ZOZO×パル×ベイクルーズ ファッションとECの可能性
ファッション専門のECモールとして大きな存在となっているZOZOTOWN。
ZOZOTOWNが次々と仕掛ける施策は、ファッション業界に様々な変化をもたらしています。実際にZOZOTOWNに出店しているブランドはどのように感じているのか、(株)ZOZO EC事業本部 ディレクター 松田 健氏、(株)ベイクルーズ 上席取締役 EC統括 嶋田 純氏、(株)パル 執行役員 プロモーション推進部 部長 堀田 覚氏に伺いました。
ブランドから見たZOZOTOWN
――ブランドからブランドから見たZOZOTOWN
嶋田:ファッション特化型のモールであるZOZOTOWNは、総合型のモールと違い、ファッションに対して強い興味があるお客様がたくさんいらっしゃいます。そのため、インセンティブに過度に頼らなくても顧客が獲得できるという点がメリットだと感じています。ZOZOTOWNに出店して14~15年になりますが、この点は出店当初から現在まで変わりません。
堀田:パルグループはZOZOTOWNに出店して10年ほどですが、ZOZOTOWNのファン、ZOZOTOWNが好きというお客様が明確にいる印象があります。また、他のモールに比べると男性のお客様が多いのも一つ大きな特徴だと思います。
松田:ZOZOTOWNがスタートした15年ほど前は、女性より男性ユーザーのほうが多かったです。また、サービススタート当初はファッション好きのコアなユーザーが多かったのですが、ECという商流がユーザーに受け入れられるにつれ、だんだん「みんなのためのZOZOTOWN」に変化してきたと感じています。
男女比も逆転して今は男性が3割程度になっていますが、それでも約250万人以上の年間購入者が存在します。ご出店いただくブランドさんに対して、顧客層は強みのひとつになっているのではないかと思います。
嶋田:3割と聞くと少ないイメージを持つかもしれませんが、ZOZOTOWNはユーザーの母数が圧倒的に多いので、その3割でも絶対的なニーズがあると感じています。また、自社で接点が少ない若い層にリーチできるところも魅力だと思います。
松田:お客様の年齢を平均すると30代前半になりますが、利用が多い年齢層には山が2つあるのです。1つは20代前半、そしてもう1つが30代前半のお客様です。ファッションのECサイトはお客様の年齢や性別が偏りがちなのですが、ZOZOTOWNの場合はお客様層が幅広いことも特徴かと思います。
――販売チャネルごとに商品展開を変えるなどの調整をすることはありますか?
嶋田:ベイクルーズではZOZOTOWNと自社EC、リアル店舗を展開していて、少しコーディネートを変えたり、売れ筋の商品を多めにしたりといったことはあるものの、基本的に商品展開は変えません。お客様がZOZOTOWNで見た商品をリアル店舗で探しに行ったのに置いていないといったことは避けたいと考えているからです。どのチャネルでも、お客様がベイクルーズのブランドを体験してくださるのには変わりないので、各チャネルでお客様にとって最適な状態を提供するのが我々の仕事だと思っています。
また、堀田さんがおっしゃっていたように、ZOZOTOWNのファン、ZOZOTOWNについているお客様が多くいらっしゃいます。リアル店舗でも、たとえば「三越伊勢丹のお客様」っていらっしゃいますよね。だから、路面店とテナント店のどちらかにしか力を入れないということはないと思うんです。
両方の店舗があるからこそ、お客様の状況に合わせてご利用いただくことができる。ECもそれと同じだと考えています。
ZOZOTOWNで売れ筋商品を把握し 実店舗展開を
堀田:パルグループの場合、ブランドがたくさんあるので、ZOZOTOWNがブランドを知ってもらう良いきっかけになっています。ZOZOTOWNで商品を見て、その画像をもってリアル店舗に来られるお客様も多いと感じています。
松田:ファッションのECというと、リアル店舗からお客様を取っているというイメージを持たれることもあるかもしれませんが、実際にZOZOTOWNに出店しているショップさんを見ると、そうではないことがわかります。ZOZOTOWNに出店しているショップさんは、出店していないショップさんよりもEC経由のリアル店舗への集客が圧倒的に多い、という話はよく聞きます。
嶋田:ベイクルーズでも同じように感じています。また、ZOZOTOWNは出店ブランドがかなり多いので、そのなかでお客様に購入いただける商品は「競争力が強い」という指標にもなっています。ZOZOTOWNで先行予約販売をして、リアル店舗での展開の指標にすることもあります。
ファッション業界を 盛り上げたい 関わる人の情熱
――ZOZOTOWNとして、ECとリアルをつなぐ施策には積極的なのでしょうか?
松田:はい。たとえば、2013年に開始したファッションコーディネートアプリ「WEAR」は、そういった点を意識して始めたサービスです。リアル店舗のスタッフさんも積極的にご活用いただいております。WEARで蓄積したコンテンツは、今秋予定している中国再進出にも活用されています。日本のスタイリングというのは、アジア圏でも評価が高いと感じています。
また、FBZ(FULFILLMENT by ZOZO)という自社EC支援サービスでは、ZOZOTOWN、自社EC、店舗の在庫を一元管理できるようになるため、各チャネルとの在庫連携により、商品欠品による販売の機会損失を最小化することができます。
ECとリアルの連携は、お客様のためにも、ブランドさんのためにもなります。ZOZOTOWNにお客様を誘導するというよりも、最終的に買う場所はお客様が選ぶものだと考えています。
嶋田:実は以前、WEAR経由でどういった商品がZOZOTOWNで売れるのか研究したことがあります。その結果、自社ECに比べると、ZOZOTOWNではシンプルで真似しやすい、ベーシックな色のコーディネートが良いということがわかりました。
松田:自社サイトにはブランドのコアなファン、そのブランドらしいスタイルを求めるお客様がいらっしゃいますよね。一方でZOZOTOWNは、ブランドの導入編という感じで、多くの人が理解しやすいスタイリングの相性が良いんだと思います。
嶋田:トレンドのど真ん中の商品がすごく売れるイメージもあります。ZOZOTOWNでも自社ECでも基本的な商品ラインナップは変えないのですが、見せ方の部分で素材は一緒でもZOZOTOWNでは少し薄味にして、マネしやすいスタイリングにするみたいな、食べやすく調理するといった感じはあります。
堀田:たしかに、ビジュアルをすごく変えるわけではないのですが、お客様の反応を見ながら奥行きを変えるというのはありますね。ZOZOTOWNで売れるときは一気に売れるので、スピード感をもってタイミングを逃さないことが大事だと思います。
――ブランドさんへ各担当の方がアドバイスされることもあるんですか?
