イオンはこの物価高騰にどう応えるのか PB「イオントップバリュ」社長が語るEC戦略は?

桑原 恵美子

イオン株式会社 執行役副社長 商品担当 兼 イオントップバリュ㈱ 代表取締役社長 土谷美津子氏

イオンのPB(プライベートブランド)「トップバリュ」が、2024年で発売から50周年(※)を迎えた。同社のPB誕生のきっかけはオイルショック後の物価上昇時の消費者ニーズに応えるためだったが、同じように物価上昇が止まらない状況の今、50周年を迎えたトップバリュは利用者のニーズにどのように応えようとしているのか。

※プライベートブランド第1弾の「ジェーカップ」発売から50周年

2024年度の方針は「お客さまがもっと『ワクワクする』商品の創造」

イオンのPB商品第1号は、ジャスコ時代の1974年(2001年に「イオン」に商号変更)に発売した「ジェーカップ」だ。1973年のオイルショックにより物価が急上昇した際、特に値上げ幅が大きかったカップラーメンの販売を中止し、その代わりとしてPBブランドの低価格のカップラーメンを開発した。家庭に箸があるから使わずに捨てられることの多かったフォークを廃止するなどして、低価格を実現したという。

「イオン プライベートブランド 誕生50周年 2024年度戦略・新商品説明会」で展示された、「ジェーカップ」誕生のエピソード

2024年2月28日に行われた「イオン プライベートブランド 誕生50周年 2024年度戦略・新商品説明会」で、イオン株式会社 執行役副社長 商品担当 兼 イオントップバリュ株式会社 代表取締役社長の土谷美津子氏は、「ブランドマークや呼び方は時代に応じて変化してきましたが、1974年から変わらないこと、それは『お客さま視点』の商品づくり」と語った。

またトップバリュの2023年度売上(推定)は1兆円をほぼ達成できる見込みであり、2024年度は1兆1千億円を目標とすることを発表した。売上目標を達成するため、2024年度は「お客さまがもっと『ワクワクする』商品の創造」を大きな方針とし、「NBにはできない価値の提供、挑戦」「ベストプライスのさらなる進化」を戦略として掲げている。

2024年度の方針は「お客さまがもっと『ワクワクする』商品の創造」

MZ世代向けの新価値商品の投入を加速

イオンは2023年度から、ミレニアル世代やZ世代に特化した商品開発に力を入れている。そのひとつが、酒離れが進む若い世代向けに向けたノンアルコールカクテルだ。

2023年9月26日に一部地域で2品目を発売したノンアルコールカクテルシリーズ「トップバリュ クラフテル」は、ノンアルコールドリンクのプロフェッショナルチーム「香飲家」が監修。11月28日には第2弾として「身勝手 レモンコーラ」「天邪鬼(あまのじゃく) ゆずジンジャーエール」「思わせぶり ビターレモンスカッシュ」といったユニークなネーミングとフレーバーの7品目を発売した。

イオンの独自調査によると、同シリーズの目的買いにより、「まいばすけっと」では262.7%もM・Z世代の客数が増えたという。

この結果に自信を得て、2024年月3月26日には、日常の様々なシーンの「雰囲気」や「香り」、「温度感」などのイメージをフレーバーに落とし込んだという“シチュエーションドリンク”「トップバリュ クラフテル BAR-ish(バーリッシュ)」8品目を発売している。

2024年3月26日に全国の「イオン」「イオンスタイル」など、合計約1700店で8品目が新発売された「トップバリュ クラフテル BAR-ish」280円(税抜※以下同)

また、2024年3月19日より、全国4800店舗で、グミや干し梅、チョコ、野菜チップスなど、持ち運びしやすい大きさのお菓子シリーズ「トップバリュ トキメクおやつ部」シリーズ37種類を発売。「もうあとひと踏ん張り!」というときに背中を押してくれるような、ハードな弾力と食感が特長のエナジードリンク味の「がんばる戦士グミ」、など、「情緒的な価値も提供できるおやつ」(土谷氏)を展開していく。

