アンカー・ジャパンは集客施策もインハウスで売上高494億円、41%の成長率! モールから公式へ~直撃取材前編

企画・構成=三浦真弓、文=奥山晶子

左からアンカー・ジャパン株式会社 マーケティング本部 ブランドコミュニケーションチーム 瀬長将氏、事業戦略本部 ダイレクト戦略事業部 菅野将貴氏(撮影:三浦晃一)

2013年設立のアンカー・ジャパン株式会社(本社:東京・千代田区、代表取締役CEO:猿渡歩)の成長が加速している。モバイル充電ブランドの「Anker」はもちろん、オーディオブランド「Soundcore」、ロボット掃除機がヒット中のスマートホームブランド「Eufy」、プロジェクターブランド「Nebula」など、世界100カ国展開し売上を拡大する同社製品が、日本でも大きく売上を伸ばし、売上高は2023年の12月期で494億円を達成。その重要な施策が、EC事業にある。
そこで同社の自社EC戦略について、同社ダイレクト戦略事業部で自社EC事業を担当する菅野将貴氏と、ブランドコミュニケーションチームでCRM等を担当する瀬長将氏に、直撃。前後編でお届けする。

グローバルでも高いシェア誇る日本市場だからこそ公式ECサイトで顧客体験充実へ

──アンカー・ジャパン様は設立10周年を迎えた2023年の12月期で494億円の売上高を達成し、前年比では41%の成長率と発表されていますが、改めて、貴社の成り立ちについてお聞かせいただけますか。

瀬長将氏(以下敬称略) Ankerグループは2011年に創業した、ハードウェアを開発販売する企業です。ノートパソコンの交換バッテリーの販売から事業をスタートし、それからすぐにスマホの周辺機器のブランド開発に進出して、事業を拡大させていきました。

アンカー・ジャパンの設立は2013年。モバイル周辺機器以外にも、オーディオ機器やスマート家電、ロボット掃除機や家庭用のプロジェクターといった領域にポートフォリオを拡大しながら展開しています。

──貴社にとってECでの売上拡大は重要かと思いますが、2024年4月には、「Anker Japan 公式サイト」をECサイト「Anker Japan 公式オンラインストア (以下公式サイト) 」として2024年4月にリニューアルした目的は何でしょうか。

菅野将貴氏(以下敬称略) 今回のリニューアルは、会員プログラムやポイント制をマイレージプログラムに変えるなど、お客様のお買い物体験向上とコンテンツの充実化を目指したものです。実は創業当初、公式サイトはECサイト機能のない、製品カタログのような立ち位置でした。しかし、当初からグローバルで見てもAmazon含む日本の売上の比率が非常に高く、安心してお買い物いただくため、2018年頃に日本の顧客によりフォーカスした独自のサイトを作ろうと考え始めました。その後、2022年にはAnker Japan 公式アプリを立ち上げるなど、プラットフォームの展開を通してより顧客体験を上げていこうと尽力してきています。

──貴社の場合、「Amazon.co.jp 販売事業者アワード2023」の「最優秀賞」を2年連続で受賞するなど、Amazonはもちろんのこと、楽天などECモールで大きく成功を収めています。そうした中、自社サイトを充実させようと考えた最大の理由は何でしょうか。

菅野 顧客体験をより高めるために、ファンを可視化する必要がありました。Ankerグループの製品は確かに様々なチャネルで手に入りやすいように展開していますが、Ankerグループの製品が好きな方には公式サイトで買っていただき、公式ならではのサービスをお届けしたい。そのためにはどうしたらよいかを考えると、やはり日本のお客様に特化したコンテンツの提供が必要だと考えたのです。

顧客一人ひとりのレビューを重視 詳細な分析を迅速に製品に反映(撮影:三浦晃一)

──グローバルサイトとは異なる、日本専用のサイトなのですね。

菅野 そうですね。今は、日本法人内のダイレクト戦略事業部で公式サイトを運用しています。公式サイトだけでなく、各プラットフォームでも重視しているのは顧客一人ひとりのレビュー。購入いただいたお客様や購入を検討しているお客様から寄せられたレビューやご相談に対し、詳細な分析を迅速に行い、ネガティブなフィードバックがあったらすぐに改善していく体制ができています。日本のお客様は細かいところまで丁寧にサイトを見ていただいているので、その声を拾いすばやく反映・改善していくことが、成長要因としてはとても重要だと考えています。

