2023年のECモールの動向を振り返る

山本 真大

こんにちは、国内外の主要ECモールの推計データを提供するデータカンパニー、株式会社Nintでデータアナリストをしている山本と申します。

いきなりの質問で恐縮ですが、皆様は国内のEC市場の動向をどのように確認されてますでしょうか。バイヤーへの確認、競合メーカーとの情報交換、自社ショップでの把握、流通業の方への確認などいくつか方法はありますが、実際にEC市場全体でどのようなことが起きているかを俯瞰して確認するのは案外難しいものです。

Nintではそのような課題を解決すべく、Nint ECommerceというツールを提供しています。これは、国内のEC市場の約7割を占める、3大ECモール(楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング)のジャンル別・ショップ別・商品別に売上・販売数量を確認できる市場把握から商品戦略にまで使用できる画期的なツールです。※ご提供の売上・販売数量は推計値です。
本連載ではこのNint ECommerceを使って、3大ECモールを分析していきます。

第1回のテーマは「2023年のECモールの動向を振り返る」です。

2023年EC市場ではどのようなことが起きていたのでしょうか。3大ECモールの動向を早速確認していきます!

国内3大ECモールの動向から振り返る2023年

3大ECモールの全ジャンルを対象とし、8ジャンルの独自ジャンルへと分類、2023年の動向を確認します。※調査方法の定義に関しては、備考にて記載しております。

図1:3大ECモール モール横断共通データベース分類によるバブルチャート

縦軸は、2022年からの成長額です。これは、各ジャンルが2023年に「金額ベース」でどれだけ成長したかを判断する基準になります。横軸は、ECモール市場全体の成長率と各ジャンルの成長率の差分です。ECモール市場全体の成長率を基準に、それぞれのジャンルがどれだけ成長したかを判断するための指標としました。

ジャンルの円は、売上規模を示します。円が大きければ大きいほど、市場規模が大きいことを示します。

<好調ジャンル>
注目は右上の領域のジャンルです。市場平均より成長率が高く、成長額も大きい、まさに2023年で注目のジャンルと言えます。ここには、「衣類」「服飾雑貨」ジャンルが存在します。

<不調ジャンル>
左下の領域にも注目です。こちらは市場の成長率を下回り、前年からの売上の落差が大きくなった不調なジャンルが属します。こちらには「映像・音楽ソフト」と「書籍」が存在します。

衣類ジャンルには、男性用・女性用・キッズ用・アウトドア用、スポーツ用など、直接着る服を分類しました。

服飾雑貨には、アクセサリーや装飾品・時計・靴・手袋、マフラーなどを分類しています。

好調ジャンルから深堀する2023年

先ほど、国内の3大ECモールでは「衣類」「服飾雑貨」が好調とお伝えしました。2つのジャンルの中で、売上比率の高い下位ジャンルからその動向を確認します。衣類ジャンルからは「レディースウェア」「メンズウェア」、さらに服飾雑貨ジャンルからは「靴」「ファッション小物(帽子・手袋など)」を見ていきます。

図2:3大ECモール 衣類・服飾雑貨ジャンル(一部) バブルチャート

図1のバブルチャート同様、縦軸は下位ジャンルの成長額を示します。横軸は下位ジャンルの成長率と親ジャンルの成長率(この場合は、衣類・服飾雑貨)の差分(親ジャンル成長率−下位ジャンル成長率)です。

結果を見ると、「靴」がひと際目立つ成長をしていることが分かります。「レディースウェア」よりも「メンズウェア」の方が成長率が高い点も注目です。

ECモールの市場では「メンズ向け需要」が大きくなっているのかもしれません。一番好調である「靴」ジャンルも「メンズ向け」「レディース向け」「キッズ向け」といくつか属性が分かれるジャンルです。2023年、最も好調に推移した「服飾雑貨」の「靴」ジャンルを、メンズ・レディース・キッズなどの「属性」と「商品ランキング」の2つの軸から分析してみましょう。属性を分析することでメンズ需要が本当に存在するのかを確認し、さらに商品ランキングを見て消費者の購買行動を把握します。

