EMS値上げで越境ECの配送手段に悩む方へ! 各種国際配送サービスのメリット・デメリットを解説

ECのミカタ編集部

EMSの費用が上がったことを受け、国際配送手段の見直しを検討している越境EC事業者も多いのでは。世界中のマーケットプレイスで商品を販売し、国際配送事情に詳しいBEENOS株式会社の西尾里美氏に、国際配送各社の特徴やメリット・デメリットについて伺った。

安くて補償も手厚いEMS

――まずはEMSの強みを教えていただけますか。

通常、配送会社様からのご請求は容積重量か実重量の重い重量を基に計算されています。それに対し、EMSは実重量を基にした料金設定がされています。実重量に比べて、容積が大きい荷物につきましては、EMSを利用した方がお客様に安い料金をご提示できる可能性が高くなります。

事業者様の運用の観点でも、料金を調べるのに他の配送会社ですと3辺を測るオペレーションコストが追加されるのに対し、EMSでしたら重量だけ測ればいいので余計な作業をせずに済むメリットもあります。

また国によってバラつきはありますが配送スピードが安定して早いことと、付帯されている破損や紛失への補償が厚く、配達地域が広いところも強みですね。

――EMSの料金が上がりましたが、事業者にとっての影響はどの程度になると考えられていますか?

アメリカは1kgで800円プラスとなっているので、少額の商品を販売されている事業者様には影響がありそうですね。アジアは特別追加料金の対象ではないのであまり影響はないと思います。

ただどの国に送るにしても、代替手段はあったほうがいいでしょう。当社でも、数多くの会社様の配送サービスもご利用させていただいております。

情報収集しないと、停止のリスクやコストで損をすることも

――EMSは新型コロナウイルスの影響で、配送をストップした時期もありました。

EMSはもともと旅客機の空いているスペースに荷物を載せる形で輸送していますが、コロナで日本に入ってくる便数が減り、積載スペースが減少したことで停止せざるを得ない状況だったと思います。

――その他の国際配送会社ではどのような対応を行なっていたのでしょう。

ほとんどは自社のカーゴ便で通常通りの輸送を行っていたと思いますが、国や地域によっては一時的な料金の調整を行っていたところもあります。航空便が減ったことで、スペース確保のための一時的な値上や繁忙期特別料金等の追加料金等を導入されたクーリエ業者様もいらっしゃいました。

弊社で運送をお願いしている国際配送会社様も緊急追加金を導入され、かつ便数が少ないところに関しては値上がり傾向にあります。追加料金は当初は臨時措置といわれていましたが、今も課金されていますので、この先しばらくは続くのではないでしょうか。

またコロナ蔓延国に対しては空港が閉鎖されたため、EMSと同様一時的な輸送を停止した配送会社もありました。

配送料金のほか、送り先の網羅性や商品への対応も確認

――越境ECの配送は価格面や、日本郵便のネームバリューで安心感があるところからEMS一択だった事業者も多かったと思いますが、そこから切り替えるにあたっては、きちんと情報収集しないと停止のリスクにあったり、価格面で負担が大きくなったりすることもありそうですね。日本の越境EC事業者が使える国際配送会社には、どのようなものがありますか。

世界的に網羅している会社として、DHL、FedEx、UPS等があげられると思います。また、国や地域によっては、SF Express、ECMS、4PX、DB Schenker、PostNLなどの選択肢もあると思います。

DB Schenker、PostNLはヨーロッパ域内に強く、SF Express、4PX、ECMSも中国国内でブランドネームがあります。たとえば中国都市部への配送ならDHLも可能ですが、山間部など細かいところはカバーできないことがあるので、中国国内に拠点の多いSF Expressや4PXで届けるなど使い分ける方法もあります。

配送スピードに関しては利用サービスによって違いますが (EconomyやExpress等)、弊社で利用させて頂いているクーリエサービスはほぼ当日フライト搭載が可能となっています。

ただ会社のポリシーで運べないものがあり、たとえば電池内蔵の商品が一定数以上入っているものは特定の配送業者様ですとお取り扱い可ですが、他社様だとNG等の違いがあります。中国に輸入する場合は中古品のお取り扱いが不可の配送会社様や、問扱いはできても個人輸入枠で1回に輸入可能な品目数や価格の制限などもあります。

