コロナ禍における楽天市場の店舗コミュニケーションの変化
日本のECを牽引してきた楽天市場。創業から25年目を迎える今も変わらず、「Empowerment(エンパワーメント)」というミッションを掲げている。コロナ禍において、出店店舗とのコミュニケーションにとのような変化が起きているか、最近の楽天市場の動向と併せて楽天グループ株式会社の小野由衣氏に伺った。
創業から変わらない理念
1997年に楽天市場のサービスを開始し、今年で25年目を迎えました。現在、約5万5000店舗さんにご出店いただいています。
楽天市場は、インターネットの力で地方の“シャッター商店街”を活性化したい、という創業時の三木谷の想いからスタートし、現在も、「イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメント(Empowerment)する」ことをミッションに掲げ、サービスを提供しております。
楽天市場の主役は、個性あふれる店舗さんやその店長さんです。「店舗さんや、店長さんが輝ける場所を提供する」ことが我々の責務だと考えています。
店舗さんは、楽天市場というプラットフォームで、全国のユーザーに、店舗さんの魅力や商品を発信することができます。そして、楽天市場としては、より多くのユーザーが、魅力的な店舗さんや商品との新しい出会いを楽しめるようなお買い物体験の提供を目指しております。
昨年から続く、ステイホームの浸透を背景に、ECが生活基盤のインフラとして定着している中で、楽天の2020年の国内EC流通総額(※)は、初めて4兆円を達成し、楽天市場のユーザー数は+27.6%(2020年前年比)と大きく成長しました。
(※)国内EC流通総額(一部の非課税ビジネスを除き、消費税込み)=市場、トラベル(宿泊流通)、ブックス、ゴルフ、ファッション、ドリームビジネス、ビューティ、デリバリー、楽天24(ダイレクト)、オートビジネス、ラクマ、Rebates、楽天西友ネットスーパー等の流通額の合計
今後も、社会の変化に対応し、店舗さんやユーザーとのコミュニケーションにおいても改善を重ね、ニーズを着実に捉えることで、店舗さんと共にさらなる成長を目指していきたいと思います。
持続可能な「三方よし」の関係を目指して
楽天市場は、店舗さんとユーザー、双方にとって魅力的な売り場づくりを推進することで、店舗さん、ユーザー、楽天の「三方よし」な関係性の構築を目指しています。 “Walk Together”という言葉をよく使いますが、楽天が、スピードを上げて前へ進むのではなく、店舗さんの声に耳を傾け、足並みをそろえることで、結果的にユーザーに支持されるより良いサービスを実現できると考えています。
コロナ禍における特徴的な変化としては、新規の購入者の数の伸びに加え、「復活購入者」と呼ぶ、過去1年以上購入のなかったユーザーの、楽天市場の利用再開が+27.1%(2020年前年同期比)と飛躍的に伸びていることが挙げられます。
さらに、ユーザー1人当たりの購入金額や購入頻度も順調に拡大していることも、ECが生活基盤として定着していることを裏付ける事実の一つであると考えています。2020年の緊急事態宣言以降、新規で楽天のサービスをご利用いただいたユーザーが、リピーターとして定着された点が、我々が取り組んできた結果として表れていると思います。
楽天市場では、店舗さん同士の交流も盛んで、成功事例を共有し合う文化が根付いていますが、 コロナ禍で、そういった店舗さん同士のつながりが一層強くなっていると感じております。新しい企画で“復興福袋”がありました。各エリアに、リーダー的な店舗さんやコミュニティが存在します。例えば、北海道のある店舗さんでは、観光客が減少したことで経営が苦しくなったお土産店舗さんを支援することを目的に、お土産詰め合わせセットとして“復興福袋”を販売し始めました。その後、それが成功事例として全国各地の店舗さんに波及し、同様の動きが広がっていきました。楽天としても、その企画を後押しするための特集ページを制作するなど、店舗さんから生まれた企画をより多くのユーザーに届けられるようサポートしました。
