花王、日本コカ・コーラほか4社の事例に見るYouTube広告活用戦略 「YouTube Brandcast 2024」レポート
2024年10月23日、グーグル合同会社が東京ガーデンシアターで「YouTube Brandcast Japan 2024」を開催。基調講演では、コネクテッドテレビ内でのシェア拡大をはじめ、最新のYouTube利用動態などが伝えられた。クリエイターのパフォーマンスを挟んで行われた成功事例の紹介では、花王株式会社、株式会社リクルート、日本コカ・コーラ株式会社、株式会社MIXIがYouTube広告でとったアプローチが紹介された。
AI実装とShorts拡大でマーケターにとってのYouTubeが変化
開幕の基調講演にはYouTube日本代表の仲條亮子氏が登壇した。日本国内における18歳以上の月間利用者は7370万人以上。数値面では、1年間で視聴者数を20%増やしたYouTubeショートの普及率が他SNSなどのサービスに対して1位、2024年上半期のコネクテッドテレビにおける1日当たりの試聴時間は他の動画プラットフォームや放送局を押さえて1位となるなど、その立場を盤石にしている様子を語った。
また、「現在Shopifyと連携しているYouTubeショッピングが、今後他のカートシステムとの連携も進めるため、購買意欲をコンバートする仕組みを整えています」(仲條氏)とも。日本の視聴者の61%が購買行動の参考にするというYouTubeの、ショッピングに関する整備が進んでいる。
生成AIで映像から音楽まで自動化
コンテンツ面での革新としては生成AIの活用を強調。映像に合わせた音楽を生成するショート動画用の「Dream Track」がアメリカで実装された他、映像そのものを生成する「Veo」も実装されている。「YouTubeは生成AIによるフェイクの監視にも目を光らせています。ガイドラインに違反した動画をAIで検知し、84%を早期の段階で削除しています」と仲條氏。AI生成動画には電子透かしが入っており、それを検知して生成AIを使った動画にはラベリングも行われているという。
YouTubeショートを使いこなす4つのポイント
YouTubeの3つのトレンドは「ショート」「コネクテッドテレビ」「ショッピング」。中でも事業者としては、利用者が2ケタ成長を続けているショート動画を使いこなしたいところだ。ショート動画事業に2018年から携わり、現在、株式会社スターミュージック・エンタテインメントのCMOを務める内田伸哉氏は、YouTubeショートで集客するポイントを語った。挙げられたポイントは、最初の画面で注意を引き付けコピーを短く分断してリズム良く表示する「0秒アテンション」、自然な流れで商品を推す「オーガニック感」、“知っている人”でスクロールの手を止めてもらう「クリエイター活用」、コメントやサイト訪問などのユーザーの行動と動線を意識した「レスポンス重視のクリエイティブ」の4点。
会場では内田氏によるデモ動画の投影が行われ、実際の運用例が示された。講演後には内田氏によるマジックに引き続き、ダンスパフォーマーのFLAVA JAPANによるパフォーマンスが行われた。
Google広告での商材に応じたアプローチの成功事例
2023年から2024年にかけての成功事例として登壇した花王株式会社、株式会社リクルート、日本コカ・コーラ株式会社、株式会社MIXIは、それぞれ異なる課題に対してとったアプローチを紹介した。
制作フローを革新した花王
消費財大手の花王株式会社からは、マーケティングイノベーションセンター メディア企画開発部の吉田智保氏が登壇。急速にデジタル化が進む広告において、従来型の制作フローで発生していた工数の削減と、オーディエンスの変化による質の低下を防ぐ事例を語った。「広告のプランニングには量的要素と質的要素があります。量はリーチとフリクエンシーの可視化で担保できますが、デジタルの質を担保することに課題を抱えていました。改善の結果、広告の視聴完了率は消費財平均を約13%上回り、売上も117%へと成長。業界を牽引できました」(吉田氏)。
かつて花王では撮影後にデジタル広告のプランニングをしていたが、デジタルの出稿先とクリエイティブを撮影よりも先行するように変更。コアアイデアの段階でメディア横断型として作ることで、特定メディアに議論が偏ることもなくなったという。「YouTube用クリエイティブはインストリーム、バンパー、ショートという広告フォーマットに合わせて訴求メッセージを分け、撮影前の段階でフォーマットとメニューまで決め込みました」(吉田氏)。