──レビューの分析というのは、具体的にはどういったことをされているのですか。

菅野 設立当初から各製品のレビュー内容や★の数を確認していましたが、2018年頃から、カスタマーサポートチームが一つ一つの製品に対するレビューの集計と分析をシステム化し、その分析を毎週のミーティングで全社に共有しています。

公式サイトとアプリにはチャット機能があり、購入前の相談が非常に多く寄せられるのですが、こうした相談に対しては、専門のサポートチームが提案をする仕組みになっています。

またカスタマーサポートは全て内製化。お客様からの声をダイレクトにいただける場所で、分析結果を開発チームに共有、連携していくため、インハウスでやり切ることを重視しています。

公式サイトでは購入前後の相談をチャットで相談できる、チャットボットの仕組みも取り入れている(画像提供:アンカー・ジャパン株式会社)

──まるでコンシェルジュですね。一度購入されたお客様に対して、再購入のアプローチはどのように行っていますか。それほど頻繁に買い換えないような製品が多いと思うのですが。

菅野 もちろん製品によってライフサイクルは異なりますが、製品は基本的に18カ月の保証期間がありますし、公式サイトに会員登録していただければ、プラス6カ月間の延長保証で24カ月保証になります。保証期間が長い分、お客様に安心してお使いいただけると思っています。

特にロボット掃除機やプロジェクターといった大型製品の展開も拡大している中で、お客様から「買い替え時にどのように処分したらいいかわからない」というお声も。保証期間が終了し、買い替えをご検討いただくタイミングで有料会員プログラム「プライムパス」にご入会いただければ、下取りサービスを活用いただけます。下取り完了後には次回のお買い物で活用できる10%オフクーポンの配布といった、買い換えを促す仕組みづくりを、今回のリニューアルのタイミングで実施しています。

会員になることで、製品の保証期間を延長できる(画像提供:アンカー・ジャパン株式会社)

公式オンラインストアへの集客施策、TikTokもインハウスでスピーディに

──ECモールは集客力がありますし、特に貴社製品のなかでも充電周辺機器はECモールでの購入が多いと思うのですが、モールからの直接誘導はできませんよね。貴社では公式サイト購入層を増やすために、どのような集客施策を行っていますか。

瀬長 SEO施策や広告投資、自社SNSに力を入れているほか、インフルエンサーの方々にご協力いただいて製品紹介動画を作っています。特に、大型家電の買い物は失敗したくないという方が多いため、動画による誘導は効果的です。女性や若年層へのアプローチとしては、Instagramの運用を強化し、TikTokも自社で運用しています。

──ショート動画もインハウスなのですか?

瀬長 そうなんです。外部の会社にサポートいただくことはなく、基本的に全てインハウスで行っています。製品数が多く、サイクルも非常に速いので、オンタイムで情報発信するためには情報を連携しやすいインハウスが効果的です。もちろん、社内のナレッジを溜めていきたいという考えもあります。

(撮影:三浦晃一)

──内製なら意思決定が速いでしょうし、修正もしやすいですね。

瀬長 立ち上げは難易度が高いですが、インハウスのほうがPDCAを回しやすいなど、メリットが多いのではないかと思っています。

他にも、保証の観点で会員登録してくださる方もけっこう多いので、会員様向けにメールマガジンやLINEなどCRMを活用したアプローチもしていますが、こちらもインハウスで行っています。

──これほど大きく展開していらっしゃる会社のマーケティング体制が全てインハウスなのは意外です。公式オンラインストアのリニューアルについてお話しいただいたところで、後編では、リニューアルされた会員サービスの詳細な内容やOMO施策など、アンカー・ジャパン様のEC戦略についてさらに深いお話をいただきます。


記者プロフィール

企画・構成=三浦真弓、文=奥山晶子

■三浦真弓(ECのミカタ編集部)
https://ecnomikata.com/about/editor/
■奥山晶子
2003年に新潟大学卒業後、冠婚葬祭互助会に入社し葬祭業に従事。2005年に退職後、書籍営業を経て脚本家経験を経て出版社で『フリースタイルなお別れざっし 葬』編集長を務める。その後『葬式プランナーまどかのお弔いファイル』(文藝春秋刊/2012年)、『「終活」バイブル親子で考える葬儀と墓』(中公新書ラクレ/2013年)を上梓。現在は多ジャンルでの執筆活動を行っている。

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