ユーザーのニーズに沿った企画を用意するだけでなく、店舗さんの声から立ち上がった企画を後押しするなど、プラットフォームとして、型にとらわれず常に最適を考え、実現するのが、楽天市場の特徴の一つだと考えております。
コロナ禍でも止めない店舗さんとのコミュニケーション
楽天市場では、ECコンサルタントが各地域の店舗さんの店舗運営をサポートしていくという形で、対面でのコミュニケーションを大事にしてきました。コロナ禍で、物理的に対面でのコミュニケーションが難しくなった中、オンラインをいち早く活用できたという点も、成長を後押ししていると思います。
例えば、楽天では、店舗さん向けに年に2回大規模イベントを開催しておりますが、オンライン開催に切り替えたことで、店長さんや責任者さんのみならず、例えば倉庫担当者さんなど、現場のスタッフの皆様にもご視聴いただく機会が設けられて、好評でした。
全国47都道府県で、楽天の戦略・方針説明をする「楽天タウンミーティング」に関しても、一時的に開催を中止していましたが、6月よりオンラインで再開しております。他にも「NATIONS(ネーションズ)」という、リーダー店舗さんが、他の店舗さんにノウハウを教え、売上目標を達成するという講座がありますが、これまでは対面だったものをオンラインで開催することによって、より多くの店舗さんにご参加いただくことができました。
「多様性」と「統一性」を両立していく
楽天市場は、「三方よし」を実現するために、「多様性」と「統一性」の両立に注力しています。楽天市場に出店する約5万5000の個性豊かな店舗さんは、取り扱い商品、ジャンルや規模、お店の個性も運営方針もそれぞれ異なります。
そのさまざまな店舗さんの「多様性」を大切にしながらも、楽天市場という一つのプラットフォームで、店舗さんが同じシステムの中でご商売ができること、ユーザーに分かりやすく便利にお買い物を楽しんでいただくことに、私たちはこだわっていきたいと考えています。
それを続けるためには、ある一定の「統一性」が必要です。決済や物流、UI・UXの部分で、一定の統一性がないと、ユーザーが不安や不便を覚えて、結果的に楽天市場を離れてしまう可能性が出てきます。
ユーザーが安心・安全にご利用できる、満足いただける売り場を、店舗さんと一緒につくっていかなくてはいけない。そのためには、ルールやシステムの統一は必要になると感じています。
一方で、そのルールの中でも店舗さんが多様性を損なわずに個性を出すためにはどうしたらいいか、という事を日々考えている、それが今の楽天市場です。
個性豊かな店舗さん・商品の「多様性」の強みを最大限引き出すとともに、機能やルールは「統一性」をもたせることで、楽天市場ならではの魅力的なプラットフォームを提供することを目指しています。
ユーザーの安心・安全を守る取り組み
ユーザーに「喜んでもらえる」、そして、「安心・安全にお買い物をしていただく」ことが、我々が大切にする、売り場のコンセプト“Shopping is Entertainment!”につながっていくと考えています。
そのための「より分かりやすくお買い物ができるモールづくり」にここ数年注力しています。
その一つに、「商品画像登録ガイドライン」という、シンプルな商品画像登録推進のための施策があります。従来は、画像自体も各店舗さんが、特色と多様性をもって作られていました。しかし創業から20年経って、楽天市場がある種のインフラとなり、分かりにくい・探しにくいというユーザーの声も多くあがるようになりました。そこで、商品画像に対して一定のルールを設けることで、ユーザーにとって分かりやすく使いやすい商品ページを実現しています。
また、2020年3月には、ユーザーがより分かりやすくお買い物できるよう、これまで各店舗さんでバラバラだった送料についてのルールを統一する、共通の「送料込みライン」(税込3980円以上の購入で送料無料)を導入しました。
