楽天支援21年で見えた「構造的に勝ち続ける」羅針盤――戦略の失敗は戦術では取り戻せない【第1回】
来年、2027年は楽天市場が誕生して30年となる節目の年。わずか13店舗からスタートした楽天市場は、いまや5万を超えるショップが出店する巨大ECモールへと成長したが、その分ショップ間の競争は過熱し、「売上が思ったように伸びない」「広告費の負担がきつい」といった声も聞こえてくる。
そうした課題を解消し、楽天でのショップ運営を事業として伸ばすためには、いま、何が必要なのか。20年間にわたって楽天出店企業を支援するネットショップスタジオの桑田晋一氏が「楽天市場の構造」を緻密に分析し、「今とるべき『戦略と戦術』」を提示する書き下ろしコラム。(全3回)
はじめに:なぜ今、楽天の「構造」を語るのか
僕が初めてECに携わったのは大学4年生のインターンの時、2005年。
楽天市場ができたのが1997年なので、楽天市場ができて8年目、当時楽天のワインジャンルでトップ店舗(楽天ショップオブザイヤー店舗)だった、ワイナリー和泉屋さんの運営支援を行っていました。そのまま新卒でEC支援会社を設立し、合計21年間、常に楽天市場に出店されている企業様の支援・コンサルティングを行ってきました。
その20年間で日本における物販ECの市場規模は15兆円を超え、日本全体の流通の約10%がECで購入される時代となりました。楽天市場も誕生から30年の節目を前に、流通総額6兆円規模に到達しています。しかし、市場としての魅力が高まる一方で、小手先のテクニックだけでは、安定的に成果を出し続けることが難しい環境になってきたと感じています。
そうした背景の中で当社では、今から10年以上前から、短期的なEC戦術のPDCAだけでなく、年単位でのEC戦略・構造そのものに向き合うことを重視してきました。その結果、単発ではなく、事業として成立する形で成果を積み上げてきた実感があります。
主なクライアントは、年商100億円以上を目指すメーカー企業様です。その皆様と一緒に培い、体系化してきた「楽天の売上構造」を、ここで公開していきたいと思います。
楽天の構造は「戦略」と「戦術」に分けられる
まず、前提としてひとつ大事なお話からです。
楽天の構造は「戦略」と「戦術」に分けられます。実は楽天市場に関わっている運営者、及びコンサルティング会社のほとんどが、ここを間違っています。
「楽天は売上が伸びない」
「売上が伸びても赤字になる」
「広告費をかけた時だけ売れる」
こういった声が出てくるのは、楽天市場の「戦略」「戦術」構造が理解できていないからです。
戦略と戦術の定義
まず、言葉の定義からご説明します。
● 戦略:何をするか、何をしないか
● 戦術:どうやってやるか
『戦術の失敗は戦略で取り戻せるが、戦略の失敗は戦術では取り戻せない』という言葉があります。つまり、戦略の方が上位概念です。ここが重要なので、ぜひご確認いただきたいです。戦略が間違っていたら、戦術レベルでいくら頑張っても、事業としては上手くいきません。これが大部分の楽天店舗に起きている実態です。

楽天を「事業」として捉える視点
さて、ここからが楽天売上構造の解説に入っていきます。
まず、「事業の目的」とは何でしょうか。
売上を上げ、利益を上げることだと思います。良い商品をお客様に届け、社員にも給料を支払い、しっかり納税もする。これが企業・事業の存在意義だと思います。売上を上げ、利益を上げる。それを一過性にせず、継続して長期間積み上げていく形。それが事業として良質な状態ではないでしょうか。
楽天市場においても、同じ考え方が必要です。
■事業として安定させるための「シェア」という考え方
では、どうすればそういった事業構築ができるのでしょうか。
重要なのは、マーケットシェアをとるという発想です。一定のシェアをとってしまえば、それをディフェンスすることは容易になります。少ないリソースで、シェア・売上を維持する構造を作ることが可能です。これは事業の目的である、売上・利益の確保に直結します。
■継続的な売上を生むための「セグメント」
次に重要なのが、売上・利益を継続的に確保し続けること。
