【第2回】弁護士法人Martial Artsの「EC相談室」〜サイトコンテンツの「パクり」にどう対応する?〜
弁護士法人Martial ArtsがEC事業に関するお悩みに答えるコラム。第2回はサイトコンテンツのいわゆる「パクり」対策について。
【ご質問】
当社のウェブサイトでは,取扱商品のアピールポイントを写真や図などを駆使しながら分かりやすく説明しているページがあるのですが,そこで使っている写真が全くそのまま他社のサイトで流用されていたり,ページの構図がそっくりで,文章もほんのちょっと表現を変えられただけのウリ二つなページが見つかったりしています。このようなサイトに対して何らかの法的な対応はできないものでしょうか。
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※コラム『弁護士法人MartialArtsの「EC相談室」』への質問である旨の明記をお願いいたします。
【第1回】メルマガ配信に関する法規制
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第1 はじめに
ご質問のように,ウェブサイトの全体や一部が盗用されていると疑われる場合,貴社のウェブサイトやそのコンテンツが①「著作物」であり,②その「著作権」を貴社が有しており,その著作物を③盗用者が「複製」等の侵害行為をしたといえるのであれば,盗用した者が貴社の著作権を侵害したということになり,法的な対応が考えられます。
この3つのハードルをクリアすることができるのか,それぞれ見ていくことにしましょう。
第2 ウェブサイトやそのコンテンツは「著作物」にあたるのか?
1「著作物」とは?
貴社のウェブサイトやコンテンツに,①貴社の考えや思いが表現されていて,②その表現が創作的で,③その表現が文芸,学術,美術又は音楽の範囲に含まれていれば,著作物といえます。①から③の中で,問題になることが多いのが,②です。著作物といえるためには,その表現が創作的といえるかが重要なポイントになります。
それでは,「創作的」とは一体どのような場合をいうのでしょうか。この点については,学術的,芸術的であるといった高度なものまでは求められていません。作者の個性が何らかの形で表現されていれば足りるとされています。ただ,たとえ何らかの個性が表現されているといっても,事実をそのまま記述したもの,表現が平凡であったり,ありふれたものである場合には,創作的とは認められません。
そして,事実をそのまま記述しているのに過ぎないのか,表現が平凡であり,ありふれたものであるかどうかというのは,まさにその判断の対象となる表現によってケースバイケースとなりますので,以下,ウェブサイトのコンテンツである,「写真」「図」「文章」「ウェブサイトのデザイン・構成」について個別的に見ていきましょう。
2 写真は「著作物」にあたるか
写真は,著作権法上,「著作物」の例として挙げられていますし,例えば,何に焦点を当てて撮るのか,写真の構図はどうするのか,写真の明るさや光の入り加減はどうするのかなどの点で創作的といえる場合が多く,写真は「著作物」といえる場合が多いものと考えられます。
3 図は「著作物」にあたるか
設例のようなウェブサイトにおいて商品を説明する図について,これがごく簡単なものやありふれたものである場合には,創作性が認められません。図としての見やすさや,図の構成等に貴社独自の創意工夫があるといえるような場合には,創作性が認められる場合もあり得ます。ただ,ウェブサイトに乗せるような図の表現方法はある程度限られている場合が多く,独自の創意工夫があると言える場合はそう多くはないと考えられますので,創作性が認められるためのハードルは決して低くないものと考えられます。
4 文章は「著作物」にあたるか
文章は,決まり文句による時候の挨拶など,創作性がないことが明らかな場合や,文章自体がごく短い場合,取扱商品のアピールポイントを説明するにあたってその表現にならざるをえないといった場合には,創作的に表現されたとはいえないといえます。一方で,そのような例外的な場合を除き,言葉の選択や文章の構成に貴社の何らかの創意工夫が認められる場合には,広く創作性が認められるものと考えられます。
5 ウェブサイトのデザイン・構成は「著作物」にあたるか
ウェブサイトのデザイン・構成それ自体が,「著作物」として保護されるかについては,写真や文章ほど,簡単に「著作物」として保護されるとは言い難いといえます。
もちろん,貴社のウェブサイトに掲載する商品の分類や,選択,配列に創意工夫があれば,創作的と認定される可能性はあります。
しかし,ウェブサイトのデザイン・構成が「著作物」として保護されるかについて,とある裁判例(東京地裁平成26年7月30日判決)は,トップ画像が貼られており,業務内容の説明があり,見積もりボタンが表示され,その他,「よくある質問」「お客様の声」「ご依頼の流れ」等が表示されたサイトの構成について,このようなサイト構成の表現方法は広く一般的に行われているとして,創作性はないものと判断しており,ウェブサイトのデザイン・構成それ自体が,「著作物」であると認められるハードルは低いとはいえないでしょう。
第3 貴社は「著作権者」???
