日本のソフトパワーで読み解く越境EC最新事情 第二回
前回は越境ECにおける市場の傾向や全体的な人気カテゴリ、ユーザー層について説明しました。第二回となる今回「エンターテインメントジャンルにおける越境ECの購買データ」と次回は日本のソフトパワーを形成する人気カテゴリにフォーカスした購買データを解説します。
1.世界で拡大する日本アニメ・マンガの市場
世界のコミック市場は2024年から2032年にかけて、年平均成長率(CAGR)5.96%で拡大し、160.6億ドル(約2.5兆円)から267.5億ドル(約4.1兆円)に達すると予測されています(※1)。この成長の背景には、電子化によるアクセス性の向上や、日本発のマンガコンテンツが世界中で高い人気を誇ることが挙げられます。
出版科学研究所の発表している出版指標によると日本のマンガ市場は国内外で注目を集めており、2023年の推定販売金額は6,937億円に達し、紙媒体と電子版を合わせた市場規模は前年比2.5%増となっています。電子コミックに至っては、同7.8%増の4,830億円という顕著な成長を見せています。海外購入サポートサービス「Buyee」の2024年のデータでは「本・雑誌」カテゴリにおいて、最も購入が多いジャンルが「マンガ・コミック」であり、購入者層は男性が約7割を占めています。購入国のランキングでは、アメリカが1位、台湾が2位、香港が3位となっており、北米や東アジアを中心に幅広い国々で支持されています。
さらに、人気作品ランキングでは、『ドラゴンボール』が1位、『ハイキュー!!』が2位、『ワンピース』が3位にランクイン。『ドラゴンボール』は特にスペインやアメリカ、フランスで多く購入されており、『ハイキュー!!』は台湾とアメリカ、香港で人気を集めています。一方、『ワンピース』はアメリカ、カナダ、イタリアで広く愛されており、それぞれの作品が異なる国・エリアで支持を集めている点が特徴的です。いずれもアニメ化し、動画配信サービスによって世界中に多くのファンを持つコンテンツであり、アニメ作品を入り口とした原作コミックの購買の後押しが大きいと考えられます。
2023年に第一期を放送した日本アニメの成長率ランキングでは、『マッシュル -MASHLE-』が前年比950%増という圧倒的な伸びを見せて1位に輝きました。続いて2位には『葬送のフリーレン』(800%増)、3位には『薬屋のひとりごと』(765%増)がランクインしており、動画配信サービスによって世界中で時差なく作品の視聴が可能となったことから、日本国内の人気とも連動する結果となりました。さらに、これらの作品のグッズが2024年も引き続き売れ続けていることから、海外の消費者が作品のファンとなり、継続的に購入を行っていることが伺えます。こうした傾向は、単なる一時的なブームではなく、作品が海外市場で深く受け入れられ、支持層が定着している証と言えるでしょう。このファン層の広がりは、作品自体のブランド力を高めるだけでなく、関連商品への購買意欲を継続的に促す重要な要因となっています。
2.アニメなどのコンテンツ人気を背景に拡大するおもちゃ・ホビー市場
世界の玩具・ホビー市場の拡大が予測されている中で、日本のカードゲームやトレーディングカードの市場は2,774億円に達し、プラモデルやフィギュアも1,749億円を占め、両分野とも好調に推移しています(※2)。BEENOSが展開する海外ユーザー向け購入サポートサービス「Buyee」においても、おもちゃ・ホビーのカテゴリは人気が高く、購買が活発なカテゴリの一つとなっています。
「越境ECランキング発表会2024」において発表した「おもちゃ・ホビー」の人気ジャンルランキングでは、1位に「プラモデル・模型」、2位に「人形・キャラクタードール」、3位に「ヒーローごっこ・格闘」がランクインしました。これらの商品は、アメリカ、台湾、香港、イギリス、メキシコなどのエリアで特に支持されています。購入者の男女比率は男性が64.5%、女性が35.5%を占めました。従来は子供向けと考えられていた「プラモデル・模型」、「人形・キャラクタードール」「ヒーローごっこ、格闘」などの分野は大人による購買が活発となっています。この傾向は、日本国内における「キダルト」(子ども向け商品を購入する大人)の購買傾向と類似しており、海外でも同様の消費動向が見られることがわかります。特にアニメやゲームと関連する商品群は、子どもだけでなく大人のファンにも広がりを見せており、趣味としての消費が成熟していることが反映されています。大人が楽しむ「おもちゃ・ホビー」として、コレクターズアイテムやフィギュア、模型などが人気を集める背景には、文化的な影響や、かつて子供時代に触れた作品への愛着があると考えられます。
また、トレーディングカードカテゴリでは、世界的人気コンテンツである「ポケットモンスター」をベースとした「ポケモンカードゲーム」が1位を獲得。続いて、2位にアジアを中心に世界的に人気が高まっているK-POPのアーティストを扱った「K-POP関連カード」がランクインしました。「ポケモンカードゲーム」は投資的な意味合いでの購買も活発であり、「Buyee」においても高額なカードの購入が目立ったほか、コレクターズアイテムとしての人気も高いものとなっています。
