LINEの友だち数が5000万人を突破!「お買いものパンダ」を活用した楽天のユーザーエンゲージメント戦略
2013年、LINEスタンプに登場した楽天の公式キャラクター「お買いものパンダ」は、スタンプ配信開始後すぐに大人気となったキャラクター。老若男女問わず幅広いユーザー層のファンがおり、2020年1月19日、LINEアカウントの友だち数が5000万人を突破した。
そんな「お買いものパンダ」はどのようにして誕生し、ファンを増やしていったのか。また、楽天のサービスにどのような影響を与えているのか。楽天株式会社 山岡 まどか氏(顧客戦略部 ジェネラルマネージャー)、本名 佑衣氏(顧客戦略部マーケティング課)に伺った。
老若男女に愛される企業キャラクターとは
楽天の公式キャラクター「お買いものパンダ」は、2013年5月にLINEスタンプとして誕生した。楽天市場がLINEアカウントを作るにあたり、友だち数の獲得のために作られたイラストだったが、当初はここまで反響があるとは考えていなかったそうだ。
「スタンプを出した初日に数百万ダウンロードがあり、4週間で500万ダウンロードを達成しました。予想以上の反響でしたね。そこで、これはキャラクターとして育成できる可能性がありそうだということになり、本格的に企画を開始することとなりました」。(山岡氏)
「お買いものパンダ」の戦略としてユニークなのが、すぐにビジネスに活用するのではなく、先にキャラクターに対するエンゲージメントを高める施策を行い、十分にファンとの関係性を構築していったことだという。
企業のキャラクター活用は、とにかく多くの販促キャンペーンに登場させるなど、しばしばビジネス色が強くなりがちである。だが、「お買いものパンダ」はそうではなく、ビジネス活用とエンゲージメントの両軸を重要視している。
「まず、キャラクターの設定や世界観を、初期の段階で綿密に行いました。『お買いものパンダ』は楽天のファンで、ダイヤモンド会員ユーザーであるという位置づけが特徴的です。一般的な企業キャラクターの場合、企業の立場で宣伝をすることが多いかもしれませんが、それでは愛されるキャラクターになりにくいと考えました。もともとLINEスタンプで、自分の感情を投影するのに選ばれているキャラクターということもあり、共感されるキャラクター像を目指しました」。(山岡)
ファンを育成するステップ
エンゲージメントを高め、ファンを作っていくための施策として、LINE、Facebook、Twitter、TikTokなどのSNS活用や、オフラインでのイベント開催などがある。
楽天ではこれらの施策を通して顧客とのタッチポイントを増やし、新たなターゲット層の獲得にも貢献をしている。
「企業キャラクターである以上、最終的には楽天グループの各サービスの収益につなげたいと思っています。しかし、いきなり販促活動ばかりに活用するのではなく、まずはファンの方に好きになっていただける素地を作りエンゲージメントを高めていくことで、結果として楽天のサービスを使っていただく可能性や頻度が高まります」。(山岡氏)
目先のビジネス活用ばかりに注力するのではなく、しっかりとファンをつくりエンゲージメント向上を図っていることが、楽天の戦略の大きな特徴となっているのだ。
また「お買いものパンダ」のファンを作るためには、クリエイティブ面へのこだわりも徹底している。
「LINEスタンプというのはメッセージの中でユーザーの感情や表情、リアクションを代弁するものなので、それらを伝えやすい表情や動きを追求しています。同時に、定番の感情や表情を押さえつつも、新しさやトレンドも取り入れるようにしています。ユーザー理解と社会性を捉えた工夫などが、『お買いものパンダ』への共感、ひいては楽天グループの各サービスへの親近感にもつながるのではないかと思います」。(本名氏)
SNSやイベントでのタッチポイント増加施策
「お買いものパンダ」はTwitterアカウントを運営しているが、そこでも、あくまで楽天ユーザー側として投稿を行うという工夫をしている。
「たとえば『楽天スーパーSALE』についてつぶやく場合、『今開催中のスーパーSALEで買おう!』という企業側の立場ではなく、『今、スーパーSALEをやってるみたい。何を買おうかな。楽しみ!』というように、いち楽天ファンとして生活を楽しんでいるという立場でつぶやきを行っています」。(山岡氏)
また2019年末にはTikTokアカウントも開設された。「お買いものパンダ」のフレームをTikTokと一緒に開発し、ユーザーがそれを使って踊れるようになっている。
「これまで、LINEスタンプで『お買いものパンダ』を使ったり、Twitterで世界を覗くことはできましたが、TikTokはそこからさらに進んで一緒に楽しむことができるため、より好きになっていただける仕掛けになっているのではないかと考えています」。(山岡氏)
さらに、リアル空間で「お買いものパンダ」に触れ合うことができ、ファン同士がつながることができる場として、オフラインのイベントも開催されている。
2018年には、誕生5周年を記念して、表参道でカフェが開かれた。これは、「5周年のお祝いをみんなでお祝いするため、『お買いものパンダ』が家にファンを招待してもてなす」というストーリー仕立になっていた。また、2019年には楽天グループとして最大規模のイベント「Rakuten Optimism2019」においてブースを設け、関連グッズや飲食メニューが提供された。
