目指すは、リアル友達のコミュニケーション DHCのLINE公式アカウント戦略
”企業と一般消費者が友だちとしてつながる”という仕組みを作り出した、LINE公式アカウント。化粧品業界の企業のなかで国内最大の友だち数を抱えるDHCは、どのようにLINE公式アカウントを運用しているのでしょうか?(株)ディーエイチシーの渡辺 教紘氏、LINE(株)の見田 渉氏、丸山 満氏に話を伺いました。
友だち数3,500万人超えDHCのLINE活用について
――まずはDHCのECサイトについて教えてください。
渡辺:ECサイトでは、化粧品・健康食品を中心に販売しています。他にもファッションや医薬品、食品、遺伝子など、幅広い商材を取り扱っています。アイテム数は、化粧品で約860点。健康食品で約380点あります。利用者の中心は、40代から50代の女性です。
ECサイトがオープンしたのは、2002年。LINE公式アカウントを開設したのは、2013年です。開設理由は、若年層のお客様獲得でした。当時のLINEのユーザー層は、10代から20代の若者がメインだったため、LINE公式アカウントで若年層との接点を作ろうと運用を開始しました。今では、公式アカウントの友だち数が3,500万人を超えています。
見田:LINE公式アカウントというサービスがリリースしたのは2012年からなので、DHC様はかなり初期から導入いただいています。当時、登録していたのは流通系やメディア系の企業様ばかりだったため、アカウントを開設しているECサイトはほとんどいませんでした。DHC様は早めに始められたことで、LINEを利用している若年層に対して、アカウントの認知を拡大されていた印象がありますね。DHC様の抱える友だち数は、化粧品業界の企業様のなかで国内最大規模です。
新規友だち登録はネコのスタンプをフックに
――LINE公式アカウントを運用するうえで、心がけていることはありますか?
渡辺:まず、大前提として心がけているのは、初期段階やスタンプの世界観において企業色を出さないコミュニケーションをすること。企業色を出さないほうが、今まで接点がなかったユーザーにも親近感をもたれやすいからです。企業ロゴはできるだけ使わず、宣伝もあまりしない。企業と一消費者ではなく、 "リアルな友達"のような、血の通ったコミュニケーションを目指しています。その上で、友だち登録から顧客化までのフェーズを意識して、施策を打っています。
――新規友だち登録においては、どのような施策を打っていますか?
渡辺:LINEスタンプを活用した施策です。「タマ川 ヨシ子(猫)」というネコキャラクターの無料スタンプをフックにして、新規友だち登録を促しています。LINE公式アカウントの運用初期から「タマ川 ヨシ子(猫)」のスタンプを作っており、今ではこのアカウントのメインキャラクターとして、公式のキャラクターサイトもあるほど人気を集めています。
丸山:LINEスタンプは、丸みを帯びていたり、二頭身であったり、かわいらしさをもつキャラクターが人気です。そのため「タマ川 ヨシ子(猫)」の愛らしさが、LINEのユーザーにハマったのではないか、と。LINEスタンプはかなり多くの数がリリースされていますが、そのなかでも特に人気を集めるキャラクターになっています。
――LINEスタンプの施策について、詳しく教えてください。
渡辺:スタンプのクリエイティブはとくにこだわっています。LINEでのコミュニケーションで便利なスタンプは「ありがとう」「了解」といった日常会話で頻出する言葉です。「タマ川 ヨシ子(猫)」のスタンプも、ユーザーが使いやすいよう、あいさつや返事のスタンプを必ず入れるようにしています。それに加えて、"楽しい気持ちにさせてくれる"スタンプも混ぜております。流行している言葉だったり、シュールなタッチのキャラクターだったり。最近では、若者言葉として流行した「ぴえん」というスタンプも入っています。メインでアプローチしたいのが若年層なので、若い社員の感性を積極的にスタンプ開発に取り入れてもいます。
スタンプのリリース頻度は、1年に3から4回ほどです。なぜなら、ダウンロードした無料スタンプは、一定期間が過ぎると使用不可になるから。なるべく「タマ川 ヨシ子(猫)」のスタンプを長い期間無料で使えるようにしています。
スタンプは初期から取り組んでいる施策なので、「友だち登録の伸びは鈍化するだろう」と思っていましたが、実際に勢いはそれほど衰えていません。今でもLINEスタンプを配信すると、新規の友だちが毎回数十万から百万人近く増えています。
見田:DHC様のようにスポンサードスタンプを配信し、継続的に多くの新規ユーザーを獲得するには工夫が必要です。最初にスポンサードスタンプをリリースすると、おおよそ数百万人は新規ユーザーが集まるのですが、2回目、3回目も同じようにいくとは限りません。DHC様の場合は、キャラクターがキャッチーであるうえに認知度が高いので、「使いたい」という心理を誘うのでしょう。
丸山:LINEスタンプの強みは、ダウンロードしたユーザーが会話でスタンプを使うことにより、その先のユーザーにも広まっていくことです。知り合いが使っているのを見てダウンロードしたり、ダウンロードをしなくてもキャラクターの存在を知っていたり。スタンプを配信することによる認知拡大の効果は、高いといえるでしょう。
――ユーザーとのコミュニケーションを重視されていますが、EC サイトに繋げるような施策は取っているのでしょうか?
