日本の魅力を世界へ!カキモリの越境EC成功に導いた認知拡大と物流体制とは【DHLジャパン×ほたか(カキモリ)セミナーレポート】
越境ECを拡大していく際の課題の一つに「配送」が挙げられる。特に、法律の規制の対象となる商品を扱っている場合は、専門的な知見と実績が必要となる。株式会社ほたかでは実店舗とECでこだわりの文具を販売する「カキモリ」を運営しており、その越境ECをサポートしているのが国際物流のエキスパートであるDHLジャパン株式会社だ。
今回は2024年10月17日にECのミカタが主催した「越境ECカンファレンス」から、DHLジャパン株式会社 法人第五営業部 eコマース・ビジネスディベロップメント スペシャリスト 石堂正氏と株式会社ほたか 代表取締役 カキモリ/inkstand by kakimori 代表 広瀬琢磨氏の対談の模様をレポートする。
コロナ禍をきっかけに越境ECを開始した「カキモリ」
DHLジャパン株式会社 法人第五営業部 eコマース・ビジネスディベロップメント スペシャリスト 石堂正氏(以下、DHL 石堂) まずは貴社の事業内容をお聞かせください。
株式会社ほたか 代表取締役 カキモリ/inkstand by kakimori 代表 広瀬琢磨氏(以下、カキモリ 広瀬) もともと家業として文房具の事業を営んでいました。その中で自分が大切にしたいことであり、デジタル化が進む現代で薄れていた「書くこと」を後押しできる専門店を作りたいと思い、2010年に「カキモリ」を東京・蔵前(台東区)にオープンしました。
DHL 石堂 ありがとうございます。DHLは「カキモリ」の越境ECをサポートさせていただいておりますが、越境ECを始めたきっかけは何でしょう。
カキモリ 広瀬 2018年、店舗の混雑解消と同じ商品をリピートしてくださるお客様が来店しなくても買っていただけるように、店舗の補完としてまずは国内向けにECを始めました。その後、海外のお客様の売上比率が3〜4割ほどを占めるようになっていたところ、コロナ禍でお客様が激減し、2020年頃に“モノを世界に届けに行こう”と方針転換を図ったのが越境ECを始めたきっかけです。
DHL 石堂 コロナ禍は大きな転換点だったと思います。越境ECにおいて苦労はありましたでしょうか。
カキモリ 広瀬 認知の拡大に苦労しました。いきなり(個人向けの)越境ECが伸びるのではなく、BtoBとして海外のミュージアムショップやライフスタイルストアへの卸売りを通じてお客様に知っていただき、その相乗効果で越境ECも伸びていったんです。越境ECとBtoBの卸売りは同時にスタートしたのですが、BtoBが重要なファクターであることがわかり、その後BtoCの越境ECも伸びていきました。
ハードルの高い液体の海外発送はシステムで解決
DHL 石堂 BtoCの越境ECで売れ筋の商品をお聞かせください。
カキモリ 広瀬 万年筆用のインクを中心に、セット商品として自社で開発した「つけペン」や「万年筆」が売れ筋です。海外のお客様は高品質な“Made in Japan”で、さらにデザイン性が高くコンセプトがあるような商品を求めていると感じています。
DHL 石堂 お客様がオーダーメイドでインクを作れる「inkstand by kakimori」の商品も海外へ配送されていると伺いましたが、この配送において苦労した点は何でしょう。
カキモリ 広瀬 一つは認知拡大です。inkstand by kakimoriでは、店の内装や体験価値を高めることで多くのメディアに取り上げていただきました。また、実際に来店されたお客様が感動してSNSで拡散してくれるケースもあります。
2つ目の苦労した点は、液体である「インクの海外配送」です。オーダーメイドしたインクと同じものを2回目以降に購入していただく場合はECでも買えるように固有の“レシピ番号”を付けているのですが、海外に液体を配送する際には多くのハードルがあります。
安全データシート(SDS=Safety Data Sheet)のような法令に関する規則もありますし、空輸時の気圧の変化による液体漏れにも注意しなければなりません。特に木やアルミのような特殊なキャップを使っていると気圧の変化で液体漏れするケースがあったので、インク容器に内蓋を付けるような構造に変更しました。
DHL 石堂 カキモリ様の出荷体制もお聞かせください。
