缶のデザインが新たな集客手段に!お菓子のミカタ清水氏が語るデザインの重要性

利根川 舞

大阪製罐株式会社 代表取締役社長 清水雄一郎氏 大阪製罐株式会社 代表取締役社長 清水雄一郎氏

最近では、アスクルが運営する日用品ECサイト「LOHACO」が、各メーカーとコラボし、「暮らしになじむデザイン」をコンセプトにした限定デザイン商品の販売で売上を伸ばしているように、デザインの重要性は明白だ。

しかし、デザインというと「可愛い・綺麗い」など、見た目の良さという部分にだけフォーカスされがちである。今回、『お菓子のミカタ』としてデザイン済みの缶を小ロットで販売する大阪製罐株式会社の代表取締役社長 清水雄一郎氏にデザインの重要性と役割について話を伺った。

缶で洋菓子店を支援するお菓子のミカタ

缶で洋菓子店を支援するお菓子のミカタ   お菓子のミカタ:https://www.okashinomikata.com/

お菓子のミカタを運営する大阪製罐は文字通り缶を製造するメーカーで、その歴史は今年で71年を迎える。戦後間もない頃は絵の具用のバケツ缶や薬の缶など様々な缶を製造していたが、今現在はお菓子の用の缶をメインに製造を行っており、その中でもすでにデザインが印刷された缶を「お菓子のミカタ」として販売している。

「2003年に大阪製罐へ入社したのですが、その後の2008年にリーマンショックがあり、会社の業績が悪化してしまいました。何かしなければと飛び込み営業を行ったのですが、その際、飛び込み先の洋菓子店さんでも大手企業さんを相手にするのと同様の提案をしていたんです。オリジナルデザインの缶を製造するには最低ロット数が3,000缶が必要で、初期投資も含めれば100万円ほどの案件にもなります。そんな営業を続けていた時、ある洋菓子店でオーナーに言われたんです。『僕、缶は好きやけど、3,000缶は多すぎる。お店が拡大したらお願いすると思うからその時に来てよ、清水くん。』って。」

多くの人に「缶」を使って欲しいと強く思っているにもかかわらず、その思いを形にする手立てがなく、悔しい思いをしながら会社に戻ったという。そのしばらく後、転機が訪れる。

「会社のWEBサイトからオリジナル缶の問い合わせや注文をよく頂くのですが、実はその中ですでに印刷してある缶を100缶欲しいという問い合わせがポツポツ来ていたんです。その当時、小ロットの注文は難しいため、お断りをしていたのですが、そのお問い合わせをまとめたら、それなりの数になることに気づきました。そして、以前に飛び込み営業をした洋菓子店のオーナーの話を思い出し、ひょっとしたらそういった洋菓子店のオーナーさんは何人もいるのではと思い、半信半疑で作ったんです。」

女の子の横顔が描かれたカメオ缶、天使が描かれたエンジェル缶、チョコレートカラーのベースにクリームのデコレーションがされたショコラ缶。当初はこの3つのデザインのみが販売されたが、反響は大きく事業へと発展。それに伴い、屋号をお菓子のミカタと定めた。

   東京・恵比寿にあるショールムと実店舗を兼ねたお菓子のミカタ TOKYO KO BOH!!の様子

「もしかしたら隣の店同士で同じ缶を使うこともあり得るため、どうなのかなと思っていたのです。しかしある時、缶に合わせてお菓子を作ってくれたお客さんがいたんです。普通、パッケージは中身ありきでデザインしていくものですから、まさか缶に合わせて中身を生み出すという行為が存在するとは思わなかったんです。そして、それぞれが違うひらめきをもとにお菓子を作れば、商品の外見は同じでも商品としては違うものになると気づきました。」

デザインが持つ多様な役割

デザインが持つ多様な役割   2019年5月時点で全12種類の缶を販売しており、20種類まで増やす予定だ

小ロットで印刷済みの缶が洋菓子店側からの需要が大きいことは、反響の大きさからもわかること。ではその一方で、対消費者を考えた場合、デザイン缶はどのような役割を果たすのだろうか。

「デザインって見た目の美しさや綺麗さ、可愛さだと思っていたのですが、デザイナーさんとやり取りをするうちに、デザインは問題を解決するものだと思いました。例えば、同じお菓子でも袋入りで200円のクッキーと、缶に入って800円のものがあったとします。どちらをプレゼントしたいかというと缶の方ですよね。つまり、僕らの缶に入れてもらうことで、ギフトの要素を付加することができ、用途が変わるんです。中身も美味しくて外見にも気を使って作られていると、商品自体の価値だけなく、お店のブランド価値向上にもつながります。」

清水氏が語るように、お菓子のミカタの缶は多くの洋菓子店で商品の価値を底上げし、販促を支える大きな力となっている。

「ある時、千葉のパティスリータマミィーユというお店のオーナーから『よくわからないんですけど、ネットショップで缶の注文が止まらなくて…。何が起こっているんのでしょうか。』という相談を受けたんです。調べてみたところ、お客さんがタマミィーユさんのお菓子の写真をTwitterにアップしていて、すごい数のリツイートといいね!があったんです。他にも、『マツコの知らない世界(TBS系)』でお菓子のミカタの缶が取り上げられたこともあったんですが、その時は北海道の円山のCafe de Zaza(カフェドゥザザ)さんが販売しているブーケ缶に入った『お花のジャムクッキー』が紹介され、ECサイトにも注文が殺到しました。それがきっかけで『ESSE(翔泳社)』にも取り上げられて、問い合わせは400件もあったそうですよ。」

