AIによる不正検知防止額は年間約4億ドル以上に? 決済プラットフォームStripeが語るインターネット経済動向

湯浅 英夫

左からストライプジャパン株式会社 代表取締役(成長・営業戦略)の平賀充氏、ストライプジャパン株式会社 代表取締役(プロダクト・開発)のダニエル・へフェルナン氏

Stripe(ストライプ)は、決済代行サービスなどの経済インフラ・プラットフォームを企業向けに提供。スタートアップから大企業まで数百万社以上のオンライン決済、財務・金融プロセスの自動化などに利用されている。グローバルな決済とその周辺領域をワンプラットフォームで提供し、迅速なソフト開発による高い安定性などを強みとする同社。最新のインターネット経済動向と、日本企業が抱えがちな問題や解決するためのAI技術の活用などについて説明会を行った。

デジタル化の牽引は、起業家精神を持つ企業内部の人材に

世界のGDPは2023年に100兆ドルを突破した。ちなみに日本のGDPは、その4%にあたる約4兆ドルだ。そして2023年にStripeを利用したビジネスの決算総額は1兆ドル(約150兆円)で、世界GDPの1%を扱っていることに。前年同期比は25%増で、Stripeのビジネスは大きく伸びている。

ストライプジャパン株式会社 代表取締役(成長・営業戦略)の平賀充氏は、これからのデジタル経済を牽引するのは、起業家精神を持ち、事業を立ち上げて効率的に運用できる企業内部の人材だと語る。これまでは、スタートアップの中小企業がイノベーションの中心と考えられてきたが、最近は大企業も新規事業や市場を開拓し、イノベーションを育てる必要性を認識するようになってきたというのだ。

Stripeでは、これをイントラプレナーシップ(企業内起業力)と呼ぶ。「大企業がデジタル経済の可能性に着目し、その活用のためにビジネスモデルを迅速にピボット(切り替え)して適用するようになれば、非常に大きな経済的インパクトが生まれるのではないか」と平賀氏。

変化の激しい市場環境の中でビジネスモデルを常に見直して進化し、新規事業開拓や市場開拓の必要性を認識している経営層が増えているようだ。

画像元:ストライプジャパン株式会社

そこで重要になるのは、様々なシーンで起きているデジタル化だ。世界銀行によるとデジタル経済は過去10年間に急成長し、世界GDPの15%以上を占めるようになっている。

デジタル経済に適応するためのビジネスモデルの見直し方は様々だ。例えば、エコシステムをプラットフォーム化する、消費者動向に合わせて新たな課金モデルを作る、不正対策を強化して安心安全なデジタルサービスを目指す、市況の変動に合わせて事業をグローバル化するなどだ。

Stripeは、こうした変化により生じる新たなニーズに対応できるビジネスソリューションを提供していくという。平賀氏は「決済やその周辺のソリューションは決してコストではない。収益基盤を高度化するための戦略ツールだ。決済は収益源であるという考え方が、グローバルで顕著になってきている」と語る。Chief Payments Officer(チーフペイメンツオフィサー)といった財務を担う役職の登場は、それを裏付けるものだ。

日本企業の財務・経理部門の問題点

ストライプジャパン株式会社 代表取締役(プロダクト・開発)のダニエル・へフェルナン氏は、Stripeがグローバルで行ったCFO調査から浮かび上がってきた、日本企業の財務・経理部門の問題点を挙げる。

「本来行うべきコンサルティングではなく、手作業の時間があまりにも多い。経験豊富な部門長たちであっても、手作業で表をコピーしたり、データを照合したり、エラーや数値を確認したりといったことに多くの時間を費やしている」(へフェルナン氏)

日本企業の財務・経理部門の約半数が、バックオフィス業務の75%以上の時間を手作業に費やしている。手作業によるエラーや数値の確認に月10時間~25時間を費やしており、これらを自動化することによる生産性の向上が求められる。

その解決策になるのは生成AIによる自動化だ。マッキンゼー・アンド・カンパニーによると、2030年には生成AIが年間最大4.4兆ドル(約660兆円)の経済的なインパクトをもたらすという。

そのインパクトの核心はどこにあるのか。へフェルナン氏は「核心は仕事の本質を変えることにある。仕事時間の60~70%を占める業務を(生成AIによって)自動化することで、個々の労働者の労力を拡張できる。Stripeは、AIが作るエコシステムによる新しい潮流を後押しできる」と語る。

前述のような手作業で行っている業務にAIを適用して自動化することで、それ以外の業務に、よりクリエイティブな作業に時間をかけることができるようになるわけだ。

不正検知防止額は年間4億ドル? AI技術での自動化が鍵に

StripeがAI技術を活用して提供できるメリットの例として、へフェルナン氏は、不正取引の検知、加盟店審査・登録、収益最適化の3つを挙げる。

Stripeは、AI技術の活用で不正取引の検知、加盟店審査・登録、収益最適化といったメリットをもたらすという

例えば、多くのEC事業者が頭を悩ましている不正取引の検知では、本当に危険な取り引きを100ミリ秒以下の時間で判断し、年間4億ドル相当の不正を防いでいるという。正常な取り引きの通過率は99.9%以上と、機会損失は低く抑えられている。また、最適な決済方法を手安する自動推奨機能により、コンバージョン率の向上や平均取り引き単価の向上も見込めるという。

新型コロナを経てますます加速する世界経済の中でビジネスモデルを見直し、事業を拡大していくために、Stripeが提供するサービスのようなAI技術の活用による自動化は必須と言えそうだ。


記者プロフィール

湯浅 英夫

フリーライター。新潟県上越市生まれ。1992年、慶應義塾大学理工学部機械工学科卒。PC、スマートフォン、ネットサービス、デジタルオーディオ機器などIT関連を中心に執筆。主な著書に「挑戦すれば必ずできる 自作パソコン完全組み立てガイド」(技術評論社)、「大きな字だからスグ分かる!エクセル2013入門 Windows 8対応」(マイナビ)、「Excel2000 300の技」(技術評論社)がある。

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