クラウド型ECサイト基盤で実現する 真の『個客』マーケティング
スクラッチ開発された既存のECサイト基盤の多くは、拡張性が十分ではなく、レコメンド機能等の実装や、新たな決済手段への対応が困難となるケースが少なくない。今回、市場で存在感を高めているクラウド型ECサイト基盤への移行を機に、顧客一人ひとりに最適化したデジタルマーケティングを実現するためのノウハウを聞いた。
更改のタイミングを迎えるECサイト基盤
■旧態化が進むECサイト基盤に共通する課題とは?
山本:
最近、Apple PayやQRコード決済のように、リアル店舗で用いられてきた新たな決済手段を、ECサイトでも使えるようにしようという動きが出てきています。また、既存のECサイト基盤において個人に最適化したレコメンド機能を実装したいというニーズや、国内ECサイトを海外向けに横展開したいというニーズも増えています。構築から数年〜10年程度が経過したECサイト基盤の場合、こうしたさまざまな拡張を行うには、基盤そのものに大がかりな改修を加えたり、あるいは全面的な再構築が必要になったりと、拡張性の低さが共通課題となっています。
平部:
かつてのECサイト基盤は、スクラッチ開発やパッケージをベースにした開発が一般的でしたが、それはモノリスと呼ばれる一枚岩のようなシステムであり、外部サービスとの接続はあまり考慮されていませんでした。この2〜3年で注目されるようになっているのが、拡張性に優れたクラウド型のECサイト基盤サービスです。当社(セールスフォース・ドットコム)の「Salesforce Commerce Cloud」(以下Commerce Cloudと表記)は、ECに重きを置くグローバル企業で広く採用されています。
山本:
実際、TISにも一昨年頃から「Commerce Cloud」の引き合いが急増しています。たとえば、アパレルやコスメのように、ECの比率の高いお客さまがEC基盤を刷新するケースや、これまで電話で対応していた注文受付をEC化するといったケースが代表例です。企業にとって、ECサイト基盤についてもクラウドファーストの意識が急速に高まっていると感じます。
平部:
「Commerce Cloud」は、個別に開発したカートリッジと呼ばれるプログラムを加えることで、外部のサービス(各種決済サービス、商品レビュー機能など)と柔軟に連携でき、拡張性が非常に優れています。お客さまが利用中の既存のECサイト基盤がオンプレミスであれクラウドであれ、“外部サービスとの連携が困難”という課題が生じた時が、 クラウド型ECサイト基盤への移行を検討するタイミングと言えるでしょう。
クラウド型ECサイト基盤の導入効果とは
■「Commerce Cloud」導入でもたらされるメリットは?
平部:
これまで、ECサイト内での商品検索結果やコンテンツを顧客ごとに最適化して出し分けるには、裏側の仕組みとしてMA(マーケティングオートメーション)ツールやDMP(データマネジメントプラットフォーム)といった大がかりなシステムを設ける方法が一般的でした。一方、「Commerce Cloud」には、パーソナライズドレコメンドを実現する機能が標準搭載されています。これは、過去の購買履歴やページ閲覧履歴をAIで分析し、商品検索結果やコンテンツ表示を最適化するもので、ECの強化を目指すあらゆる企業にとって大きな訴求ポイントになっています。
山本:
他にも、「Commerce Cloud」導入企業から好評なのは、国内のECサイトを容易に海外へ横展開できる点です。特にオンプレミスのECサイト基盤の場合、国ごとに異なる通貨・言語に対応させるローカライズ作業は非常に困難。「Commerce Cloud」で構築したECサイト基盤であれば、海外現地の通貨や言語、送料などに対応させるカートリッジを組み込むことで、容易にローカライズできます。
■パーソナライズドレコメンドで期待できる導入効果は?
