Z世代がEC業界を担う人財に アッカ・インターナショナル×東京服飾専門学校の産学連携授業レポート

三浦真弓【MIKATA編集部】

2024年5月30日、東京服飾専門学校(東京・豊島区)にて、ECのフルフィルメント業を担う株式会社アッカ・インターナショナルSales Division Warehouse Robot Implement Evangelist(セールスディビジョン 倉庫ロボット導入エバンジェリスト)の林千博氏が講義を行った。全3回のプログラムの3回目に当たるこの授業で林氏が伝えたかったこと、それを生徒はどう受け止めたのか。彼らはEC業界をどう見ているのかなど、直撃した。また今回の産学連携授業の狙いを、東京服飾専門学校ファッションビジネス科学科長の石川誠氏に聞いた。

「これからのEC業界を担う人財育成」の意図

アッカ・インターナショナルの林氏が東京服飾専門学校で授業を行うという話を聞き、今回、授業を取材する機会を得た。ECサイトでの購買体験は、Z世代にとってはごく自然なことではありながらも、その向こう側にどのような職種があるのかは、未知の世界といっても過言ではない。もしかしたら「アパレル」「ファッション」と物流をダイレクトに結び付けられるようになるのは、実はアパレルメーカーやファッション関連企業で職を得てからの話かもしれない。

もちろん林氏は、そうしたことは重々承知だ。何しろ自身がアパレル業界から転身してきた経緯がある。だからこそ今回の授業を行った経緯として、「これからのEC業界を担う人財育成」の意図が大きかったという。

では具体的には何を伝えたのか。

株式会社アッカ・インターナショナルSales Division Warehouse Robot Implement Evangelist(セールスディビジョン 倉庫ロボット導入エバンジェリスト)の林千博氏

アパレル企業も統廃合が加速し、Eコマースの重要性が高まっている

授業は東京服飾専門学校ファッションビジネス科2年目の学生たちが集まるクラスで行われた。就職活動のための欠席者もいたが、出席率は高かったといえる。

まず林氏は、「アッカ・インターナショナルとは?」について、また、同社が手掛ける事業について解説。「フルフィルメント」「3PL」など物流を含むバックヤード業務に関しては、EC業界に身を置いていたとしても正確に理解するのが難しいわけだが(表現する人や場によって、若干の定義の違いが生じているケースもある)、学生はそれぞれ神妙な面持ちで話に耳を傾けていた。

学生たちは「ロジスティクス」という単語については「分からない単語でした」「初めて聞きました」と回答した

林氏が「Eコマース市場の拡大と店舗売り上げの減少」について言及したあと、アパレル業界の課題とEコマースへの影響について取り上げると、学生たちの関心ももちろん上がる。

「人口減少によって各業界で起きている労働力不足は、確実に物流業界に影響を与えています。運輸業ではドライバーさんがいなくなり、中小企業は倒産して荷待ち問題がどんどん増える。それなら……とDX化のため、ロボットを導入するなど対応してきているわけです」(林氏)

アパレル企業も統廃合が加速し、来店者の減少もさることながら、人手不足によっても閉店する店舗が増加。だからこそEコマースの重要性が高まっており、「アパレル業界においてEコマースに精通した人財」(林氏)が求められるわけだ。林氏は「Eコマースに関われる仕事は、アパレル企業以外の分野でもある」点においても、学ぶ価値が高い点を指摘した。

学校でEコマースに関して教える必要性

では東京服飾専門学校側は、どういった意図で産学連携において、アッカ・インターナショナルに依頼をしたのか。

石川氏によれば、「今回の産学連携の狙いは、ファッション業界における多岐にわたる職種の可能性を学生に知ってもらいたいということ。就職活動では、総合職よりも技術職やEコマースなど新しい分野への関心が高まっている」という現状があるという。

「入学してくる学生は、洋服業界が好きだからこそ、ファッション業界のこと全般を学習していますが、就職となるとメーカーなど企業の総合職での入社が多く、そうなると99%、販売職からのスタートになります。販売スタッフとして商品のことを勉強し、お客様のことを理解した上で、キャリアパスとして営業なりPRなりというステップを踏んでいくのですが、実は昨今の傾向として、コミュニケーションが苦手という学生が増えています」(石川氏)

コミュニケーションを得意としない学生が増えた背景には、少なからず新型コロナ禍も影響しているというが、とはいえ就職=接客だけではないこと、ファッションに関連する業種はほかにも多種多様にあることを知ることが、学生の可能性を広げることにつながるのは間違いない。

