アリババの越境ECアプリ「TAO」がファッション強化&AIエージェント機能リリース

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大矢根 翼

アリババ傘下のAlibaba International Digital Commerce Groupは2025年5月13日、日本市場向けに展開するECアプリ「TAO」の「日本におけるアパレル事業戦略発表会」を開催。ファッションジャンル拡充を中心に、2024年10月にリリースした「TAO」をより日本のマーケットにフィットさせるための戦略を語った。

発表の目玉はユーザーごとの趣味・行動・嗜好に合わせて商品などを提案する「TAO AI Agent」。「スタイリングマスター」「暮らしのアシスタント」「趣味マスター」という(現時点では)3つのAIエージェントが、それぞれのユーザーに最適な提案するという。

5月16日からは東京・表参道で期間限定のポップアップストアを開催し、オフラインでの取り組みもスタートしている「TAO」のアパレル事業戦略とは?

日本市場に特化したマーケティングを展開

Alibaba Internationalが、アリババのECプラットフォーム「淘宝(タオバオ)」で培った経験を活かし、日本向けに展開する「TAO」は、アパレルから調理器具、オフィス用品など、幅広いジャンルの商品約1000万点を販売しており、日々ラインナップを拡大中。利用者層は若者から中高年まで幅広いという。

今回の発表会に登壇したのは以下の7名だ。
TAOビジネス統括責任者 葉剣秋(ヨウ ケンシュウ)氏、アリババ国際デジタルコマースグループ副総裁 アリババ・デザイン委員会委員長 楊光(ヨウ コウ)氏、Tongyiラボ ビジネスオペレーション部ゼネラルマネージャー 徐 棟(ジョ トウ)氏、TAO市場運営責任者 劉慧娟(Karen Liu さき)氏、アリババ国際アパレルカテゴリ責任者《日本・韓国》陳利娜(チン リナ)氏、TAOプラットフォーム運営責任者 何玫(カ マイ)氏、Semitransparent Design創設者《「TAO」UIデザイナー》田中良治氏。

発表会を通じて強調されたテーマは、中国と異なる日本のユーザーインサイトに応える方法だ。前半では高品質で低価格な商品をユーザーに届けるため、TAOが取り組んでいるローカライズ施策が紹介された。

TAOは中国のECモール「タオバオ」を背景にも持ちながらも、日本市場に特化したUI/UXを持つ。物流や支払いだけでなく、日本向けのリッチな包装の開発や、トランスコスモス株式会社と連携したサポート体制など、ユーザーに安心感のあるショッピングを提供できる体制を構築しているという。

ユーザーの満足度を担保するため、TAOは日本市場に出品する商品を数十億点から約1000万点まで絞り込んでいる。陳氏が紹介した方法は「3層のスクリーニング」だ。

1つ目は品質スコア、商品説明、出荷データ、評価などのビッグデータによる絞り込み。2つ目は日本国内におけるオンライン・オフラインの市場調査で得たトレンド情報に基づくスクリーニング。3つ目は日本の現地ファッションに精通したチームによる人力での選定だ。

TAOはこれらのスクリーニングを繰り返すほか、東京都心へのポップアップストア展開などで日本の消費者理解を深め、日本市場への浸透を狙うという。(※1)

日本向けに選定されたファッションアイテム

AIエージェントと地道な情報収集の二軸でマーケティング

今回の発表会で公開された「TAO AI Agent」は、日本市場に特化したデータ基盤と個人の行動データをもとに、ユーザーへ商品を提案する。バックグラウンドで動作しているAIモデルはアリババのLLM(大規模言語モデル)「Qwen3」。

何氏は「商品データが標準化されたことで、プラットフォームを超えたデータの追跡が可能になった。AIが自律的にデータから学習を繰り返して進化できるようになった。また、ECはショッピングプラットフォームにとどまらず、統合的なプラットフォームとして新しい付加価値を顧客に提供する必要がある」と語った。

「TAO AI Agent」には「スタイリングマスター」「暮らしのアシスタント」「趣味マスター」の3エージェントが搭載されている。それぞれのエージェントは画像認識やビッグデータを活用して、ユーザーの美意識とライフスタイルに合わせた提案をレコメンドする。

エージェントのバックデータに格納されているスタイルやトレンド情報がレコメンドの精度を高めており、商品提案のみならずファッション用語の解説や、コーディネートカレンダーの提案などもできるという。

画像出典:「日本におけるアパレル事業戦略発表会」投影資料より

AIモデルはミスマッチなども経験しながら提案データを蓄積して改善が進められる。TAOが日本市場で重視していることは、オフラインのイベントなどを通して対面で顧客情報を獲得することによるユーザーエクスペリエンスの向上と、AIを活用した多角的な顧客体験の実現だ。

「AIはユーザーに多様なサプライズを提供できるはずだ。ECでもセラー、ロジスティクス、エンドユーザーのサポートに活用できる」と劉氏は語る。

また、現時点で「大規模な広告プロモーションは想定していない」というマーケティング戦略は、TemuやSHEINとは異なるアプローチだと言えるだろう。低価格であることよりも、素材を含めた品質に重きを置いてアパレル展開を進めていくという「TAO」。日本の顧客インサイトを重視しつつ、アリババのAI技術も駆使する戦略で、今後どこまで存在感を高めていけるのか。今後の展開も注目していきたい。

※1:参考記事アリババのTAOが表参道でポップアップストア 連携のオンラインイベントも開催


記者プロフィール

大矢根 翼

2018年法政大学卒業後、自動車部品メーカーに就職。
ブログ趣味が高じてライターに転身し、モータースポーツメディア『&Race』を副編集長として運営。
オウンドメディアの運営、記事制作など、複数ジャンルで記事制作をメインに活動している。

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