noteは“ストーリーを売る時代”の集客プラットフォームになるか
EC市場が成熟し、顧客獲得競争が激しさを増している現在のEC業界では、商品の作り手や売り手が、商品の「ストーリー」を語ることで、ファンを獲得していくことが一層重要になっています。こうした時代に求められているのが、集客やファン作りを行うための情報発信プラットフォームです。その有力候補と目される、ピースオブケイクが運営するコンテンツ投稿サービス「note」を取材しました。
「note」の記事から読者をECサイトに誘導
ーーコンテンツ投稿サービス「note」を、集客に活用するEC事業者が増えています。記事からECサイトへユーザーを送客する仕組みをうかがう前に、まずは「note」がどのようなサービスなのか、教えてください。
「note」は、企業やクリエイター、個人などが、文章、写真、イラスト、動画、音楽などを無料で投稿できるプラットフォームです。ブログのように手軽にコンテンツを投稿し、コメント機能などでフォロワーと交流できるのが特徴。書いた記事そのものを販売することも可能です。また、クリエイターを支援する「サポート」の機能も備わっています。
ーー記事からECサイトへ読者を送客する機能「note for shopping」を、2018年9月に実装しました。この機能の概要と、実装した理由を教えてください。
「note for shopping」は、「note」の記事の中に、商品の写真や価格、商品情報を表示し、ワンタップでECサイトの商品ページに飛べる機能です。
「note」と提携しているECプラットフォームを使っているネットショップであれば、商品ページのURLを記事に埋め込むだけで、無料で利用できます。提携済みのプラットフォームは「Yahoo!ショッピング」「BASE」「メイクショップ」など、2018年末時点で9社11サービス。提携先は今後も順次、増やしていく計画です。
ーーEC事業者がコンテンツマーケティングに取り組む際に、「note」をCMS(コンテンツマネジメントシステム)のように活用できるわけですね。
その通りです。「note」を使えば、WordPressのようなCMSを使う必要はありません。CMSのデザインを作り込んだり、運用したりする手間が省けるので、コンテンツを発信し、ファンとコミュニケーションを図ることに、より多くの時間を使えるはず。
「note」のユーザーの中には、ECサイトを運営している方も、たくさんいらっしゃいますから、そういった方々の集客をサポートするために「note for shoppong」を実装しました。
商品やブランドの情報を発信しているネットショップは増えていますが、長い文章や、たくさんの写真、動画などを掲載できる場所を持っている企業は、それほど多くないのではないでしょうか。長文やリッチなコンテンツを発信するためのプラットフォームとして、「note」を活用することで、より深くファンと交流できるようになると思います。
誰でも「ほぼ日」のように商品のストーリーを発信
――商品やブランドのストーリーを発信し、ファンを増やしながら商品を販売している企業の成功例としては、手帳や日用雑貨などのECサイトを運営する「ほぼ日」などがありますね。
まさに、「ほぼ日」さんのような取り組みを、「note」を通じて誰でも実現できるようにしたいと考えています。
EC市場の成熟に伴い、顧客獲得単価(CPA)の上昇に苦しんでいるEC事業者は、多いのではないでしょうか。特に、ECモールに出店していない、独自ドメインのECサイトでは、集客に苦戦するケースも目立ちます。そういった企業が、商品やブランドのストーリーを自分たちの言葉で語り、ファンを増やすためのツールとして、「note」を使っていただきたいです。
ーー「note」のユーザー数は、急速に増えていると聞きました。たくさんの人が利用している「note」で情報を発信すると、新規ユーザーにリーチできるメリットも大きいでしょうね。
そうかもしれません。「note」は2014年にサービスを開始してから、利用者数は年々増えています。2019年1月にユーザー数が1200万人を突破して、記事数は約220万件(2019年1月現在)にものぼります。
たくさんのユーザーがいて、常に賑わっているプラットフォームですから、しっかりしたコンテンツを発信すれば、潜在的な見込み客と出会える確率は高いと思いますよ。
また、「note」のユーザーは、テキストを書いたり読んだりすることに慣れている人が多いので、長文の記事でも最後まで読まれやすい。そして、フォロワーは、投稿された記事の前後の文脈も踏まえて記事を読んでくれる傾向がある。ですから、自社のブランドや商品について、じっくり語りたい企業やクリエイターにとって、「note」は使い心地が良いプラットフォームだと自負しています。
noteで読まれる記事とは?「わざわざ」などの事例
――どのような記事を書けば、「note」でファンを増やせるのでしょうか。ネットショップを運営しているユーザーが投稿した記事の中で、ヒットした事例を踏まえて教えてください。
例えば、パンと日用品のオンラインショップ「わざわざ」を運営している平田はる香さんが、2018年4月に投稿した「山の上のパン屋に人が集まるわけ」という記事は、2018年でトップクラスのアクセス数で、複数の出版社から書籍化の打診があり、テレビ局からの取材依頼もあったそうです。読者の好意を表すスキ(like)も約3000件以上付きました。