これは“ヘルシーをもっとカジュアルにする”をテーマに2023年6月から販売しているナッツの新製品「Nuts & Joy」シリーズが好評だったことに起因「今までにない新しい味付けが受け、リピート率が非常に高かった」(土谷氏)ことから、同商品の目的買いにより、イオンリテールで113.6%もM・Z世代の客数が増加しているという。

「学生とディスカッションを繰り返して商品開発をしてきたことで、若い世代向けの商品開発の力がついてきた成果だと感じている。PBだからできる冒険をこれからも続けたい」(土谷氏)

ラムネもち&メロンソーダもち、チョコようかん、野菜チップス、グミなど持ち運びしやすい大きさのお菓子シリーズ「トップバリュ トキメクおやつ部」シリーズ37種類を発売。158円~258円

廃棄される食品を商品化し、食品ロスに貢献

2024年度は、食品廃棄物やフードロス削減に向け、サプライチェーン視点から見直した商品開発の取り組みも強化するという。その代表が、2024年3月6日から新発売される「トップバリュ 元気をチャージ 粥」シリーズ」5品目の中の「親里芋と麹のだし粥」(税抜き298円)。

使用している里芋は、小芋を採り終わると廃棄される「親芋」の部分。「一般に流通する里芋に比べ粘りが弱く、里芋とジャガイモの中間のようなサクサクと軽い食感と素朴な味わいが、お粥にマッチします。カット野菜のキャベツの千切り製造時にも膨大なキャベツの芯が残り、捨てられています。こうしたものを今後、どんどん商品化していきたい」(土谷氏)

2024年3月5日に新発売された、一日を元気にスタートする朝食にぴったりな「トップバリュ 元気をチャージ 粥」シリーズ5品目(税抜298円~398円)。 “徒歩0分のレストラン”をコンセプトとしたチルドレディミール第3弾

トップバリュ製品もECで買うのがあたりまえの感覚になっている

イオンは「イオンスタイルオンライン」などECも運営している。アフターコロナで消費行動が変わる中、トップバリュのEC戦略に変化はあったのだろうか。

コロナ禍で増えたECの利用者がそのまま増え続け、定着していると感じています。コロナでECに慣れたことで今後も増え続けると思うので、非常にいい市場に育っているのでは。DXが進化して、利用者がどのような状況で利用するのかも把握しやすいので、顧客管理の戦略が立てやすいのもメリット」(土谷氏)

土谷氏が最近のデータで驚いたのは、イオングループのネットスーパー「Green Beans」のトップバリュ比率が約20%に達していることだという。

「スーパーに行かず、ECでトップバリュを買うということに何の抵抗もなくなり、普通の買い物の感覚になってきているという表れかなと思っています。子育て中の方などは特に便利なので、日用品の買い物をECにスライドしていく層はこれからも増えるのでは」(土谷氏)

左から、イオントップバリュ㈱ 取締役 商品開発本部長 髙橋幹夫氏、イオン㈱ 執行役副社長 商品担当 兼 イオントップバリュ㈱ 代表取締役社長 土谷美津子氏、イオンリテール㈱ 住居余暇本部 ホームコーディ商品部長 小河豊氏、イオンリテール㈱ 衣料本部 キッズリパブリック統括部長 仲野滋氏

変更履歴:初出時、「土谷美津子氏」の漢字が誤っていました。お詫びして訂正いたします。該当箇所は修正済みです(2024年3月18日 17:23)


記者プロフィール

桑原 恵美子

フリーライター。秋田県生まれ。編集プロダクションで通販化粧品会社のPR誌編集に10年間携わった後、フリーに。「日経トレンディネット」で2009年から2019年の間に約700本の記事を執筆。「日経クロストレンド」「DIME」他多数執筆。

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