての表示が可能となる。

制度が始まる前までは、国が個別に許可した特定保健用食品(トクホ)と国の規格基準に適合した栄養機能食品にしか、機能性を表示することが許されなかった。そこで、機能性をわかりやすく表示した商品の選択肢を増やし、消費者が商品の正しい情報を得て選択できるよう、「機能性表示食品」制度が始まった。

特定保健用食品(トクホ)との違いは、国の審査が行われているか否かにある。トクホは、表示されている効果や安全性について国が審査を行い、食品ごとに消費者庁長官が許可している。対して機能性表示食品は、事業者の責任において科学的根拠に基づいた機能性を表示するため、消費者庁長官の個別の許可を受けたものではない。

※参考元:機能性表示食品 消費者向けパンフレット「消費者の皆様へ 機能性表示食品って何?」(消費者庁)

機能性表示食品に関する消費者庁の動き

機能性表示食品に関する消費者庁の動き 新井消費者庁長官記者会見要旨他よりECのミカタ編集部で作成

このたびの会見では、機能性表示食品に関する消費者庁の動きが報告され、さらに質疑へ答える形で長官がコメントを発表した。

消費者庁は、2024年3月22日に健康被害について小林製薬から具体的な報告を受けた。そして同日付で米紅麹を原料とする機能性関与成分(米紅麹ポリケチド)の届出をした製品9件について、小林製薬を含む届出者2社に対し、安全性に関する科学的根拠を再検証の上、4月5日までにその結果を報告するよう求めた。

その後、前項で示した通り、約1700の事業者に健康被害の有無等について質問状を発出。4月12日までの回答を求めた。さらに各種媒体を通じ消費者に情報提供を行い、消費者の不安を払拭するために原料入手先について調査公表を働きかけている。

質疑応答では、主に以下の3点に重点が置かれた。

■問題となっている機能性表示食品と健康被害との因果関係
現在は原因分析の半ばであり、小林製薬へのさらなる聴取が必要。また、機能性表示食品の制度ができてから、重篤な死亡事故の事例は初めてとの認識が示された。

■機能性表示食品の安全性確認の仕組みについて
機能性表示食品は、トクホと違い国の審査がなく、事業者の責任で機能性表示ができる。これについて「機能性表示食品制度の安全性確認の仕組み自体がちょっと緩いんじゃないかという見方もある」と指摘されると、新井長官は「いろいろなご意見をいただいています」としたうえで、「それらを含めて今回の事案の分析と一緒に検証するということは必要だと考えています」と答えた。

制度そのものを見直す考えはあるかという質問に対しては、「まずはこの全体の総点検の状況というのを見ることが必要だと思っています」とコメント。この事案も含め、ここが出発点となる考えを示した。

一方で「機能性食品全体の総点検は厳しい判断では」という意見もあり、新井長官は「皆様が機能性表示食品を利用する場合の信頼を高めていくという意味での緊急点検」であると説明し、厳しい判断ではないことを強調した。

■今後の対応について
約1700の事業者から質問状を回収した後については、事業者が「健康被害の問題に対してどう届出事項を遵守して向き合っているのかというそれぞれの結果を踏まえて検証していく」。なお、健康被害の原因究明をした後については「原因究明の結果が出ることが、これからの色々な検証の出発点にもなる」とコメント。機能性表示食品の安全性を保つためには、どんな製造工程をとれば良いのかがポイントとなるという見解が示された。

機能性表示食品を扱う事業者が行うこと

機能性表示食品を扱う事業者は、顧客に機能性表示食品の利用ポイントを周知し、自社でも見直しを行うことが求められる。なお紅麹を使用した食品についてリコールする場合は厚生労働省「食品衛生申請等システム」(※1)により手続きする必要がある。食品衛生法及び食品表示法により、事業者からの届出が義務づけられているためだ。

紅麹含む今後の動向をキャッチし、自社として必要な対応があればその都度行っていけるよう、引き続き情報収集を徹底していきたい。

※1 食品衛生申請等システム(厚生労働省)


記者プロフィール

奥山晶子

2003年に新潟大学卒業後、冠婚葬祭互助会に入社し葬祭業に従事。2005年に退職後、書籍営業を経て脚本家経験を経て出版社で『フリースタイルなお別れざっし 葬』編集長を務める。その後『葬式プランナーまどかのお弔いファイル』(文藝春秋刊/2012年)、『「終活」バイブル親子で考える葬儀と墓』(中公新書ラクレ/2013年)を上梓。現在は多ジャンルでの執筆活動を行っている。

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