複数のSNSの活用やオフラインのイベント開催などにより、「お買いものパンダ」は幅広い層でファンを獲得している。
スタンプの配信を開始した当時は、LINEをよく使う10~20代前半をターゲットに考えていたそうだが、今では30代以上のユーザーが7割以上を占める。また、キャラクターものは女性の人気が高いイメージがあるかもしれないが、「お買いものパンダ」グッズの購入者の半分は男性だという。
「ファンの方々とお会いする機会がたびたびあるのですが、『お買いものパンダ』によって人生で初めてキャラクターというものにハマったという男性もいらっしゃいました」。(山岡氏)
楽天のサービスとのコラボレーションで新規ユーザー獲得と売上向上に貢献
幅広い年代と性別から愛されるキャラクターとしての地位を確立した次は、楽天のサービスの利用促進フェーズに入った。
「2016年から、楽天市場をはじめとした楽天の各事業とのコラボレーションを強化しています。『お買いものパンダ』に対するエンゲージメントの高いファンの方に、ノベルティなどをきっかけに、自然と楽天のサービスを使っていただきたいと考えました」。(山岡氏)
たとえば、「お買いものパンダ」デザインの「楽天カード」の発行や、楽天ブックスでのしおりのプレゼント。
また、楽天市場において、母の日に対象店舗で買い物をすると「お買いものパンダ」のARギフトカードが付くというコラボレーションや、楽天スーパーロジスティクスからの配送段ボールには、「お買いものパンダ」のイラストを入れている。
「『お買いものパンダ』のダンボールはその意外性が喜ばれており、Twitterで投稿してくださる方もいます。こういったコラボレーションにより、ファンの方に、だったら買い物は楽天市場で、と思っていただきたいですね」。(山岡氏)
2017年には、パンダフルライフコレクションというプログラムをスタートした。これは、ユーザーが楽天のサービスを新しく使い始めた際に、オリジナルのぬいぐるみをプレゼントするサービス。たとえば、楽天銀行であればブタの貯金箱を抱えた「お買いものパンダ」など、各事業のモチーフを合わせたぬいぐるみをプレゼントし、コレクションしてもらうというものだ。いろいろなモチーフのぬいぐるみを集めたいというユーザーの心理を刺激し、サービスの新規利用につながっているという。
「楽天の各事業との連携は多く、現在、年間50以上の事業とコラボレーションを行っています。そのような楽天グループのサービス基盤を活かして一気に活動を広げられるという点も、ほかの企業キャラクターとは違った優位性だと思います。
『お買いものパンダ』とコラボレーションして、新規顧客獲得や売上向上にも貢献していることが分析でも明らかになっており、現在、年間数百万人のお客様が、これらの企画を通じて新たに楽天サービスを利用してくださっています」。(山岡氏)
楽天のサービスをさらに利用していただくために
今後の展開としては、「お買いものパンダ」をきっかけとした楽天のサービス利用促進を、さらに強化していく予定だという。
「一人の楽天会員の方に、楽天内のまだ使われていないサービスを使っていただきLTV(顧客生涯価値)を向上させていくポテンシャルは、まだまだ大きいと考えています。たとえば、楽天市場は使っているけれど楽天カードは持っていない、最近だとオフライン店舗で楽天ポイントを集めだしたが楽天市場のようなオンラインサービスを使っていないという方もいらっしゃるので、そのような方々にクロスユースを進めていきます。
また、LINEアカウントの友だち5000万人のなかには、楽天のサービスを1回も使ったことがないという方もいらっしゃるので、そういった方にどのようにして楽天のサービスを初めて体験していただくかというころも、今後のチャレンジになるかと思います」。(山岡氏)
たとえば「お買いものパンダ」のグッズは、基本的に現金で購入できず、「楽天ポイント」との交換で手に入るようにしているという。これも戦略の一つとして設計しており、グッズがほしい場合は、楽天のサービスを利用して、「楽天ポイント」を貯めることで手に入れることができる。グッズを単に販売するのではなく、楽天サービスの利用体験と紐づけられている。
「『楽天ポイント』が目指す世界は、ただ貯めてお得に使えるだけではなく、おもしろい、楽しい、嬉しいというエモーショナルかつエンターテイメントな方向です。その一環として、ポイントでプレミアムなグッズを入手できるというのは、大切なことだと思います」。(山岡氏)
加えて、楽天市場のユーザーの消費動向は様々で、日用品、セール、ギフトなど対象を絞って重点的に利用しているユーザーもおり、その利用シーンの拡大にも、「お買いものパンダ」をより活用していきたいと考えているそうだ。
「それこそ買い物はすべて楽天市場でするくらいに、生活のあらゆる場面で楽しんでいただきたい。そのために、『お買いものパンダ』を買い物のさまざまな体験に活用していこうと考えています。楽天市場など楽天グループの各サービスに付加価値をどうつけられるかが重要です。
楽天のサービスがもっと親しみやすく、楽しく使ってもらえるようになること。そして気持ちが高ぶるような体験になること。そこに『お買いものパンダ』が一役買えれば嬉しいです」。(山岡氏)