そのために重要な言葉が「セグメント」です。「市場」と言い換えても良いかもしれません。どのセグメント=市場でシェアをとるのか。これが、事業として勝ち続けられるかどうかを左右します。結論からお伝えすると、自社の強み・資産を活かせるセグメントを選定すべきです。
自社の強みを活かせる「セグメント」とは
具体例としてわかりやすいのが、歴史のあるメーカー企業です。本人達は当たり前すぎて気づいていないのですが、長年同じ商品に対して、食品であれば味のPDCAを回してきた歴史があります。
これは他社にはまず真似ができません。同じ歴史を今から積み上げることは不可能だからです。であれば、この強みを活かせるセグメントでシェアを獲得できれば、他社は真似をすることができず、永続的に勝ち続けることが可能です。これが、構造的に勝てるセグメント選定です。
楽天で永続的に勝つためには、楽天市場の中だけを見るのではなく、日本経済全体の中での自社の立ち位置を俯瞰して捉える視点が重要になります。具体的には、歴史、物流体制、ブランド、商流上の立ち位置、全販路(流通チャネル)、シェア状況、社内の組織構造などを整理し、それらの強みが、楽天市場という全国規模で競合するマーケットの中で、どのセグメントにおいて最も活かせるのかを考えていきます。この整理によって、短期ではなく、永続的に勝ち続けられる構造を描くことが可能になります。
自社の強みが活かせる「セグメント」の具体例として、実際に支援した2社の事例をご紹介します。
複数のカテゴリ(仮に「食品ジャンルA」「食品ジャンルB」「お菓子ジャンルC」)で売上構成されている企業様でした。
同社の認識では、「食品ジャンルA」は歴史があり成熟市場である一方、ECでの優先順位は低く、逆に「食品ジャンルB」を今後の成長領域と位置づけ、人的リソースと広告費を集中的に投下していました。しかし楽天での売上は年商2,000万円前後で伸び悩んでいる状況でした。
当社で3C分析を行った結果、楽天市場においては「食品ジャンルA」は競合が限定的で、これまで積み上げてきた商品力を適切に訴求することで、十分にシェア獲得が可能だと判断しました。
そこで「食品ジャンルB」へのリソース投下を見直し、「食品ジャンルA」に集中する戦略へ転換。その結果、約3年で年商1億円規模まで成長し、広告費率も5%程度に抑えることができました。
ドラッグストアを中心に流通を持つメーカー様で、楽天ではEC専用商品の育成を目的に多額の広告投資を行っていました。広告投下時には売上が伸びるものの、停止すると失速する状態が続き、年商は2,000万円程度に留まっていました。
3C分析の結果、まずは既存のドラッグストア流通品において、指名買いのシェアを獲得することが最優先だと判断しました。楽天市場は、一定の売上とシェアを獲得すると、加速的に成長しやすい構造を持っているためです。
この方針に切り替えた結果、約2年後には年商2億5,000万円規模まで成長しました。なお、当時のEC事業ご担当者はその後部長に昇格され、企業としても上場を果たされています。
楽天における「セグメント」の考え方
①:ジャンル
では、楽天におけるセグメントとは何なのでしょうか。
楽天には商品ごとに、必ず1つのジャンルを紐づけることができます。その紐づきによって、楽天ランキングのどのジャンルに掲載されるかが決まります。これが1つのセグメントです。
例としては【食品 > 惣菜 > 中華惣菜・点心 > 肉まん】
この「肉まん」という単位が、1つのセグメントになります。
②:キーワード
もう一段、難易度を上げたセグメントがキーワードです。
「肉まん」と検索すると、「肉まん ギフト」「肉まん 冷凍」といったサジェストが表示されます。サジェストに出てくるキーワードは、一定の検索ボリュームがあるため、これも1つのセグメントと考えることができます。
ジャンルが大きすぎて自社の強みが活かせない場合、キーワードでさらに細かく市場を切ることが有効です。
③:贈答キーワード
セグメントの切り方には、もう1つあります。それが贈答キーワードです。