記事の内容は、長野県の山間にあるパンと日用品の店「わざわざ」が、創業から8年で年商1億7000万円に成長できた理由を解説したもの。代表である平田さんの商品へのこだわりや経営哲学、果てはSNSを使ったマーケティングの具体的な内容まで、約1万文字を費やして細かく解説しています。
この記事を読むと、会社や商品のことを理解できるのはもちろんのこと、平田さんの人柄も伝わってきます。「どういう想いを持って、ビジネスに取り組んでいるのか」が分かるので、多くのユーザーがファンになるのもうなずけました。
この記事が投稿されたときは、まだ「note for shopping」は実装されていませんでした。それでも、記事がきっかけで、ネットショップで買い物をするユーザーや、店舗を訪れる顧客が増えたそうです。
この他にも、女性用下着ブランド「feast」を手掛けているハヤカワ五味さんが2018年7月に投稿した、「時給1000円が安くて、どうして靴の1万円は高いのだろうか?」など、EC関連で、いくつものヒット記事が生まれています。
記事を書くメリットは新規客との「偶然の出会い」
ーー「note」では、商品のメイキングを記事化したコンテンツも、よく目にします。
メイキングをコンテンツにすることは、有効な手段の1つだと思います。消費者は、商品やブランドのストーリーを知ることで、ファンになりやすいですからね。
また、メイキングを記事にすると、潜在顧客にリーチできるというメリットもあります。ポプラ社から発売された小説の、担当編集者が書いた記事の事例を紹介しましょう。
その編集者は、書籍が出来上がるまでの過程を「note」で詳細に公開しました。最初に著者を口説いたときの裏話や、完成までの約3年に渡る苦労話などを、ユーモアを交えて書いています。
メイキングを書くことで、その作家のファンを集めることができるのはもちろんのこと、それに加えて「小説ができるまでの工程」に興味があるユーザーも、その記事を読むことが予想されます。つまり、メイキングを書くことで、作家のファンではない、別のユーザー層にもリーチできる可能性があるわけです。
ーーとても興味深い事例ですね。記事を通じて、リスティング広告やSEOではリーチしにくい新規のユーザー層を獲得できるかもしれない。
そうなんですよ。偶然の出会いがあるかもしれないところが、「note」でコンテンツを発信することの面白みとメリットだと思います。
「note」に広告枠やランキングがない理由
――「note」には、広告掲載枠や記事のアクセスランキングがありません。なぜでしょうか?
アクセス数を競い合うような雰囲気を、醸成したくないからです。アクセス数に応じて広告収入がユーザーに入る仕組みだと、アクセス稼ぎのために煽り気味のタイトルを付けたり、炎上目的の記事を書いたりするインセンティブが働いてしまう。それを避けるために、広告枠は設けていません。
ランキングを作らない理由は、投稿者の序列が出来てしまうのを避けたいから。アクセス数にかかわらず、すべてのユーザーにコンテンツを書き続けて欲しいんです。
――記事を書き続けるには、それなりの労力がかかります。コンテンツを継続的に投稿してもらえるように、どのような工夫をしていますか?
例えば、記事を数日間連続して投稿すると、それを褒めるメッセージが表示されます。また、フォロワーが記事にスキ(like)を付けたときに、投稿者があらかじめ設定したお礼のメッセージが自動でポップアップする機能も実装しています。
投稿者とフォロワーの交流が深まれば、双方の継続率が高まりますから、交流を促すために開発しました。細かいことですが、こうした機能やデザインの改善を積み重ねることが、利用者の継続率向上につながると考えています。
それから、「note」編集部がテーマを設定し、ユーザーに記事を投稿してもらう企画も随時実施しています。弊社は複数の出版社とパートナーシップを締結しており、投稿企画で評価が高かった記事は、書籍化されることもあるんです。実際、「note」からデビューした作家も増えてきました。こうした企画を常に立ち上げて、プラットフォームの活性化を促しています。
――ちなみに、「note」はどのように収益を上げているのでしょうか?
ユーザーが販売した記事や電子コンテンツの売り上げの一部を、販売手数料としていただいており、これが売上の殆どを占めています。また、先ほど説明した編集部主導の投稿企画の中には、企業とのタイアップもあり、それも収益源の1つです。
――最後に、今後の計画をうかがいます。現在ベータ版を提供している「note」の法人アカウント機能は、これからどのように提供していくのでしょうか。
法人アカウントの開発計画としては、企業が「note」のユーザーに、よりリーチしやすくなる仕組みを準備しています。将来的には、メッセージのセグメント配信機能などを実装するかもしれません。
多くの企業に「note」を使いこなしていただけるように、「note」のコンテンツの作り方をテーマとしたイベントを、これからも積極的に実施していきます。また、「note for shopping」で提携しているECプラットフォームと共同で、EC事業者向けのイベントも開催したいです。
<ECのミカタ通信vol.17より転載>