「僕らの缶が目立って、缶をめがけてお菓子屋さんに行く人が増えました。しかし、当初は缶が目立ってしまうことに少し気が引けていたんです。中身あってこその商品ですからね。しかし、缶めがけてお店に行ってもらって、お菓子を食べたら『すごく美味しい』とファンになる人たちがいるという現実を目の当たりにした時、缶が目立つこともお菓子屋さんにとっては役に立つことなんだと実感しました。だからひたすら目立っておこうかなって思っています(笑)」

SNSでの反響は消費者だけでなく、洋菓子店にも広がっており、大阪の工場で実施される工場見学会には申し込みが殺到しているという。

「今年で4年目になるのですが、東京や新潟、西は四国からと全国各地から来てもらっていて、年々参加してくれる方の地域が広がっていますね。」と清水氏。

SNSでも活きるパッケージデザイン

SNSでも活きるパッケージデザイン   お菓子のミカタInstagram:https://www.instagram.com/okashinomikata/

”パケ買い”という言葉があるように、パッケージは購入のきっかけになることもある。しかし、デザインの役割はそれだけではなく、商品購入後に購入者の反応を知ることができると清水氏は言う。

「今は良い時代ですよね。SNSがあると、僕らの作ったものが手を離れた後にどうなっているかが見えるんです。兵庫県尼崎の洋菓子店リビエールさんでは、当初既製品の缶を使ってくださっていたんですが、ある日オリジナル缶を作りたいと言ってくださって、猫がデザインされたオリジナル缶を作ることになったんです。販売を始めたら猫好きな人が猫と一緒に撮影した写真を結構アップしていたんです。

これまでもお客さんの動向を追いかける術はあったとは思いますが、SNSがあることで、追いかけやすくなったと思います。そしてSNSの投稿にこっちからコメントをすれば、コミュニケーションを取ることができる。缶が好きであったり猫が好きで商品を購入したお客さんの方が、普通の袋入りのクッキーを買ったお客さんよりも熱量が凄いので、コミュニケーションをとることができれば、仲良くなりやすいと思います。」

ECサイトでは顧客の追跡は難しい話ではない。しかし、オンラインへの誘導がこれまで難しかった洋菓子店などにとっては、缶が追跡のための”シンボル”となり、さらにはコミュニケーションのきっかけにもなるのだ。

お菓子のミカタであり続ける

お菓子のミカタが製造する缶は、町の洋菓子店からハンドメイドアプリでお菓子を販売している方まで幅広い店舗で使用されているが、基本的にはお菓子を販売する用途以外での販売は断っているのだという。

「大手雑貨販売店さんからも缶を卸して欲しいという話をいただいたのですが、お断りしましため。缶だけ買えてしまうとお菓子屋さんで買う意味がなくなってしまうので。できるだけ、希少価値を維持したいなと思っています。」

お菓子のミカタとしてシンプルに売り上げを出したいのであれば、缶を様々な場所で販売すればいい。実際、販売当初は消費者からの問い合わせも多数あったという。しかし、容易に利益を求めるのではなく、今後も“お菓子のミカタ”でという姿勢は崩さず、デザイン缶で業界を盛り上げる姿勢だ。

「この1年で僕たちが目立てば目立つ程、お菓子屋さんの集客や売り上げにつながることを実感したので、そこにひたすら力を注いでいきたいなと思っています。また、まだテスト中ではありますが、缶を綺麗に魅せるような什器など、店舗で使用できる什器を作ったりもしています。例えば、ブラックボードと一緒にブラックボードの描き方をまとめたものをつけて、集客につなげられたらなと。

そして、夢があるんです。お菓子のミカタ店舗にはお菓子の缶と一緒にお菓子モチーフの雑貨も置いているのですが、これらの雑貨をもっと売りたいなと思っています。お菓子屋さんの仕事って過酷で、朝に仕込みをしてお菓子を作りながら接客。営業が終われば家に帰って売り上げの計算をして、という毎日です。売り上げのうち数パーセントでも雑貨が売れれば、お菓子を作る負担も減るのではないかと思っています。もちろん空いた時間で更にお菓子を作ってもいいですし、ポップを書いたり、SNSの投稿を増やしてもいい。そのためには、雑貨を販売することが負担にならないよう、雑貨をもっと売れるものにして、お菓子屋さんに届けたいと思っています。そうしたことも含めて、お菓子屋さんの経営や利益向上の手助けになることがしたいんです。」

2018年の6月に東京・恵比寿にオープンしたショールームを兼ねた実店舗は今年の6月で1周年を迎えるが、6月5日、6日の2日間は真っ白の缶を用意し、白いお菓子だけを詰めて限定販売する予定だという。自店舗のお祝いでありながらも、多くの洋菓子店と盛り上げようとする企画は実にお菓子のミカタらしい。

  2日間限定で使用される真っ白なエンボス缶

お菓子のミカタがこだわり、制作したデザイン缶は今や多くの洋菓子店で活用されている。そのデザインは消費者と商品を出会わせるだけでなく、商品や店のブランド価値向上、そして販売後の動向を知ることができるシンボルにまでと、多種多様な役割を持っている。もちろん、良い商品であることは大前提だが、このデザインの多様性を活用しない手はないだろう。

しかし忘れてはならない。お菓子のミカタの缶を使って成功した洋菓子店たちはこだわり抜かれた缶を選び、能動的に顧客を追いかけている。つまり、デザインに頼り切ってはデザインを活かしているとは言えない。お菓子のミカタが提供するきっかけを最大限に活かすのは自分自身なのである。


記者プロフィール

利根川 舞

ECのミカタ 副編集長

ロックが好きで週末はライブハウスやフェス会場に出現します。
一番好きなバンドはACIDMAN、一番好きなフェスは京都大作戦。

ECを活用した地方創生に注目しています!
EC業界を発展させることをミッションに、様々な情報を発信していきます。

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