「市場を救いたい」代官山の割烹料理屋が2か月で1000万円売り上げたワケ

ECのミカタ編集部

外出自粛で多くの料理店が苦境にあえぐなか、ECを立ち上げて2か月で1000万円を達成した割烹があるーー。

東京・代官山。洗練された専門店が軒を連ねる一角に「割烹 TAJIMA」がある。店内は重厚感漂う厨房ながら客席はモダンな造りで、代官山のイメージとマッチしている。

店主の田島和彦さんは、ミシュランガイドにも取り上げられた京料理店で腕を磨いた生粋の日本料理人。そんな彼がこのほどECを立ち上げた。きっかけは自身が見た豊洲市場の「異変」だった。

腕組み座る卸業者「これはキテるな」

割烹TAJIMA 田島 和彦氏

新型コロナウイルスの影響を市場で体感したのは3月でした。そのころ私たちのお客さんも一日1、2組くらいでしたが、買い付けが必要なので豊洲市場に来ていました。

そうすると、いつも忙しそうにしていて話をする時間もない鮮魚の卸業者さんが、腕組みして椅子に座ってる。「これはキテるな」と思いましたね。こうして市場に直接買いにくるのは僕らのような小規模の店だけで、彼らの売上のメインはトラックに魚を詰め込んでどんどん発送するようなところ。その業者さんが椅子に座れているってことはそこの売上がストップしているということです。

「(売上)どうですか?」と聞くと、「ダメだね」と一言。当時は値も下がっていて、例えばウニが通常の3分の1くらいになっていました。

そこで、余っている野菜や鮮魚の写真とともに「市場の食材買いませんか?」とフェイスブック上で呼びかけたのがこのプロジェクトのスタートでした。その日の食材を買い付け、お店に取りに来てもらう。始めは1万円分くらいを買って詰め合わせていましたが、ほとんど利益ほぼゼロでも良い、と思っていました。

魚なら、水洗いからお刺身にするまでTAJIMAがやる。調理はコストがかかるためしませんでした。「市場を守るためにとにかく食材を買ってほしい」という思いからです。

市場の食材が安く買える、ということで徐々に反響が増えてきました。買っていただいた方からのご紹介で、僕が知らない方からもご連絡をいただくまでになりました。

田島さんのフェイスブックより。田島さんが市場で見た光景や、取り組みへの思いがつづられている。

1か月ほどフェイスブックで運営していましたが、それだけでは追いつかないほどにご連絡をいただくようになりました。ECに詳しい知人の後押しもあり、4月にECを開くことに。使いやすさを考えて「ペライチ」を利用しました。

ECをしっかりやっている日本料理店は前例がほとんどありません。「伸びしろがあるはず」と会社の役員陣からも「やるべきだ」と後押しされました。

政府による緊急事態宣言も出て、これまでは代官山にある店舗まで食材を取りに来ていただいていましたが、お客さんにとっても私たちにとっても密はリスクだと考えて配送までできるように手配しました。そういったメッセージを伝えようと、ECのURLにも「stayhome」を入れました。7月からはECサイトのプラットフォームとして「STORES」「BASE」も使い始めました。

富裕層へ浸透 売上1000万へ

さらに売上が伸びたのは、クレジットカード会社のラグジュアリーカード会員への認知が広がったことが大きなきっかけです。

カード会社の方と親しい知人がいて、「市場を救いたい」という思いに共感していただいて。そのカード会社の会員様限定商品や、送料無料の特典を用意できることになりました。そこで、TAJIAMAの料理を家庭で楽しんでいただけるミールキットを2〜5万円で販売することに。すると売上も伸び、販売件数はピーク時で1日20〜40件、売上は1000万円を超えるほどになりました。贈り物としてご利用いただいたケースもあったようで、食の場を盛り上げるお手伝いができたと思います。

今では「TAJAMAの定期便」として、市場の野菜や魚はもちろん、TAJIMA自家製の調理品やTAJIMAにいるイタリアンシェフが手掛けた特製料理をお届けしています。ちなみにフェイスブックで紹介している新商品は、こちらがきちんと対応できるよう、パスワードをお伝えした方のみがお買いいただけるようにしています。

ECを育てていくにあたって、元々知り合いだった方に買っていただいた際はもちろん、初めてお付き合いしてご意見をいただける方からは深く要望をヒアリングするようにしました。

私たちにとっては、日々改善していくことしか成長するすべはないはずです。「こうしてほしかったのに」という厳しい要望をいただいたとしても、きちんと対話することで「何人暮らしなのか」「なぜこの商品をお求めいただいたのか」などの背景を伝えていただける。

「じゃあこの方たちと同じ環境の別のお客さんが来たらどうするか?」想像して新しいことをする。こうした対話と改善が僕たちがこだわった部分です。

美味しいのは当たり前 「面白そう」についてきてくれた

田島さんのフェイスブックより。ウニの木箱が大量に並んでいる。

新型コロナの影響を受けてお弁当を販売する飲食店もありましたが、自分たちはその路線ではインパクトが小さいと思いました。売上を維持するため「お店に来てほしい」と馴染みのお客さんに言うこともできたかもしれませんが、普段からお世話になっている方にさらにお世話になろうとするのは迷惑では?とも。そこで「卸業者さんを応援したい。市場を守りたい」を土台にプロジェクトを始めることにしました。

