「EC人材の登竜門」ネットショップ担当者アワード第3回授賞式を開催
EC業界の成長を牽引するサイトや企業を表彰する賞は多いが、個人にフォーカスした賞はほとんどない。その数少ないアワードとして注目されているのが、通販・EC事業者向けのメディア「ネットショップ担当者フォーラム」が主催している「ネットショップ担当者アワード」だ。2025年11月6日、赤坂インターシティコンファレンスで開催された「ネットショップ担当者アワード」第3回授賞式の受賞者と授賞理由を詳しく紹介する。
アワードの目標は「EC人材の登竜門」
「ネットショップ担当者アワード」とは、EC業界で活躍する「人」にフォーカスし、企業や団体などで活躍する個人の功績や取り組みを表彰するアワード。EC業界で活躍した人や、その人が活躍する企業などをより多くの方に知ってもらうこと、また他社の成功例を把握することでEC担当者が自社の取り組みや成長のヒントを見つけることを目的としている。オープニングでは同アワードを運営する「ネットショップ担当者フォーラム」が、「EC業界の登竜門のような存在を目指して育てていきたい」と意気込みを語った。
選考委員は前年と同じネクトラス株式会社代表取締役の中島郁氏(選考委員長)、スマイルエックス合同会社代表の大西理氏、株式会社CaTラボ代表 オムニチャネルコンサルタント 日本オムニチャネル協会 理事の逸見光次郎氏、株式会社RESORT代表取締役CEOの石川森生氏の4名に、今年からSRSホールディングス株式会社執行役員、SRSグループDX推進本部長の田丸知加氏が新たに加わって5名になった。
「EC事業の成功者をロールモデルとして表彰することで、EC人材を増やしたい」とアワードの狙いを語った選考委員長でネクトラス株式会社代表取締役の中島郁氏
表彰式冒頭では同アワードの発案者で選考委員長の中島郁氏が、アワード設立背景や目的を解説。中島氏はEC関連のさまざまなイベントに参加し多くの関係者に話を聞く中で、「EC担当者が少ない」という業界全体が抱える課題に大きな危機感を抱いた。そこで、今後のEC業界を牽引するロールモデルを見つけ出し、表彰して多くの人に知ってもらうことでEC担当者が育っていくことを願い、同アワードを企画したという。
「過去の受賞者からは受賞後、『広く知られるようになった』『社内的にも仕事がやりやすくなった』など、いろいろな可能性が広がったという話をお聞きしている。本日受賞された皆さんもぜひ、このアワードを機会にさらなるステップアップを目指していただきたい」(中島氏)
同アワード協賛企業のコマースメディア株式会社の井澤孝宏代表は「EC総合支援と自社通販を行う企業として、AI時代においてもEC担当者を育てたい」という想いを語った
【MVP】株式会社グレイ・パーカー・サービス 小林辰也氏
主催者の挨拶に続いて、会場ステージ上に受賞した5名が登壇し、いよいよ各賞受賞者の発表。昨年は最後に発表された、ネットショップ担当者アワード【MVP】が、今年は最初に発表された。
【MVP】を受賞したのは、株式会社グレイ・パーカー・サービスの小林辰也氏。小林氏は2023年に株式会社グレイ・パーカー・サービスへ入社し、同年、ちいかわマーケット公式LINEアカウントを立ち上げ、友だち数500万人を達成した。同社はさまざまな人気キャラクターのグッズ制作や発信をしているが、小林氏は部門の責任者として、全12サイトとマーケティングを統括。EC事業の売上高を2025年5月期に、前期比50%以上伸長させた。
(左から)「最初は苦労したが、現在はメンバーの協力で非常にやりやすい環境で仕事をしている」と会場に駆け付けたメンバーへの感謝を語った株式会社グレイ・パーカー・サービスWEB事業部部長の小林辰也氏と選考委員長の中島郁氏
選考委員長の中島氏は、小林氏がパートナー企業側から事業会社に移り、限られた権限の中でいろいろな役割を果たしながら課題解決に取り組み、売上に結び付けていった経緯を高く評価。小林氏は「入社当初はEC担当者が3人しかいない状態で、仕組みも何もない状態だったので課題が山積していた。その中でスピード感を持って取り組み、存在感を発揮していくことで社内での発言権を確立していった」と振り返った。
【コミュニティ共創賞】 VALX株式会社 古賀雅範氏
【コミュニティ共創賞】を受賞したのは、フィットネス領域で急成長中のベンチャー企業、VALX株式会社の古賀雅範氏。古賀氏はスポーツ用品メーカーDESCENTEで商品企画やEC責任者を歴任した後、2024年よりVALXに参画。主力商品であるホエイプロテインのコミュニティを起点に、EC×SNS×リアルを融合した「P2P2C型」熱狂マーケティングで市場創造し、オーガニックの流入の拡大に成功。広告費ゼロで毎月1500件超のUGCが自然に生まれるエコシステムを生み出した。
