「トラックドライバーの奪い合いは、起こったほうがいい」──攻めのaccaがEC業界的「物流2024年問題」を斬る
猶予期間が終了し、2024年4月1日から施行されている時間外労働の上限規制。一見、大きな影響がないように思える「物流の2024年問題」。この問題に、EC事業者はどう向き合えばいいのか。ECのフルフィルメント業を担う株式会社アッカ・インターナショナルSales Division Warehouse Robot Implement Evangelist(セールスディビジョン 倉庫ロボット導入エバンジェリスト)の林千博氏に、4回にわたって語りつくしてもらう。第1回はトラックドライバーの時間外労働による影響について。
2024年問題はマスコミがいたずらに危機感を煽っている状態
――トラックドライバーの時間外労働の規制強化がスタートしました。EC業者の間でも不安が広がっていますが、改めて物流2024年問題について、お考えをお聞かせください。
私今一番気になっているのは2024年問題について、EC事業者のみなさんがあたかも「自分たちがやっているビジネスが2024年問題を引き起こしているのかもしれない」と思わされかねない、偏った報道が多いことです。
でも、皆さんにお聞きしたいのですが、実際に規制強化がスタートした4月1日以降、実生活の中の物流で、何か大きな変化ってありましたか? おそらく「ない」という方がほとんどだと思います。僕自身も、自宅で宅配便を受け取っていますが、何ひとつ変わっていません。それが実態なのだと思います。マスコミがいたずらに危機感を煽っているにすぎないんです。
――トラックドライバーが不足してSCM(サプライチェーン・マネジメント)が回らなくなるともいわれていますが。
仮にそれで、注文したものが翌日に届かなくなったとしても、それがそんなに困ることでしょうか? 確かに一部には困るという方もいるかもしれませんが、ほとんどの人は少しガマンすればいいだけのことのような気がします。例えば、「明日子供の卒業式だから、今日ワイシャツを買って明日届けてもらおう」というような考え方をする方はあまりいないと思うんです。私だったら、どうしてもその日に必要と前もってわかっていたら、余裕をもって早めに買っておきます。
その点どうも、近年の日本の社会はあまりに便利すぎて、ガマンしない、できない人が増えているような気がしてなりません。でも考えてみてください。2030年には医療・福祉分野での人手不足は約187万人にも上る(※1)という推計もあります。トラックドライバーが不足して、注文した翌日に荷物が届かなくなることよりも、そちらのほうがよほどの大問題ではないでしょうか。
確かに2024年はさまざまな変化が起こるでしょう。でもそれが顕在化するのは2025年になってからだと見ています。
※1:パーソル総合研究所「労働市場の未来推計 2030」における、203年時点での人手不足の状況の推計。なお、厚生労働省の「2022年版厚生労働白書」では医療・福祉分野の就業者数は、約20年間で410万人増加するものの、2040年には医療・福祉分野の就業者数が96万人不足すると推計している。
“トラックドライバーの奪い合い”は、起こったほうがいい
――トラックドライバー不足が顕在化すると、その奪い合いが起こるともいわれていますね。
“トラックドライバーの奪い合い”そのものは、悪いことではないと思っています。奪い合いが起こって、より給料も労働環境もいい会社からオファーがあったら、そちらに行けばいいんです。アメリカではそれが普通ですしね。アメリカ合衆国国勢調査局(United States Census Bureau)によれば、2022年の全米の実質世帯収入中央値は74,580ドル(約1163万円)で、2021年の推定値76,330ドル(約1190万円)から2.3%減少していますが(※2)、それでも日本の平均世帯年収の中央値である550万円程度(※3)では、もう貧困層だそうです。それは、より待遇のいい職場にどんどん転職をしていって、キャリアアップしていくというのがアメリカの働き方の基本的なスタイルだからでしょう。日本もそうであるべきだと私は思いますし、トラックドライバーさんが育休を取るのが当たり前になることはいいことですし、本来はそうならないといけない。現状ではそれができない物流業界の構造自体が古くて、今の時代にマッチしていないのです。そこに手をつけず、DX化をしても意味がないですよね。
※2:United States Census Bureau「Income in the United States: 2022」
※3:厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況(II 各種世帯の所得等の状況)」
DX化の本来の目的は、働く人の環境をよくすること
――とはいえ、「人手が足りないからDXで効率化したい」という経営者は多いそうですし、DX化していないから効率化できていないとまで思っていそうです。
大事なのは「人が足りないからDX化する」のではなく、従業員の残業時間を1時間でも2時間でも減らしたいからやるのであって、つまりは「働く人の環境をよくしたいからDX化する」ということです。会社が成長するためには、今働いてくださっている方々がずっと働き続けられるような、サステナブルな環境を作り出すことが重要です。そのために、「今の人数では24時間かかることを、機械を入れて8時間でできるようにしましょう」と、私たちは提案しています。ところがこうした「本来の目的」を見失い、「人件費削減のためにDX化したい」とおっしゃる経営者の方もいらっしゃるのです。
考えてほしいのは、DX化により10人がかりだった仕事を3人でできるようになったら、7人は会社の成長につながるようなほかの仕事をしてもらうべきだということ。それを考えるのが経営者の仕事であり、無駄なコストのスリム化は必要ですが、人件費削減は最後の最後に着手すべきと思います。
DX化成功のカギは、経営者のポリシー
――DX化の最終目的は、省力化やコストカットではないということですね。
そのとおりです。今回のコロナ禍で多くの人が社会状況の急激な変化に直面して、あたりまえだと思っていたことが実は簡単に変わるということがわかったじゃないですか。ですからこれからは、どんな変化にもフレキシブルに対応できる労働環境を整えている企業だけが生き残れると考えます。社会状況によって、ビジネスの急激な拡張や縮小だって、大いにあり得ます。仮に急拡大しても、最低人数ですべてが執り行えるような環境を前もって作っておけばいい。それが本当のサステナブルな職場であり、それを作るために、DX化しなければならないと思います。つまりDX化を成功させるためには、自分たちの企業をどう成長させたいのか、信念、ポリシーが経営判断として絶対に必要ですし、それがないと単に「最新の機械を入れた」だけで終わってしまうのです。それがDX化失敗企業の大半の理由です。(つづく)