商品は決して安くありませんので、お客さんからしたらおいしいのは当たり前です。今回は、私がやっていることに対して「楽しそう」「面白そう」と、どれほど感じていただけたかがカギだったと思います。

たとえば卸業者さんの伊勢海老を水槽にある分全部買い込んだり、ウニを1度に100箱買ったり。買い込んでる様子や、調理風景をSNSで積極的に発信して、多くの反響をいただきました。お客さんから「楽しかったよ」という言葉をいただけたのが印象的でしたね。このコロナ禍で大量買付というリスクを最初に負ったことも、お客さんに対する強いメッセージになったと思います。これでもし、お金を最初にもらっていたら状況が変わっていたはずです。「市場も応援できるし、田島さんがやっていることも応援したい」。そう思っていただけることが重要でした。

商品をお届けする私たちは「安くしたい」という気持ちが先走りがちですが、むしろ「値段に合った商品にする」ことも念頭に起きました。パッケージを桐箱にしたり、一つひとつの商品にこちらからの手書きメッセージを入れたり。値段に対して恥ずかしくないものにできたと感じています。

また、市場の問屋さんや生産者さんに対しての「インパクト投資」にもなると思っていました。消費者であるお客さんが私たちを通じて、問屋さんや生産者さんを直接応援出来る機会になったのではないかと思います。

コロナの影響前、通常の買い付けでは、例えばマグロやブリを買っている問屋さんでは、その1か所では月10万円分使うかどうかだったところを、今回は1か月で80万円くらいの支払いになりました。他の問屋さんでも同じように通常使う金額よりも大幅に上回っていました。エビなど他の鮮魚についても同様です。

おかげで市場の方にもよろこんでいただきました。今は価格が通常に戻りつつありますが、今回の買い物のおかげで安くしていただいたり、魚もお得なパッケージにしていただけたり。振り返って、効果があったと感じています。

レストランだけでは...

これまでなかった体験が今回できて、「まだこんなに伸びしろがあるんだ」と実感することができました。今後は年末のおせち料理の販売を強化していく予定です。

新型コロナも相まって、「お店にお客さんがくる、お金を払ってもらう」一本のビジネスモデルでは通用しないことが分かりました。一方で、「おいしいものをつくる」ことしか私たちにはできません。その点で、二本軸でやっていくべきだと分かった今回の体験は得るものが大きかった。

コロナ前に、イタリアンの店をもう一店舗出す計画がありましたが、いまは止まっています。ただ、イタリアンなら日本食よりレパートリーが多いという点で、ECにも馴染みやすいことが分かりました。若い料理人は経験値がめちゃめちゃ上がったと思います。例えばECと対面のお客さんに出す料理では味付けは全く違いますし。

31歳でお店を初めて4年目。ずっと、料理を提供して食べてもらうだけのレストラン事業だけでは存在意義がない、と思っていました。お店や自分自身をきっかけにおいしいものを届けることが最大の目的だと。そういう根っこがあったので、今回の行動につながったと思っています。自分が体を動かさないと、どんなに素晴らしいものでも相手に届かないことも分かりました。

いまの目標は、このECでおせち料理を売ることです。三が日だけでなく、4、5日も家族で楽しく過ごしてもらえる、そんな料理を用意します。

「『お店』と利用者との近さ」で広げた共感の輪

割烹TAJIMA 従業員一同
(左から、佐々木氏、溝尾氏、田島氏、森氏)

「お客さんから『楽しかったよ』という言葉をいただけたのが印象的でした」。

そう語る田島さんの表情は、まるでそのメッセージを書いた人の顔を思い浮かべていたかのように、心から楽しそうだった。

今回の取り組みの反響が大きかった要因は、田島さんと利用者との距離の近さにあったと感じる。市場が困窮している現場を目の当たりにした田島さんを突き動かしたのは「市場を救いたい」という想い、そして後押ししたのは日ごろ店に来る馴染みの客やその友人たちだった。

田島さんは買い付けのようすや、このプロジェクトに対する自分の思いなどをSNSにアップし、「シェア」が拡大していく。日々カウンターでお客様と接している田島さんだからこそ、無意識的にデジタルでも直接のコミュニケーションを重視し、利用客の意見・ニーズを聞き、改善策を横に広げていった。ECで売っていても、カウンター越しに料理を提供しているかのように「距離」が近かった。

多くのEC事業者にとっての悩みは「お客さんが何を考えているのか分からない」というものだ。LPへの流入や買われた商品の傾向などを分析する便利なツールはたくさんある。ただ、ともすればKPIの数字にとらわれ、肝心な客の「顔」が見えなくなっていないだろうか。

数の先にいるのは一人の人。顧客が膨大でも十人以下でも、たった一人の満足を得ることの重要性は変わらないはずだ。(ECのミカタ編集部)

割烹 TAJIMAの概要

営業時間:18:00~23:00(来店は19:30まで)
定休日:日曜日
住所:〒150-0034
東京都渋谷区代官山町13-4 ヴォーグ代官山2 1F
TEL:03-6874-9129
席数:カウンター10席
アクセス:東急東横線「代官山駅」より徒歩3分

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