属性から分析する2023年

早速、靴ジャンルの属性別売上を確認していきます。

図3:靴ジャンル属性別売上推移

どうやら靴ジャンルの伸長は、メンズの売上伸長額の影響が大きいようです。2023年の3大ECモールのトレンドは「メンズ向け」の「靴」「衣類」だったと推察します。

2023年・2022年のランキングから見る、需要の変化

次に靴ジャンルのランキングを確認します。各年とも1月から12月までの売上結果をモール別・ショップ別・商品ページ別単位で集計、結果をまとめました。

図4:靴ジャンル 2022年・2023年売上TOP10商品

2023年は「移動・外出」の需要が高まった年だと考えます。

アフターコロナを迎えたことで、移動する機会が増加、若年層を中心に外出用としてスニーカーの購入傾向が高まったと考えられます。また、出社時にサンダルへ履き替える、夏の暑い時期はサンダルで外出するなどの需要から、サンダルの需要も増加傾向であったと思われます。興味深いのは、ビジネスシューズが上位ランキングから姿を消したことと、代わりに安全靴がランクインした点です。このような売れ筋商品のトレンドを深く分析すると、消費者の購買行動の変化や新たなニーズの発見につながりそうです。

まとめ

2023年の3大ECモールの市場全体と主要なジャンルを、成長率と成長額の観点から分析することで、その動向を確認しましたが、いかがだったでしょうか。

今回の調査で、Nint ECommerceによってEC市場全体の把握ができるだけでなく、商品単位の粒度で詳細なデータ分析ができることを知っていただけたら幸いです。

次回連載はその機能を活用し、「EC市場において季節性の高いカテゴリーの動向」を見ていきたいと思います。

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Nint ECommerceは、大手ECモール(楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピング)の公開データを独自技術で集計し、商品カテゴリ別の流通額やメーカー別シェア、モールに出店する企業の商品毎の売れ筋商品や広告施策の動向分析といった市場動向データを提供することで、EC運営の意思決定をサポートします。
詳しくは、サービスHPをご覧ください。



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備考

※【1:国内3大ECモールの動向からみる2023年】の項目にて行った調査に関する定義は、以下になります。

【調査定義】

期間:2023年1月~2023年12月

ジャンル:3大ECモールの全ジャンル対象

集計方法:経済産業省が発表した、「令和4年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に 関する市場調査)」 BtoC物販系分野に分類される、8ジャンルのいずれかに(株)Nintが独自に分類を行い開発したモール横断共通データベースを活用。 各ジャンルの「成長率(市場対比)」「成長額(ジャンル自体)」「市場規模」の3点からまとめ、集計。

備考:「その他」ジャンルは除外しています。ジャンル分類は(株)Nint独自での分類の ため、一部経済産業省が発表しているジャンル分類と異なる可能性がございます。

■本記事の転載・一部転載に関しては、株式会社Nintへご連絡ください。
■調査対象:Nint推計データNint推計データは、AIやクローリングなどの技術により⽇本国内の3⼤ECモールで販売される商品の売上⾦額・販売数量を⾼精度に推計したデータに、サイト内でのプロモーションデータ等を加えた、EC市場の総合的な分析を可能にするビッグデータです。

データ抽出期間
2022年1月~2023年12月
※本稿における Nint 推計データは 2024年1⽉時点のものを使⽤
作成:山本 真大(Masahiro Yamamoto)
編集:村上 咲(Saki Murakami) 瀧坂 義尚(Yoshinao Takisaka)


著者

山本 真大

株式会社明治の菓子営業としてキャリアをスタート、IT業界、流通業界・他業界でのメーカー職を経験し、オフライン市場における、製造・流通の知見を学ぶ。
EC業界の今後に魅力を感じ株式会社Nintへ入社。営業・カスタマーサクセスを経て現在のアナリスト業務に従事。
EC市場を分析したブログ記事を中心に執筆中。