フラッシュセールで人気沸騰~日本人女性の心を掴むフランス人社長の戦略~

福島 れい

株式会社B4F 代表取締役社長 アルメル カイエールさん

 毎晩9時になると、15種類以上の新規ブランドセールが始まるオンラインブティックがあるのをご存じだろうか?しかもこの商品は、基本的に数量限定。約1週間で販売が終了するのだ。このオンラインブティックの名は「MILLEPORTE(ミレポルテ)」。なんとユーザー数は270万人にのぼる。なぜ、ミレポルテが人気を集めているのか。なぜ日本で展開しているのか。フランス人社長が見る日本人消費者の特徴から、日本のEC業界をのぞいてみた。お話は、株式会社B4Fの代表取締役社長 アルメル カイエールさんに伺った。

 夜9時にセールがスタートし、約1週間で終わってしまうフラッシュセールを展開する「ミレポルテ」。はじめてサイトを訪れた時には、目を引く商品画像とその下に表示される「のこり○日」という販売終了までの日数を見て、少し焦りに似たワクワク感を覚えた。しかし、ここで2つの疑問が浮かぶ。「なぜ夜9時にセールが始まるのだろう?」「なぜ日本でフラッシュセールなのだろう?」記者の問いかけに、カイエールさんは丁寧に応えてくれた。

 まず、「なぜ夜9時に始まるのか?」について、カイエールさんは「ターゲットとしている日本人女性の生活習慣に合わせているから。」と答えた。ミレポルテのメインターゲットは、団塊ジュニア世代の女性だ。ミレポルテのユーザーは大きく2種類に分けられ、一方は働く女性、もう一方は母親なのだという。いずれにしろ、この世代の女性は忙しい。ゆっくり買い物に出かける時間もなく、ほっと一息つくのがちょうど夜9時頃。この時間に毎日新しい商品を提案することで、買い物を楽しんでもらおうというのがミレポルテなのだ。ちなみにミレポルテでは毎日約1100ページの新しい商品カタログが公開されており、それに必要な商品撮影やページ制作等の作業すべてを自社で行っている。

ミレポルテのトップページ

 また、「なぜ日本でフラッシュセールなのか?」という問いには2つの理由があった。1つ目の理由として挙がったのは、日本のEC市場の特徴だ。日本のEC市場について「規模が大きい分、可能性も大きな市場だ。」とカイエールさん。「当然、競合も多いが、隙間を見つければ大きなチャンスがある市場」だと語る。つまり、カイエールさんにとってフラッシュセールは隙間だったということだろう。実際、フランスやドイツ、アメリカなどではフラッシュセールは日本よりも一般的な売り方なのだそう。

 2つ目の理由は”フェア”な取引をするために適した仕組みだからだ。”フェア”というのは、本物の商品を適切な価格で販売することを指し、ミレポルテの重要なコンセプトだ。ブランドは、本来商品が持つ価値よりも安く売ってしまえば、確かに売れるかもしれない。しかし、ブランド価値を自ら下げていることになり決してフェアな取引とは言えないのだ。ミレポルテでは、期間限定セールという形をとることで、ブランド価値を保ったまま、販売することができるという訳だ。

 このフェアな取引において日本人が目利きであることも重要だとカイエールさんは話す。「日本人消費者はファッションセンスが良くて、商品の質がわかります。そのため、多くの日本人は質の高い商品が欲しければ、それに見合った価格を受け入れるのです。しかし、海外の消費者はそうではない。質の違いが判らないので、とにかく安いもの、もしくは有名ブランドの商品を欲しがる人が多いのです。」とカイエールさんは言う。つまり、ブランドの名前に影響を受けず、商品の魅力を見分けられるのは日本人の特徴だと。

ミレポルテ 商品画像の例

 つまり、ミレポルテは本物の商品と質のわかる消費者を結ぶことでフェアな取引を実現する場となっているのだ。ブランドと消費者の双方にとって”フェア”な環境を作ることが、結果として信頼感につながっており、ブランドパートナーは4000ブランド、ユーザーの約6割は2回以上購入しているのだという。

 カイエールさんの”フェア”であることへのこだわりは強く、掲載されている商品画像や商品の情報などについても、実物と全く同じにすることを目指しているのだそう。商品画像はできるだけきれいに撮影し、商品をよく見せたくなってしまうものだが、それでは消費者にとってフェアではなく、商品が届いた後にがっかりしてしまうというのだ。自社で撮影からすべて行っているのも、フェアな画像、情報を担保するためだ。

 ミレポルテの今後を問うとカイエールさんは、「世界の変化、市場の変化への対応速度を上げ、常にユーザーの声に応え続けることです。データで見えるユーザーの変化と、アンケート調査による生の声に常に耳を傾け、ユーザーの期待や希望に沿うサイトであり続けることを目指しています。」と語る。


 取材前、スタイリッシュなミレポルテのサイトを見て、社長がフランスのご出身と聞いて、独特な仕掛けがあるのだろうと思った。しかし実際にお話を伺ってみると、特殊な施策を打つのではなく、消費者の行動や声に真摯に耳を傾け、着実に応えているのがミレポルテだった。カイエールさんが強く主張する”フェア”な取引。対面できないECだからこそ、重要で、ユーザーの心を射止めているのだろう。EC店舗の運営に必要なものは奇策ではなく、ユーザーに寄り添い伴奏する姿勢を持ち続けることなのだと改めて感じた取材だった。


記者プロフィール

福島 れい

ECのミカタ編集部に所属するバドミントンと和服、旅好きの記者、通称れーちゃん。ミニ特集「アパレルECの未来(https://goo.gl/uFvr2C)」等、これからEC業界がどんな風に発展していくのか。に注目しながら執筆しています。2017年の執筆テーマは、”私にしか書けない記事をタイムリーに”。

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