日本のソフトパワーで読み解く越境EC最新事情 第一回
海外ユーザー向け購入サポートサービス「Buyee」をはじめとする越境EC事業を行い、6000件以上の日本企業の海外販売を支援するBEENOS株式会社は越境ECの購買傾向などを紹介する発表会を定期開催しています。発表会では主要購買層の年代や国・エリアなどの属性や人気商品ジャンルのランキングや販売数の推移などを紹介するほか、注目商品ジャンル内のランキング発表などを実施しています。
本寄稿では全3回にわたって2024年通期発表会で紹介した越境ECの最新情報を来場者のみに留まらず、より多くの事業者の皆様に提示し、注目の商品ジャンルや購買の傾向などを共有することで越境ECへの参入を後押しできればと考えています。第一回となる「日本のソフトパワーがけん引する越境ECの市場動向」では日本における越境ECの現状と、日本のソフトパワーがけん引する消費傾向について紹介いたします。
1.現在の越境ECを取り巻く状況
※ 日本政府観光局 「訪日外客統計」 https://www.jnto.go.jp/statistics/data/visitors-statistics/ よりBEENOS作図
越境EC市場は継続的な円安を背景として利用が拡大しており、経済産業省の電子商取引実態調査によれば2023年の中国、アメリカが日本から越境ECを利用した金額はあわせて3.9兆円に及び、2020年の約2.9兆円から1.3倍に伸長しています(※1)。今後、世界の越境EC市場規模は2032年までに約16兆ドルに達するとの推計も発表されています(※2)。
BEENOSが提供する越境ECサービス「Buyee」においても流通総額は伸長を続けており、2024年第四四半期は前年比で12.5%増加しました。BEENOSが提供する越境ECサービス「Buyee」をはじめとする越境ECサービスの海外ユーザーの総会員数は2025年2月には600万人を突破し、増加を続けています。
越境ECを取り巻く世界の環境変化として2022年から始まった円安の傾向が一時160円台に到達するなど歴史的な円安が記録されました。その直後には円高傾向が見られましたが再び円安傾向となり、海外ユーザーの越境EC利用の促進につながりました。また、2024年における新たな変化として新型コロナウイルスへの水際対策が落ち着き、入国制限が2022年年10月に解除されて以降、外国人観光客による訪日がコロナ禍以前よりも増加し、2024年中の訪日客数は12月時点で単月3,489,800人を記録し過去最高を記録しています。2024 年の年間訪日外客数は 36,869,900 人におよび、前年比では 47.1%増と大幅に増加しました。(※3)。インバウンドの復活とともに帰国後の買い逃し品の購入やリピート購入などが活発化し越境ECに利用拡大に寄与しています。
日本においては、政府が新たな「クールジャパン戦略」を発表し、コンテンツ産業やインバウンド、食などの基幹産業の海外展開規模を2033年までに50兆円に拡大することを目指すなど、日本のソフトパワー(ブランド力)を向上させることで、日本のファンを増やすことが掲げられています。こうした日本のソフトパワー拡大の流れは経団連が2024年10月に行った、世界における⽇本発コンテンツのプレゼンスを持続的に拡⼤することを目標とした「Entertainment Contents ∞ 2024」の提言にも表れています。アニメを筆頭としたコンテンツ力や商品品質の高さ、独自の日本文化といった日本のソフトパワーはインバウンドの復活の追い風を受けて更なる消費をけん引すると考えられます。
2.日本のソフトパワー
日本のソフトパワーを支えるアニメやマンガなどのエンタメ商品や、ホビー商品、釣りやゴルフなどのレジャー商品やビューティー・ヘルスケア商品から飲食料品まで、日本独自のコンテンツ力や品質の高さといったソフトパワーの魅力によって日本商品は海外ユーザーの注目を集めています。例えば世界の玩具・ホビー市場は2023年の2542.9億ドル(約39兆円)から、2032年までに3547億ドル(約54兆円)まで成長が見込まれています(※4)。
2023年に日本の玩具・ホビー市場は過去最高の1兆193億円を記録し、その成長をけん引したのは「カードゲーム・トレーディングカード」や「プラモデル・フィギュア」など趣味分野の商品でした。この傾向は越境EC市場でも顕著であり、BEENOSが2024年12月に開催した「越境ECランキング発表会2024」でも同様の結果が示されています。同ランキングで発表された2024年人気カテゴリTOP10では、1位が「トレーディングカード」、2位が「おもちゃ・ホビーグッズ」、3位が「ファッション」と、趣味分野が上位を占めました。
これらの商品を購買する主なユーザー層は20代から30代で、流通額が最大の北米エリアでは「おもちゃ・ホビーカテゴリ」を抑えて「トレーディングカード」が1位に浮上しました。このトレンドは北米だけでなく、ヨーロッパや東南アジアでも共通しており、同様に「トレーディングカード」が各地域で1位となっています。
さらに、カテゴリ別の成長ランキングを見ると、1位に「アニメ・コミックグッズ」、2位に「ファッション雑貨」、3位に「トレーディングカード」がランクインしました。特に「アニメ・コミックグッズ」は昨年圏外からの急上昇を見せており、配信サービスの普及によってアニメが世界中で視聴されるようになった影響がうかがえます。
また、世界伸長率ランキングでは、ヨーロッパ、北米、中東、東南アジア、東アジア、中南米のすべてのエリアで10代の男女が増加し、各エリアで「アニメ・コミックグッズ」が3位以内にランクインしました。越境ECを利用するユーザー層は若い世代へと広がりを見せており、趣味分野カテゴリの商品購買の裾野が世界的に拡大しています。
