【第1回】EC繁盛店に必須の「著作権など知的財産ミニ講座」と「プロモーション豆知識」

瀧本 裕子

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【本日スタート!】
せっかく、いい商品を売っていても、いいサイトを作っても、それがお客様に知られなければ、存在しないのと同じ事です。
また、たくさんのお客様に知ってもらうために、様々なプロ−モーションや販売促進を行いますが、その際には、他人の著作権などを侵害しないように注意が必要です。

このコラムでは、EC繁盛店になるために必須の「著作権など知的財産ミニ講座」と「効果的なプロモーション」についてお話させていただきます。
皆さまが日頃運営されている中で、日頃の疑問・質問等がございましたらぜひお知らせください。コラムの参考にさせていただき、コラム内にて一部回答させていただきます。

【コラム連載予定】
第1回 オリンピックの名称、キャッチフレーズの利用について
第2回 WEBデザインにまつわる知的財産権(著作権、肖像権、商標権)
第3回 グッズの販売(仕入れ)にあたり気をつける点
- 違法だとわかっているものを販売した際の店舗の責任は?
第4回 EC繁盛店が行うべきグッズの販促活動(プロモーション)とは?
- プロモーションの手法
- プロモーションにあたり気をつける知的財産
第5回 グッズ開発にあたり気をつける知的財産関連
第6回 対談

「オリンピック開催記念セール」「2020円キャンペーン!」が使えない!?

リオデジャネイロオリンピック、日本選手団の活躍すごかったですね!毎朝起きるたびに誰かがメダルを取っていて、新しいドラマが始まっていました。金12個、銀8個、銅21個で史上最多の合計41個のメダルを獲得しました。ますます、4年後の東京オリンピックへの期待が高まるところですが、ECを運営している皆さま、東京オリンピックにあわせたキャンペーン等を検討するにあたっては注意が必要です。

利用にあたり注意が必要なフレーズ

お店の名前や商品などに「オリンピック」という名称やオリンピックのシンボルマークなどを無許諾で利用することはもちろんのこと、自社の宣伝文句やキャンペーン等で以下フレーズを利用するにあたっても注意が必要です。

・オリンピック開催記念セール
・2020円キャンペーン
・祝・夢の祭典
・祝・東京決定!
・東京オリンピック・パラリンピックを応援しています。
・祝2020年開催
・祝2020年オリンピック・パラリンピック開催決定
・2020年にはばたく子供たちを応援 
(公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会発行 「大会ブランド保護基準」抜粋)

オリンピックの知的財産は誰のもの?

オリンピック・パラリンピックに関する大会エンブレムや大会名称などの知的財産(以下、「オリンピック関連知的財産」という。)は、国際オリンピック委員会(以下、「IOC」という。)および国際パラリンピック委員会(以下、「IPC」という。)が所有しています。
2020年開催の東京オリンピックについては、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、「組織委員会」という。)らがIOCおよびIPCから管理をまかされています。

【オリンピックの知的財産 例】————————————————————————

商標登録例:
 商標登録 第4470504号 「がんばれ!ニッポン!」
 商標登録 第3275674号 「オリンピック」
 商標登録 第5626678号 「TOKYO 2020」

その他参考:
http://www.jpo.go.jp/toiawase/faq/pdf/ioc_joc_shohyo/list.pdf  
(2015年10月25日現在)
 
不正競争防止法による保護例:
 第2条第1項第1号、第2号
 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう)として周知なものを使用して、他人の商品等と混同を生じさせる行為や、他人の著名な商品等表示を無断で使用する行為は不正競争に該当し、侵害の差し止め請求(第3条)および損害賠償請求(第4条)の対象となります。

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したがって、組織委員会に無断でオリンピック関連知的財産を利用すると、商標権、著作権侵害、不正競争防止法違反として損害賠償の支払や刑事罰の対象となります。また、組織委員会ではこれらの権利をもとにアンブッシュ(英語で「待ち伏せ」の意味)・マーケティングといわれる便乗広告も禁止しています。

公益社団法人 日本広告審査機構(以下、「JARO」という。)でも、「商業広告で2020年のオリンピック東京大会を想起させる表現をすることは、アンブッシュ・マーケティング(いわゆる便乗広告)として不正競争行為に該当するおそれがあり、日本オリンピック委員会やIOCから使用の差し止め要請や損害賠償請求を受ける可能性がある。」と指摘しています。

オリンピックにかかる費用

これまでにオリンピックにかかった費用の最高額は2014年のソチ冬期オリンピックで約5兆円といわれています。2020年の東京オリンピックでも約8800億円*1 の費用がかかるといわれています。
(*1 楽天証券試算https://www.rakuten-sec.co.jp/web/special/2020_tokyo/sochi_special.html)。

これらの費用をまかなうために、組織委員会から「スポンサーには、これらの(オリンピック関連の)知的財産の使用権の見返りとして、多額の協賛金を拠出いただいており、この資金が、大会の安定的な運営及び日本代表選手団の選手強化における大きな財源となっています。」とアナウンスされています。

