アテニアはなぜ「AI接客」を実装したのか “ハイブリッド通販”を加速する新たな一手

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湯浅 英夫

多くのEC事業者が直面している、新規顧客獲得コストの高騰とLTV(顧客生涯価値)の伸び悩み。この課題に対し、創業35年以上の歴史を持つアテニアが出した答えは、実店舗で培った“接客の力”をデジタルで再現することだった。

同社が2026年1月に自社のオンラインショップに導入した「アテニア AIビューティアドバイザー」は、従来のシナリオ型チャットボットとは一線を画すものだ。特筆すべきは、音声による自然な対話と、ハルシネーションを抑制する情報の信頼度。同社の接客マニュアルを学習させたこのAIアシスタントは、顧客の「声」をどのように理解し、ブランド価値の向上につなげる可能性を持っているのか。

PoCにおけるつまずきを経てたどり着いた株式会社ZEALSとの開発の裏側と、アナログとデジタルを融合させる「ハイブリッド通販」の最前線を、アテニア社の新海喜顕氏とZEALS社の渡邊大介氏に聞いた。

官能品質と適正価格を軸に、顧客体験を磨くアテニアの「ハイブリッド通販」

化粧品を中心に、健康食品やファッションアイテムも手がける株式会社アテニア。販売は直営の「アテニア公式オンラインショップ」をメインに、各ECモール、全国25の直営実店舗、一部のコスメセレクトショップでも取り扱う。

アテニアがブランドのバリューとして掲げるのが、創業以来35年以上積み重ねる「エイジングケア研究」と、“見て、触れて、香りで感じる心地よさで、心まで満たされる品質”と定義する「官能品質」、そして毎日使い続けられる「適正価格」だ。

同社の新海喜顕氏は「一流ブランドと同等かそれ以上の品質を持った製品を、3分の1くらいの価格で提供しているのが特徴。高価格帯商品をベンチマークにした品質の商品を、中価格帯で提供することにこだわっている」と語る。

こうしたブランド価値を支えるのが、顧客の「悩みに寄り添う」ことを原点とする接客だ。アナログとデジタルを融合させた「ハイブリッド通販」を推進するアテニアは、実店舗での美容部員による丁寧な対話はもちろん、ECにおける顧客体験の向上にも積極的に取り組む。その最新施策となるのが、2026年1月から「アテニア公式オンラインショップ」に実装された「アテニア AIビューティアドバイザー」だ。

株式会社アテニア 事業統括本部 通販営業部 部長 新海喜顕氏

店舗での「自然な会話」をECサイトで再現

「アテニア AIビューティアドバイザー」は、サイトの画面右下に表示されるウインドウから文字(テキストチャット)や音声(通話)で質問をすると、AIアシスタントが答えてくれるもの。アテニアの接客マニュアルを学習した専用接客AIエージェントが対応し、店舗での対面接客のように一人ひとりに合った受け答えをしてくれる。

この「アテニア AIビューティアドバイザー」、よくあるチャットボットとどう違うのか? 実際に「通話」を試してみた。

「肌の悩みがある」と聞いてみると、「どんなお悩みですか?」「例えば、乾燥、シミ、ハリ不足など、具体的に教えていただけますか」などと返してくれる。そうしてAIアシスタントと対話をしていくうちに、こちらの悩みが絞り込まれていき、やがてアテニアの商品が同じウインドウ上に提案され、画像をクリックすると購入ページに遷移できる仕組みだ。

驚いたのは発話の自然さ。こちらが曖昧な内容で話しかけてもスムーズに答えてくれ、悩みを絞り込むように誘導してくれる。会話に詰まることがない。

テキストチャットにも対応しているが、通話(音声でのやり取り)にすると、まるで人間の店員が画面の向こうにいるように、自然に対話できる。何よりも、従来のチャットボットにありがちな、同じやり取りが何度も繰り返されて堂々巡りなったり、こちらの質問が理解されず見当違いな答えが返ってきたりしてストレスを感じることがない。これなら質問してみようかと思うユーザーは多いのではないだろうか。

AIアシスタントとのやり取りは画面右下からあらわれるウインドウで行う(画像は「アテニア公式オンラインショップ」での編集部との「通話」をキャプチャ)

顧客との対話がLTV向上につながる

化粧品は、特定のメーカーやブランドで全てのアイテムをそろえるのではなく、「クレンジングはこの製品」「乳液ならこちら」というように、カテゴリごとに異なるブランドの製品を手にする人も多い。

そのためアテニアでは、顧客のLTV向上を課題としている。2025年11月に「上質を、解放する。」という新タグラインと、前述の「エイジングケア研究」「官能品質」「適正価格」という3つのコアバリューを設定。単なる売上・利益追求型のDtoCから、ブランド価値を重視したブランドマーケティングカンパニーへの脱皮を図っている。ブランドを強化し、ファンになってもらい、長く愛用し続けてもらうことがLTV向上につながるからだ。

そこで、同社が改めて着目したのが「顧客との対話」の重要性だった。

「直販ECでは新しいお客様の獲得に課題があり、CPAが上がっているとともに、お客様の定着も難しい。そのような状況で気付いたことが2つある。

1つは、『直販ECと実店舗の両方を利用しているお客様はLTVが高い』こと。実店舗で店員との対話から適切な商品を購入し、適切な使い方をしたことで効果を実感してもらえると、継続性が大いに高まって、アテニアというブランドもセットで覚えてもらえる。私たちの実店舗は全国主要都市に25店ほどと多くはないが、そこで培った接客ノウハウを直販ECでも再現できれば、LTV向上ができるのではないかと。