「ファッションの勉強と同時に就職活動のための学習もするわけですが、総合職は嫌だという学生は一定数います。ですので、ファッション業界っていう業界っていうのもすごく多岐にわたる職種としての可能性があるということを、リアルな言葉で知ってほしかった。もちろん、卒業後に頑張って起業するケースもありますが、そもそもファッション業界への関わり方の可能性自体が、広がっている時代です。学生たちも購入形態の変化や人口減少と並行して就職先も変化していくことを認識していますし、そのなかで、Eコマースは、間違いなく必要な学習項目になっています」(石川氏)

産学連携実習では他に、もちろん接客業などの授業もあり、石川氏ら学校関係者のカリキュラムの組み立て方そのものが非常に興味深い。なによりEC業界にとっては、学生に「業界を知ってもらう機会」を持ってもらうことは、非常に重要だと感じた。

東京服飾専門学校ファッションビジネス科学科長の石川誠氏

それぞれの専門家・企業が、自分たちの得意分野でエンドユーザーのために働いている

さて実は今回の授業、驚いたのはハイライトの一つに、林氏が「セールスディビジョン 倉庫ロボット導入エバンジェリスト」として手掛ける「CROS」事業のロゴデザインのコンペがあったことだ。

「大きな企業が使用するロゴデザインのコンペに出品」でき、「コンペの作法」を学校の授業で模擬的に体験することができるということ自体、貴重な機会となるが、さらにコンペに勝ち抜けば、実際に企業のサービスロゴとして今後、使用されるというのだ。その非常に大胆な発想に、「会社としてOKなのか?」を再三林氏にも確認してしまったほどだ。

それだけにこの希少な機会を生かしたいと、学校側は今回授業を行ったファッションデザイン科に加え、グラフィックデザイン学科の学生にもチャンスを与え、ファッションデザイン科の学生たちにはプレゼンタイムも設けられた。学生たちは、林氏の質問に促される形ではあったが、各々デザインの意図やサービスへの思いを伝えていた。「学生がデザインしたロゴが、今後、世界に出ていく」──この機会を与えられたのは、アッカ・インターナショナルが「人財育成」に力を入れていることの、表れでもあるのではないだろうか。

実際、同席させてもらった学生たちのプレゼンの時間は「Eコマース業界に、こうした新しい風を吹かせてくれる世代がいるというのは、非常に心強い」と感じる瞬間だった。

円安、物価高騰、人手不足──市況は楽観できるものではない。だからこそ、困難を乗り越えられる人財を育成したいという思いが、林氏にはある。

例えば、アパレルに携わりたいと思ったときに、いわゆるメーカー以外にも、リテール側の仕事をすることもできるし、Eコマースで携わることもできる。商品を販売するという仕事一つとっても、販売業務もあれば、PR業務もある。集客や接客にしても、DX化されているものもある。選択肢は実に豊富になっている。だからこそ就職し、社会に出た後も常に「可能性が広がっている」ことを意識しながら、様々な職業に触れ、自身のキャリアの棚卸しをしていくことが重要だと、林氏は強調した。そして「困ったときにこの授業を、アッカ・インターナショナルのことを思い出してほしい」と言い、次のようにまとめた。

「私自身、アパレル企業からEコマース業界に転職してきましたが、アパレル企業での経験は大いに生かされています。サイトデザインはVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)の基礎と一緒ですし、例えば原稿の内容は接客のトーク作りと同じ。店舗で勉強したことも同様で、倉庫のレイアウトは店舗のレイアウトと同じですから作業導線の作り方は、お客様の回遊導線と全く同じと言える。アパレルのEコマースに興味を持って就職してみたいと思ったら、アパレルメーカーじゃなくてもアパレルEコマースに携われる仕事はたくさんあるということを覚えておいてほしい。フルフィルメント業の人間でも、アパレルEコマースには携われるんです。それぞれの専門家、それぞれの企業が、自分たちの得意分野でエンドユーザーの方々のために動いています。つまり、メーカーでなければアパレルEコマースに携われないわけではないんです。もし、Eコマース業界で働きたいと思って就職活動をしようと思うのであれば、幅広く見てほしいと思います」

学生の皆さんは「ECなしでの買い物は考えられない」というくらいECはあって当たり前のものだという。今回の産学連携実習によって、「物流や裏方の仕事に関心が湧いた」とも

最後に学生の皆さんに話を聞く機会を得た。「ECは興味があるというよりは、既にあって当たり前の存在」と話す彼らは、今回の林氏の話を聞くまでは、物流や裏方の仕事に興味があったわけではなく、そもそも存在自体も知らなかったに等しいが、関心を高めることができたと率直な感想を聞かせてくれた。

人手不足が叫ばれる今だからこそ、「単なる働き手」の育成ではなく、「人財の育成」が重要になる。そのためには、学生への門戸を開くこと。その大切さを知った1日だった。