ヤマトホールディングスが2019年3月期決算を公表 前年同期比226億の増益
ヤマトホールディングス株式会社は、最新となる2019年3月期決算(連結)についてまとめ、その内容を公表した。ここでは宅配事業分野を中心にポイントを絞ってその内容を見て行く。
決算概況「営業収益は865億の増収」
デリバリー事業においては、収益力の回復と集配キャパシティの拡大を両立させるべく、プライシングの適正化や顧客からの信頼と期待に応えるための集配体制の強化など、ラストワンマイルネットワークの再構築を推進したとしている。
その結果、改革に係る費用が増加する中で、宅急便単価が上昇したことなどにより、業績は堅調に推移した。
ノンデリバリー事業においては、グループ各社の強みを活かした既存サービスの拡充に取り組むとともに、グループ横断的に連携して顧客の課題解決に当たるソリューション営業を積極的に推進したとしている。
営業収益は1兆6,253億15百万円となり、前連結会計年度に比べ865億1百万円の増収となった。これは主に、デリバリー事業の構造改革を推進したことにより、宅急便取扱数量は減少したものの、宅急便単価が上昇したことによるものだ。
営業費用は1兆5,669億69百万円となり、前連結会計年度に比べ638億41百万円増加した。これについては、集配体制の構築に向けて増員などを進めたことで、委託費は減少したものの人件費が増加したことなどによるものとしている。
この結果、営業利益は583億45百万円となり、前連結会計年度に比べ226億59百万円の増益となった。
なお、ヤマトホームコンビニエンス株式会社が法人顧客の社員向けに提供している引越サービスにおいて不適切な請求があったため、調査結果を踏まえた見積り影響額31億4百万円を計上していたが、対応を進めた結果、影響額は20億25百万円となった。
デリバリー事業概況「宅配個数は減少も営業利益は340億の改善」
同社の中核とも言えるデリバリー事業については次の通りだ。
消費スタイルの急速な変化に伴うEC市場の拡大等による小口貨物の増加基調に加え、国内労働需給の逼迫など厳しい事業環境が継続している中、同連結会計年度においては、前連結会計年度に引き続き、収益力の回復と集配キャパシティの拡大を両立させるべく、プライシングの適正化やユーザーの信頼と期待に応えるための集配体制の強化など、ラストワンマイルネットワークの再構築を推進した。また輸送効率を高め、ネットワーク全体を最適化するために幹線ネットワークの構造改革にも取り組んだとしている。
成長が続くEC市場に対しては、小さな荷物を手軽に送ることができる「宅急便コンパクト」、「ネコポス」の拡販を進めるとともに、複数のフリマサイトと連携し、発送窓口拡大を推進している。同連結会計年度においては、EC事業者と連携し、商品を購入した場合に、受け取り場所としてヤマト運輸株式会社の営業所やコンビニエンスストア、オープン型宅配便ロッカー(PUDOステーション)を指定できる環境を提供するとともに、個人の顧客向け会員制サービス「クロネコメンバーズ」の利用促進に取り組んだ。またフリマサイトやEC事業者様と連携し、個人の顧客が商品をオープン型宅配便ロッカー(PUDOステーション)から簡単に発送できる環境を整備し、更なる利便性の向上を図った。
法人の顧客については、顧客の経営課題を的確に把握し、その課題に沿ったソリューション提案を積極的に推進している。またグループの経営資源を活用した付加価値の高い提案を行い、収益性の向上に取り組んでいる。同連結会計年度においては、利便性を高める機能を拡充した法人の顧客向け会員制サービス「ヤマトビジネスメンバーズ」の加入を促進するなど、顧客のビジネスの支援に取り組んだ。
さらに地域の課題解決に向けて、複数の自治体や企業と連携し、買い物困難者の支援、高齢者の見守り支援など、住民へのサービス向上に取り組だ。また観光支援や地域産品の販路拡大支援など、地元産業の活性化につながる取組みを推進した。
営業収益は、「デリバリー事業の構造改革」を推進したことにより、同連結会計年度の宅急便取扱数量は減少したものの、宅急便単価が上昇した結果1兆2,972億22百万円となり、前連結会計年度に比べ7.9%増加した。営業利益は、改革に係る費用が増加する中で407億87百万円となり、前連結会計年度に比べ340億30百万円改善した。
2020年同期も増収を見込む
今後の見通しについては、小口貨物が増加し続ける一方、国内労働需給の逼迫感がさらに強まるなど、物流業界においては厳しい経営環境が続くものと想定。このような環境の中、ヤマトグループは「働き方改革」を経営の中心に据え、労働環境の改善・整備を図るとともに、デリバリー事業においては、「デリバリー事業の構造改革」を推進しているとしている。
2020年3月期の営業収益については、ラストワンマイルネットワークの再構築の推進による集配キャパシティの拡大に伴い、宅急便取扱数量が増加に転じるとともに、単価もプライシングの適正化に継続的に取り組むことにより、緩やかに上昇すると想定。
またノンデリバリー事業においても、グループ各社の強みを活かした既存サービスの拡充に取り組むとともに、グループ横断的に連携して顧客の課題解決に当たるソリューション営業を推進し、収益基盤を拡大する想定であることから、2019年3月期と比べ増収を見込む。
費用面では、「働き方改革」を推進する過程で社員給与を中心とした人件費や省人化等の業務効率化を推進する費用は増加する見込みとなっているが、外部委託コストを中心にコストコントロールをしていく方針だ。
通期の連結業績予想は、営業収益1兆6,950億円、営業利益720億円、経常利益720億円、親会社株主に帰属する当期純利益400億円を見込む。
難題を乗り越え新たなサイクルへ
今回の決算全体を見ると、EC市場の発展などにより戸配の荷物が増大し、物流の現場を圧迫する、いわゆる「宅配クライシス」の状況を前に、宅配荷物の総量を抑制しつつ、従業員の待遇を改善するという難事業を乗り越えつつ、さらに収益を上げるサイクルに同社が乗っていることを数値の上からも示していると言えるだろう。
全社をあげた大規模な構造改革と、宅配荷物の自主的な総量規制という経営にとって極めて難題かつ厳しい施策を実行したにもかかわらず、結果として収益を改善していることは特筆に値する。
同社がひっ迫した環境に対応し、持続的な成長が可能な状況にあることは、EC市場の今後のさらなる発展を考える上でも大いに歓迎すべきことだと言えそうだ。