D2CはECの可能性を広げるのか

ECのミカタ編集部

デジタル時代の新しい考え方様々な定義がなされるD2C(Direct to Consumer)。考え方を見てみると昔からありそうな考え方ですが、注目されだしたのはここ10年以内。なぜ急に注目を浴びているのか、これからのEC・小売を変える可能性があるD2C、今後ECはどのように変化していくのでしょうか。

D2Cブランドが今注目されている理由とは

【D2C】に関しては、様々な定義がされています。その中でも多く共通していることは、①デジタル発のブランドであること②自らがメーカーとして商品を消費者に様々なチャネルにて直接販売・直接の対話③データ・ドリブン。そのようなブランドがD2Cブランドと呼称されています。注目されている理由の1つとしては、アメリカでのD2Cブランドの動きが挙げられます。そもそもD2Cの考え方はアメリカ発の考え方です。卸や小売店の介入を行わずに、顧客へ直接販売をすることにより、顧客から「少し高いな」と思われていた商品を、適正な価格で届けられるようになったことで急激な成長を果たしました。その代表例としてよく名前が挙げられるのが、2012年にアメリカで創業した髭剃りメーカー「Dollar Shave Club(以下、DSC)」や、2010年創業のメガネブランド「War by Parker 」などです。創業間も無く、ユニコーン企業(評価額10億ドル以上の非上場企業)へと瞬く間に成長しています。日本で例を挙げるとメルカリなどが上場前はユニコーン企業として評価されていました。そのような規模のD2C企業がアメリカでは非常に多く活躍しています。D2Cブランドは、ECを主戦場とすることで実店舗や店員などの固定費を抑え、商品に還元しました。その結果、DSCは、従来の髭剃りが平均価格14ドル〜15ドルのところを1ドルで提供できるようになり、War by Parkerは一般価格の25%程度の価格でメガネを提供することを実現し、急激な成長を遂げました。特徴的なのは、価格だけではありません。ECというデジタルを主戦場にしたことによって、様々な購買データを蓄積・活用することができるようになりました。その結果、実店舗を中心とした小売店とは異なるダイレクトマーケティング戦略を展開できるようになったのです。そしてDSCは創業からわずか4年でユニリーバに買収されました。その額なんと約1000億円。この買収によって【D2C】はさらに注目を集め、マーケットが日本でも拡大し、日本のD2C企業も投資家から資金調達を行いやすくなったと言われています。

日本ではアメリカのようなD2Cは流行らない?