もう1つは、以前から「アテニア美容相談室」として電話の相談窓口を設けて、美容に関する悩みを聞いているが、これを利用いただいている方もLTVが高いこと。お客様と対話し、お客様の悩みに寄り添うことで商品を買ってもらえる。これを直販ECでも実現したいと考えた」
(新海氏)

アテニアは2025年11月に、新たなタグライン「上質を、解放する。」を制定

そこで、アテニアは「『悩みに寄り添う接客』をECでも実現する」試みに着手したが、最初に組んだ企業と1年半近くPoCを続けたものの、うまくいかなかった。それはECサイトの画面上にアバターが登場して顧客に対応するというものだったが、アバターの口の動きと音声が合わず、さらに、会話の内容もシナリオ通りの特定パターンに陥ってしまうなど、アテニアが望むものを形にすることができなかったという。

実現の鍵は「現場で磨かれたマニュアル」

PoCのつまずきを経て、アテニアが開発のパートナーに選んだのが、接客AIエージェントを提供する株式会社ZEALSだった。新海氏が同社の音声接客AIエージェント「Omakase AI」に出会ったのは2025年5月のこと。その後10月からZEALS社との議論をスタートし12月に実開発に着手、翌年1月には「アテニア AIビューティアドバイザー」としてローンチするという、驚くべきスピード感でプロジェクトは進行した。

実現のポイントとなったのは、アテニアの重厚な接客マニュアルをすべてAIに学習させ、それに基づいた対応のみをさせることだ。

新海氏は「接客マニュアルに基づいたこと以外は発話しないので、AIが勝手なことを言いだしたり、薬事法を無視したり、ありもしないことを言いだすハルシネーションを起こしたりしない。わからないことがあれば、正直に『わかりません』と言う。変なことを言い出さないので失礼がなく、お客様に対してマイナスになることがない」と説明する。

こうしてスタートを切った「アテニア AIビューティアドバイザー」は、すでに効果を発揮しつつある。たとえばECでの売上を上げるためには、目当ての商品に加えてほかのアイテムも買って欲しいところだが、これまで述べたように、それがなかなか難しい。

「『この商品が前から気になっているけれど、自分に合うかどうかわからない』といったお客様は多い。そうした方が『アテニア AIビューティアドバイザー』と対話していくうちに、新しいアイテムを買ってくれるケースが増えつつあり、手応えを感じている」と新海氏は話す。

約3カ月でローンチした「アテニア AIビューティアドバイザー」だが、ZEALS社の渡邊大介氏は「実際の開発作業は1カ月弱ほど、その前の2カ月は『AIとの対話を通じて、お客様はどんな体験ができるのか』といったことを、アテニア様と話し合いながら設計する期間だった」と振り返る。「Omakase AI」導入を希望する企業があれば、同じくらいの期間で導入できるという。

株式会社ZEALS 執行役員 渡邊大介氏

「『Omakase AI』はローンチから1年少ししか経っていないので、プロダクト自体が現在も進化中。導入いただく企業にはそのスピードごと体験いただいている。今後は、AIエージェントとお客様のコミュニケーションから見えてきたものをベースにして、購買導線的な役割だけでなく、Webマーケティング全体に効果を波及できるようになれば良いと考えている」(渡邊氏)

※参考記事:ZEALS、「Omakase.ai」が日本語音声に対応 Spartyが国内最速導入(ECのミカタ)

開発を進めるアプリ版で、よりパーソナルな体験へ

なお、「アテニア AIビューティアドバイザー」は現在PCとスマートフォンのWebブラウザ上で動作しているが、iOSやAndroid向けアプリ版も開発中とのこと。アテニアは公式アプリ経由の購買が多いため、同サービスがアプリで展開できればLTV向上にも貢献するだろう。

※参考記事:アテニア、「オンライン接客AI」導入 EC上で“対面接客の寄り添い”を実現(ECのミカタ)

「アテニア AIビューティアドバイザー」のもとになっているのは、蓄積された専門知識と実践で磨かれた接客技術が詰まったマニュアルだ。これがあったからこそ、回答の精度を保ちつつ“人の温度”が感じられるAIアシスタントを、スピード感をもって実装することができた。

「今回、声でAIと会話できるようになったが、私たちがもともと考えていたのは、映像としてもリアルなAIが(ECサイト上で)自然に接客すること。より、実際の店舗で美容部員と話しているのに近い感覚が欲しい。自分のことをよく知ってくれている、専用コンシェルジュのいる世界観が実現すれば、ブランドの利益にも間違いなく結び付くと思う」(新海氏)

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ECサイトに訪れたユーザーを「いかに少ないステップで購入に導けるか」を競うのではなく、AI技術も駆使して、まず「顧客の悩みや迷いに耳を傾ける」。「アテニア AIビューティアドバイザー」で挑戦しているのは、より長く、深く顧客との関係を築くためのアプローチだ。接客マニュアルという「アナログな資産」を、最新のAIで「デジタルな体験」に昇華させる取り組みは、単なる売上追求型から、ブランドマーケティングカンパニーへと脱皮しようとするアテニアの意志の表れと言えそうだ。


記者プロフィール

湯浅 英夫

湯浅 英夫

フリーライター。新潟県上越市生まれ。1992年、慶應義塾大学理工学部機械工学科卒。PC、スマートフォン、ネットサービス、デジタルオーディオ機器などIT関連を中心に執筆。主な著書に「挑戦すれば必ずできる 自作パソコン完全組み立てガイド」(技術評論社)、「大きな字だからスグ分かる!エクセル2013入門 Windows 8対応」(マイナビ)、「Excel2000 300の技」(技術評論社)がある。

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