3.ユーザーアンケートの紹介
BEENOSは2024年11月19日から25日にかけて、購入サポートサービス「Buyee」のユーザー1,345名に対して「日本のソフトパワーと越境ECの購入意向に関する意識調査」を実施し、その結果を「越境ECランキング発表会2024」で発表しました。この調査では、日本の文化が海外の消費者に与える影響を測るため、さまざまな質問を行いました。
調査結果では、日本の産業や文化の中で自国に影響を与えていると感じるジャンルとして、「アニメ・マンガ・ゲーム」が84.4%、「日本食」が70.8%、「日本製品(自動車、電化製品など)」が62.6%と高い割合を占めました。また、日本文化へのイメージについて尋ねたところ、「アニメ・マンガ・ゲームなどポップカルチャーの品質が高い」と回答した人が84.5%で最も多く、日本の魅力に関する質問でも同様の回答が75.7%で最多でした。これらの結果から、ポップカルチャーが日本のソフトパワーの象徴として強く認識されていることがわかります。
さらに、2024年に越境ECを初めて利用した方が最初に購入した商品カテゴリに関する質問では、「アニメなどのキャラクターグッズ」が30.5%で1位となり、次いで「おもちゃ・ホビー用品」が17.3%、3位に「フィギュア・ぬいぐるみ」が16.6%と、エンタメ・ホビーカテゴリの商品が上位を占める結果となりました。一方、カテゴリランキングで1位だった「トレーディングカード」は9位(7.4%)となり、購買層の嗜好の違いがうかがえます。
また、日本に来て行いたい体験に関する質問では、「ホビー専門店やキャラクターショップでのショッピング」が77.2%で1位を獲得し、「日本の地方都市の観光」(71.7%)や「テーマパークやゲームセンターでのエンタメアクティビティ」(60.6%)を上回る結果となりました。このことから、訪日観光においても趣味分野のショッピングが重要な目的として捉えられていると考えられます。
アニメやマンガ、ゲームを中心としたポップカルチャーの高い品質と魅力は、SNSでの情報のシェアや動画配信サービスの普及によって、より広範な海外ユーザーに知られるようになり、購買意欲や関連体験への需要を強く刺激しています。コロナ禍の収束とインバウンド需要の復活に伴い、訪日に合わせた関連商品の購入が増加するとともに、買い逃しやリピート購入のための越境EC利用もさらに拡大することが予想されます。
4.これからの越境EC
越境EC市場は現在、TemuやSHEINといった中国系プラットフォームが牽引し、成長を続けています。これらのプラットフォームは低単価商品を中心にタイ、インドネシア、ブラジル、アメリカなどで急速にシェアを拡大し、その影響を受けて多くの国では自国産業の保護を目的に輸入規制や小口貨物輸入の減免措置の見直しが進められています。日米中を対象とした中国の越境ECの総市場規模は 5 兆 3,911 億円と米国の越境ECの総市場規模 2 兆 5,300 億円の約2倍となっており(6※)、越境EC市場における中国の中国の影響力は非常に大きいと言えます。
こうした状況下で、日本が越境EC市場で存在感を発揮し続けるためには、独自の強みであるコンテンツ力やカルチャーを活かし、他国との差別化を図ることが不可欠です。中国系プラットフォームが低単価商品の規制や関税競争といった市場の変化に直面する中、円安の追い風を受けて日本の高品質商品への需要が高まっています。これにより、日本の商品が持つ信頼性やブランド価値が海外市場でより大きな武器となるチャンスが広がっています。
また、消費行動の変化も見逃せません。SNSや動画メディアを活用して情報を得てきたZ世代が主要な購買層として台頭しており、国境を越えた情報共有が商品の購入意欲を強く後押ししています。さらに、コロナ禍後のインバウンド需要が復活したことにより、日本企業が海外市場への取り組みを一層活発化させる機運が高まっています。これに伴い、店舗販売だけでなく、買い逃しやリピート購入に対応するECチャネルの活用がますます重要となるでしょう。
こうした市場の成長と変化の中で、海外ユーザーとの接点を拡大し、販売機会を逃さないためには、越境ECの導入が有効な手段となります。特に、日本の魅力ある商品を世界中の消費者に届けるためには、プラットフォームの活用やEC運営のノウハウが必要不可欠です。初めて越境ECに取り組む企業にとっては、まずは専門的なサポートを受けながら一歩を踏み出すことが成功の鍵となります。
※1 経済産業省「電子商取引実態調査」https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/statistics/outlook/ie_outlook.html
※2 Astute Analytica 「越境電子商取引市場 - 2032 年までの業界動向、市場規模、機会予測」https://www.astuteanalytica.com/ja/industry-report/cross-border-e-commerce-market
※3 日本政府観光局 「訪日外客数(2024 年 12 月および年間推計値)」https://www.jnto.go.jp/statistics/data/_files/20250115_1615-1.pdf
※4 WISE GUY REPORTS 「Toys Hobbies Products Market」
https://www.wiseguyreports.com/reports/toys-hobbies-products-market
※5 経済産業省 「令和5年度 電子商取引に関する市場調査」報告書 https://www.meti.go.jp/press/2024/09/20240925001/20240925001-1.pdf