最強のCRMは顔の見える関係?Oisixの目指すEC宅配

ECのミカタ編集部

有機・無添加食品の通信販売を手がけているオイシックス株式会社は、先週12日(木)、移動スーパーマーケット事業を手がけている株式会社とくし丸の株式を取得し、連結子会社とすることを発表した。この話題は少し前のものではあるが、とくし丸の事業を掘り下げてみると、その本質に、今EC市場で求められるCRMが見えてきた。

オイシックスととくし丸、買収で変化すること

 とくし丸は、日本全国のスーパーマーケットと提携し、「移動スーパーマーケット」の仕組みをフランチャイズ方式で提供する事業を手掛けてる。主な利用顧客は、70〜80代のいわゆる「買い物難民」と言われる層だ。とくし丸の取り扱い商品は、およそ400品目、1200品。これを販売車両の軽トラックに積み込んで、利用者の自宅を訪問して販売している。現在、27都道府県で展開、53社のスーパーマーケットと提携をしている。とくし丸の年間流通金額は現在約15億円だが、今回の買収では、これを100億円に成長させることが目指されている。

 一方のオイシックスは、インターネットを利用した販売チャネルで、利用顧客は30〜40代の女性が中心だ。今回、とくし丸を買収することで、オイシックスがリーチできていなかった「地方のシニア・買い物難民」という顧客層に、実現できていなかった「移動車両によるリアル販売」を提供することができる。また、とくし丸は今後、オイシックスが強みとする定期購入モデルで蓄積されたノウハウを活用し、顧客情報のデータベース化・分析・提案力の強化とともに、顧客一人あたりの売上を効率的に伸ばすことを目指している。

お客様のニーズにぴったり応える、その秘訣

 とくし丸は、単に「移動するスーパーマーケット」ではない。軽トラックの荷台に積み込める荷物の量には限りがあるが、スタッフがお客さんにお薦めしたい、お客さんが必要であるだろうと考えた商品ばかり。そしてお客さんは常に「ウェルカム」だという。「来てもらわないと困る」というお客さんもたくさんいるそうだ。
 
 なぜそんな状態が実現できるかというと、とくし丸の訪問は、3日に1度、お客さんの自宅まで。ただ商品を販売するだけでなく、こんな商品が欲しいというリクエストを受けるなど、かつての日本にあった「御用聞き」商売のような形だ。加えて、お客さんと世間話をしたり、ちょっとした頼まれごとを引き受けたり、高齢者の見守りにもなっている。そんな関係が続くうちに、販売者とお客さんという関係を超えて、家族のような親密さが生まれ、さらにお客さんのニーズに沿った商品やサービスの提供が可能になるのだ。

CRMの原点はここにあった!

 とくし丸が築いているお客さんとの関係性は、実は、最近EC業界で注目のCRM(Customer Relationship Management)に通ずるものがある。CRMとは、システムによって顧客情報を記録・管理し、パーソナライズされた顧客対応を行うことで、優良顧客化、顧客満足度を向上させる取り組みのこと。CRMというと最近の用語に感じるが、その本質はつまり、顧客と長期的に良好な関係を築くことにある。そう考えると、同様のことは昔から行われてきた。それが、昔ながらの個人商店や、まさに今回のとくし丸のような存在で、販売者とお客さんが直接顔を合わせて、身近な関係を気づくことで、ただモノを売るだけでない提案や、長い付き合いを築いている。

 EC市場ではそれをインターネット上でシステムとして展開しているが、特にオイシックスのような宅配の形を持つEC事業は、昔ながらのCRM的関係性がそのまま活かせるということに、今回の動きで気づかされる。現代はライフスタイルの変化などもあり、昔通りにはいかないこともあるようだが、今回のオイシックスがとくし丸を買収したように、顔の見える親しさというのは、見直されてくるのかもしれない。

 さらに、顔の見える関係というのは、EC店舗と実店舗の連動、オムニチャネルなどの観点でも活かせるものであるし、たとえEC店舗だけであっても、工夫の余地はあるのではないだろうか。そこで、CRMを新しいシステムと捉えずに、昔からあるお店とお客さんの関係と捉えなおすと、工夫のアイデアも出やすいのではないだろうか。その上で、現代にある便利なシステムを活かすことができれば、店舗とシステムとが親和して、より効果が上がるように思う。


記者プロフィール

ECのミカタ編集部

ECのミカタ編集部。
素敵なJ-POP流れるオフィスにタイピング音をひたすら響かせる。
日々、EC業界に貢献すべく勉強と努力を惜しまないアツいライターや記者が集う場所。

ECのミカタ編集部 の執筆記事