レコメンドは売る側の決める宣伝枠ではない 今こそユーザー目線のAIレコメンドを
シルバーエッグ・テクノロジー株式会社 マーケティング部 シニアマネージャー 園田真悟氏
「レコメンド」──今やECサイトに当たり前のように存在している機能だが、ただ売りたい商品を表示しているだけで、「売上には大して貢献していない」と思っていないだろうか。だとしたら、それは大きな間違いだ。シルバーエッグ・テクノロジー株式会社のAIアルゴリズムを搭載した「アイジェント・レコメンダー」は、ECサイトを訪れたユーザーのニーズをリアルタイムで把握し、ユーザーの嗜好に合ったもの、つまり“買いたい”と思っているであろう商品を的確に予測・提案し売上向上につなげることができる。その効果は高く、ファッションやBtoBなど多くのECサイトから、Webマンガ、ニュースサイトといったデジタルコンテンツまで幅広く使われている。
レコメンドの本質とは、そして“本当に役立つ”レコメンドとはどのようなものなのか。シルバーエッグ・テクノロジー株式会社 マーケティング部 シニアマネージャー 園田真悟氏に聞いた。
「レコメンドは宣伝枠ではない」 売上につながる3つの効果
──「レコメンド」と聞くと、単に過去に買った、検索した商品と似たものが並んでいる枠という印象を持っている人も多いのではないでしょうか。園田様にも、実際に実際にそのような声が届いているとか。
昔ながらのレコメンド機能のままでは、確かにEC売上に直結するのは難しいでしょう。しかし、だからといってレコメンドが不要なわけではありません。例えば、我々が提供している「アイジェント・レコメンダー」を導入いただいた企業では、サイト全体の売上を5~15%引き上げるという効果を実現してきました。
レコメンドは検索窓などと同じように、ECサイトのシステムにデフォルトで付いているツールにすぎないと思われがちで、もしかすると単なる「商品の宣伝枠」の一つと捉えている方もいるかもしれません。
しかしレコメンドエンジンを専門とし、AIを使ったレコメンドサービスを提供している側から言えば、“レコメンドは売上を向上させるための重要なツール”なんです。
──なぜレコメンドが売上向上につながるのでしょうか。
レコメンドがもたらす3つの効果によるものです。1つ目はコンバージョン率を高め、より商品ページへの到達・クリックを容易にし、購買を促進することです。
2つ目は併売率を高めること。つまり、Aという商品と一緒にBという商品も買ってもらう率を高めることです。そのユーザーがそれまで1回のセッション(そのサイトへの訪問)につき1個買っていたのなら、それを2個や3個に引き上げる効果です。
3つ目は、ユーザーのサイト利用率を高めることです。例えば、広告を打って新規ユーザーのアクセスは増えたけれど、売上はそれほど伸びないのはよくあることでしょう。それはサイトでの顧客体験に魅力を感じられず、訪れても買わなかった人、買うのをやめた人が多くいるということです。
レコメンドにより、「欲しいものが見つかる」という良い買い物体験を提供することで、コンバージョン率だけでなくユーザーのECサイトへの信頼感が高まり、再び訪れて2回目の買い物をしてもらえるようになります。「アイジェント・レコメンダー」は売上にこだわり、この3つの効果を発揮できるように設定しているのが特徴です。
──ECサイトにデフォルトで備わっているレコメンドは、どういった点が不足なのでしょうか。
そうしたレコメンドの場合、例えばシャツを買いに来たお客様に向けて同じようなジャケットが表示されていればいいとか、ジャケットなどシャツと一緒に売ることがあらかじめ想定されているものが表示されていればいいという風に、“売る側の理論”で運用しているケースが多く見られます。
しかし、ユーザー側から見るとどうでしょうか? シャツを探している人が、必ずしもジャケットまで欲しいわけではありません。なぜ、そのECサイトにアクセスしてシャツを見ているのか、理由は千差万別です。冠婚葬祭用として探しているのかもしれないし、ギフトを探しているのかもしれない。一緒に買いたいもの、比較したいと思っているものはケースバイケースで、“ユーザー視点”で欲しいものがレコメンドされていなければクリックしてはもらえません。売る側の理論で「こうしたものが表示されていればいいだろう」と決めつけてしまうと、売上につながりにくいということです。
また、カートシステムや統合ツールに付属しているレコメンド機能では、レコメンドのクリック率や購買率などに関する詳細なデータが出てこないことが多いのも問題です。効果測定ができなければ、PDCAで売上を伸ばしていくことはできません。
「アイジェント・レコメンダー」の機能イメージ。例えば同じ「ボーダーのワンピース」を見ている人でも嗜好性は異なるが、同サービスでは一人ひとりに合わせたレコメンドが可能になる
