レコメンド精度向上はF2転換率直結 メルマガ専用「レコガゾウ」の効果とは
EC事業において、初回購入から2回目の購入に至った割合を示すF2転換率の改善は事業成長を目指す上で重要だ。特に近年のECサイト利用者層拡大もあってメールマガジンのレコメンドの精度向上は喫緊の課題となっている。こうした需要に応えるのが、リアルタイムでレコメンドアイテムを表示するサービス、「レコガゾウ」だ。シルバーエッグ・テクノロジー株式会社(本社:大阪府吹田市、代表取締役社長:トーマス・アクイナス・フォーリー)のマーケティング部シニアマネージャーの園田真悟氏と、同部の矢野アマンダ有梨氏に聞いた。
ユーザーに最適な内容をリアルタイムで届けるレコガゾウ
──貴社では1998年の創業以来、AIとデータ分析技術を用いた様々なサービスを展開されていますが、「レコガゾウ」が生まれた背景を教えて下さい。
マーケティング部シニアマネージャー 園田真悟氏(以下、園田) 当社は設立から20年以上、パーソナライズド・マーケティングの技術開発に取り組んでおり、レコメンドエンジンの精度の良さを評価していただいています。自らが機械学習技術のエンジニアである社長のトーマス・フォーリー自身が、独自のリアルタイムAIを構築し、それを様々なWebサイト上でレコメンドエンジンとして提供しています。これらは大規模~中堅企業様を中心に転換率向上に効果が非常に高いことが評価され、売上シェアは業界ナンバーワンとなりました。
マーケティングではWebサイト内での体験も重要ですが、サイト訪問後に各ユーザー向けにパーソナライズした最適なレコメンドを届けて、初回購入から2回目の購入(F2転換率)向上につなげることも重要です。当社では顧客の行動をリアルタイムで反映したリアルタイム・レコメンドサービスである「アイジェント・レコメンダー」を展開し、ECサイトや漫画配信サービス、人材、不動産などの情報サービスなど、多様なシーンで活用いただいています。ただ、F2転換率向上のためには、メールやアプリなど、購入する現場(ECサイトや実店舗)以外での提案活動も重要です。そこで「レコガゾウ」を開発し、「アイジェント・レコメンダー」のオプションサービスとして提供するに至りました。
──「レコガゾウ」はどのようなサービスなのでしょう。
園田 メール開封時、リアルタイムにレコメンド結果を返せるのが特長です。一般的なシステムでは、レコメンド商品をメルマガで表示させるためには、メール送信前にHTMLを作成する必要があります。となると、露出させる商品はHTML作成前に決定しなければなりません。するとメール制作中に掲載予定商品の在庫切れが発生したり、メール制作期間中にユーザーが新たに商品を購入したりすると、それを加味した商品に変えられないという課題がありました。
しかし「レコガゾウ」はWebサイトと同じレコメンドエンジンを採用しており、ユーザーがメールを開封すると同時に、メール本文内の専用HTMLタグを介して、最新のレコメンド情報を当社サーバーからリアルタイムで送信する、という特許取得のシステムになっています。従来のレコメンドメールで大きな課題となっていた「運用の面倒さ」もありません。また、レコメンドエンジンはユーザーが前回購入・閲覧した商品データを読み込み、次回購入におすすめの商品を予測するアルゴリズムで動いていて、サイトでもメールでも表示されるレコメンド商品を統一できるので、サイトとメールとでおすすめ商品が違うといった、ちぐはぐなユーザー体験は起きません。
ECサイトのF2転換率改善には「ナッジング(nudging)」が重要
━━どういったEC事業社が利用されていますか。
園田 例えばEC売上規模上位の大手アパレルサイトでは、非常に多い商品数の中からお客様に最適なものを提案するだけでなく、店員さんが組み合わせを提案したりする「コーディネートフォト」もレコメンドされています。メールマガジンでユーザーが興味のありそうなコーディネートを送ることで「この着こなしは面白いかもしれない」という気づきを与えることに役立てていただいています。
マーケティング部 矢野アマンダ有梨氏(以下、矢野) 大手クライアントはメールでの顧客コミュニケーションを非常に重視しています。LINEやインスタグラムなど様々なコミュニケーションツールが出てきましたが、売上の成果が出るのはメールからの流入だと語るクライアントは非常に多いですね。
園田 大手企業やEC歴が長い店舗ほど、メールの重要性は衰えていないと認識されています。ポストコロナ時代は、50代、60代のECユーザーも増える見込みです。そうした世代にはInstagramのようなSNSの敷居は高くても、iモード時代から使い慣れているメールの訴求力はあり開封率も高いと考えられています。
━━転換率にも好影響が出ているのではないでしょうか。
