広告運用は、なぜこんなに複雑なのか?──Amazon Adsが挑む「シンプル×AI」運用

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湯浅 英夫

Amazon内での検索や閲覧、購買といったユーザー行動をもとに広告配信ができるAmazon Adsは、「売上に直結する」機能を数多く備えた広告プラットフォームだ。「少人数運用」が前提となる日本のEC事業者にとっては、認知から購買、さらに再購買までを1つのプラットフォームで設計できる点は大きな魅力といえる。

そのAmazon Adsが、広告運用をよりシンプルにする新機能「キャンペーンマネージャー」をはじめ、AIアシスタント「Ads Agent」、動画生成ツール、スポンサーブランド動画、ストリーミングTV広告などを拡充。「煩雑化」「属人化」しがちなデジタル広告運用をどう変えていくのか。EC事業者・広告主にとっての実務的メリットをレポートする。

※本記事は、Amazon Adsのソリューションを包括的に紹介する旗艦イベント、「unBoxed Tokyo 2025」(2025年12月10日開催)のレポートです。

広告運用は、なぜここまで難しくなったのか?──3つの“現場課題”

Amazon Adsは、現在のデジタル広告運用が抱える課題を大きく3つに整理している。

①学習コスト
広告メニューや分析ツールが高度化・多様化する一方で、使いこなすための学習コストは年々増大している。そのため広告主の多くが、新機能を使いこなして成果を達成するまでの時間と人的コストに煩わされている。

②ツール環境の分散
広告ツールが分散していることで、取得できるデータやシグナルも分断されてしまう。各ツールのデータを手作業で照合するため効率が悪く、キャンペーン全体を俯瞰した判断が難しい。

③効果検証の煩雑さ
広告の効果測定指標は非常に多く、正しい判断を導くための分析が難しい。結果として、投下コストと成果の因果関係を見出せないまま「これが正しい」と断定せざるを得ないことから、運用の迷走を招くケースが少なくない。

Amazon Adsが今回発表した各種アップデートは、こうした課題を「シンプルかつ統合された体験」で解決することを目的としている。その中核を担うのが「キャンペーンマネージャー」だ。

「管理だけで手一杯」を終わらせる──すべてのAmazon Adsを1つのアカウントで運用

「キャンペーンマネージャー」の最大の特徴は、広告運用の入り口そのものを大幅にシンプルにする点にある。

これまでAmazonのストア内と外で別々に設定する必要があったアカウントは統合され、1つのアドバタイザーアカウントですべてのAmazon Adsを運用できるようになる。これにより、複数広告を横断したフルファネル運用が格段に行いやすくなる。

例えば、アカウント管理や請求業務の一元化により、運用負荷は大幅に軽減される。さらにグローバル対応も統合され、日本で作成したアカウントから米国など世界各国のキャンペーンを管理できるようになる。

広告運用の画面も刷新される。Prime VideoやTwitch, Fire TVなど、Amazon Ads経由で出稿可能なサードパーティー広告はスポンサー広告と共通のダッシュボードで設定・管理できるようになった。AI機能により自然言語でのリアルタイム分析も可能となり、状況把握から意思決定までのスピードが向上する。

この統合によりKPIの定義や見方も揃い、施策ごとの効果をスピーディーに判断できるようになる。広告全体の成果を横断的に把握し、その場で「次に打つべき一手」を見出しやすくなるはずだ。

Amazon Adsが提示するこれら一連の取り組みは、広告主であるEC事業者が日々直面する課題をシンプルかつスマートに解決するための統合ソリューションといえる。

動画制作も分析も“AI任せ”へ──広告運用はどこまで変わるのか

もう一つの注目ポイントが、AIを活用した広告制作・運用・分析の“実務レベルでの高度化”である。

約5分で広告動画を自動生成
商品詳細ページの情報をもとに、約5分で最大6パターンの広告動画を自動生成できる機能が導入された。動画の品質は商品詳細ページの情報量に左右されるため、商品情報の充実がこれまで以上に重要となる。コピー変更や尺の調整、シーンの入れ替えといった編集も可能で、生成後はスピーディーに配信設定まで完了できる。なお、生成された動画はAmazon Ads向けに最適化され、外部プラットフォームへの持ち出しは不可である。

Amazon内で広がる動画訴求
広告動画は、キーワード検索結果や商品詳細ページに表示されるスポンサーブランド広告枠に掲載される。静止画では伝えきれなかった商品の特長を訴求でき、競合商品との差別化に寄与するだろう。

オーディエンス設定と分析もAIが支援
Amazon Marketing Cloud (AMC)経由で利用できるAIアシスタント機能(Ads Agent)により、分析したい内容を自然言語で入力するだけで、SQLクエリを自動生成して実行。高度なデータ活用のハードルは大きく下がる。また、キャンペーンの目的や対象を自然言語で入力すれば、AIが推奨オーディエンスを提示し、配信ボリュームまで見積もる。これまで担当者の経験や勘に頼りがちだった領域を、AIが強力に補完する。
このAds Agentの機能は2026年第一四半期に提供される予定だ。


少人数でも成果を出すことが求められるEC事業者にとって、運用の複雑さを減らし、判断スピードを高めることは大きな競争力になる。Amazon Adsが掲げる「シンプル×AI」という方向性は、そうした現場の要請に真正面から応えるものだ。

「Ads Agent」はAMC(Amazon Marketing Cloud)で利用可能なAIアシスタント機能


記者プロフィール

湯浅 英夫

フリーライター。新潟県上越市生まれ。1992年、慶應義塾大学理工学部機械工学科卒。PC、スマートフォン、ネットサービス、デジタルオーディオ機器などIT関連を中心に執筆。主な著書に「挑戦すれば必ずできる 自作パソコン完全組み立てガイド」(技術評論社)、「大きな字だからスグ分かる!エクセル2013入門 Windows 8対応」(マイナビ)、「Excel2000 300の技」(技術評論社)がある。

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