意外と知らない? 特別措置法「税抜価格表示」のトリック

4月1日からの消費税率アップに伴い、消費者に混乱を招くケースが多発している。その中の多くは、増税に付随した特別措置法の施行により「税抜表示」が可能になったことが要因となっているようだ。この特別措置法の施行、実は具体的な内容は意外と知られていないようだ。

9年半ぶりに復活した「税抜価格表示」

2014年3月31日までの価格表示は、商品を購入するとき「いくら払えばいいのか」を消費者に分かりやすくするために、商品の本体価格に消費税分を含めた「総額表示」が義務づけられていた。だが、昨年10月1日に施行された、いわゆる「消費税転嫁対策特別措置法」では、2013年10月1日から2017年3月31日までの期間は総額表示に加え、税抜表示も認められるようになった。

これは、例えばリアル店舗の場合、3月31日の閉店後に5%で計算された値札から8%で計算した値札に貼り替えなければならず、物理的に不可能なケースも考えられるために施行された限定的な措置である。また、この措置の背景には、2015年10月にも消費税アップ(8%→10%)が予定されていることが考えられる。リアル店舗にとって、短期間に何度も値札の貼り替えを強いられるのは負担が重い。だが、税抜表示にしておけば、来年、税率が予定通りアップした場合でも「1000円(税抜き)」のような増税前の表記と同じ表記で乗り切れるのだ。

うまく使えば“値ごろ感”も

この税抜表示については、商品の「値ごろ感」を出すことができるため、事業者にとっては是非とも活用したい方法だが、表示するには要件がある。財務省によれば「表示する価格が税込価格であると誤認されないための措置」がなされていることが必要となるようだが、具体的にはどのような表示が可能なのだろうか。

財務省が公表した「総額表示義務に関する特例の適用を受けるために必要となる誤認防止措置に関する考え方」を参照し、値札、チラシ、看板、ポスター、サイトなどにおいて税抜価格のみで表示する場合、次のような表示が可能だ。

(1)○○○円(税抜き)
(2)○○○円(税抜価格)
(3)○○○円(税別)
(4)○○○円(税別価格)
(5)○○○円(本体)
(6)○○○円(本体価格)
(7)○○○円+税
(8)○○○円+消費税

また、税抜価格は店内掲示やチラシ、カタログ、サイトなどで一括して表示することもできる。個々の商品価格は税抜価格のみを表示し、別途、目につきやすい場所に「当店(本チラシ、本カタログ、本サイトなど)の価格は税抜き表示となっています」と明瞭に表示することが要件だ。

はびこる「便乗値上げ」に驚愕

そんな中で、増税に便乗した「便乗値上げ」が疑われるケースも散見されている。はっきりと「値上げ」を打ち出している企業や店舗は良いものの、金額の表示はそのままに、ちゃっかり消費者から税率アップ以上の金額を取り立てる手法が存在している。「5%」の税込み表示に長いこと慣らされた消費者は、105円や1050円、10500円といった表示に違和感を覚えにくい。上記で説明した通り、増税のタイミングで税抜き表示が認められるようになったことを利用し、「1050円」といったおなじみの価格を「税込み」から「税抜き」にすり替えてしまう業者が増えているそうだ。

店頭では1050円と表記されているにも関わらず、いざ会計しようとすると「税込みで1134円です」と請求される。よく見たらさりげなく税抜きに変えられていた……といったことが実際に起こっている。税込み1050円の商品が税抜き1050円になるということは、単純に本体価格がまるまる50円値上げされたことになる。その上、消費者は84円の消費税を負担しなければならないのだ。

便乗値上げとは、理由もなく本体価格を値上げすることであり、仕入れ値などのコスト上昇により値上げをやむなくされた場合などは、相応の理由を説明する必要がある。「消費税アップのため」としか説明をしないのは少々言葉足らずなのではないだろうか。いずれにせよ、一般の消費者にとって負担ばかりが増すのは厳しい。消費税アップにかこつけた便乗値上げに関しては、消費者庁も便乗値上げ情報・相談窓口(電話03-3507-9196)を設置し、情報提供を呼びかけている。

消費者に分かりやすく、親切な対応とは

EC業者の中には、税抜価格を表示した方が混乱が少ないのではないか、と考えるネットショップオーナーも少なくない。システム上の税率フィールドを変更したことにより、例えば9,900円の商品の価格表示が10,182円になったとすると、金額以上に見た目の印象が相当に変わってしまう。便乗値上げがはびこる中で、EC業者としては、まったく値上げをしていないにも関わらず値上げをしたと錯覚されて、顧客が離れてしまうことを懸念する声もあがっている。

これまでは、何も表記がなければ税込価格であったわけで、長年刷り込まれた感覚はなかなか慣らせないだろう。今後はその価格が税抜きであるのか、税込みであるのかが分かりやすく表示されていなくてはならない。ECサイトであれば、税込価格を表示することも容易であることから、税抜価格と併せて税込価格も併記することが消費者にとって親切であり、望ましい対応なのではないだろうか。