卸だけでは限界がくる!OEMからBtoCへ拡大した麺屋「どんまい」成功の秘訣~築地ばんやインタビュー

企画・構成=三浦真弓、文=桑原恵美子

株式会社築地ばんや EC事業担当の福田隆也氏

1969年の設立以来、長年にわたり量販店や問屋向けに各種麺類の業務卸販売やOEM商品開発製造を行ってきたサンヨーフーズ株式会社(以下「サンヨーフーズ」)が2010年に、株式会社築地ばんや(以下「ばんや」)を設立。以降、どんまい【楽天市場】店、麺屋どんまい【auPAY】店・【Yahoo!ショッピング】店、どんまい生活館【Yahoo!ショッピング】店、どんまい【dショッピング】店・【Qoo10】店・【ヤマダモール】店と多彩なモールで展開し、「楽天グルメ大賞2020」をはじめ、様々な賞を受賞している。そこでBtoBで長く成功してきた同社がEC事業をスタートさせた背景や戦略について、ばんや EC事業担当の福田隆也氏に聞いた。

卸だけではいずれ限界がくると考え、早めにECにも舵を切った

――「ばんや」は卸を中心に展開されている「サンヨーフーズ」のグループ会社ですが、ECを始められたのはやはり、需要があったからということでしょうか。

そうですね。「サンヨーフーズ」は香川県坂出市で麺類の製造販売や商品企画、開発を、卸向けにBtoBで行っていますが、BtoCに向けて「ばんや」を作ったということになります。需要があったというよりも、スーパーなどへの卸は、全体のパイが決まっている部分もあるので、BtoCなど直販に向けて早いうちに着手しておこうという方針からです。

実は自社でも細々と、直販的なECサイトは持っていましたが、単にカタログをWeb上に載せて販売していただけですので、当然全くお客さんもつきませんでした。とはいえ、そこをプッシュアップするとなると、煩雑な作業が発生しますよね。2010年当時、楽天市場さんが非常に伸びていたので、自社ECで始めるよりもまず、モールに出店する形でスタートすれば、ある程度ビジネスとして成立するのではないかという判断もあって、2011年に楽天市場さんでの出店から始めました。

――「築地ばんや」という名前はどこから?

設立当時、実店舗が築地にありまして、サンヨーフーズの本社があるのが香川県坂出市の「番屋」という地区だったので、そこから名づけました。ですから設立時、築地の住所で登記をしたのですが、実店舗はもうありませんし、特に楽天市場さんは住所が登記している場所で表示されるので、ブランディングの意味もあって一昨年、香川県のほうで登記し直しています。

築地ばんやの「どんまい」ショップで販売している商品紹介画像一例

ECでのシェアが大きいのはうどんよりラーメン!だから「麺屋」でブランディング

――「築地ばんや」の次に、「麵屋どんまい」をスタートされた理由について教えてください。

当社の主力商品は讃岐うどんですが、実は工場のキャパシティの問題もあり、販売量に対してBtoC用の製造量が確保しきれていないのですが、そんな中、生パスタや中華麺など、うどん以外の商品が伸びている状況です。特に中華麺(ラーメン)はEC市場の中でのパイが大きいので、そこで戦えるように「麺屋」というくくりにしました。結果的にブランディングのカテゴリーとしてちょうどよかったと思います。ちなみに「どんまい」は、ちょっとダジャレみたいになっちゃうんですが、「うどんうまい」から「う」を取って「どんまい」にしたんです(笑)。

弊社は地元では古い企業でして、取引先はスープ関係や資材、油揚げを作っている会社など多岐にわたっています。このため、扱う商品が自然に広がっていき、今や「麵屋」という名前の割には麺以外の商品が多いほど。それもあって、2019年7月には「どんまい生活館」と名付けた店舗をYahoo!ショッピングで新たに出店しました。

サンヨーフーズグループの商品一覧

――麺以外のものでも売れる商材をいろいろお持ちだったのですね。

一方で、麺製品は季節性が高く商品ごとに売れるシーズンがあり、その波動が大きいという事情があります。波動に合わせて自社での製造を増やせればいいのですが、前述の通りBtoB製品が多いため、工場のキャパシティ的に簡単には増やせず、売上拡大には限界があるのです。もちろん自社製品は販売数のコントロールはしやすいなど、いろいろなメリットがありますが、それだけで売上を立てるには、工場拡張の必要があります。そこで仕入れの商品を含めた形での製造販売と併せて、仕入れ販売も始めました。

SKUは1モールあたり400前後。商品在庫はサンヨーフーズの商品在庫とECで共有も

――ECをスタートしてからの手ごたえ、反響、売上拡大について教えてください。

初期の頃は地味にやっていて、手ごたえらしい手ごたえはありませんでした。今やEC担当スタッフの人数も増えましたが、当時はサンヨーフーズと兼任で4、5人程度。販促まではとても手が回らなかったんです。ただ香川県で弊社よりも先に通販を始めて成功されている企業さんがあったので、話を聞いて戦略を考えました。今でいえばコンサルのような方にお話を聞いて、しばらくはその方に販促をお任せしていましたね。

簡単に言うと、ECで売り上げを作るには最初のお客様を確保しなければならない、そのために通常では考えられないような低価格を打ち出すという戦略をとり、そこから顧客がつくようになりました。そのスタートダッシュがなかったら、厳しかったと思います。

――食品ECはSKU数も多く賞味期限などもあって在庫管理が煩雑な中、どのような対応をされていますか?

SKUでいうと、うちは1モールあたり400前後なので、確かに非常に多いですね。低リスクで保管できるロングテール商品も置いているとはいえ、賞味期限がある商品ですから、在庫ロス率や回転率はシビアに計算しなければなりません。今まさに、その施策を行っているところです。商品数が多いので、販売管理のシステムはすでに入れていたのですが、そこに在庫管理機能を追加するという形ですね。一から開発するのは難しいし時間もかかりますので、製造管理プラス在庫管理のシステムを入れて、運用し始めています。

弊社の場合、例えばひとつのスープがサンヨーフーズグループのいろんな商品に使われていたりしますので、サンヨーフーズの商品在庫とECの在庫を共有して全社で行っている部分もあります。そういうところは手作業に近い形で今や今まで管理してきたのですが、昨年からシステム化を進めています。

――時代に即した、あるいは顧客ニーズに合った商品を開発するための工夫をお聞かせください。

築地ばんやの商品開発は、トレンドなどを見ながらごく少人数でやっています。PB商品なども製造していますので、そちらからヒントをいただいて開発した商品がうちの人気商品になることも時々ありますね。

最近ではもともとサンヨーフーズが卸していた「レモンちゃん」という冷やし中華を、「さぬき麺心」のブランドで某ショップに卸したところ、それがテレビの人気番組で紹介されてECでも注文が殺到しました。時々こういうことがあるため、発送も内製化には限界があります。今後は外部倉庫から出したり、出荷作業を内製と外製に分散させたりなどして発送の問題もクリアして、売り上げを拡大していきたいと考えています。

「さぬき麺心」のブランドで「カルディ」に卸している「レモンちゃん」がECでも大ヒットした。


記者プロフィール

企画・構成=三浦真弓、文=桑原恵美子

■三浦真弓(ECのミカタ編集部)
https://ecnomikata.com/about/editor/
■桑原恵美子
フリーライター。秋田県生まれ。編集プロダクションで通販化粧品会社のPR誌編集に10年間携わった後、フリーに。「日経トレンディネット」で2009年から2019年の間に約700本の記事を執筆。「日経クロストレンド」「DIME」他多数執筆。

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