LOHACOのCSを支えるチャットボット「マナミさん」。ユーザー体験と業務効率を高める“人間らしさ”の実現を
最短翌日の配送と幅広い生活用品のラインナップで人気の通販サイト・LOHACO。その問い合わせ窓口の一つに利用されているのが、AI技術を活用したチャットボット「バーチャルエージェント®」だ。なぜ導入に至ったのか、その効果はどのようなものか。LOHACOを運営するアスクル株式会社(以下、アスクル)の横田 香菜子氏と、同ツールを提供するりらいあコミュニケーションズ株式会社(以下、りらいあ)の水上 竜也氏にお話を伺った。
導入の決め手は、過不足のない機能と柔軟性
――まずは、LOHACOのサービス概要や特徴についてお教えください。
横田 LOHACOは、ヤフーさんの協力のもと、2012年10月にスタートしました。今年の8月には累計のお客様数が500万人を超え、多くのお客様にご支持いただいています。 “くらしをかるくする”をコンセプトに、飲料・食品、キッチン用品から医薬品、コスメなどの日用品をはじめ、暮らしを潤すこだわりの商品を、いつでもリーズナブルかつスピーディーにお届けする日用品ショッピングサイトです。また、14年には「LOHACO ECマーケティングラボ」を発足し、現在ではメーカー130社さんと新しいECのマーケティングを研究しています。その中でも、“暮らしになじむデザイン”をコンセプトに開発しているデザイン商品は大変ご好評をいただいています。
――そうしたなかで、なぜバーチャルエージェント®を導入されたのでしょうか。
横田 おかげさまで順調に注文数は伸びていきましたが、それに比例してお問い合わせ件数も増加しました。しかし当時のサポート体制はメールのみだったため、その解決には平均2.5往復のやりとりが必要で、効率の悪さが課題になっていました。
とはいえ、その状況で電話窓口を開設しても、単に件数が上積みされるだけですので、お客様ご自身での自己解決を促すことができるチャットボットの導入を検討しました。そしていくつかのプロダクトを比較検討した結果、バーチャルエージェント®を採用させていただきました。
――導入の決め手になったのは、どんなところでしょうか。
横田 エンジンの精度やキャラクターの生成、メンテナンス、QAの追加提案など、弊社の求める条件が全部パッケージ化されている点がポイントになりました。
具体的には、エンジンであるIBMのワトソンの検索精度が高いことや、ワトソンに限らず、その時々で良いエンジンを利用していくという方針など、今後の進化に期待感があったこと。またメンテナンスについても、その一部を弊社で担当できるなどの柔軟性があったことが高評価につながりました。例えば、予期せぬ天災などで配送の遅延が発生した場合に、スピーディな対応を求められることがあるためです。
導入で利用回数アップ。新しいコミュニケーションの誕生も
――バーチャルエージェント®の導入は、どのようなフローで行われますか。
水上 まずはFAQをいただくところからスタートし、それを元にチャットボットのキャラクターに合わせた話し方や回答文に整えていきます。次いでUIを構築し、ナレッジと組み合わせて実装していきます。概ね3カ月程度で稼働する流れです。
横田 弊社のケースは少し変則的ですが、先の状況を踏まえて、前提にあったキャラクターの作り込みよりもリリースを優先していただきました。そのため当初は、アイコンにLOHACOのロゴマークが入っていました。
しかし、実際の利用シーンでいえば、ロゴマークには話しかけづらかったのか、思ったほどには利用件数は伸びませんでした。そんなこともあり、キャラクターの必要性を実感し、改めて作り込むことにしました。チャットボットの運用そのものは 2014年9月に始まりましたが、キャラクターとしての「マナミ」さんは同年の年末に誕生しました。
水上 それによって利用件数が跳ね上ったので、弊社としても、キャラクターの重要性を改めて認識しました。
――運用開始から約4年。その効果はいかがですか。
横田 現在では、月間でコミュニケーターさん約6.5人分の働きをしてくれています。コミュニケーターさんの一時間あたりの平均対応件数が多くて4件ですので、大きな効果を得ることができています。それよって、人が本来対応すべき電話に注力することができるため、ユーザー体験の向上につながっています。