山本:
ECサイトを訪問する一人ひとりの購買履歴等をふまえて、その人の嗜好にあった商品やコンテンツを提示することで、売上増が期待できます。つまりパーソナライズドレコメンドは、リアル店舗で行われている、店員による接客に相当するものと言えるでしょう。ECサイトの場合、訪問者一人ひとりの嗜好に合わせて最適なコンテンツを選定する作業は人間の力では対応できませんから、「Commerce Cloud」のようにAIを利用したレコメンドは重要なキーテクノロジーです。
平部:
これまで、国内のECサイトでは、「1番売れている商品」のランキングを目立たせる構造が多かったと思います。最近は、個人に合わせたコンテンツで“特別感”を醸成して購買意欲を高めたいという企業ニーズが高まっており、パーソナライズドレコメンドはお客さまが最重要視する機能の一つになっています。
山本:
「Commerce Cloud」のAIが特に優れているのが、学習データを用意しなくて済む点ではないでしょうか。過去にどんな商品を購入したか、どのページを閲覧したかの情報をAIが解析し、その人にあった商品が自動表示される仕組みになっています。別途DMPを構築することなく、顧客へ特別な体験を提供できるECサイト基盤が実現できるのは、「Commerce Cloud」ならではの導入効果です。
「Commerce Cloud」でオンライン/オフラインの 購買情報を一元化するには
■購買情報を一元的に把握するために必要な仕組みとは?
山本:
マーケターにとっての共通課題となっているのが、ECサイト/リアル店舗の両方で「誰が何を購入したか」を把握するための仕組みづくりです。「Commerce Cloud」を導入した段階では、まだオンライン/オフライン統合は完了していません。リアル店舗における購買情報を、ECサイトと同様に個人と紐付ける必要であり、そのための手段の一つに、ロイヤリティプログラム(ポイントシステムや会員ステージなど)があります。
店舗での購買イメージは、来店者がレジで会員IDをスマホアプリやカードで提示してから会計を行うというもの。ポイントの会員IDをECサイトにも登録することで、会員はオンラインでもオフラインでも同様に、ポイントを利用でき利便性が向上します。また、店舗側から見ると、販売チャネルを問わずすべての購買情報を一元的に個人と紐付けて管理することが可能になります。
平部:
これまで、百貨店やショッピングセンターでは、提携クレジットカードを発行することで、オンライン/オフラインの購買情報を一元的に把握する仕組みがよく用いられてきました。しかし、この場合、クレジットカードを持っていない人の購買情報は、取りこぼれていることになります。ポイントシステムを導入して、会員ID軸にした購買管理とすることで、分析のターゲットを大きく拡大することができます。
■「Commerce Cloud」にポイントシステムを加えるには?
平部:
ポイントシステムという発想は日本独自のもので、グローバル市場を対象とした「Commerce Cloud」はポイントシステム機能が標準搭載されていません。しかし、カートリッジ開発による機能追加が可能であるため、日本市場を熟知した国内SIベンダーに、ポイントシステム用のカートリッジ開発に期待しています。
山本:
TISでは現在、クラウド型のポイントシステムを開発中です。近い将来、「Commerce Cloud」と同システムを連携させるためのカートリッジも市場投入し、簡単にロイヤリティプログラムを実現できるようにしていく計画です。カートリッジ開発については、セールスフォース・ドットコムの技術協力を得ながら進め、早期提供を目指します。
平部:
我々セールスフォース・ドットコムだけで、「Commerce Cloud」を国ごとに異なる商習慣に対応させることは難しく、SIベンダーの皆さんの力が必要です。中でもTISは、当社製品の導入支援で非常に高い実績があり、安定感とQCDに優れていると感じます。より使い勝手のよいECサイト基盤となるよう、引き続き協力をお願いしたいと思います。
おわりに
ECサイト基盤をクラウド型へ移行することで、拡張性が強化されるだけでなく、より質の高いレコメンドや「個客」対応が可能になります。TISは、ECのフロントとなる「Commerce Cloud」のコンサルティング・導入支援に加え、ECに欠かせない受注・在庫確認等を担うバックエンドのシステム構築を含めトータルで対応いたします。興味を持たれたマーケターの方は、お気軽にご相談ください。
・取材日:2020年1月21日
・場所:TIS bit & innovation
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