顧客の「笑顔を輝かせる」を目指して―― コンタクトセンターが生み出す価値 【3人のキーパーソンが語るサントリーウエルネスの理念と戦略 <第3回>】
サントリーウエルネス株式会社 コンタクトセンター 顧問 廣瀬奈加子氏
サントリーグループの一員として健康関連事業を担い、サプリメント業界で確固たる地位を築くサントリーウエルネス株式会社(以下、サントリーウエルネス)。その成長の理由をキーパーソン3人へのインタビューで探る特集の最終回は、同社のコンタクトセンターを立ち上げ期から支える廣瀬奈加子氏に話を聞く。サントリーウエルネスが2001年に通販ビジネスを開始してからおよそ四半世紀、顧客の声に耳を澄まし続けてきた廣瀬氏が伝える「時代とともに変わりゆくこと」、そして「ブレることなく守ってきたもの」とは?
研究員からコンタクトセンター立ち上げメンバーに
――コンタクトセンター立ち上げ当時の様子を教えてください。
サントリーが通販事業をスタートさせたのは2001年ですが、実はそれまでドラッグストアなどでも販売はしていました。でも当時はまだサプリメントや健康食品になじみが薄い時代でしたので、お客様が店頭で見ても「自分にとって何をしてくれる商品なのか」がわからず、手に取ってもらうことすら難しい状況でした。そこで、お客様お一人お一人のお話を聞きながら、その方のお悩みに合わせておすすめの商品をお伝えしていく方法が適切ではないかと考え、通信販売をスタートしたのです。
元々私は大学で薬理学を専攻し、薬剤師の資格を持っておりましたので、サントリーに薬の研究開発を行う研究員として入社しました。その後、サントリーが製薬事業を事業譲渡するのに合わせて健康食品の事業部(※1)に配属され、コールセンター(現在のコンタクトセンター)の立ち上げを任されたのです。電話対応は外部に委託することができたとしても、まずは自分たち自身が、お客様やお客様対応について知らなければならないということで、私がそのポジションに置かれたのだと思います。私の役割としては、最初にお客様の電話を受けたオペレーターさんが対応できないご質問や、予想していなかったご指摘をいただいた場合の二次対応をしていました。
それまで18年間所属していた研究所は一言も言葉を交わさなくても1日が過ぎていくような職場だったのですが、そこから“お客様としゃべらなくては何も始まらない”現場となり、最初は戸惑いも大きかったですね。ただ私だけでなく、サントリーという会社にとっても通信販売事業は初めてのことでしたので、何もわからない中での手探りの出発だったのです。
――印象に残っている立ち上げ当時の出来事はありますか。
当初は、問い合わせのお電話をくださった方が開口一番、「お宅はお酒のサントリーさんですか?」と、確認されることが多々ありました。というのも、その頃は「これを飲めば病気が治る」というような不確実な情報を宣伝に使うメーカーも多く、健康食品や通信販売に対する不信感や警戒感が一般に強かったのです。
“お酒のサントリー”ならば昔からよく知られているから安心だけれど、もしかしたら似た名前を装ってだまそうとしている会社かもしれない、と疑われたのでしょう。通信販売を始めてから数年間は、本当によく尋ねられました。お電話をくださるシニアの方々は、電話での注文にも慣れていらっしゃらない様子がうかがえ、電話口からも不安が感じられました。「はい、お酒も販売しているサントリーです」とお答えすると、ホッとされる方が多かったのがとても印象に残っています。
※1:サントリー健康食品事業部は2009年にサントリーウエルネス株式会社となった
ブレることなく守る「お客様想い」
――そうして立ち上がった事業が、現在では年間顧客数延べ200万人以上となるまで 大きく成長していらっしゃいます。立ち上げ当時から「ブレることなく守っていること」を教えてください。
私どもが一貫して心がけているのは、ひと言で表すと「お客様想いの応対」でしょうか。「こう答えたら、お客様はどう受け取られるだろう」「自分がお客様の立場だったらどう感じるだろう」と、常にそれを想像しながら、お客様の立場になってお答えしていくということかと思います。
(健康食品は)お客様が「健康になりたい」という願いを持って飲まれる商品ですので、さまざまな不安を口にされます。そこでまず、お客様が何に対して不安や不満を抱いていらっしゃるのか、おっしゃることを一生懸命お聞きします。お客様が抱いていらっしゃる不安や不満を解消するにはどうお答えするのが一番いいのか、場合によってはもっと心からご納得いただくためにこちらでお調べしてお答えしたほうがいい場合もあります。
大切なのはお答えする内容とともに、お客様に向き合う姿勢だと思うのです。「私たちは今お話しされているお客様のことを、とても大事に考えています」とお伝えすること。そうしたことが伝わって初めてお客様も安心してくださり、「だったらこれからも使ってみようかな」と思ってくださることにもつながっていったかなと思います。どなたでも「自分のことを思ってくれている」「自分の不安をちゃんとわかろうとしてくれている」ということは、うれしく感じるものなのではないでしょうか。逆に、「自分の話をちゃんと聞いてくれていない」と少しでも思われたり、「会社としての言い訳をして逃げようとしている」と感じられたりすると、どうしてもお客様としては不安や不満が残ったままになり、「これからは付き合っていくのは嫌だな」と思われてしまいます。まずは逃げずに受け止める姿勢、お客様のことを大事に考えているという姿勢を感じてもらうことが、お客様対応では一番大事なことだと思っています。