1 著作権者とは?
貴社のウェブサイトやそのコンテンツの一部が,「著作物」といえるとしても,貴社がその「著作物」について権利を主張するためには,貴社が,その「著作物」に関する「著作」を有している,つまり,貴社が「著作権者」である必要があります。
2 従業員に製作させた場合にはどうなる?
ウェブサイトやそのコンテンツについては,従業員が作成している場合もあるでしょう。この場合,著作権者は誰になるのでしょうか。
たしかに,実際に「著作物」を作っているのは,貴社の従業員であって,会社ではありません。
しかし,従業員が職務上作成した「著作物」を,会社が会社の名で公表する場合の著作権は,会社のものになるという規定が著作権法に定められています(著作権法15条。これを「職務著作」といいます。)。ですから,貴社の従業員が作成した場合も貴社が著作権者となります。
3 写真の場合の注意点
写真の場合にも,写真の著作権者は誰なのかが問題になります。
上記の通り,写真が著作物になるのは,写真の撮り方等に創意工夫があるからです。その創意工夫をしているのはカメラマンですから,カメラマンが著作者であり,著作権を有するということになるのです(貴社の従業員が撮影したのであれば,上記のとおり職務著作として,貴社が著作者となり,著作権も貴社のものになります。)。
ですから,外部のカメラマンに依頼した場合には,貴社がカメラマンから,著作権を譲り受けている必要があります。
著作権を侵害されたという主張をしていくためには,貴社自身が自ら著作権者であることを証明することが求められます。そのときに,カメラマンとの間で著作権の譲渡について定められている契約書がないと困る場合があります。ですから,外部のカメラマンに依頼する場合には,著作権の譲渡について明確に定めた契約書が必要になるのです。
4 外部委託している場合の注意点
ウェブサイトの作成を外注している場合にも,同様の問題が起こります。つまり,ウェブサイトの著作権は,ウェブサイトを作成した者にあることになります。ですから,多くの場合,ウェブサイトを実際に作った製作会社が著作権を持つことになります。そこで,貴社が製作会社から著作権を譲り受けなければ,貴社は,権利の侵害について主張できないことになります。
ですから,ウェブサイトを外注に出す場合にも,貴社と製作会社との間で,著作権の譲渡について明確に定めた契約書を作成しておくことが重要になります。
第4 どのような場合に著作権侵害となるのか
1 複製権や公衆送信権とは?
