中国ライブコマース市場を牽引するDouyin EC、成功の鍵はKOL? 最新越境ECトレンド勉強会

奥山晶子

中国市場でライブコマースが重要なのは周知の通りだろう。そんななか、中国大手のショートムービープラットフォーム・Douyin(抖音)のECにおいて、成功を収めている株式会社アクシージアが「最新越境ECトレンド勉強会」を実施。なぜDouyin ECの健康食品・サプリカテゴリで当日業界ランキング1位を獲得できたのか。同社執行役員 営業統括部長の王志華氏とDouyin EC Global Head Of Business Development Japan & Korea 黄益氏の両者に、成功の秘訣を聞いた。

前提として、ライブコマースプラットフォームの背景を解説していく。

ライブコマースプラットフォームと言えばYouTubeやInstagramなどのSNS型から、17LIVEやSHOWROOMなどのライブ配信アプリ型、あるいはLive kitなどライブコマース特化型などが日本ではお馴染みだった。それが今、グローバルで影響力の高い動画SNS、TikTokから商品を直接購入できる「TikTok Shopping & Showcase」が急伸し、話題となっている。

さらに、世界的に見てライブコマースが浸透している中国においては、国民的ショートムービープラットフォーム抖音(Douyin)上で展開される「Douyin EC」が大躍進。ビッグデータ分析などを手がけるSyntunの調査によれば、ライブコマース市場の半数近くのシェアを、「Douyin EC」が占めているという。

中国におけるEC市場、新たな成長の鍵はやっぱりライブコマースに

経済産業省の「令和4年度 電子商取引に関する市場調査報告書」によれば、2022年の中国におけるEC市場規模は2兆8790億USドル(日本円で約424兆円/2024年7月31日現在)であり前年比で9.1%増加している(※1)。2026年には3兆9850億USドル(約587兆円/同)となり今後右肩上がりでEC規模は拡大する見込みだ。

※2023年以降の数値は予測値

画像元:令和4年度 電子商取引に関する市場調査報告書p106(経済産業省)

Eコマースプラットフォーム市場シェアはどうか。Syntunの2023年Eコマース調査によれば、中国EC市場の73.3%を占めるECモールにおいては、Tmall Globalが46%、JD.comが27.2%、Pinduoduoが26.8%のシェアを占める(※2)。しかし成長率で見れば、Douyinや美団などSNS型やインスタント型ECサイトが高く、EC取引業界の新たな成長要因となっているという。

「中国のライブコマース市場の中でも、ショートムービープラットフォームの『Kuaishou』やDouyin ECが業界の新たな成長エンジンとして注目されています。コロナ禍を機に注目を集め、市場規模は右肩上がりで推移しています」(株式会社アクシージア 執行役員 営業統括部長 王志華氏)

※1 出典元:令和4年度 電子商取引に関する市場調査報告書(経済産業省)
※2 出典元:2024年电商发展报告 (星图数据)

半分近いライブコマース市場のシェアを誇るDouyin ECとは?

アクシージアの王氏が述べた、新たな成長エンジンとしてあげたライブコマース市場。中でも先述のEC型SNSの1つ、Douyin ECはライブコマース市場のシェアの半数を占めているという。

DouyinECの特徴は、圧倒的なユーザー基盤と利用時間の長さにある。2023年6月までに、DouyinEC全体のデイリーアクティブユーザー数は6億人を超えており、ECライブ配信日の平均PV数は29億回をマークしている。

また、DouyinECはレコメンドシステムが大きな強み。視聴者の趣味嗜好と合わせたコンテンツをレコメンドしていく背景があり、視聴者がフォローしていないクリエイターなどのコンテンツもどんどん紹介されていく。すると潜在ニーズが喚起され、視聴者側から見れば、自分の趣味嗜好に合った新しいコンテンツと出合いやすいチャンネルになっていく。その結果、エンゲージメントが非常に高くなるという。

なぜアクシージアはDouyinで成功しているのか

2024年5月1日、アクシージアが販売する「エイジーセオリー UVプロテクションクリーム」が、「Douyinショッピングモール(抖音商城)ランキング」にて「日焼け止め乳液 人気ランキング(防晒精华乳人气榜)(※3)」でデイリー1位を獲得した。