渡辺:はい。キャンペーン情報や新商品情報、クーポン情報などのメッセージを送っています。しかしあくまでも、リアルな友達のような距離感のコミュニケーションで築いた、ユーザーとの関係性あってこそ。いきなり「商品を宣伝したい」「ECサイトに誘導したい」ことを全面に出すと、ユーザーは離れます。
大切にするべきなのは、ユーザーに楽しんでもらうこと。タイムラインなどで事業とは関係のないコンテンツを挟んでアイスブレイクしつつ、ECサイトへの遷移施策を取ることが重要ではないでしょうか。最近では、「タマ川 ヨシ子(猫)」のファンも増えてきて、ファンレターやキャットフードが届くこともあります。
見田:人間誰しも「この人って面白い」「一緒にいると楽しい」という友達と繋がりたい。そのため、LINEでも「このアカウントと繋がると、生活が楽しくなる」と思ってもらえるコミュニケーションを取るのが効果的です。
一方で、告知だけでは商売感が強く、ユーザーはメッセージ内容を見ません。リアルな友達にも「これ買って」「このキャンペーン参加して」とグイグイ来られたくないですよね。少しでも不快感を与えると、すぐにブロックされるでしょう。
丸山:そういった視点で見ると、DHC様はユーザーとうまくコミュニケーションを取り、告知内容をケアされています。キャラクターのツンデレ口調を入れたり、クリエイティブにイラストを入れたりして、「タマ川 ヨシ子(猫)」の世界観を保つ。そのなかで、クーポン情報やキャンペーン情報などの告知のメッセージを送る。カスタマージャーニーに沿った施策で、効果的に運用されていますね。
渡辺:お知らせなどの情報を伝えるにあたり、LINEを使うメリットだと思うのは、瞬発力があること。LINEは、ユーザーに「通知が来たらメッセージを開封する」というルーティンができており、メッセージをすぐに開いてもらいやすいんです。メルマガや純広告を使うよりもすぐに、そして効果的に、情報の認知を広げられています。
広告配信の効果を最大化 LINEの今後の展開
――LINEの今後の展望を教えてください。
見田:LINEは今後、「企業とユーザーの良好な関係を長期的に構築できるプラットフォーム」を目指していきます。その施策のひとつとして、2018年12月より、新しい料金体系のLINE公式アカウントをスタートしました。
LINE公式アカウントは、これまで250万円からの月額費用が必要でしたが、新しい料金プランによって月額料金を下げ、メッセージ数に応じた従量課金制に。コスト面での導入ハードルを下げ、より多くの企業様にサービスを活用してもらえるようになりました。
この変更により、これまでは全配信が中心だった配信設計を、よりフレキシブルにセグメントを切って配信できるようになりました。そうすることで、開封率やCVR率が高まり、LTVや費用対効果を高くして、効率的に運用できます。
丸山:今年、LINEが注力する取り組みのひとつが、LINEの法人向けサービス間で、それぞれのサービスで取得したデータを連動できる「クロスターゲティング」です。目的は、サービスを横断してデータを利用することにより、広告配信を最適化し、効果を最大化すること。現在は、LINE公式アカウントとLINEポイントADのデータをLINE広告(旧LINE Ads Platform)へ連携できます。
例えば、LINE公式アカウントからのメッセージを開封したユーザーや、メッセージ内のリンクをクリックしたユーザー、LINEポイントADを通じて友だち追加やアプリインストールなどを行ったユーザーなどのデータをもとに、それらのユーザーに対してLINE広告でリターゲティング配信や除外配信、拡張配信などが可能です。2020年中には3サービスのデータを相互に利用できるようにしていく予定です。
――最後に、DHCは今後どのようにLINEを活用していきますか?
渡辺:「クロスターゲティング」はぜひ実施してみたいです。3,500万人の友だちをベースに、メッセージ配信で得られた情報を、LINE広告にて活かしてまいりたいと考えています。メッセージにて「どのクリエイティブや画像をタップしたか、購入に至ったユーザーの属性は」、など精度の高い情報が得られます。そのデータをLINE広告の学習データとして連携し、活用することで、お客様に親和性のある配信が出稿当初より実現できるはずです。結果として配信開始よりCPAの低下が図れると考えています。
また、公式アカウントでは、今後取得可能になる様々な行動データを活かし、多くの友だちの理解を図りたいと思っています。まずは友だちを知ることが上質なコミュニケーションの第一歩。そのためにさまざまな施策にチャレンジしたいですね。
<「ECのミカタ通信」vol.19より転載>