LINEヤフーが2023年度 通期及び第4四半期 決算説明会 国内Eコマース取扱高は回復傾向

桑原 恵美子

LINE株式会社、ヤフー株式会社、Z Entertainment株式会社およびZデータ株式会社が統合し、2023年10月1日にLINEヤフー株式会社(以下、LINEヤフー)として新たに業務を開始した。だが2023年11月、関係会社のNAVER Cloud社が不正アクセスを受け、ユーザー情報などが漏えいしていたことを公表。その後も混乱は収まらず、2024年3月には総務省から行政指導を受ける事態となった。大波乱のスタートとなっている同社が、LINEヤフーとしては初となる通期決算説明会を2024年5月8日に開催した。

PayPay連結が成長を牽引し、24.7%の増益

2024年5月8日に行われた「LINEヤフー株式会社 決算説明会 2023年度 通期及び第4四半期」では、代表取締役社長 CEO 出澤剛氏の謝罪から始まった。「今般の不正アクセスによる情報漏えいについて、ユーザーの皆様、関係者の皆様に多大なるご心配、ご迷惑をおかけしておりますことを心よりおわび申し上げます。ユーザーの皆様に安心してサービスをご利用いただけるよう、セキュリティーガバナンスの確立に今後も注力してまいります」(出澤氏)

全社連結業績では、売上収益は主にPayPay連結が成長を牽引し、コスト最適化や選択と集中の効果に通期で初めて黒字化。調整後EBITDA(利払い前・税引き前利益、減価償却の総和で求められる利益)は収益力向上により前年比+24.7%、4149億円となり、売上収益は1兆8146億円(前年比+8.5%)、ともに4期連続で過去最高を更新した。2024年度はYahoo! JAPANアプリのリニューアルやLYPプレミアム(ヤフーやLINE、PayPayの特典を利用できる会員制サービス)を含めたサービスの強化を図り、トップラインの成長を促進することで、売上収益は約1.93兆円(前年比約+7%)、調整後EBITDAは4300~4400億円(前年比+3.6~6.0%)を目指すとした。

LINEヤフーの決算説明資料より

2023年度の調整後EBITDAの増減分析では、LINEヤフーの粗利と販管費改善が増益に寄与。改善の内容は、業務委託費の削減で+132億円、販促費の効率化で+99億円(どちらも財務会計上の販管費の改善金額。上場子会社、PayPay連結を除く)、「選択と集中」により+230億円(財務会計上のEBITDAの改善金額)となった。

一方、営業利益の増減分析では、一時益を除外すると、調整後EBITDA同様、前年比15%超の増益。調整後当期利益の増減分析では、営業利益の増加やその他営業外収益・費用および持分法による投資損益の改善になどにより、前年から約3.3倍の大幅な成長を記録した。

国内Eコマース取扱高は回復傾向

コマース事業の売上収益は主に国内物販系取扱高の回復とコスト最適化により増収増益。売上収益・成長率は前年比+3.6%となった。調整後EBITDA・成長率では、特にYahoo!ショッピングでのコスト最適化が奏功し、前年比+25.0%の大幅な増益となった(下記グラフ)。国内ショッピング取扱高・成長率は1.7%減となったが、2023年11月に開始したLYPプレミアムが奏功。第4四半期のYahoo!ショッピングの取扱高・成長率は+10%以上の高成長を記録し、底打ちとされた。

LINEヤフーの決算説明資料より

2024年度はプロダクトを強化しサービスの成長を図る

2024年度はLYPプレミアム、LINE、Yahoo! JAPANアプリというサービスの起点を強化する方針。LYPプレミアムは販促施策で新規会員数が増加しているが、今後は特典追加などで有料会員の拡大を図る。

LINEは2024年度中のリニューアルに向けて順調に進捗している。またYahoo! JAPANアプリも2024年上期中にリニューアルすることを発表。トレンドがわかる「トレンドタブ」やユーザーが選択したテーマに関する最新情報を提供する「フォロータブ」、ユーザーの生活や行動を支援する情報を提供する「アシストタブ」など、ユーザーニーズに合ったタブ構成へ刷新を図る。