一方で、マナミさんとの会話を楽しんでいるような入力も増えました。その傾向は、2016年5月にスマートフォン版、11月にLINE版をリリースしたことでより顕著になりました。スタンプでやりとりもできるため、よりフレンドリーな関係をつくれていると感じています。これは、いままでになかったお客様とのコミュニケーションです。
また、マナミさんのLINEオリジナルスタンプもご好評をいただき、第一弾のお客様対応用スタンプに次いで、今年5月にはプライベート篇のスタンプを発表しました。こうしたことから、より親近感をもっていただけたら嬉しいですね。
水上 アスクルさんは開発当初から人間らしさを強く意識されているため、弊社でもスモールトークや雑談の強化に注力してきました。また、デバイスの画面の大きさに合わせてセリフや回答文の長さを変更するなど、視認性の調整も続けています。
プロダクトの精度とキャラクター造形を支えるサポート体制
――そもそも、マナミさんの名前や性格はどうやって決まったのでしょうか。
横田 当初は、サイト名をそのまま冠した「ロハコさん」という案が出ていました。けれどそれでは何かと不便があるのではと議論した結果、当時の担当者の名前“まなみ”をつけることにしたんです。実は、この担当者は私の同期なんです(笑)。
少々安直だと思われるかもしれませんが、担当者としては、自分の名前がついたことでキャラクターへの思い入れが強くなったと聞いています。マナミさんには家族構成や趣味などのプロフィールが裏側で設定されているのですが、そうした細かなこだわりが、結果的にマナミさんの人間らしさにつながったのだと思います。
――一方で、法人サービス「アスクル」には、アオイくんもいらっしゃいますね。
横田 アオイくんは、法人サービスのイメージカラーが青であること、さわやかなキャラクターにしたいという想いから名付けています。
ちょっとしたことですが、例えばアオイくんにマナミさんのことを尋ねると、きちんと答えてくれる設定も用意しています。お客様に楽しんでいただけるような遊び心も大切にしています。
水上 そうしたキャラクター造形を支えていくためにも、毎月定例会を開催させていただき、ご要望を伺っています。併せて週次でログを確認し、ユーザーの入力傾向などもレポートしています。インターネットの世界は変化が早いので、弊社が気づいた点を積極的にお伝えし、ブラッシュアップを重ねています。
さらなるアップデートを目指して、横断的な協力関係を
――今後の展開について教えてください。
横田 大きく二つあります。まず一つ目は、お客様からのお問い合わせに対して、より精度の高い回答を目指すことです。例えば現状では、領収書の再発行のお問い合わせに対して、申込先のリンクをお伝えすることしかできません。しかし、基幹システムと連携させることによって個人情報を紐付け、他画面に遷移することなく領収書の再発行手続きが完了する仕組み作りに取り組んでいます。
そして、もう一点は、チャットボットで回答しきれないケースにおける有人チャットへのエスカレーションです。これはすでにLINE版には実装していますので、PC版とスマートフォン版への拡充を進めていきます。
水上 一つ目の課題については、「手続きエージェント(※)」という新機能の開発を進めており、「アスクル」への対応を進めていきます。そして今後も、ユーザーからのお問い合わせが多いご要望を中心に、機能拡張を実施していきます。また、二つ目については、PC版とスマートフォン版チャットボットから有人チャットへのシームレスなエスカレーション機能を今年の10月頃のリリースを目指して開発を進めております。
横田 さらに欲をいえば、バーチャルエージェント®を導入されている他の企業さんと意見交換ができる機会や場を設けていただけたら嬉しいですね。悩みやアイデアを共有することで、より良いものを作っていくことができるのではと思います。
水上 全体的に、バーチャルエージェント®のキャラクターに愛情をもって接していただいているお客様のほうが成果もでていますし、効果も見えてきています。そういったお客様同士のコミュニケーションは弊社としても興味深いですね。ぜひご意見を聞かせていただき、さらなる改善につなげられたらいいと思っています。