ただ、D2Cで誤解してはいけないのが、成功を保証している考え方ではないと言う事です。成功した事例が目立ちますし、良いことしかないような話がありますが、あくまで一例。スケールしなかったブランドはとても多いです。アメリカで成功した企業の多くは、サプライチェーンの適正化を行い、商品を以前より安価で提供できるようになり、消費者に支持されています。しかし、単純に安価にするような商品展開は日本では難しいと思われます。なぜなら日本はあらゆる場所にコンビニやドラッグストアがあります。地方でも車を数十分走らせれば、あるのではないでしょうか。アメリカのような国土が広い国とは単純に比較できない背景があります。つまり日本は昔から小売面はアメリカより便利だったのです。安く、質の良い商品がコンビニやドラッグストアですぐ買えます。この私達に根付いている文化を変えるのは至難の技でしょう。そのため日本はアメリカと異なった展開のD2Cブランドが多いです。それが高単価商品の展開です。先述したDSCのように髭剃りを1ドルで販売するのではなく、高品質商品を適正価格で提供する企業が日本国内のD2Cには多い印象です。例えば、オーダーメイドスーツを提供しているFABRIC TOKYO。誰しもが着たい洋服と自身の身体の不一致を感じたことはあると思います。しかし、オーダーメイドは非常にハードルが高いという課題に着目し、ITを活用したD2C展開を行うコトで高品質なスーツを適正価格で展開しています。基本的には体のサイズを実店舗で採寸し、商品はECサイトからいつでも好きな時に注文できる仕組み。ユニークなのは、体のサイズ以外にもライフスタイルデータなどを収集し、データドリブンで顧客の生活をアップグレードすることを目的にしたスーツ作りを行なっていること。そのため、通えば通うほど、買えば買うほど自身の生活がアップグレードするようなスーツ製作が可能になるのです。スーツの値段も約4万円〜11万円と、従来のオーダーメイドスーツに比べるとリーズナブルです。さらに、MEDULLAというパーソナルヘアケア商品を提供するブランドもユニークな展開をしています。多くの女性に共通の悩みである髪。質も千差万別で人によって悩みや気になる部分は異なります。月に数回、美容院でトリートメントをしてもらう人もいます。そのような課題をD2C展開で解決しようとしているのがMEDULLAです。サブスクモデルで、シャンプー
・トリートメントなどのヘアケア商品を展開しています。大きな特徴としては無料診断の結果を元に商品の成分配合を変えることです。MEDULLAはサブスクリプションの特徴を活かし、常に顧客接点を保ちながら商品を最適化していきます。1ヶ月ごとに消費者から寄せられるフィードバックに対して、商品の成分配合を変え、季節によって変わる悩みも、カット後によって長さが変わったとしても来月以降は対応可能になるという汎用性の高さが特徴です。商品品質も美容院などで取り扱うレベルにも関わらず、美容院に行くより安価に購入可能、そして毎日利用可能であることから、人気を博しています。2社のように、本来高価な品質の商材でも、D2Cモデルでサプライチェーンを確立していれば、消費者へ適正価格で提供ができます。ただ、どちらの商品も他の類似商品に比べるとやはり高価です。スーツは1万円以下で購入もできます。シャンプーもドラッグストアで、数百円で販売されている商品もあります。ではなぜ、多くの人に支持されているのでしょうか?

販売するモノは商品ではなく価値というコト

国内D2Cブランドが高単価にも関わらず、多くの人から支持を得られている理由、それはブランドの世界観や体験価値に共感してもらえるような施策やメッセージを顧客に届けられているからです。考え方として似ているのはハイブランド。高価な商品ですが、ブランド価値が高いから、という理由で商品を買う人は多いです。機能性や商材品質も加味するものの、購買動機には、そのブランドが好きだから、といった理由も多いのがハイブランドの特徴です。同様にD2Cブランドも、自社の商品を訴求するための世界観を構築して、自社ブランドが顧客からどのように語られているか考え、発信することが非常に重要になります。例えば先ほど挙げたFABRIC TOKYOはオーダーメイドスーツの会社ではなく、ライフスタイルをアップデートする会社であり、MEDULLAがヘアケアではなく、人に色気を付与するブランドと自分たちのことを発信し、ブランディングを地道に行い続けてきました。その結果、その価値に共感する顧客と一種のコミュニティを作ることに成功したのです。一見、主観的な情報発信に見えますが、裏側では地道な顧客へのヒアリングや、テストマーケティングからのアップデートなど、顧客の声をサービスに反映する施策を続けてきた結果、自分たちが何を顧客に発信すればいいのか、分かるようになったのです。ここもD2Cの特徴ですが、顧客との直接の接点をブランドが持つ事が、成長スピードや顧客満足度に大きな影響を与えるのです。

ここまで読んでいただいた方の中にはD2Cじゃないといけないのか、と思う方もいるかもしれません。しかし、そんなことはないと思っています。ただし、D2Cの考え方をフレームワークとして持つことは重要になるでしょう。なぜならECで購買する意義は今後【利便性と価値体験】に分かれていくと思われるからです。ECモールのように、様々な商品の比較が簡単にできて、すぐに家にモノが届くという体験は非常に利便性が高く、デジタルネイティブ世代が消費の中心となるため、利用者は増えるでしょう。そういう意味ではECがない時代より、圧倒的に便利になっています。わざわざ便利を手放そうと考える人は少ないでしょうし、今後もアマゾン
・楽天市場を筆頭に豊富な品揃えがあり、迅速な配送ネットワークを活用していくビジネスが廃れることは考えにくいと思います。そんな利便性の対を成すのが、説明してきた「価値体験」です。そもそも、従来のショッピングは楽しかったり、ワクワクするものでした。実店舗ではあらゆる商品を手に取って、見比べて、悩み抜いて商品を選ぶ行為そのものが楽しいと思う人も多いです。しかし、アマゾン・楽天市場は「便利」であることの文脈がとても強いです。そのため、ECモールでショッピングを純粋に楽しんでいる人は少なくなってきているのではないでしょうか。その一方、D2Cブランドが展開している、採寸体験やパーソナライズ、ユーザーミートアップなどの付加価値のある「コト付きのモノ」は、楽しいと思える価値があります。そして、良い体験は繰り返し経験したくなります。単純に物販としてD2Cを見るのではなく、大きく消費として捉えることが重要になるのではないでしょうか。

