ファミリアがオムニチャネル化を加速する狙いとは?

福島 れい

株式会社ファミリア マーケティング本部 菅沼 聡氏
体感型ショップファミリア代官山店にて。

 連続テレビ小説「べっぴんさん」のモデルとして注目を集める株式会社ファミリア。親子3世代に渡って愛用するファンも多いという同社は、創業67年を迎える今、オムニチャネル戦略に力を入れていると聞き、取材に出向いた。体感型店舗として「TOUCH for the first 1000days」をコンセプトに作られた代官山店で、株式会社ファミリア マーケティング本部 菅沼 聡氏にお話を伺った。

生まれてはじめて触れる”もの”の品質にこだわる

 ファミリアは、1950年に4人の女性によって立ち上げられたベビー子ども関連企業。デザインのかわいらしさだけでなく、あかちゃんが身に着けてどのように感じるのかを考えて商品開発を行なっているのが特徴だ。ファミリアが提供するのは、あかちゃんが生まれてはじめて触れる”もの”や”こと”。妊娠から2歳までの期間を「for the first 1000days」とし、我が子を思うお母さんの気持ちになって考える”愛情品質”にこだわっていると菅沼さんは説明する。

 そんなファミリアを象徴するような商品として、”打合せ半袖肌着”がある。縫い目やタグがあかちゃんの肌に触れないよう、外側にある新生児用の肌着だ。洋服としての見栄えを考えれば、縫い目は内側にあるべきだが、あかちゃんの着心地を考えれば縫い目が肌に触れないほうがいい。あかちゃんの気持ちを考えて商品開発を行う、ファミリアの象徴ともいえる商品だ。

 打合せ半袖肌着のように、お客様が求める質の高い商品を提供するため、ファミリアではお客様のライフスタイルの研究をしたり、商品の使用感をモニター調査したりするなど、顧客心理の研究に積極的に取り組んでいる。幼いあかちゃんに着心地を尋ねることはできないのでは?と思われる方もいらっしゃることだろう。菅沼さんは、「あかちゃんはとても敏感。肌着一枚、ほんの少し気持ち悪いところがあるだけでも、表情でわかるものなのです。」と語り、ベビー子ども用品の品質は、大人向けのもの以上に気を配る必要があることを訴える。

ライフスタイル研究の末に行きついた「オムニチャネル」

ライフスタイル研究の末に行きついた「オムニチャネル」

 「顧客のライフスタイルを研究を続けている中で気づきがありました。以前は、お客様はECサイトと実店舗を使い分けている傾向がありましたが、1人のお客様が都合の良いほうを選んで使うようになってきたのです。働く人が増えた今、購入しやすい仕組みは何かと考えたところ、オムニチャネルを追求していくという決断に至りました。」と菅沼さんは説明する。

 そして2014年2月。オムニチャネル化と事業戦略を進めるべくマーケティング本部が立ち上がった。「その後はニューヨークまで視察に行くなど、どのようにオムニチャネルを展開するかを検討を重ねました。そして、単にECを展開したいのではなく、実店舗と共にファミリアを良くしていきたい。そんな想いを汲んでくれた株式会社エスキュービズムと共に、システム開発を進めることに決めました。」と菅沼さん。

 現在、ファミリアでは3年間かけてオムニチャネルを完成させていくことを目指しており、その1年目にあたる2016年では、データの連携や会員システムのリニューアルを行ったという。これにより、データを可視化でき、例えばお客様が1000daysのどの段階にあるのか、ECと実店舗のどこを、どのように使っているのかが明らかになった。すると、メルマガの配信や接客の仕方など、顧客に合わせて様々な施策を打つことができるようになり成果につながったという。

重要なのは「システム」ではなく「社内の理解」

 しかし、全てが順調だったわけではない。オムニチャネル展開に向けシステム環境が整っても、組織体制やスタッフの意識は変わらなかったのだ。例えば、店舗スタッフが接客したお客様が、帰宅後にECで購入するとする。では、この売上は誰につくのだろうか。また商品在庫についても、店舗ごとに管理する体制をとっていたため、お客様が求めていても他店舗には渡したくないという心理が生まれてしまっていた。こうした部署を越えたことで発生する様々な問題を解決し、オムニチャネルを成功に導くことも菅沼さんのミッションだったのだ。

 「社内の意識改革のために各部署や全国店舗を回り、粘り強い説明を続けました。」と菅沼さん。同時に、ファミリアは評価制度を抜本的に改革。売上ではなく、お客様がファミリアに触れるきっかけを作ることができたかどうかを評価対象に改めた。「少し時間はかかりましたが、今では社内全体から理解を得ることができ、本格的にオムニチャネルを進められる体制が整いました。」と菅沼さんは話す。

 ファミリアが目指すのは、子どもの可能性をクリエイトすること。そして自身のブランド価値を高めていくことだ。ファミリアにとってオムニチャネル展開というのは、そのための手法の1つに過ぎないのだ。

 今回の取材から学ぶべきことは、オムニチャネル展開において重要なのは「システム」ではなく、「お客様が利用しやすい状況をいかに作るか」を追求することにあるということだろう。お客様にどのような購入体験を、サービスを提供したいのか、そのためにどのような取り組みが必要なのか、改めて考えてみてはいかがだろうか。

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記者プロフィール

福島 れい

ECのミカタ編集部に所属するバドミントンと和服、旅好きの記者、通称れーちゃん。ミニ特集「アパレルECの未来(https://goo.gl/uFvr2C)」等、これからEC業界がどんな風に発展していくのか。に注目しながら執筆しています。2017年の執筆テーマは、”私にしか書けない記事をタイムリーに”。

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