この施策は任意で開始しましたが、施策を進める大義や背景を直接店舗さんに説明する機会を積極的に設け、店舗さんとのコミュニケーションを重ねたことで、施策に対する理解が広がり、現在では、9割以上(2021年7月時点)の店舗さんに、共通の「送料込みライン」を導入いただいています。
継続的に訪問してもらう売り場づくり
店舗さんが商売に力を入れていただくきっかけとして、「楽天スーパーSALE」や「お買い物マラソン」などのセールイベントが挙げられます。店舗さんは、お取り扱い商品によって、「商戦期」がバラバラです。夏の果物や正月のおせち料理などさまざまな商材を取り扱う店舗さんがいらっしゃる中で、全ての店舗さんが楽天市場でのご商売に注力できるような機会をプラットフォームとして提供しています。
もちろん、ユーザーが、より楽しくお買い物ができる機会を提供し、継続的に楽天市場を利用したくなるような、エンターテインメント性も追求しています。
楽天が注力する物流支援
持続可能な事業を実現するために必要不可欠なのが安定的な物流です。昨今では、この物流支援施策に力を入れています。「楽天スーパーロジスティクス」や、集荷・持込配送サービスの実施、日本郵便様との協業を通じて、新しい物流でのデジタルトランスフォーメーション、プラットフォームの構築を推進し、最終的には店舗さんが、50年、100年とEコマースでの商売を継続できるような土台を整えていきたいと思っています。
楽天市場が注目しているSDGsとは
現在、出店している店舗さんが注目されていて、楽天市場としても課題意識があるのが、「サステナビリティ(SGDs)」です。セミナーや講義の開催、店舗さんとのディスカッションを通して、事例も増えてきました。
例えば「ドライフルーツナッツ専門店 小島屋」さん。今年1月に開催した「楽天新春カンファレンス」のSDGsに関するセッションにおいて、SGDsに関心をお持ちいただきました。自社の経営にもSGDsを組み込み、“Walk Together”の理念に沿って、周囲の店舗さんや楽天とともに、試行錯誤しながら進めています。小島屋さんは、SDGsの取り組みが外務省からも認められ、事例として外務省のSDGsに関する特設ぺージにおいて紹介されています。こういった事例を約5万5000店舗さんに、横展開で広げる取り組みをしていきたいと考えております。
「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー2020」でも、「サステナビリティ賞」を新設しました。これも店舗さんの意識を上げるきっかけになったと思っています。
また、「EARTH MALL with Rakuten」において、サステナブルな商品や記事などを集約化したコンテンツを紹介する場を提供しており、今後店舗さんとコラボさせていただくことも検討しています。楽天市場としても、このようなコンテンツの提供や、勉強会の実施などを含めてサポートを継続していきたいと考えています。
課題は店舗さんとのコミュニケーションで解決していく
店舗さんの自由度とユーザーの安心・安全の両立を、プラットフォームとして、どうつくっていくかについては、継続的な課題として掲げています。
ここは、店舗さんとのコミュニケーションでしか乗り越えられないと感じています。
店舗さんと私たちはパートナーであり、店舗さんからも意見を伺い、相談しながら進んでいく必要があります。今年3月に、店舗さんと意見交換を行う「楽天市場サービス向上委員会」の運営を開始しました。この委員会では、店舗さんと、楽天市場の将来像や課題を共有し、共に戦略や足元の施策について協議することで、楽天市場のサービスやプラットフォーム運営の改善を目指しています。店舗さんと一緒により良いサービスをつくっていきたいと思っています。
繰り返しになりますが、我々の創業以来のミッションは「人々や社会をエンパワーメントすること」です。
それを実現するには、店舗さんあっての楽天市場なので、時間がかかっても、遠回りをしてでも、店舗さんとユーザー、双方の声を聞きながら、進化していくことが重要で、マーケットプレイスとして、日本一・世界一を目指すために、三位一体で進めるということにこだわりを持ちながら、今後も成長を続けていくつもりです。