コクヨがBtoB-ECで実践するCX改善サイクル 目指すは全ステークホルダーの体験価値向上【カウネット セミナーレポート】
ECのミカタが毎月開催しているEC業界特化・課題解決型オンラインカンファレンス。2024年9月26日に開催された第8回のテーマは「BtoB-EC」だ。BtoB(Business to Business)でECを活用する企業に、今求められていることとは何か。今回は同カンファレンスのレポートとして、徹底してCX(顧客体験価値)を追求し、コクヨグループの通販サービスを担う株式会社カウネットの上山哲史氏による基調講演を紹介する。
CXを向上させお客様に貢献することがビジネスの最終目的
株式会社カウネット(以下、カウネット)はコクヨグループの中でワークスタイル領域/ビジネスサプライ流通事業に属し、昨年(2023年)の売上は約825億円。オフィス用品通販サービス「カウネット」をはじめ、大規模・中堅企業向けクラウド型購買管理システム「べんりねっと」、ボリュームディスカウントができる「ウィズカウネット」、企業の従業員が個人で利用できる「おうちカウネット」などを提供している。「おうちカウネット」はコロナ禍以降、自宅で仕事をする人が増えているため立ち上げたという。
カウネットでCX(顧客体験価値)の向上に関わる業務全般に携わっているCXデザイン本部長の上山哲史氏によると、BtoCとBtoBの大きな違いは「BtoBの場合、使用者と発注者が一緒とは限らない」ということ。「発注担当者はほかの社員が使うものを発注するわけで、そこに責任が発生し、さまざまな要求や質問に対処しなければなりません。つまりBtoB-ECの場合、この発注担当の方の負担を軽減し、楽に業務を進められるように貢献するということがCXの観点でも重要です」(上山氏)。
そもそもCXとは何か。カウネットとしての定義は、「お客様が体験したときに価値を感じること」。よく似ているUXは直接の利用者が対象であり、ウェブページを使う時などの部分的な体験に限られる。だがCXは将来を含めて全ての顧客を対象にした、“あらゆる接点による総合的な体験”だという。「最終的にはCXを向上させてお客様に貢献することがビジネスの目的であって、売上や利益は顧客体験価値の対価と社内では言い切っています」(上山氏 )。
売上や利益よりもCXを優先するという例として、上山氏はカウネットのコールセンターで実際にあった事例を紹介した。「お客様から注文の電話が入ったのですが、オペレーターが調べたところ、その商品は在庫が切れていて、届けられるのは1週間後でした。困惑するお客様に、そのオペレーターは競合他社の在庫を調べ、すぐに入手できるところを教えたのです」(上山氏)。普通に考えると機会損失であり、直接の売上にはつながらないが、お客様から信頼を得られる行動で将来的な売り上げにつながるかもしれない。これがまさに、CXを重視した行動なのだという。
CXを改善するには3つのSTEPが重要
同社がCXの取り組みをスタートさせたのは1年半ほど前。もともとはカタログを顧客に届け、主にFAXで注文を受け取るシンプルなサービスだったが、ここ20年でECが急激に伸びてきたため、結果として顧客との接点が段階的に増えていった。何かトラブルがあってもその場その場で対応してきたが、さまざまなところに問題が点在し、それを会社として把握できていないことが最も大きな問題だと上山氏は感じたという。
「顧客との接点における問題点に網羅的に取り組む必要がある」と考えた同社は、タッチポイントを整理し、39カ所のタッチポイントを設定することから着手。実際のCXの改善には、以下の3つの段階を踏んだという。
STEP1 情報収集/可視化
多くのステークホルダーから網羅的に情報を集め、それを可視化する。「ここにかなりパワーをかけました」(上山氏)。
STEP2 改善すべきポイントの検討
情報に興味を持ちCX中心の議論によりさまざまな課題仮説を抽出。「会社の中の議論はどうしても売上や利益が中心になりがち。一旦費用対効果を前提にせず『お客様のためには何が一番いいのか』ということを議論すると、これまでに隠れていた意見が出やすくなるように思います」(上山氏)。
STEP3 改善活動の推進
「CXの専門部署だけで取り組むのは無理がありますので、やはり物流やシステム開発などを巻き込んで会社全体で取り組むことが必須です」(上山氏)。
この3つのSTEPでCXを改善し続けるには “顧客の反応からCX向上が確認できること”も重要だという。
「例えばコンタクトセンターに何らかのクレームがあってそれに対応する場合、クレームがすごく減ったとなればこれは明確にお客様のCXが上がっていると判断できますよね。これは非常にわかりやすいので、今後もより活用を高度化していきたいです。こうした“お客様のお困りごと”を社内では『プロミスブレイク』と呼んでいて、アンケートや市場調査、コンタクトセンターのスタッフへのヒアリング、販売店様の社員の方など、色々な人の声から『プロミスブレイク』をリストアップしています。それらをタッチポイント別に整理することを続けていますし、経営面でも『買える/届く/聞ける』をCX経営指標に設定して常に改善に向けて議論しています」(上山氏)。
3大「プロミスブレイク」を改善。目指すのは全ステークホルダーのCX向上
カウネットの顧客アンケートから浮上した3大改善要望が「欠品をなくしてほしい」「クーポンを使いやすくしてほしい」「ポイント制度がわかりにくい」。それを改善するため、「欠品」に対しては、効率・売上重視だった在庫を見直し、安全面と倉庫のキャパシティーを考慮しつつ欠品率を下げるよう適正在庫量を算出。AIを活用した需要予測や、サプライヤーとの連携を従来の電話中心からWeb上でのやり取りに替えて強化するなどの工夫を重ねた。クーポンやポイント制度についても、サイト画面をリニューアルしたり、システムや機能を改良したりといった施策を積み重ねている。
こうしたCX向上施策は結果として、社内にも変化をもたらしたという。半年に1度実施している社内アンケートにおいて、当初(2023年1月)は25.7%から「この施策で成長していけるかどうか、よくわからない」という回答が集まったが、半年後にはそれが半分に、1年後はまた半分になるというように減っていき、逆に「(この施策で)明確に成長していけると思う」と答える人が段階的に増えてきているという。
上山氏は最後に、今後の課題・取り組みの方向性として「業務部門との連携」「プロミスブレイクの根源を絶つ」「お客様だけではないCX向上へ」を挙げた。「お客様だけではなく、エージェント様、販売店様、配送パートナー様、サプライヤー様、コンタクトセンターのスタッフの方々、社員、皆さまのCXを向上させる施策を次は考えていきたい。この“CXのビッグピクチャー”を実現することを目指して、今後も活動を進めていきたいと思っています」(上山氏)。