ECサイトが環境の変化に対応できていない!? 今こそユーザー目線のレコメンドを
──AmazonやNetflixといったネットサービス大手はレコメンドに非常にこだわっていますが、それには理由があると。
Amazonがレコメンドを始めたのは、サイトに商品を並べただけではユーザーが買いたい商品になかなかたどり着けないからです。そこで、商品をアクティブに提案するレコメンドエンジンというツールを実装し、顧客に行動を促して購買につなげました。
そこから進化して、現在のNetflixや音楽ストリーミングサービスではレコメンドなしには成立しないほどです。例えばYouTubeのショート動画では、スワイプすればその人に向けてパーソナライズされた次の動画がレコメンドによって次々と出てきます。
今や、ユーザー視点で選ばれたおすすめ商品やコンテンツが表示されることが当たり前になっています。ユーザーが日々接している環境がそのように変化しているのに、ECサイトはまだ売り手の都合による商品を羅列しているだけというケースが多く見られます。
──ECサイトがネット利用者の感覚や環境の変化から取り残されてしまっているというわけですね。EC事業者としては、どうすればいいとお考えですか。
商売の基本として、“お客様と向き合う”べきだと思います。お客様が何を求めているのかをしっかり分析できるツールを用意して、その結果から「このお客様にはこの商品を提案しよう」と判断できる、リアルタイムでパーソナライズされたレコメンドが必要です。
それを自動化するのが、当社が提供しているAIレコメンド「アイジェント・レコメンダー」です。的確な分析と提案をするために、AIを利用しているのです。
ベテラン店員のように一人ひとりの“欲しい”を察知する
──「アイジェント・レコメンダー」において、AIはどのような働きをしているのでしょうか。
レコメンドエンジンの基礎となるのは、1990年代に開発された“協調フィルタリング”という、ユーザーの行動履歴に基づいて適したアイテムを推奨する機械学習の手法です。しかしそれから20年が経ち、「アイジェント・レコメンダー」のAIは時代ごとに新しい技術を独自に開発し、“予測AI(プレディクティブAI)”という形で進化してきました。
これは、特定の人の行動情報と、長年蓄積されてきた大勢の人たちの行動を分析したデータとを照らし合わせることで、「今、この行動をしている人は、次にこんな行動をとるだろう」と予測を立てる技術です。つまり、ECサイトで「このページを見て、商品をクリックした人は、次にこうしたものを買うだろう」という予測が高い精度ででき、パーソナライズされた提案が可能になります。
もう一つの特徴は、それをリアルタイムでできることです。予測技術を使っていても「こんなお客様には、これを提案しよう」という風に対応が事前に“決め打ち”されているツールが実は多いのです。当社のツールはそうではなく、お客様がサイトに来る(アクセスしてくる)度に新たな予測を立て、その場・その時に合わせた最適な提案ができます。
例えば、実店舗のベテラン店員は来店されたお客様の身なりや、見ている棚といったことから、“こういう物を探しているのではないか”と予測して商品を提案できるでしょう。「アイジェント・レコメンダー」は、それと同じような働きをAIに持たせ、ECサイト内で実現できるのです。
もちろんAIによる予測は100%ではありませんが、人間の店員さんに決して劣っているとは思いません。実際、あるグッズ販売のECサイトでテストを行ったところ、商品を知り抜いた店員さんが選んだレコメンド商品以上のクリック率を、当社のリアルタイムレコメンドは獲得できました。この予測能力の高さが、ECサイト全体の売上向上につながっていると思います。
──AIを利用したレコメンドエンジンは、学習の初期段階では成果が出ても、性能が次第に“劣化”していくという声も聞きます。「アイジェント・レコメンダー」にはそうした心配はないのでしょうか。
精度が落ちていく理由はいくつか考えられますが、お客様のニーズがどんどん変化していく環境において、学習データが追いつかなくなってくるケースが多いのではないでしょうか。「アイジェント・レコメンダー」は、お客様が何をクリックしたのかを即座に反映し、学習データをアップデートし続けることで、長期的に精度を維持・向上できるようにしています。また、カスタマーサクセスを担うコンサルタントや、アナリストのチームが、常にお客様環境で成果を出し続けるよう、チューニングを行います。
園田氏は「今後は、より小規模な企業でも使えるワンストップ型のレコメンドエンジン『アイジェント・レコメンダーS』でAIレコメンドのすそ野を広げたい」とも
AIと人間のコンサルタントによる“二人三脚”で事業者をサポート