堀田:ZOZOTOWNの担当者さんから、こういうことをしたら良いといったアドバイスをもらうことはありますね。パルグループのことをよくわかってくださっていると思います。トップページがよく見られるので、ランキングに入ったら強いなど、ZOZOTOWNのなかでの勝ち方を教えてもらうこともありました。
松田:担当ブランドのZOZOTOWN店をどう運営していくのか、戦略を立てながら商品開発から一緒に行うこともあります。一緒にお店を作っていきたいという意志がある、そういうところがうちのアイデンティティだと思っています。
嶋田:ZOZOTOWNの方って、皆さんファッションが好きで、細やかな感性的な話もできるのが良いところだと思います。ファッションを生活必需品として捉えてしまうと、我々の商売は成り立ちません。
たとえばコートに数万円かける、生活必需品ではない価値を理解している方と一緒にやらないと、お客様にもその価値が届かないというのはつねづね思っています。
松田:ZOZOはビジネスのために「EC」や「ファッション」という分野を選んだりしているわけではなくて、ファッションが好きというところから始まって今に至っています。だからブランドさんと同じベクトルになりやすいんだと思います。
出店いただくブランドさんを検討する際も、売れるかどうかはもちろんですが、それよりも、ファッションの文脈でZOZOTOWNに必要かどうかということは、重要な判断基準のひとつです。語弊があるかもしれませんが、出店していただいているブランドさんのことを、良い意味であまり「お客様」と思っていません。
生意気な言い方かもしれませんが、サイトを利用いただくお客様にどう向き合っていくか、それを一緒に考えていくパートナーがブランドさんという考え方です。
嶋田:アパレル市場全体を考えると、日本国内のアパレル市場は10兆円を切るくらいでずっと推移してきていて、これをいかに増やすかということを我々ブランドも考えていく必要があると思っています。ZOZOTOWNさんはそういったことを一緒に考えることのできるパートナーですし、ほかのブランドさんも、ライバルでありながら、一緒に市場を盛り上げていく仲間でもあると思っています。
ユーザーもブランドもZOZOTOWNも 幸せになる未来へ
――最近のZOZOTOWNの動きのなかで、影響が大きかったものはありますか?
嶋田:少し前になりますが、「ツケ払い」の影響はすごかったですね。「なんでこんなに売上が上がったんだろう?」というくらい売上が上がりました。
松田:最初にお話しした、20代前半のユーザーの山は、ツケ払いでできた感じがあります。
嶋田:ベイクルーズでは今秋開始した、MSP(マルチサイズプラットフォーム)も期待が大きい事業です。
堀田:パルグループでもMSPは参加する前提で準備を進めています。
松田:「MSP」は、ZOZOSUITで得た200万件以上の体型データを活用して、出店ブランドが企画する商品をマルチサイズで展開し、ZOZOTOWNで販売するサービスです。身長と体重の情報をもとに、数十サイズから自分に合うサイズをオーダーできるようになります。
ブランドさんのためにも、お客様のためにもなるのであれば、ZOZOで蓄積してきたデータは積極的に開放していきたいと思っています。
――ブランドさんが、今後のZOZOTOWNに期待することはなんでしょうか?
嶋田:ZOZOTOWNさんって、「えっ?」って思うような施策を突然始められることがありますよね。それはなかなか自社ではできないことなので、そのスタンスは崩さないでいただきたいなと思います。そうやって日本国内のファッション市場をどんどん盛り上げていってほしいと思っています。
松田:たまにやり過ぎて怒られることもありますが(笑)。そういったときでも、各社さん、あくまでもZOZOTOWNの今後のことを考えたうえで、ファッション業界のためにアドバイスしていただけるので、本当にありがたいです。
堀田:後はファッションの新しいお客様をどんどん連れてきてほしいという思いもあります。ZOZOTOWNをきっかけにパルグループのブランドを知ってもらうという、その状態をさらに拡大していただければ、ZOZOTOWNでも自社ECでも商品が売れて、ECで商品を見た人がリアル店舗に来店することもあり、良い循環ができると思います。それが、お客様にとっても便利な状態だと思います。
松田:先日発表させていただきました通り、ソフトバンクグループの一員になります。これまでのZOZOTOWNらしい「スタンス」はそのままに、新しいお客様をどんどん連れてくるためのサービス拡充に取り組みますので、どうぞご期待ください!
ECのミカタ 編集後記
今回の取材で最も印象に残ったのが、松田氏、堀田氏、嶋田氏のお互いをリスペクトしながらも思ったことを言い合える関係性です。ZOZOTOWNとブランドの担当者が同じ方向を向いていると話されていた通り、取材現場でも3人の意見が違うことはありませんでした。
ZOZOTOWNはブランドの事を考えつつ、自分達でもファッションを楽しんでいるからこそ、お客様である多くのファッション好きな消費者の支持を受けているのかもしれません。