UXの向上 - パーソナライズの促進

山崎 徳之 [PR]

山崎徳之のコラムはこちら

コラム#9:コンバージョン向上 ー 検索アクションの最小化
http://ecnomikata.com/ecnews/marketing/6965/

コラム#10:コンバージョン改善 ―がっかりアクションを減らす3つの改善ポイント
http://ecnomikata.com/ecnews/marketing/7032/

コラム#11:行動予測は労働集約から設備集約へ
http://ecnomikata.com/ecnews/marketing/7112/

パーソナライズを行うための重要な情報源


これまで11回に渡って、ECにおけるパーソナライズについて連載してきました。今回は最終回なのでそれらについてまとめてみたいと思います。

そもそもパーソナライズというのはなんでしょうか。

当たり前すぎることですが、消費者個人毎の最適化です。そのために必要なことは、消費者を理解して行動を予測することです。つまるところパーソナライズは、ほぼ消費者の行動予測と置き換えて差し支えありません。

さて、消費者の行動予測をするには、大きく分けて2つの要素が必要です。1つは「消費者を理解するための情報の取得」、もう1つは「取得した情報を予測へとつなげる処理」です。

まず情報の取得ですが、可能であればこれは消費者本人に根掘り葉掘り聞きたいところです。家を買うとか車を買うとか結婚式場を選ぶなどの大きなイベントであれば消費者も積極的に強力してくれますが、通常の買い物ではなかなかそうは行きません。そのため消費者のECサイトにおける行動が主な情報源となります。特にその中でも重要になるのが、商品検索の検索条件です。

ECのパーソナライズをする上でまず重視すべきはこの点です。なぜ検索条件が重要かというと、ECサイトではしいて言えばこれが一番消費者本人から聞くことの出来る詳しい情報だからです。キーワードはもちろん、重視する並べ順、金額範囲、その他さまざまなドリルダウン情報などは、ECにおいて消費者を理解するための情報としては随一であるといえます。

同じくらい重要なものに購買履歴があります。ウォルマートによると、購買履歴ありで10種類のオーディエンスデータによる予測は正解率が90%なのに対して、購買履歴なしで1000種類のオーディエンスデータによる予測は正解率が70%であったそうです。このように消費者を理解するための情報にはプライオリティがあるので、それには重要なほうから扱うようにしなければなりません。

私が思うに、検索条件はクリックスルー(閲覧履歴)よりはるかに重要なのですが、検索条件より閲覧履歴を重視しているサイトは多いのではないでしょうか。もちろん閲覧履歴も有用ではあるのですが、「どんな検索条件によってその一覧が表示されたか」というのは、その一覧の中でどれがクリックされたかより重要です。

ECにおける良いパーソナライズを行うために、まずは検索条件と購買履歴を消費者理解のための重要な情報源として扱うようにしましょう。

予測手法と結果の再活用


次は取得した情報をどう活用して予測を行うかです。こちらについては正解はありません。正解はないというか、シチュエーションというかコンテキストによって変化するので、「万能なものはない」のです。まずECのジャンルによって有効な手法は違います。

例えば食品を買うときと洋服を買うときでは当然予測のための処理は異なります。また同じ洋服(アパレル)であっても、ファストファッションとスーツでは当然違いますし、セールのときと通常時というだけでも最適な予測手法は異なります。

よくある間違いとして、予測手法を先に選択してしまうというものがあります。「協調フィルタリングでレコメンドをする」とか「人工知能を活用して要素分類をする」とか、それらはあくまでの単なる手法の一つに過ぎません。「こういうコンテキストではこうした仮説が成り立つので協調フィルタリングが有効であろう」という前提が先にあるべきです。予測手法というのは、どうしてもオーダーメイドにならざるを得ないのです。

そのためには使えるロジックはなんでも使えることが理想です。ECにおける商品推薦において、ロジックや手法をアピールするのは間違いです。またもう一つ忘れてはいけないのが、予測した結果を再度消費者理解のための入力として扱うことです。

仮説は所詮仮説なので、その結果をフィードバックするループを作り、その精度を上げていくことが重要です。このため本来は予測精度というのは、長く取り組んでいるほど上がっていくべきなのです。現在では機械学習や人工知能など、様々なアプローチにおいて研究が進んでいますが、手法は増えたら増えただけ活用することを心がけて、手法ありきにならないようにしましょう。

消費者を理解し、良い行動予測=パーソナライズを実現できたら、消費者はECサイトを訪れることが楽しくなっていくでしょう。いわゆるUXを向上するということは、ECにおいてはパーソナライズを進めることが一番です。買い物をする一番の楽しみは、やはり商品を選んでいる時なのは間違いありません。


著者

山崎 徳之 (Noriyuki Yamazaki )

青山学院大学卒業後、アスキー、So-netなどでネットワーク・サーバエンジニアを経験。オン・ザ・エッヂ(現ライブドア)のデータホテルを構築・運営の後、海外においてVoIPベンチャーを創業。2006年6月に株式会社ゼロスタートコミュニケーションズ(現株式会社ゼロスタート)を設立、代表取締役就任(現任)。EC向け商品検索やレコメンドエンジンの「ZERO ZONE」シリーズを開発・販売している。

http://zero-start.jp/