「誕生日プレゼント」のように通年通用するもの、「お歳暮」のように季節性のあるものがあります。これらのキーワード候補は無数に存在します。楽天検索窓で様々に検索しながら、自社の強みが活かせるセグメントを探してみてください。

勝てるセグメントを見つけるための3C分析
次に、3C分析についてお伝えします。
3C分析は、
Competitor(競合)
Company(自社)
■3C分析は「Company」から始める
このフレームワークを使用し、自社が勝ち続けることができるセグメントを見つけます。
まず着手すべきは、Company(自社)の分析です。自社の強み、他社が真似できない構造上の強みを、徹底的に洗い出してください。自社が当たり前にやっていることが、実は他社にとっては当たり前ではない。そこに大きな差別化要因があります。メーカーの場合、商品開発の歴史が非常に重要です。
■セグメント選定に「売上目標」を組み込む
ここで、もう1つ重要な要素を加えます。それが「売上目標」です。
事業の方向性は、目標 × 戦略 × 理念で決まります。楽天においては、まず3年の目標設定が良いと考えています。3年後の目標を設定し、現状とのギャップを埋めるために戦略を組み立てる。この視点を入れることで、「やらないことを決める」という戦略が可能になります。
■セグメントと売上規模の関係
セグメントを決める際には、そのセグメントでいくらの売上が見込めるのか、という観点が必要です。この売上規模は、Nint社のツールや楽天ECCに確認することで把握できます。1つのセグメントのシェア獲得で目標が達成できるのであれば、他のセグメントを攻めない、という判断もできます。
■3年後のゴールイメージを描く
セグメントが決まったら、次に3年後のゴールイメージを具体的に描きます。
ここでいうゴールイメージとは、そのセグメント(キーワード検索結果)において、自社の商品がどの程度表示され、どの範囲を面として抑えられているか、を想定することです。このイメージを明確に持ち、途中でぶらさないことが、戦略を一貫して進めるうえで非常に重要になります。
なお、戦略とは「やらないことを決めること」でもあるため、途中で「こちらも試してみよう」と判断が揺れるケースは少なくありません。しかし、こうした判断はリソースの分散を招き、結果として失敗の可能性を高めてしまいます。
■市場に投下する商品の選定
3年後のゴールイメージが描けたら、それを実現するために、市場へ投下する商品を選定します。
これは、経営資源である「ヒト・モノ・カネ」のうち、「モノ」に関わる重要な意思決定です。対象セグメント(市場)における商品レビューなどを分析し、その市場で求められているニーズを把握したうえで、それを満たせる商品を選定する必要があります。もし現時点で適した商品が存在しない場合は、新たに商品を企画していく判断も必要になります。
■3カ年の事業計画を構築する
市場に投下する商品が決まったら、次に3カ年の事業計画を構築します。
ここでは、経営資源である「ヒト・モノ・カネ」のうち、「ヒト」と「カネ」の配分を明確にします。3カ年について、月ごと・市場ごとに、売上、広告費、KPI(アクセス数、転換率、客単価)を設定してください。
あわせて、そのKPIを達成するための大枠の施策イメージも整理します。
詳細な施策レベルまで落とし込む必要はありませんが、この整理を行うことで、カネ(広告費)とヒト(施策にかかる人件費)の配分を事前に判断できるようになります。

まとめ:永続的に勝つための戦略策定の基本
年の目標から逆算し、 いくつのセグメントを、どの優先順位で攻めるのかを決める。そしてそのセグメントに投下するモノ(商品)を決め、事業計画を3カ年分構築することでヒト(施策)・カネ(広告費)の配分を決定する。ここまでが楽天で永続的に勝つための、戦略策定の基本となります。
次回は、戦略の後半となる「戦術」パートに入ります。
セグメントに投下する商品の考え方や、3年後のビジョンをどのように実現していくのかについて、戦術の種類だけでなく、実際に成果を出すための運用方法やPDCAの回し方まで踏み込んで解説していきます。


