1300万点の商品DBをどう売るか? 紙カタログの老舗アズワンの「ターゲット別全方位チャネル戦略」

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ECのミカタ編集部

「紙カタログはコストがかかるが、廃止すると売上が下がりそうで怖い」「ECサイトと紙媒体の役割分担がうまくいかない」等々、「紙とWebの共存」はいまだに大きな課題である。研究者向けカタログ通販の老舗のアズワン株式会社は、この課題に見事な“解”を出している。

EC化普及が加速する環境で紙カタログを発行し続け、EC化率は34%を達成。驚くべきことに、ECサイトの立ち上げが、従来の紙カタログ経由(販売店チャネル)の売上をも引き上げる「相乗効果」を生み出している。

2025年9月25日のカンファレンス(ECのミカタ主催)で同社 商品DB推進部 部長 米増恭平氏が語った、成長フェーズごとの課題と顧客を取りこぼさない「全方位チャネル戦略」についてレポートする。

EC化の原点は「ビーカー1個の発注業務コストを削減せよ」

理化学器卸商社として1962年に設立されたアズワン株式会社(以下、アズワン)は、もともとは紙カタログのみで販売を行っていたが、2001年に最初のEC「ocean」を構築する。きっかけは、顧客(大企業)からの「業務効率化」という切実なニーズだった。

「ある製造業大手の購買データを分析すると、発注件数が少ない直接材(製品の原材料など)の購入金額が1000億円なのに対し、間接材と言われる少額備品や消耗品は30億円という比較的小規模でありながら、発注件数は12万件にも及んでいることがわかりました。しかし当時は、コンプライアンスが厳格な大企業ほど、ビーカー1個の購入であっても直接材と同様、見積取得や承認などのフローが必要となり、多大な労力がかかっていました。この業務コスト削減のため、システム化が求められていました」(以下、発言は米増氏)

こうして、大企業向けに契約単価で発注できるクローズドEC「ocean」が誕生した。

【販促担当者必見】ECが「紙カタログの売上」も伸ばす相乗効果

当時の「ocean」はあくまで紙カタログ掲載商品をWEBで発注する「紙カタログのEC化」に過ぎない。一方、紙カタログには「掲載可能商品数の制限」「新商品掲載のタイムラグ(2年ごと)」「価格や情報の更新ができない」「検索性がない」「ユーザー行動がわからない」といった構造的な課題があった。

画像提供:アズワン株式会社(カンファレンス登壇資料より)

そこで、アズワンが販売可能な全ての商品を(紙カタログに縛られず)いつでも見てもらうため、2015年にオープンEC「AXEL」が立ち上がった。掲載商品数は当初の100万点から、2025年には1300万点に増加している。

「AXEL」は、法人・事業者(BtoB)であれば誰でも購入することができ、企業の調達ではありがたい請求書払いや、クレカ/PayPay払いの場合は企業向けの領収書発行にも対応している(インボイス制度にも対応)。

さらに、このオープンECの開設が、アズワンの販促戦略に大きな転換をもたらした。

「全ての商品を掲載した結果、紙カタログには載っていない商品が『AXEL』で見つかり、購入に至るケースが生まれました。紙カタログを補完する形で『AXEL』が機能しています

注目すべきは、その「売れ方」だ。「AXEL」の展開以降、「ECにしか掲載されていない商品」が、「販売店経由(EC以外の旧来チャネル)」で注文される金額が右肩上がりに伸びているのだ。

画像提供:アズワン株式会社(カンファレンス登壇資料より)

これは、「Web(AXEL)で商品情報を見つけて、実際の注文は付き合いのある販売店で行う」という顧客行動が定着したことを示している。ECサイトが、紙カタログ(販売店)チャネルの「デジタルカタログ」としても機能し、全社的な売上向上に貢献する「相乗効果」を生んでいることがわかる。

ターゲット別に4つのECを使い分ける「全方位BtoB戦略」

現在、アズワンは「AXEL」の1300万点の商品DBと検索エンジンを基盤に、ターゲットに合わせた複数のECチャネルを展開している。

1. 大規模事業者向け(クローズドEC):ocean
顧客の購買システムと連携する集中購買システム。近年は、顧客のシステムからアズワンや他社のカタログを横串検索できる「バックグラウンドサーチ」技術も進化しており、「ocean」もこれに対応している。

2. 小規模事業者向け(オープンEC):AXEL SHOP
誰でも見れる、法人であれば購入ができるECサイト。

3. 販売店向けEC構築支援:Wave
販売店が自社のECサイトを構築できるサービス。検索システムは「AXEL」を共通で使いつつ、販売店独自の仕入れ商品も登録可能。

4. 海外ユーザー向け:AXEL GLOBAL
「AXEL」の多言語版。

さらに、これらのチャネル戦略を「業界特化」にも広げている。

「アズワンは理化学機器と医療用品が中心のため、約60万点もの飲食店向け商品がサイト内で埋もれてしまっていました。そこで、飲食店にターゲットを絞ったサイトを別途構築したのです」

それが、2023年6月にローンチした、飲食業界向けECサイト「as kitchen」だ。

「これまでは独自システムの開発にも力を入れて構築していましたが、『as kitchen』はEC支援事業者の力も借りることで効率的に立ち上げることができ、売上もしっかり伸びています」

また「AXEL」や「as kitchen」のような自社ECに加え、楽天市場やAmazonなどにもデータベースを提供して出店するアズワン。その戦略は「全方位」を見据えている。

「他のEC事業者ともパートナーシップを組み、あらゆる規模・業種のお客様にリーチできる体制を目指しています。チャネルも、決して『紙カタログからWebへ』という考え方ではなく、『紙カタログとWebへ』と、全方位でお客様の取りこぼしのないように戦略を練っています

画像提供:アズワン株式会社(カンファレンス登壇資料より)

紙媒体の価値を見直しつつ、ECの強み(掲載点数、検索性、データ分析)を最大限に活かす。アズワンの柔軟なチャネル戦略は、顧客の使い勝手を主眼とするマーケティングの理にかなっている。

次回「EC“利益”改革カンファレンス」は11月20日開催

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