(左から)「日本一広告費率の低いD2Cブランド」を目指しているVALX株式会社マーケティング責任者 事業部 マーケティング課 課長 古賀雅範氏と選考委員の石川森生氏
選考委員の石川氏は、古賀氏がファンとの共創によるファンマーケティングを実現したことを高く評価。石川氏は「長く務めたスポーツメーカーでコンテンツがほぼ外注だったが、VALXは製品だけでなく動画の撮影やディレクションまですべて内製しているのが大きな強みだと、入社直後から感じていた。ただお客様の熱量を定量的・定性的に可視化できていない部分があったので、そこを強化したことで、経営と現場をつなぐ役割を果たせたのでは」と語った。
【越境ビジネス賞】 株式会社ビィ・フォアード土屋汐莉氏
【越境ビジネス賞】を受賞したのは、株式会社ビィ・フォアードの土屋汐莉氏。同社は中古車の越境ECという難易度の高いカテゴリーで、214の国と地域から大きな取引先を持ち、中古車の月間販売台数は約1万5000台という圧倒的な地位を築いている。同社でデジタル企画チームのマネージャーを務めている土屋氏は、20カ国以上にローカライズした全41アカウントのSNSの運用、ローカルペイメント、そして新規事業への挑戦など、さまざまなカテゴリーに挑んできたことが高く評価された。現在は、アフリカ向け不動産物件掲載プラットフォーム事業を担当し、チームマネージャーとして新規事業を牽引している。
(左から)株式会社ビィ・フォアード デジタルビジネスプラットフォーム推進部 デジタルマーケティンググループ デジタル企画チーム チームマネージャー 土屋汐莉氏と選考委員の大西理氏
選考委員の大西氏は、「越境ECの本質は、販売業ではあるが、販売の障壁をいかに取り除くかというサービス業でもあると感じているがどうか」と問いかけた。それに対して土屋氏は、「確かにそういう面もあるが、サービス業だけにとどまらず、カスタマーソリューションに近い部分もあるのかなと自分では思っている。日本だとネットショッピングは手軽に購入できるイメージがあるが、海外のECサイトで車のような高額商品を買う時の不安は大きいので、そういう不安を現地に行って吸い上げて、サイトやシステムに反映していくことが我々の取り組みの大きい部分かなと思っている」と語った。
【SNSマーケティング賞】 ビルディ株式会社 戸田夏海氏
【SNSマーケティング賞】を受賞したのは、建設資材や工具を扱うプロ向けのECサイトを運営しているビルディ株式会社の戸田夏海氏。戸田氏は同社のクリエイティブチームリーダーとして、Tiktokで100万回再生を超えたショート動画を内製し、フォロワー数36%増を実現したSNS運用が高く評価された。
(左から)2022年にビルディにクリエイティブデザイナーとして入社し翌年クリエイティブチームに配属後、SNSの運用担当をスタートさせたビルディ株式会社 コンテンツ部 クリエイティブチーム リーダー 戸田夏海氏と選考委員の逸見光次郎氏
選考委員の逸見氏は古田氏が工具業界という厳しい世界でSNSを巧みに活用し、実績を上げた点を讃え、「今後どう進化させていきたいのか」と問いかけた。それに対して戸田氏は、「弊社は地元の金屋さんから始まった会社なので、親近感を大事にしつつ、SNSという媒体を使っていろいろな発信をしている。今後はこちらからの一方的な発信ではなく、SNSの中からの発信が増えるような取り組みをして、ビルディのファンを増やしていきたい」と答えた。
【ブレイクスルー賞】 リンベル株式会社 大川和弘氏
【ブレイクスルー賞】を受賞したのは、創業以来、通販・ギフト業界のリーディングカンパニーとして歩み続けているリンベル株式会社の執行役員でEC統括部 本部長の大川和弘氏。大川氏は近年のデジタルギフトの波を捉え、リンベルのデジタル戦略を刷新。自治体ビジネスの基盤となる「スマートギフト」では「選べる」「足せる」自由なポイント交換システムを構築し、2024年、SNSギフト「ギフトリスト」をリーダーとしてサービスインさせ、ギフト体験をデジタル時代へと進化させて、EC売上高を2.4倍に成長させている。
(左から)「古いものの大事さを踏まえた上で、デジタル技術で新しい欲求を満たし続けていきたい」と語ったリンベル株式会社 執行役員 EC統括部 本部長の大川和弘氏と選考委員の田丸知加氏
選考委員の田丸氏は、大川氏がコロナ禍による市場規模縮小の逆風の中、既存のビジネスモデルにとらわれずに新しいビジネスモデルを構築したことを高く評価。大川氏は顧客第一主義を徹底し、お客様のニーズの変化を捉えながら、デジタル技術を活用して新しいサービスを提供し続けることの重要性を語った。
ネッ担アワードは来年も実施予定
最後には、選考委員から「来年もネッ担アワードは実施予定であり、すでに募集を開始している。自薦・他薦を問わないので、『我こそは』という方、あるいは『あの方こそふさわしい』と思う方の情報をネットショップ担当者フォーラムまでお寄せいただきたい」と呼びかけて、表彰式をしめくくった。