温故知新も忘れず、「Attention」「Branding」「Connection」「Direction」のABCDベストプラクティスは踏襲しつつ、事前のプランニングに合わせて出稿先に合わせたオーバーレイを撮影時に被せるなどして工数を削減したという。今回の施策を受けて吉田氏は、「特別なことは何もしていませんが、デジタルでも結果を出せたことに自信を深めています。次は生成AIを活用して訴求軸のブレストや認識合わせを加速する“プランニングブースト”に着手したい」と意気込みを語った。
リクルートはブランドマーケティングに理論を見出す
株式会社リクルートのセクションではHRエージェントプロダクトマネジメントユニットの藤原暢夫氏、同マーケティング部の井坂匠氏、グーグル合同会社の黒木沙織氏が登壇。ファネルの浅い位置で視聴するユーザーに向けたブランドマーケティングの効果を紹介した。
井坂氏は従来の広告課題を「マーケティングはコスト(費用)ではなく、プロフィット(利益)センターであるべきとの考えはありましたが、ブランドマーケティングが関心層への獲得施策よりも重要であることが説明できずにいました」と語る。今回の広告出稿によって「リクルートエージェント」の指名検索数は2倍以上になり、新規会員登録数も有意な増加を続けているという。「ブランドマーケティングを継続する意義を確認できたので、中長期にわたって“Always on”で取り組んでいきたい」と藤原氏。リクルートは、AIで広告配信が最適化されるYouTube広告は、潜在顧客層にリーチする際の質が高いこと、PDCAを高速で回せることに着目。潜在顧客層が在宅の時間に、テレビデバイスへとターゲットを絞った「テレビCM的配信」を行った。今後はYouTubeの新しい手法を積極的に取り入れつつ、社内の各事業部とマーケティング部門の連携を強化していきたいという。
効果測定を定量化したコカ・コーラ
飲料メーカー大手の日本コカ・コーラ株式会社は、消費者との間に小売を挟むため、販促の効果測定が難しいという課題を解決した事例を紹介した。登壇者はジャパン&サウスコリアオペレーティングユニットマーケティング本部の池田哲也氏、株式会社電通の豊島杏奈氏、グーグル合同会社の冨永泰弘氏の3名。
「前提として、完璧な計測の手法はありません。消費者行動は複雑で、プライバシーの観点からも得られる情報は限られます。それでも広告の出稿エリアを限定しつつインテージのSRI+を日次で計測することで、出稿エリアにおける2ケタ成長を確認できました」(冨永氏)。また、豊島氏によれば、セブン-イレブンの店頭購買データから、事後的にも購買率の高い消費者にアクセスできていることが判明したという。「今回の結果には満足していますが、大小合わせたPDCAを回し続けることが重要です。セールスリフトが検証できるので、今後はマーケターが事業成長を担えることがわかりました。今後はGoogle AIを活用して、人力ではできない効果的な配信を行いたいです」(池田氏)。
共感をイメージ変革のテコにしたMIXI
「YouTube Works Awards Japan 2024」でBest Brand Lift部門の部門賞を受賞した株式会社MIXIからはエンターテインメントオペレーション本部の松本太寛氏と、グーグル合同会社のシェイクスピア悦子氏が登壇。成熟した市場、スマホゲームへのネガティブなイメージなどから、MIXIはモンスト(ゲーム「モンスターストライク」)の新規ユーザー獲得に課題を抱えていた。2021年から2022年にかけて広告をフルファネル化。ブランドイメージの強化を狙ってタレントを起用したインパクト重視の広告を出すも、ダウンロード数は増加しなかったという。
2023年以降に共感を重視して「#俺たちのモンストーリー」というハッシュタグで集めたエピソードをCM化したところ、売上が昨年比120%になっただけでなく、CM好感度や広告認知率などの指標もリフトした。クリエイティブの数と動画尺も絞り込んでいき、現在は2本、15秒と少数精鋭の構えでユーザーを集めている。一方でYouTube公式チャンネルは堅実に動画のアップロードを続けている。「チャンネル運営に近道や魔法はありません。地道にコンテンツを積み上げていくことで、チャンネルがブランドの資産になります」(松本氏)。
YouTube広告の出稿方法は実に多彩で、ベストプラクティスは事業者によって異なる。しかし、共通する施策は最新のテクノロジーと分析手法を組み合わせてPDCAを回すことだ。マーケターの役割は顧客の需要を喚起するテコを見つけて実際の広告に落とし込むこと。担当者にはその役割を、激変するテクノロジーに流されずに実行し続けるタフさが求められている。