生成AIでEC事業を加速させるために乗り越えるべきハードルとは【Sync8 セミナーレポート】

ECのミカタ編集部

9月12日、ECのミカタが開催した「AIとデータで進化するECビジネスカンファレンス~実例で探る新たな可能性~」にて、AIを活用したECコンサルや運営代行を行う株式会社Sync8(本社:福岡県福岡市、以下Sync8)のCEO吉田透氏が、ECを取り巻くAIの現状と活用方法を紹介した。

「AI=万能」から実務レベルでの活用を考える時期に

ChatGPTの登場が巻き起こしたAIブームが到来して約2年。EC事業者がAIを導入する上で、技術的なハードルというよりも心理的なハードルが大きいだろうと吉田氏は予測する。

「AIの活用は業務効率化だけでなく、コストを抑えた形で利益を残す一つの手段になると思います。しかし経営側としては情報漏えい等のリスクが気になるところでしょうし、雇われている側からすれば業務効率化により勤務時間が減ってしまうのではという懸念があります」(吉田氏)

こういった意見は当然だとした上で、吉田氏はEC事業者がAIに全く触れず運営することは難しいと指摘。実際にLINEやWebサイトでの自動応答や過去データに基づいた売上予測など普段利用しているツールにもAIの活用は広がっている。

※画像提供:株式会社Sync8/「ECのミカタ カンファレンス」AIカンファレンス編より

またガートナージャパンの「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2024年」によれば「AIに任せれば何でもできそう」という過度な期待のピーク期から、現在は実務レベルで使えるかどうかを冷静に判断する「幻滅期」に差し掛かりつつあるという。吉田氏は、AIを実務レベルに落とし込むタイミングであり、人間とAIがいかに協働できるのかを考えるタイミングにきているのではと推測した。

完全自律型AIの開発進む、運用面での課題も

事業者がAIに関する懸念点と必要性の間でバランスを取りながらAIを活用するためには、仕組みと特性の理解が不可欠だ。AIは大量のデータから人間のように学習、思考、判断するプログラムの総体。吉田氏がカナダでEC用のAI開発に着手した2017年当時は、学習パターンの中で条件分岐するプログラムの段階だった。

2024年現在は、多くのサイトで見られるようになったAIチャットボットなどを実用化し、完全自律型のエージェントを作るフェーズに入っているという。ただAIに全てを任せることで、売上改善施策として不必要な割引キャンペーンを勝手に行ったり業績悪化につながったりするのではないかという懸念点も浮かび上がってきている。

「デザイン生成やチャットボット、マーケティング支援などでのAI活用はイメージがしやすいので任せやすい傾向にあります。ただし、コーディングや開発などをAIに丸ごと任せられるといってもイメージしにくい部分があるでしょう。自分がイメージできる業務から徐々にAIに依頼していくという流れが続いていくのではないでしょうか」(吉田氏)

※画像提供:株式会社Sync8/「ECのミカタ カンファレンス」AIカンファレンス編より

EC事業者がAIを活用していくには

実際にAIはゼロから1を生み出す創造性や感情の理解、複雑な判断を丸投げされるのは苦手だ。反対に、AIは大量のデータを扱う反復作業を最も得意としている。そこで吉田氏はAIの得意領域を踏まえつつ、工数を削減するだけでなく、小規模事業者でも大企業のように付加価値を生み出せる活用方法を紹介した。

人間のように顧客の問い合わせに対応
顧客対応はLTVを高めるための重要なカスタマーサービス。人力には限界があり、全てを電話で受けていると、待ち時間が反対に顧客満足度を悪化させかねない。AIのチャットボットが24時間体制でこれまで以上の問い合わせに対応すれば、従業員のリソースは判断を伴う深刻な問い合わせに振り分けられる。

また、オペレーターにつなぐまでの間に挟まる「よくある質問」やオペレーターへの引き継ぎをAIに任せることで、スピード感が増し、顧客体験の向上が期待できる。

顧客を商品へと導くセールス
昨今のECのトレンドはパーソナライズだ。閲覧履歴や購入履歴など、過去の顧客行動には、次にレコメンドする商品のヒントが眠っている。しかし、個別のユーザーごとに従業員が対応するのは現実的ではない。

そこでAIが過去のデータを分析してバナーの掲示やセール情報の個別配信などを行う。施策実行までの工数を削減することで打てる施策の数が増え、データの蓄積も進むだろう。

※画像提供:株式会社Sync8/「ECのミカタ カンファレンス」AIカンファレンス編より

マーケティング工数の大幅削減
マーケターの仕事は、「誰に、何を、いつ、どのように」見せれば売上向上に寄与するかの見極めが重要だ。AIはターゲットとなる顧客のセグメント化から、クリエイティブの見せ方までを一気通貫してアシストする。またAIの成果物が思い通りではない場合、率直に不満を伝えると少しずつ任せられる領域が増えていくことがデモを通じて説明された。

在庫の動的な最適化
在庫は利益を大きく左右するバロメーターだ。担当者は、何を、いつ、どれくらい仕入れるかに頭を悩ませている。AIは膨大なデータから売れ筋商品の発見や需要の予測をスピーディーに代行。新製品のSKU別オーダー計画など、AIはマーチャンダイズ担当者の負担を軽減できるという。

新たな動きとして、OpenAIの新たなモデル「o1 preview」が2024年9月12日にリリースされ、12月5日には「ChatGPT Pro」が月額200ドルのサブスプリクションサービスとして開始している。AI技術の発達に伴い、改めてEC事業者がAIを使いこなすには何をすればいいのだろうか。

「AIを活用する上で、まずは自分がAIに何をしてほしいのか、どこをどう修正してほしいかなど指示内容を明確化する言語化能力が必要です。そしてAI活用は特別なことではなく業務改善の延長線上にあることを認識し、小さな一歩から始めてみるといいと思います」(吉田氏)

現在はプロンプトにもとづいてECサイトのフレームワークもAIが出力する時代だ。同時にEC市場も労働力不足に直面する。AIに任せられることは任せ、判断とクリエイティビティに人間の力を注ぎこみたい。

吉田 透(よしだ とおる)
株式会社Sync8 代表取締役CEO これまでに400社以上のEC運営支援に携わる。複数のEC企業の取締役を兼任し、EC支援側と事業者側の両方の視点を持つ。2017年からスタートアップ企業の取締役としてECにおけるAI活用を研究。現在はSync8社の代表として国内だけでなくトロントやハイデラバードで産学連携のEC特化型のAIプロダクト開発を行う。リテール現場での経験を活かし、AI技術と人のオペレーションを組み合わせたEC運営の最適化に取り組んでいる。


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