また、同社が美容ドリンク「AGドリンクX」を2024年3月30日にライブ販売したところ、3万円を超える商品ながら「Douyin EC AXXZIA海外旗艦店」において2日間で1万2000箱を超える販売数を記録。アクシージア史上最高の単日売上を達成した。今や「AGドリンク」シリーズの売上は、DouyinECへの経営資源集中投下が奏功し、2024年7月期3Qで前期比+60.5%となっている。

そんなアクシージアが実感している、ライブコマース上の成功ポイントは下記の3つ。

1.現地に合わせたマーケティングの徹底
毎年約10%と、中国で着実な成長が予想されている プレミアムスキンケア市場にアクシージアは注目。特にサプリメント市場はコロナ前と比べて大きな伸びを見せていることを把握して、「AGドリンクX」を大きく展開した。

2.Douyinの掲げる「FACT+S」の徹底
Douyinはマーケティング戦略に大事な要素として「FACT+S」の徹底を掲げている。Fはフィールド、Aはアライアンス(インフルエンサーとの協業)、Cはキャンペーン、Tはトップ[KOL/Key Opinion Leader(キー・オピニオン・リーダー)]。インフルエンサー・マトリックスとプラットフォームキャンペーンなどを通じて、良質な商品コンテンツと多くの興味を持つユーザーと結びつけ、コンテンツへの興味を高めて注文を促す。すると消費連鎖の「種まき」から「刈り取り」までの一体化が実現される。
プラスされる「S」は、ショップ、サーチ、ショッピングセンター(モール)の3つの「S」だ。消費者が商品を探すフルチェーンの新たなビジネスチャンスとマルチシナリオをカバーし、商品の組み合わせと供給を増やす。

3.KOLの選定と関係値の構築
インフルエンサーのフォロワーと製品の親和性を見極めたうえで、インフルエンサーを選定。さらに、インフルエンサーとの信頼関係を構築し、本人のモチベーションづくりも徹底 している。

実際のライブ配信では、KOLが熱意と愛を持って商品を紹介し、質問のコメントに対してはKOL本人 がリアルタイムで応えていく。このコミュニケーション機能がテレビショッピングなどとの違いであることは、さまざまな媒体でも紹介されている。「AGドリンクX」を2日間で1万2000箱以上販売したときは、文字通り朝から晩まで配信が行われていたと王氏は述べた。

※3:Douyinショッピングモールにおける「人気ランキング」とは、14日間における商品およびライブ配信の人気度を『Douyin』独自の集計方法を用いて算出したデイリーランキングのこと(毎日更新)。

DouyinECにはKOLの存在が不可欠なのか

アクシージアの成功例を見ると、DouyinECでの成功にはKOLの存在が不可欠なのかと思えてしまう。

しかしアクシージアの担当者は「KOLやプラットフォームのキャンペーンだけに頼っているわけではない」と話す。その他にもSEOやSEM(検索エンジンマーケティング)などのデータを活用したマーケティング施策も積極的に展開した上で、KOLを活用しているという。

DouyinECにあっても、クリエイターと協業するためのプラットフォームを構築してはいるが、トップクリエイターと深く連携する企業もあれば、幅広くKOC (Key Opinion Consumer=日本のインフルエンサーにあたる)に販促リンクを提供する企業もあるという。また、消費者の自主的な検索購買やリピート購買に応えられるマーケティング対策にも力を入れている。

ライブ配信はあくまでも販売する上での手段にすぎない。現地に沿った商材の選定や販売先の選定、KOLへの商品説明など、種まきを十分にできているかというところから見直していく必要がありそうだ。


記者プロフィール

奥山晶子

2003年に新潟大学卒業後、冠婚葬祭互助会に入社し葬祭業に従事。2005年に退職後、書籍営業を経て脚本家経験を経て出版社で『フリースタイルなお別れざっし 葬』編集長を務める。その後『葬式プランナーまどかのお弔いファイル』(文藝春秋刊/2012年)、『「終活」バイブル親子で考える葬儀と墓』(中公新書ラクレ/2013年)を上梓。現在は多ジャンルでの執筆活動を行っている。

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