ヤマト運輸、宅配便の荷受量を制限?EC業界への影響と対策
昨日2月23日(木)、「ヤマト運輸の労働組合が2017年の春季労使交渉で宅配便の荷受量の抑制を求めた」とのニュースが、日本経済新聞を始めとして複数のメディアで取り上げられた。
ヤマト宅配便取扱6.7%増、要因はやはりEC?
国土交通省の発表によると、平成27年度のヤマト運輸の宅配便(トラック)取扱個数は1,731,263,000個で、対前年対比106.7%、国内の宅配便取扱個数のうち46.7%を占めている。国内での宅配便の取扱個数自体も、平成27年度は3,745,000,000個で、対前年比103.6%となっているが、これに比べてもヤマト運輸の取扱個数の増加率は高く、シェアも大きい。
宅配便の取扱個数が急増している大きな要因として、EC市場の拡大があげられることが多い。実際、経済産業省発表の「電子商取引に関する市場調査(平成27年度)」によると、平成27年の日本国内のBtoB-EC市場規模は、13.8兆円(前年比7.6%増)と急速に拡大している。これと宅配便取扱個数を以下のように見比べると、その関係性が見えてくる。
・BtoB-EC市場規模:13.8兆円(前年比7.6%増)
・ヤマト運輸宅配便取扱個数:1,731,263,000個(前年対比6.7%増)
・日本国内の宅配便取扱個数:3,745,000,000個(前年比3.6%増)
国内の宅配便取扱の中でも特にヤマト運輸の割合が増えている要因としては、EC市場の拡大の中でtoCの宅配にはヤマト運輸が好まれる傾向があったこと、そして2013年に佐川急便がアマゾンとの取引から撤退し、その分の宅配取扱がヤマト運輸に集中したことなどがあげられる。
不在再配達の増加で配達員9万人分のロスが……
さらに、ライフスタイルの多様化により、日中在宅の世帯が減り、不在再配達が増加していることも、宅配会社および現場の配達員の大きな負担となっている。国土交通省が2015年に行った「宅配の再配達の削減に向けた受取方法の多様化の促進等に関する検討会」によると、宅配便の約2割が不在再配達となっているという。これを配達員であるトラックドライバーの労働時間に換算すると、年間約1.8億時間、年間9万人(ドライバーの約1割)に相当する労働力となる。
この問題を解決するために、以下のような具体策も提示された。
1.消費者と宅配事業者・通販事業者との間のコミュニケーションの強化
・配達日時の確認・通知の徹底
・配達日時指定の変更容易化
・配達日時指定の無料化
・配達時間の延長等
2.消費者の受取への積極的参加の推進のための環境整備
・社会的損失の試算結果の理 解促進
・ポイント制等のメリット付与
3.受取方法の更なる多様化・利便性向上等の新たな取り組みの促進
・コンビニ受取の利便性向上
・宅配ボックスの普及
・鉄道駅等の活用
4.既存の枠組みを超えた関係者間の連携の促進
・緩やかなコンソーシアムの枠組の活用
・既存の取組の相互利用
EC市場および事業者がなすべき対策
国内の宅配便取扱量の半分近くを占めるヤマト運輸が、荷受量の抑制を開始するとなると、EC市場にとって大きなダメージとなる。注文はあっても、荷物を届けることができないという事態も起きかねないし、EC事業への新規参入も難しくなるかもしれない。また、もし大手事業者が優先されるなどになれば、中小事業者は事業の継続も危ぶまれる事態となる。
現時点で、EC事業者が取ることのできる対策として、前述の国土交通省が提示しているもののうち、「1.消費者と宅配事業者・通販事業者との間のコミュニケーションの強化」と「3.受取方法の更なる多様化・利便性向上等の新たな取り組みの促進」がある。
1については、配達前の事前通知のサービスが宅配各社で行われており、スマホ利用率の向上に合わせ、メールだけでなくLINEやアプリでの提供も行われている。3については、自宅だけでなく、コンビニや駅のロッカー、宅配ボックスを利用した荷物受取ができるようなサービスが提供されている。また、これらのサービスを消費者に利用してもらうためには、まずEC事業者に導入してもらわなければならないということで、EC事業者向けにコストをかけず簡単に導入できるような仕組みも作られている。
物流はEC事業の心臓部とも言える。物流業界の問題は即EC業界にも影響してくるのだ。EC店舗にとっても他人事ではない。EC市場が成長を続けるためにも、今後の対策が求められてくる。また、早く届けることが当たり前になる一方で運賃の競争も激化し、結果、残ったのがこのような事態だとすると、自社の店舗にとって何がお客様にとって満足いくサービスなのか、今一度、改めて考えてみる時期なのかもしれない。