──「アイジェント・レコメンダー」の運用をサポートするコンサルタントの役割について教えてください。
ECサイトはたくさんのページがあり、構造が複雑です。お客様がどのページにアクセスしてくるのかもわからず、トップページか、商品ページか、アパレルならコーディネート写真のコンテンツを訪れるかもしれません。入り口が複雑で、そのうえページごとにお客様の「やりたいこと・見たいもの」が異なるわけです。
そうなると、ページによって、提案すべきレコメンドの内容も変わってきます。このように、状況によってどんな商品をレコメンドするかはアルゴリズムレベルでのチューニングが必要で、それをするのがコンサルタントの役目です。当社ではAIによる自動化と、人間のコンサルタントによる伴走の、二人三脚でサービスを提供しています。「アイジェント・レコメンダー」を導入いただき、コンサルタントがチューニングを始めておよそ2~3カ月ほどで学習が進み、高い精度を安定して維持できる状態にもっていけます。
──「アイジェント・レコメンダー」を導入したことで、抱えていた事業課題が解消されたという実例があれば教えてください。
最近ですと、ユニークで少量多品種な品ぞろえが特徴のセレクトショップを展開している企業様に導入いただきました。手作りの一点ものも多く、商品数は多いけれど1種類あたりの在庫数は非常に少ないECサイトです。こうしたケースでは、事前に「このお皿を選んだ人には、このフォークをセットで提案しよう」と設定していても、どちらかがすぐ在庫切れになってしまって機能しません。
そこで「アイジェント・レコメンダー」を導入していただいたところ、まず在庫状況を日次でレコメンド内容に反映し、在庫のある商品から提案できるようになりました。お客様はサイト内を数ページ回遊するだけで、自分が欲しいものが見つかるようになり、在庫数が少ないにもかかわらず買いやすいレコメンドができるようになったと、クライアント様から好評をいただきました。
その企業のECサイトは、顧客データを精緻に分析し、どんなお客様にどんな購買傾向があるのかをしっかり把握していました。しかし、最後の一手となる「どの商品を見せたら手にとってもらえるのか」という部分で悩んでいました。そこに「アイジェント・レコメンダー」が入ることで、お客様ごとに適切な商品、今欲しいと思っていて、手に取ることができる商品を提案できるようになったのです。
──「アイジェント・レコメンダー」のオプションとして、リアルタイム・レコメンドメールサービス「レコガゾウ」も提供されています。同サービスの機能についてもお聞かせください。
「アイジェント・レコメンダー」はサイトを訪れてもらい買い物をしていただくためのレコメンドですが、「レコガゾウ」はメール上やLINEのメッセージ上で同様のレコメンドをするツールです。
とある大手アパレルメーカー様の例になりますが、一般的なメールマガジンとレコメンドの入ったメールマガジンとでメールから購買に至る率を比較すると、レコメンドの入っている方が3倍くらい高いんです。メールにおいても“こんな商品がありますよ、どうですか”とプロアクティブに提案することで売上が大きく変わります。
「レコガゾウ」は、そのメールにおけるレコメンドを「アイジェント・レコメンダー」と同じように、リアルタイムでかつパーソナライズされたものにできます。ユーザーがメールを開封した瞬間にレコメンドエンジンが働き、最新情報に基づく提案内容が表示されます。
「レコガゾウ」の機能イメージ。ユーザーのメール開封を検知し、瞬時に「おすすめアイテム」の画像を本文中に表示させる特許取得技術が使われている
顧客とのコミュニケーションをもっと自由に。AIレコメンドの未来
──予測AIを使ったレコメンドは、今後どのように進化していくのでしょうか。
予測精度の向上だけでなく、企業ごとに“差別化した予測”を求められるようになってきたと感じています。私たちは、ユーザーの行動情報に、その周辺データを組み合わせてニーズを予測する仕組みを作ってきましたが、レコメンドに利用できるデータはDXの進展でどんどん増えています。これからは、より広範囲なデータの反映が求められそうです。例えばスーパーマーケットの全国チェーンなら、地域ごとの気象情報や土地柄などのデータを反映させることで、より精度の高いレコメンドが出せるようになるでしょう。
もう一つは生成AI技術との組み合わせです。より人間的なコミュニケーションができるように進歩してきた生成AIの技術と、当社の予測AI技術を組み合わせることで、お客様のニーズに合うものを、より自然なコミュニケーションの中に入れ込む形でレコメンドできるようになるでしょう。
もちろん、そういう接客を好まないお客様もいらっしゃいます。手早く買い物できる仕組みからベテラン店員のような接客まで、ECサイトを訪れたお客様とのコミュニケーションの自由度を高めていくことが重要になると思います。