ちなみにEMSはウイスキーなどアルコール度数25度以上の酒類は送れません。弊社では特定のクーリエ業者様にお願いしています。アルコールに関しては、各国の輸入規制や取扱ライセンス等のルールがあるため全世界的に輸入できるわけではなく、アメリカですとアルコール度数の低いビールも含めて禁止されている状況です。

――料金の基準は各社で違いますが、全体的に実重量より容積重量が採用されることが多いことを考えると、EMSの値上げ後と比べてもやはり高くなりそうですね。

そうですね。ただ価格はボリュームによっても変わる可能性があります。いろいろな国に送る場合、オーストラリアはA社、アメリカはB社などボリュームがばらけるとコストが高くなる可能性もあるので、そこは全体のバランスを見て調整しています。

――以上のお話もふまえて、実際に配送会社を決める要素はどのようになりますでしょうか。

- 費用 (お客様への提供価格)
- 請求方法 (実重量ベースか容積重量ベースか) - 倉庫のオペレーションやお客様への見せ方も変わるため
- 輸入通関方式 (中国の通関等は特殊)
- 商材 (取り扱える商品が配送業者によって異なるため)
- 保税区を利用しての販売か受注発送か等

です。保税区についてですが、それなりにボリュームがあるなら、5,000などまとまったロットを関税のかからない保税区において、国内で注文が入ったら国内配送にしたほうが手続きも簡単でスピードも速くなります。

ただ現地に在庫をおくリスクもありますので、初めは1個1個の日本から送る配送にしたほうが安心だとは思います。

またお客様目線で言うと、その国で知名度の高い配送会社だと安心なようです。弊社も最近ある会社様を配送オプションの1つに追加させて頂きましたが、その会社様のシェアの高い国のお客様から「やっと私たちが知っている会社のサービスが導入された」との反応がありました。弊社のサービスでは、基本的には料金や配送スピード等の条件の違う配送手段の中からお客様に配送サービスを選択して頂いている関係で、お客様の馴染みのあるサービスが選択されやすい傾向にはある感じです。今後はその点も考えて配送手段の選択をしなければいけないと思います。

――実際に貴社ではどのような流れで配送サービスを検討・比較をして決定に至るのでしょうか。

1. 見積もり (相見積もり取得) - 運送できる商品等の確認含め
2. 輸送に必要なデータや書類の確認
3. 顧客への提供価格の設定と比較 (現行の価格/競合他社比較等)
4. 最終決定

という流れです。1で、配送会社に「何を、どこに、どれくらい配送したい」とリクエストを出せば見積もりがきて、その商品を運べるかどうかもわかります。

2は、弊社の場合、荷物が手書きでできるような物量ではないので、ラベルデータを取り込みしているのですが、配送会社ごとにラベルシステムは違い、入力データも違うため、どういうデータをどういう順序でつくるか、システム連携のところを確認します。

料金設定について、お客様に理解していただく工夫も必要

――国際配送を切り替える上で、その他の注意点などがあれば教えてください。

お客様は、箱の大きさで配送料を請求されるというイメージがあまりないと思います。たとえばもともとEMSで実重量500g、配送料1,000円で送っていたものを、他社の配送手段だと容積重量ベースの料金となり、送料が2,500円に上がることもあります。

中には商品価格より送料のほうが高くなるようなこともあります。弊社では日本語が読めない海外の人への販売代理購入事業Buyee を展開し、ホビー系の商材も取り扱っていますが、たとえばフィギュアなどは箱も商品として扱っているので容積が膨れて料金もかさむケースが多いです。

また1枚300円のトレーディングカード等のお取り扱いもありますが、Buyeeの仕組み上、倉庫に到着してから重量を測り、海外に送るための箱のサイズも割り出すため、EMSでも1,200円など高くなることがあります。お客様は安い商品を買ったつもりでも、送料がいきなり1,200円となると思ったより高くて驚くと思います。

Buyeeの場合、EMS以外の配送方法もご提供してカバーしているため、そのこと自体で需要に影響はないのですが、お客様にわかりやすく提示しておくことは大切だと考えています。

複数の配送会社を利用する場合は、お客様に「この配送方法なら実重量」「この方法なら実重量と容積重量の重い方」とご理解いただけるような伝え方をする必要があるでしょう。

――送料の仕組みについてあまり馴染みのないお客様にも、わかりやすいサービス選定を行って頂けるような見せ方を工夫するということですね。ありがとうございました。


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