最初は不安を抱えてお電話をくださっても、その不安が私たちとのやりとりの中で解消されると、次に何かあった時に「あなたは私のことを一番よくわかっているから」と指名でお電話をくださり、その後、長くお付き合いが続くことも。ありがたいことに、そうしたお客様がたくさんいらっしゃいます。
廣瀬氏は2011年から、商品に添えて送る手紙の文面の作成も担当。温かい文章に人柄がにじむ。手紙を楽しみにしている顧客も多く、希望者に送るための冊子も作られている
――逆に、時代や事業成長とともに「変えてきたこと」があれば、教えてください。
コンタクトセンターも組織として非常に大きくなり(※2)、誰が対応しても、一定のレベルで対応できるようにしていくことも重要になっています。そのために目指しているのは、根本的には同じマインドを持ってお客様に応対するということ。そして色々な情報を整備し、その情報にすぐに辿り着けるように整備するということが、人数が増えるにつれて大事になってきています。直近ではDXを使ってそうした課題を解決することが増えていますね。
※2:サントリー健康食品事業部で4名からスタートしたコンタクトセンターは、現在ではエージェント(センターで顧客対応する担当者)約2000人規模となっている
挨拶状を含めた顧客応対を通して多くの“廣瀬ファン”が生まれ、年間300通以上のファンレターや電話が届くという
まず「お話を伺う」ことから始める
――「お客様対応」における指針を教えてください。
サントリーグループは「人と自然と響きあい、豊かな生活文化を創造し、『人間の生命(いのち)の輝き』をめざす」をパーパスに掲げおり、その旗印のもと、コンタクトセンターでも「お客様の笑顔を輝かせる」ということを存在意義としています。
言ってみれば、私たちの事業はもちろんお客様に商品をご利用していただくことで成り立っているのですが、決してお客様に商品を買ってもらうことが目的ではなく、私たちの商品によってお客様が生き生きと輝いて毎日を送っていただけることを目指しているからに他ならないのかなと思います。
ですから、お客様のお話を聞くのが1時間かかろうと、それでお客様に笑顔になっていただき、私たちの応対のファンになってくださり、商品も使い続けていって健康になり、日々輝いてくだされば、それがすなわち私たちの会社としての存在意義なのです。業務効率に関してはもちろん管理はしておりますが、それだけを求めてはいないということが、大きな指針につながっていると考えています。
――お客様とお付き合いする中で、特に印象的だった出来事をお聞かせください。
印象に残っていることが多くて数えきれないのですが、例えば、私どもの商品がたまたまお体に合わず、ご期待に沿えなかったためにお怒りのお電話をいただいたことがありました。お電話ではお怒りが収まらないご様子でしたので、ご自宅にうかがってご事情をお聞きしたところ、商品のことばかりではなくご自身のこともお話しくださいました。その後、商品をお使いいただくことはなかったのですが、何年にもわたり折に触れてお手紙をくださったり、旅先からお土産を送ってくださったりするようになりました。
これはうれしい思い出ですが、逆につらかった思い出は、こちらがどうお伝えしても一切、信じていただけなかったことですね。例えば、ある商品の生産が追い付かず、一時的にお届けできなくなったことがございました。すると、その商品をご愛用いただいていたお客様から「商品に問題があったから(生産を)ストップしているのではないか」とご連絡いただいたのです。生産が追い付かないのが理由だったのですが、こちらが本当のことを何の嘘偽りもなくお伝えしても、一切信じてもらえないまま終わってしまいました。お客様のご不安を解消してさしあげられなかったわけで、それが一番つらかった体験です。
――現在、後進をご指導されているなかで、最も大切にしていることは?
「お話を伺うことから始める」ということです。「弊社の商品はこんなことにいいんです」ということをこちらからお伝えするのではなく、まずはお客様のお話をお聞きして、お客様はどんなことにお困りなのか、どんなことを変えたいと思ってらっしゃるのか、お客様の状況を詳しくお伺いして理解したうえで、「であれば、この商品はそういうお悩みにいいですよ」とお伝えするというやり方ですね。
広告はある意味、一方通行的な発信ですので、お客様がどう受け取られているかはなかなかこちらで把握しきれないところがあります。でもお客様からお電話をいただくコンタクトセンターでは、お一人お一人のお客様が、例えばその広告をご覧になってどこが気になってその商品に興味を持たれたのか、その方が今どういう状況なのかをお伺いすることができますよね。それはコンタクトセンターだからできる、とても大切なことだと思うのです。
コンタクトセンターのオペレーターは、お客様のことを思い、お役に立ちたいからこそ、商品のことを一生懸命勉強し、健康に関する知識を身に付けています。そのうえでお客様の話をよく伺い、お気持ちに寄り添って、お客様にとって適切な商品選びのお手伝いをすることで、お客様の不安や不満を解消し、笑顔を輝かせることにつなげていくことができる。そこに私たちセンターの価値があるのではないでしょうか。
――特集第1回のインタビューで沖中直人代表(※3)がおっしゃっていた「サプリメントの効果効能だけで人を幸せにできるわけではない」「人生をより豊かにするお手伝いをする」という姿勢は、通販事業立ち上げ当初から脈々と受け継がれているのですね。ありがとうございました。
※3:沖中氏の役職は取材時。同氏はサントリーウエルネス株式会社 代表取締役社長から、2025年1月1日付でサントリー食品インターナショナル株式会社 専務執行役員、サントリーウエルネス株式会社 取締役に就任