ミツカンのZENBは顧客とのコミュニケーションで進化 「365日×6食を網羅」戦略の1つに

企画・構成=三浦真弓、文=奥山晶子

株式会社MizkanHoldings執行役員 ZENB事業マーケティング&ダイレクトグループリーダー 佐藤武氏(撮影:厚地健太郎)

ミツカングループ「ZENB(ゼンブ)」ブランドのマーケティング部門を統括する佐藤武氏に、「ZENB」ブランドの販売戦略について伺うシリーズ。ホールフードがコンセプトのZENBでは、環境負荷が低く高たんぱくで食物繊維もたっぷりな黄エンドウ豆を主原料としたヌードルやチップス、ブレッドを開発し、2019年の誕生からわずか5年で圧倒的な認知度を得るにいたっている。後編となる今回は、戦略成功の鍵について佐藤氏に聞いていく。

前編はこちら

イメージCMではファンを裏切る……だから冨永愛さんに出演を依頼した

──前編では、ZENBはD2Cから始まったブランドであること、2023年からはポップアップショップやリテールへの展開が始まったことをうかがいました。TVではCMも放映しました。CMには、冨永愛さんが出演されていますね。

冨永愛さんは、もともとZENBヌードルを購入し、自ら紹介してくださっていたことから、私たちもそれを認識していました。CMの出演者は総合代理店さんに提案していただくこともありますが、今回は冨永愛さんがオネストユーザーであることから、直接、出演をお願いしました。

CMは周囲への影響力も大きいものです。ZENBにはすでにファンがついていましたから、その方々に「CMだから食べているだけで、実際には愛好していないのでしょう」などと言われるようなCMでは、ファンが離れてしまいます。ZENBがCMを手がけるのであれば、オネストユーザーの出演が不可欠と考えての依頼でした。また、D2Cで得たニーズ(前編参照) を意識して、「グルテンフリー」と「豆100%」だけに絞って打ち出しています。

2024年5月21日より公開が始まったCM、『こんなパン、待ってた。』篇の紹介画像(画像提供:株式会社ZENB JAPAN)

何年もかけて苦労して作った商品だからこそ、熱量の高い顧客に会える

──本当に顧客のニーズを大事にしていらっしゃるのですね。顧客とのコミュニケーションで、意識していることはありますか。アンケート以外にも、直接タッチポイントを持たれることがあるそうですね。

取材許諾をいただいている顧客の方々がいまして、既存商品や商品開発についてリモート形式のインタビューを行っています。インタビューをさせていただく方のなかには、健康に対する意識が高い方もいれば、一般的な食生活をするなかでZENBを「おいしい」と選んでくださっている方もいます。

また、マーケティング活動をしていく中で、ZENBを日常の食生活へ自然に取り入れ、お気に入りの一つとして愛好してくださる方(ZENB MATE)を探し当て、その人の世界観でZENBを発信していただくコミュニティ作りも精力的に実施しています。探し当てるのはとても大変な作業ですが、ファンの方々は高い熱量で協力してくださいます。

なぜかといえば、やはり何年もかけて苦労して作った商品だからだと思っています。そこには人に伝えたいストーリーがあるんですよね。苦労して黄エンドウ豆を見つけてきたとか、グルテンを使わずに生地をのばすのは大変とか、開発過程を知ったら周りに広めたいと感じてくださる。ものづくりのストーリーもセットでのコミュニケーションブランディングだというのは、つくづく感じるところがあります。

(撮影:厚地健太郎)

顧客満足度を上げながらも、サステナブルを軸にした振る舞い方はぶらさない

──「ものづくりのストーリーもセットになったコミュニケーションブランディング」の実現は、そう簡単にまねできるものではないと思いますが、それができるのは、「ビジョン」ゆえかと思いました。

私たちミツカングループのビジョンは、「食生活を通じておいしさと健康を届けたい」というものです。より多くの人においしさと健康を届けるための手段としてチャネルを拡げ、新しい層に価値を提供するのが当たり前だと思っています。

ZENBにおいてもグルテンフリーが求められているという分析をもとに、ECモールやリテールへとZENBを展開していったわけですが、サステナブルを軸にした振る舞い方は、ぶらさない。ファンの方もそこを理解し、使い続けてくださっています。

──これほど急速にニーズが高まると、供給量を保つのが難しいのではないかと思ってしまいます。品切れになってしまうことはないのですか。

特にブレッドは生産を安定させるのが難しく、開発に4年かかっています。ローンチした後も供給量が不安定で、定期購入の方を最優先にしつつ、ご発注から納品までのお日にちをいただくことはありました。今はもうだいぶなくなりましたが。

──定期優先を貫いていらっしゃるということで、「それなら定期購入にしよう」と思う方もいそうですね。それももちろん、商品力が高いからこそのことだと思います。

「ZENBブレッド」は累計販売数100万食突破した(画像提供:株式会社ZENB JAPAN)

あえてタッチポイントを広く取り、そこで獲得した顧客をD2CやB2Cへ

──最後に今後の展望や、EC事業者として成長するために必要と考えていることがあれば、教えていただけますでしょうか。

EC事業としてより太く成長させるために必要なのは、マーケットを創ることだと思っています。D2Cで見つけたニーズを、ECモールやリテールなど違う場所で展開することでマジョリティーのニーズ、つまりマーケットにしていく。すると定期的にZENBの商品を買ってくださる方が出てきます。そのうちその方が「定期的に買うならD2Cのサブスクが一番おトクで便利」であると気づき、D2CにZENBのファンが集まります。

D2Cにファンが集まってくれればコミュニケーションが取れますし、商品を改善して顧客満足度を上げるというサイクルが組めます。よってあえてタッチポイントを広く取り、そこで獲得した顧客をD2CやB2Cに送り込むことが、EC事業にとって一番必要ではないかと私は考えています。

マーケット生成のために何が必要かというと、ZENBの商品が好きな場所で好きなときに手に取れる環境を作り、食体験に繋がる接点を増やすこと。弊社ではよく「365日×6食を網羅する」という言葉を使いますが、朝昼晩の三食だけでなく、10時と3時のおやつに夜食と、一日の中にはものを食べる機会がたくさんあります。そのためには、ちょっとお腹が空いたときに近所のコンビニで買える商品があるといい。例えばスイーツのZENBがあると、6食網羅が叶うのかなと。

そういった展開も含めて、いろんなポートフォリオを組んでいくというのも戦略的にやっていこうと思っています。恐らくEC事業者として成長したかったら、「ECだけを見ていてはいけない」という意識が、やはり一番大事ではないでしょうか。

──1日6食という発想はありませんでした。でも、確かにいろんなシーンで私たちは食べ物を口にしますね。ニーズに合わせた商品を出して、コアなファンと一緒に発展させていけば生き残っていける。どんなカテゴリーの事業者にも通じるお話だと感じます!ありがとうございました!


記者プロフィール

企画・構成=三浦真弓、文=奥山晶子

■三浦真弓(ECのミカタ編集部)
https://ecnomikata.com/about/editor/
■奥山晶子
2003年に新潟大学卒業後、冠婚葬祭互助会に入社し葬祭業に従事。2005年に退職後、書籍営業を経て脚本家経験を経て出版社で『フリースタイルなお別れざっし 葬』編集長を務める。その後『葬式プランナーまどかのお弔いファイル』(文藝春秋刊/2012年)、『「終活」バイブル親子で考える葬儀と墓』(中公新書ラクレ/2013年)を上梓。現在は多ジャンルでの執筆活動を行っている。

企画・構成=三浦真弓、文=奥山晶子 の執筆記事