園田 はい。メールのCTR(クリック率)が125%上がったという事例もあります。国内の大手下着メーカーさんは、開封後に購入される確率が300%以上も上がったそうです。メールマガジンからWebサイトのトップページに誘導するのではなく、メールの中でレコメンドされ、ユーザーが購入したいと思った商品の商品詳細ページに直接アクセスさせることができ、転換率向上につながります。
━━レコガゾウのようなレコメンドシステムは、初回購入者に2回目の購入を促す「F2転換率」を改善の秘訣はありますか。
園田 2回目購入のモチベーションを上げるには、初回購入時の顧客体験がとても重要です。スムーズに購入できた、欲しい商品が見つけられた、そして届いた商品の質が良かった……ということが求められるのは自明の理です。その上で当社が重要だと考えているのは「ナッジング(nudging)」です。顧客を「そっと後押しする」仕組みで購入動機を付けてあげる、つまり初回購入で良い体験をしたユーザーに「お客様、2回目にこちらはいかがですか?」と肩をたたいてあげるようなマーケティング施策を行うことが重要だと思います。
チューニングによりニーズに沿った最適なアルゴリズムを採用可能
━━導入に当たって必要なこと、注意すべきことがあれば教えていただけますか。
矢野 まずECサイトにレコメンダーシステムを入れる必要があります。ECサイトでレコメンドを表示させないとしても、ユーザーの行動を取得する必要があるので、タグを入れていただく必要があります。また、ECサイトのアイテムとユーザー情報、それぞれのDBを連携させる必要があります。この導入が済めば後はAIに任せられるので、運用自体は簡単です。例えば、メールやサイト内のページの目的に応じて、「同時併せ買い」を目的としたレコメンドを出すのか、「商品認知・比較検討」を目的としたレコメンドを出すのかといった、細かな設定は当社で代行いたします。A/BテストをしながらクライアントのECサイトのニーズに沿った最適なアルゴリズムを採用できます。もちろん、商品のカテゴリーや価格帯に応じたフィルターや、特定の商品を出さない除外指定も可能です。
━━どのような料金体系になっていますか。
園田 成果報酬型で、お客様がレコメンド経由でどのぐらい商品を販売されているかで変わってきます。当社は成果の算出基準を他社のレコメンドエンジンと比較して非常に厳しく設定しています。ユーザーがレコメンドされた商品をクリックしてECサイトの閲覧を開始した60分のセッション内で離脱せず購入された場合がレコガゾウの成果となります。
他社サービスでは成果発生までの判定期間を30日にしているケースもあります。それではレコメンドされた商品をクリックして「離脱して3日後に訪問して何となく良いと思ったから購入した」ケースや「離脱後にリターゲティング広告から入って購入した」ケースもレコメンドの成果としてカウントされてしまいますので
パーソナライゼーションへのこだわりと今後の展開
━━レコメンド技術においてパーソナライゼーションに今後もこだわり続けていきますか。
矢野 行動情報をベースにユーザー一人ひとりに特化し、そのユーザー固有の好みを推測するパーソナライゼーションは、ユーザーが真に求めていることを追求できると考えています。ですのでユーザーが真に欲しいと思える情報提供を続けるため、パーソナライゼーションにこだわっていきます。
園田 企業による製品分析も大事ですが、ECではユーザー分析が必要です。それも「40代男性だからこれを購入するだろう」という大雑把なセグメンテーションではなく、一人ひとりが何を欲しいのかを分析していかなければなりません。それが究極の顧客本位のマーケディングだと思っています。
もちろんECサイトのマーケターが売りたいものを売れるように伝えようとするのは重要です。しかし当社のAIは売り手の代弁者として商品をおすすめしているのではなく、買い手であるユーザーの行動を学び、ユーザーの代わりにユーザーの欲しいものを取ってくる、ユーザーのエージェントのような存在です。
フォーリー社長が「インターネットはもっと人間的でなければならない」と言う通り、昔の実店舗であれば店員が顧客に好みを聞いて商品を届けていましたが、ECサイトではCRM(顧客関係管理)で分析をして「この場合はこれを出しましょう」という機械的な提案をすることが増えてしまいました。そうではなく、個々のユーザー行動を理解し提案する、ある意味、人の心理に寄り添ったコミュニケーションが、これからの新しいインターネットを作っていく礎の一つになるのではないかと当社では考えています。
今後はパーソナライゼーションを軸に、マーケティングで使える、顧客体験を向上させるための様々なツールを絡めてレコメンドシステムを広げていくと同時に、私たち自身も提供できるサービスを広げていきたいと考えています。コンテンツマーケティングやソーシャル分野など、パーソナライゼーションの精度向上が求められている分野はまだまだあります。3~5年後にどうなっていくか期待していただければと思います。