LINEヤフーの決算説明資料より

またコマースでは、グループアセットであるクロスユースによってYahoo!ショッピングの成長を加速させるとする。LYPプレミアムの新規入会者の53%がLINE経由であり、Yahoo!ショッピング利用率は40%以上にのぼる(下記グラフ)。今後もLINEでのショッピングタブの新設などクロスユースを促進しつつ、取扱高の増大を目指していく。

LINEヤフーの決算説明資料より

コスト投下は、セキュリティー対策が最優先事項

さまざまな施策が発表されたが、LINEヤフーが最優先事項として取り組んでいるのが、やはりセキュリティーガバナンス。NAVER Cloud社(以下、NAVER)へ委託していた業務の内製化を含むセキュリティー対策には、プロダクト強化とほぼ同額の年間約150億円のコストを投下。セキュリティーガバナンス強化を進めていく姿勢を強調した。「2023年度のコスト最適化の方針は堅持しつつ、2024年度も、最優先事項であるセキュリティー対策、今後の成長の要となるプロダクト強化に投資を行っていく」(出澤氏)

今回の情報漏えい事案については、委託先企業のPCがマルウェアに感染したことを契機に、第三者による不正アクセスが複数回行われ、これによりユーザー情報や取引先情報、従業員等の情報が漏えいしたもの。発生の要因は、NAVERと旧LINE社の認証基盤が共通化されていたために広範囲なネットワークアクセスが許容されていたこと、旧来環境におけるセキュリティー管理が不十分であったこと、さらに委託先企業の管理が不十分であったことだと分析。再発防止に向けて、委託先の管理の強化を行うとともに、不必要な通信の遮断や基盤の分離、セキュリティーレベルの引き上げや2段階認証の導入などを推進していくことを説明した。

対策のスケジュールも公表。NAVERとの従業員向けシステム・認証基盤の分離などLINEヤフー単体で行う対策は2024年度中に完了予定であり、子会社を含む実施スケジュールも前倒し計画を策定しているとした。また、これらにとどまらず、サービス・事業領域においてもNAVER社との委託関係を終了し、Yahoo!JAPANのWeb検索開発検証における委託協業も終了を決定。それ以外のLINEを含む委託業務について原則終了していき、直近の検討ではほぼ全てのサービス・事業領域において委託を終了するという。内製化や代替手段を検討中で、委託終了の計画については7月に改めて公開予定とした。さらに2024年度中に予定されていたLINEとPayPayのアカウント連携について、LINEヤフーのセキュリティー強化を先行するため、連携時期を見直すことも発表された。

LINEヤフーの決算説明資料より

同じくコーポレートガバナンスの強化のために、経営体制の見直しも実施。独立社外取締役を1名追加し、社外役員を過半数とすると発表。さらに経営と執行の分離を進めるため、社内取締役は代表取締役社長 CEOの出澤氏、代表取締役会長の川邊健太郎氏の2名のみにする。これによって社外取締役の比率が67%となり、意思決定において内部の理論にとらわれない多様な視点から方針決定を行うことで、ガバナンスの強化を図るとした(6月に開催予定の株主総会における承認をもって就任)。

NAVER出身の慎ジュンホ氏は代表取締役からは退任するが、CPO(Chief Product Officer)は留任し、事業推進に専念する体制になる。LINEの開発を主導したことで「LINEの生みの親」と呼ばれる、NAVER出身の慎氏だけに、取締役退任の衝撃は大きく、質疑応答では不正アクセス問題や、NAVERとの今後の関係についての質問が集中した。業績は好調だが、システム管理やガバナンスについては今後も厳しい目が注がれそうだ。


記者プロフィール

桑原 恵美子

フリーライター。秋田県生まれ。編集プロダクションで通販化粧品会社のPR誌編集に10年間携わった後、フリーに。「日経トレンディネット」で2009年から2019年の間に約700本の記事を執筆。「日経クロストレンド」「DIME」他多数執筆。

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