さらに「オリンピック・パラリンピックマーク等の無断使用、不正使用ないし流用は、アンブッシュ・マーケティングと呼ばれ、IOC、IPC等の知的財産権を侵害するばかりでなく、スポンサーからの協賛金等の減収を招き、ひいては大会の運営や選手強化等にも重大な支障をきたす可能性があります。」とも明示されています。

確かに、37%をスポンサーからの協賛金*2 で運営している側としては、誰もがオリンピックの名称等を利用できるとなると、スポンサーが協賛するメリットがみえにくくなり大会運営に支障がでてくるため、阻止したい気持ちは理解できます。
(*2 2013年立候補ファイルより。公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会発行 「大会ブランド保護基準」抜粋)

時限立法、アンブッシュ規制

しかし、商品名やキャンペーンの名称として、オリンッピックという名称やシンボルなどを無断で利用できないことは理解できても、「祝2020年開催」などが利用できないのは、どういうことだろう?と思われる方も多いかと思います。

一つは不正競争防止法による著名な商品等表示(オリンピックなど)の保護が考えられますが、リオデジャネイロオリンピックやロンドンオリンピックでは、上記すべての行為をより強く禁止するために、アンブッシュ規制という時限立法による規制が成立しました。日本でも検討が始まるのではないかとささやかれています。 

アンブッシュ規制とは、近年の大規模スポーツイベントで用いられているもので、大会期間中及びその前後の一定期間内に、アンブッシュ・マーケティングの規制を強化する時限立法のことです。

■ロンドンオリンピックの事例*3  
2012 年に開催されたロンドンオリンピックでは、オリンピック会期中のみ、指定された地域に限定して厳格な広告規制が実施されました。この指定地域内では、原則IOCらの許可を得ない広告は全て禁止されたそうです。

■リオデジャネイロオリンピックの事例*4  
リオデジャネイロオリンピックが開催されたブラジルでも、「Olympic Act」 が2009年に制定されました。この規制により、オリンピックシンボル、オリンピックモットー、Olympic Games、Rio2016 Olympic Games などの表現の使用については、商業的使用に限らず、非商業的使用についても、大会組織委員会又は IOC からの承諾が必要とされています。
(*3  ,*4  出典:パテント2014 Vol. 67 No. 5 「スポーツイベントの商標保護」)

アンブッシュ・マーケティングとして問題になりそうな例

アンブッシュ・マーケティングとして問題になりそうな例ambush marketing

(※組織委員会らに許諾を得ないで下記行為を行った場合)
(出典:公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会発行 「大会ブランド保護基準」)

アメリカではSNSも禁止!?

また、アメリカでは米オリンピック協会がオリンピック関連のSNS投稿に対し注意喚起をして話題となっていました。
GIZMODE(2016.07.28)によると、「スポーツチャンネルのESPNは、米五輪協会のマーケティング担当であるLisa Baird氏から、注意喚起の文書を受け取りました。その内容は、商業団体は企業のSNSアカウントにて、トライアルや試合に関する内容をポストしないこと。のトレードマークを使わないこと、このトレードマークには#Rio2016や#TeamUSAなどのハッシュタグも含まれます。また、報道関連企業以外は、公式五輪アカウントからの写真のリポストやシェアも禁止するともあります」と報じています。

対策まとめ

オリンピックのマークやエンブレムを利用することは、何となく組織委員会らから注意を受けそうだという意識を持っている方は少なからずいると思いますが、オリンピックを連想させるような表現にも利用に注意が必要であるとは意識していない場合が多いのではないでしょうか。

JARO(平成23年4月1日掲載)のサイトでは、オリンピックに便乗した広告と組織委員会らが判断する基準を紹介しています。
(1)権利の主体者の許諾がない場合であって、
(2)商業利用の一環としての使用をし、
(3)企業、団体、個人のイメージアップ、商品価値をあげるために、
(4)オリンピックの用語やマークを使用する場合、
(5)オリンピックのイメージを使用して、権利の主体者と何らかの関係を有するとの誤認を生じさせる恐れがある場合

従って、我々としては以下を意識しつつ、オリンピックを一緒に盛り上げていきたいところです。
1.自社のサイトや商品に「オリンピック」等の名称やシンボルは使用しない
2.日本選手団の映像や肖像を無許可で利用しない
3.自社の広告宣伝やキャンペーン等で、オリンピックを連想させるような表現(フレーズ・イラスト・写真等)は利用しない。
4.アンブッシュ・マーケティングに該当するか迷った場合は組織委員会に確認する

公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会:https://tokyo2020.jp/jp/

他には、近くの弁理士(特許・商標事務所)などの専門家へ確認することも一つの方法です。日本弁理士会では無料の知的財産相談会も全国で行っているので、まずは相談してみるのもよいのではないでしょうか。

日本弁理士会 無料相談会URL: http://www.jpaa.or.jp/?cat=774


著者

瀧本 裕子 (Takimoto Hiroko)

Innovation Bridge 代表・弁理士(特定侵害訴訟代理付記)
広報・マーケティング・知的財産戦略サービス