カキモリ 広瀬 BtoBは倉庫から出荷しています。SDSは必ず添付しなくてはいけないので、倉庫から出荷する時点で添付できるシステムを構築しています。今でこそシステムができ上がっていますが、倉庫によってはシステムに対応していなかったり海外出荷のノウハウがないところもあり、当初は苦労しました。そこでDHL様に相談したところ、海外出荷が得意な倉庫を紹介していただき、今ではスムーズなオペレーションを実現できています。
BtoCの商品に関しては基本的に社内の事務所から発送しており、Shopifyのシステムを使用しています。海外配送であればDHL様のサービスと完全に連携できるので、一人のスタッフで1日何十件と発送処理をできている状態です。
DHL 石堂 私たちは「DHL EXPRESS越境ECソリューション」として、輸送を通して越境ECを支援するサービスを提供しており、ShopifyとDHLの連携もその中の機能の一つです。
DHLの「旅ナカ」支援で購入機会損失も防ぐ
DHL 石堂 昨今はコロナ禍も落ち着き、インバウンドのお客様が増えてきたと思います。この点について感じることをお聞かせいただけますでしょうか。
カキモリ 広瀬 カキモリはコロナ禍の前からインバウンド比率が高かったのですが、越境ECのおかげもあり、今は売上の7割以上がインバウンドと以前よりも比率が高くなりました。最近は円安などの影響もあってまとめ買いしていただくお客様が多く、「ホテルまで送ってほしい」という要望に応えられていないのが新しい課題です。
DHL 石堂 DHLでは「旅ナカ」支援として、訪日客が大量に購入してもDHLが配送することで手ぶら観光を実現する「ハコボウヤDHL(※1)」というサービスを提供しています。このサービスは、訪日客の「持ちきれない」という購入機会損失を防ぐ役割も果たします。
国際物流は専門家に任せ、自社は認知獲得に専念するのが越境EC成功の鍵
DHL 石堂 国際物流を熟知したDHLのノウハウで通関に関するトラブルのサポートもしておりますが、この点について実感されていることはありますか。
カキモリ 広瀬 大切な点ですね。SDS以外にも、木製品を送る際は「正しく管理された場所で伐採している」といった資料を添付するなど、さまざまなルール、パターンがあります。通関―DHL―弊社のやり取りに時間がかかってしまうと、例えば誕生日やクリスマスのギフトがその日までに届かないといったケースも考えられます。そこを、国際物流を熟知したDHL様にスムーズに対応していただけるのは非常に安心です。また、DHL様の営業担当の方に色々なことを相談できるのもありがたいです。
DHL 石堂 最後に、改めて越境ECに関して感じていらっしゃることをお聞かせください。
カキモリ 広瀬 海外における日本商品へのニーズは間違いなく高く、越境ECにはさまざまなチャンスを感じます。潜在的な顧客に対して認知を拡大するには時間も手間もかかりますが、そこが乗り越えるべきポイントであり、他社と差別化する工夫のしどころ。そうした重要なことに注力するために、システムや物流といったところは一から自分で構築するのではなく、しっかりとした専門サービスを使うことが大切です。
※1:「ハコボウヤDHL」は、DHLジャパン株式会社と株式会社高速オフセットが共同開発した訪日外国人観光客向けサービス
2003年6月 DHLに入社。法人営業部・オートモティブ営業担当、2006年 アジア太平洋統轄本部へ異動。米国・シカゴを拠点に米国の日系企業担当、2008年帰国後は 愛知県・静岡県・長野県の営業責任者として活動し、2016年よりタイ国を拠点にアジアの日系自動車メーカーの営業責任者、2018年より現職として過去の経験を活かし活動中。
広瀬 琢磨(ひろせ たくま) 株式会社ほたか(カキモリ) 代表取締役 カキモリ/inkstand by kakimori 代表
1980年、群馬県高崎市生まれ。外資系医療機器メーカーを経て、2010年に「たのしく、書く人」をコンセプトにした文具店「カキモリ」を台東区蔵前に開店。2014年、オーダーインクの店「inkstand by kakimori」を開店。2018年には実店舗に加えECサイトでの販売もスタート。国内はもとより訪日客のファンも増え、オムニチャネル成功を実現し現在に至る。