アメリカを含む欧米圏においてはこれまでアニメなどの日本カルチャーを楽しむユーザー層はコアなマニアが中心でしたが、動画配信サービスの定着に伴いライトに作品を楽しむ層が急拡大しており、関連商品の需要が継続的に伸びていくことが期待できます。さらにアニメなどの既に日本カルチャーを楽しむ文化が根付いているアジア圏でも安定的な需要が予想できることから、今後もアニメやゲームを基盤とした日本のおもちゃ・ホビーは成長すると考えられます。
3.新旧を問わない人気をもつJ-POPアーティスト
ライブ・エンタメ分野は、越境ECの普及によって国境を越えた成長を遂げています。2022年の世界エンタメ市場規模は304億ドル(約4.7兆円)でしたが、2029年には617億ドル(約9.4兆円)に拡大すると予測されています(※3)。この年平均成長率(CAGR)9.18%という急成長を支える要因の一つに、越境ECがエンタメ関連商品の流通を加速させた点が挙げられます。
日本国内でも、ライブ・エンタメ市場はコロナ禍からの回復後に拡大基調を見せており、2023年には6,857億円でしたが、2025年には7,100億円に達すると見込まれています。(※4)この成長は、ライブイベントの再開や、アーティスト関連商品の需要増加によるものと考えられます。
「越境ECランキング発表会2024」において発表したJ-POPアーティスト関連商品の人気ランキングでは、1位が世界ツアーの敢行によって世界での知名度を高めている「Ado」、2位が音声ソフト初の人気キャラクター「初音ミク」、3位が人気アイドルグループの「乃木坂46」となっています。ランキングには日本でリアルタイムに人気を集めているアーティストのほか、往年の人気アーティストである「YMO」もランクインしています。
J-POPの人気があるエリアランキングでは1位が北米、2位がヨーロッパ、3位が東アジアとなっており、幅広いエリアで人気があることがわかります。CD、レコード、カセットの媒体割合においてはレコードの購入割合が21.5%を占めており、若者世代を中心として高まっているアナログ音源への関心が継続していることがわかります。
J-POPは日本アニメとの相乗効果によっても海外での認知度が高まっており、SNSなどにおいて世界的なバズが起こっています。それだけでなく、YoutubeやSpotifyなどの普及によって流行した楽曲にすぐにアクセスすることが容易な環境が出来ていることから、過去の楽曲であっても再発掘と流行が生まれやすくなっています。
2024年4月に開催された世界最大級の音楽フェス「コーチェラ・フェスティバル」においても出演した日本のアーティスト数が過去最多となったほか、「グラミー賞」を主催する「ザ・レコーディング・アカデミー」が2025年1月8日に発表した記事においても「J-Pop Will Boom」とJ-POPがブームとなることが言及されているなどJ-POPの影響力は増大しています。
インターネットによってボーダレスに流行が伝播する現代では、楽曲の新旧に関わらず発掘されて流行となった例はシティポップを代表例として少なくありません。こうした流行に伴い、関連商品の販売機会はいつ発生してもおかしくない状況であることから、世界中の誰もがいつでも商品を購入できる状態を普段から準備しておくことが重要です。
4.圧倒的なコンテンツ力を背景に高まる関連商品需要
アニメやマンガにおいては『ドラゴンボール』や『ワンピース』などの長年多くのファンに愛される定番作品から、『葬送のフリーレン』のような新たな作品まで、日本のコンテンツは幅広い世代のファンを獲得していることから関連商品を購入する層も年齢や性別を超えて幅広いものになっています。
おもちゃ・ホビー市場では、プラモデルやトレーディングカードといった商品が、従来の子供向けという枠を超えてコレクターズアイテムや投資対象として成人層にも広がりを見せています。
音楽分野においても、国内で流行するアーティストが同様に海外に受け入れられているほか、かつて流行したレトロ音楽がtiktokなどのSNSで新たなバズとして海外に人気が波及するなど、デジタルを介することによって人気を獲得する機会は飛躍的に増加しました。
日本のアニメ、マンガ、音楽、ホビーなどのコンテンツは、高いクオリティと独自性を武器に、国内外での需要を今後も拡大させると予想されます。越境ECを通じて関連商品が世界中に届けられることで、コンテンツへの愛着が深まり、新たな購買意欲を生み出します。
海外では日本のコンテンツや商品の価値が広く受け入れられつつあり、事業者にとって大きなビジネスチャンスとなっています。越境ECの活用は売上向上だけでなく、長期的なファン層の形成にもつながり、日本のポップカルチャーのさらなる普及に貢献します。
※1 WISE GUY REPORTS 「Toys Hobbies Products Market Overview」https://www.wiseguyreports.com/reports/toys-hobbies-products-market
※2 日本玩具協会「玩具市場規模データ」https://www.toys.or.jp/toukei_siryou_data.html
※3 Statista 「Entertainment - Worldwide 」https://www.statista.com/outlook/amo/app/entertainment/worldwide#revenue
※4 ぴあ総研「ライブ・エンタテインメント市場規模」https://corporate.pia.jp/news/detail_live_enta_market_20240618.html