貴社が「著作物」の「著作権者」であるといえる場合,貴社は著作物をコピーする権利を持っていることになり(これを「複製権」といいます。),他者が貴社の許可なくコピーすることは貴社の複製権を侵害していることになります。また,貴社は,「著作物」をインターネット上にアップロードして利用できるようにする権利も持っていることになり(これを「公衆送信権」といいます。),他社が貴社の許可なく勝手に貴社の著作物をインターネット上にアップロードすることは,貴社の公衆送信権を侵害していることになります。
本件では,貴社のウェブサイトの内容がマルマル使われてしまっているものと,少々手を加えているがウリ二つのものとがあるようですので,それぞれの場合に分けて検討してみましょう。
2 そのままコピーされている場合
そのままコピーしてアップロードされているのであれば,複製権や公衆送信権の侵害になることは明らかです。
ただし,貴社のウェブサイトの内容をごく一部だけコピーして使っているような場合には,相手から「引用」しているだけなので違法ではないという反論を受ける可能性があります。たしかに,著作権法32条には「公表された著作物は,引用して利用することができる。」という規定がありますので,「引用」であるといえる場合には著作権の侵害にはなりません。
但し,「引用」であるとして認められるのは,その引用が「公正な慣行に合致するものであり」,なおかつ「引用の目的上正当な範囲」でなければならないものとされています。具体的には,引用している部分を明確に区別したうえで,引用した部分が,全体から見たときにメインではなくサブとしての位置付けになっていれば,引用として認められるものと考えられています。
ですから,貴社のウェブサイトから引用していることや引用部分が明確になっていて,引用部分が相手のウェブサイト全体から見たときに,ごく一部分に過ぎないなどといった場合には,貴社のウェブサイトの正当な「引用」であって,違法ではないという場合も考えられます。
3 少し修正した形で盗用されてしまった場合
それでは,相手方の会社が,貴社のウェブサイトの内容をほんのちょっと変えている場合にはどうなるのでしょうか。完全に一致しているわけではないから,コピーではないと反論してきた場合には,どうなってしまうのでしょうか?
この点について裁判所は,完全に一致しなくても,「表現上の本質的な特徴」が一致していれば侵害になると判断しています。要するに,多少表現が変えられているとしても,表現の重要部分の特徴が一致しているといえるレベルであれば,それは違法なコピーだと考えるのです。
ですから,貴社のケースでも,文章については,「ほんのちょっと表現を変えられただけ」で,「ウリ二つ」なようですから,貴社の著作権の侵害であるといえる可能性も十分にありそうです。
権利が侵害された場合の対処方法を次ページにて解説
第5 権利が侵害された場合の対処方法
1 内容証明郵便の送付
これまでご説明してきたところを検討して,貴社の著作権が侵害されているといえる場合には,盗用している者に対して,盗用を止めるように請求していくことになります。
具体的には内容証明郵便に,どのウェブサイトのどの部分が,貴社の権利を侵害しているのかを記載し,即座に削除するように記載して送付することになります。損害賠償を求めるのであれば,具体的な損害の金額や振込先等を記載して,送付することになります。なお,内容証明郵便の発送方法等については,次のホームページをご参照下さい。
https://www.post.japanpost.jp/service/fuka_service/syomei/(郵政事業株式会社HP)
盗用を止めさせることだけが目的なのであれば,内容証明郵便を送付することによって,相手が該当部分を削除し,対応を終了できる場合も多くあります。一方で,内容証明郵便を送付しても,削除してくれない場合や,損害賠償に応じない場合には次のステップに移ることになります。
2 民事訴訟
内容証明郵便を送付しても,削除に応じない,損害賠償に応じない場合には,裁判を起こすことになります。裁判を起こす場合には,専門的な準備が必要になりますので,弁護士にご相談いただくのが確実です。
ちなみに,損害賠償請求をしたとして,結局どれくらいの金額が認められるのかが気になると思います。例えば,写真の著作権者(写真等の素材提供会社)が,勝手にそれらの写真をウェブサイトに利用していた相手を訴えたというケースでは,写真1枚について正規料金である4万2000円を損害額とした裁判例があります(東京地裁平成27年4月15日判決)。
3 刑事手続
一部の例外を除き,著作権を侵害した者に対しては,刑事罰が定められています。
刑事罰を課すことを求めるためには,捜査機関に対して告訴状を提出するなどして捜査を求めることになります。但し,実際には,捜査機関のマンパワーの問題で,捜査する事件を重大なケースや証拠が揃っているケースに絞り込む傾向があります。ですから,ホームページが丸々そのまま盗用されたなどというケースであればともかく,盗用された部分が一部分であるとか,そのまま盗用されたわけではなく一部修正したうえで盗用されていて,刑事裁判で勝てるだけの立証が難しいケースなどでは,なかなか告訴状を受理してもらえないケースも想定されます。