価値体験はどのように提供できるのか?

ブランドは自己の投影です。ハイブランドやD2Cブランドを買い、身に付ける人や楽しむ人はそのブランドだから商品を買うのです。そしてその様子をツイッターやインスタグラムで発信し、タグ付けなどをすることで同じ価値観
・世界観を持っている人たちのコミュニティ同士で「いいね」などのやりとりがあり、承認欲求
・自己実現欲求を満たすことにつながります。承認欲求・自己実現欲求は人間にとって非常に高次の欲求です。それがSNS を通じて満たせることに魅力を感じる世代は増えています。そのためブランドは自社の持つ世界観・価値観を提示し、共感してもらえるファンを増やすことがとても重要になってきます。価値体験を提供している事例として有名なのが、Daisy Cakes。サブスクリプションで冷凍のホールケーキが毎月届くサービスです。Daisy Cakesの特徴はホールケーキの大きさ。10人という比較的大人数でのとりわけに適しているサイズのケーキのため、親族や友人で集まるきっかけになるのです。さらには、コミュニケーションを促進させる仕組みも梱包の中に入れ込んでいるのだといいます。このように単純にケーキを提供するのではなく、家族
・友人とのコミュニケーション機会の創出という価値を提供していることが一番のポイントです。目的がケーキの購入から、ケーキを通じて人と集まることへ変化させたDaisy Cakes。「届くまでの間にどうワクワクさせるか。販売前後にどう体験を提供していけるか」を考えると、今までのEC運営のままではカバーできない部分も多いのではないでしょうか。では具体的にどのような施策を行うべきなのでしょう。一言でまとめると、【商品の周辺コンテンツ】を押さえる事が重要になります。商品購入前、購買後に荷物が届くまで、商品梱包を手に取った時、梱包を開けた瞬間、購入後に至るまで全ての顧客とのタッチポイントで何かしらの工夫を行い、モノではなく購買体験全てに価値を感じてもらう。これが、「価値体験」です。ぜひ実践してみてください。他にも、SNS運用やブログなどをオススメします。自社コンテンツは自分自身の想いを伝えることのできる場所です。そこに制限はありません。今までは「モノ」として売っていた商品の開発背景や自身のブランドに込めている想いを綴ったブログを投稿すると、そのブログを読んだ人と読んでない人とでは、「モノ」の価値が全く異なってきます。すぐに結果が出るような施策ではないため、飽きてやめてしまう人も多いブログやSNSだからこそ、本気で運用している競合が少ないのです。この記事を読んでいる人はぜひ飽きることなく運用してみてください。

D2Cの今後は?

D2Cの考え方、消費者の価値観変化の移り変わりなど、今の時代にD2Cが重要であることを解説してきました。ただ正直な話、未来のことは誰にも分かりません。昔、楽天を創業した三木谷社長が「ネットでモノを売る」と言った時に周りに馬鹿にされたという話は有名です。もちろん、国内でも成長D2C企業が出ている分、多くの企業がD2Cモデルに参入する可能性はありそうです。ただ一方で、D2Cは一時のブームで今後は衰退する、と話す人もいます。しかし、D2Cの考え方は多くの可能性を秘めています。デジタルネイティブ世代と呼ばれる若い世代はネットを当然のインフラとして活用し、ネットコミュニケーションにも長けています。このような世代とのコミュニケーションにはD2Cで直接顧客と接点を作り、ファンになってもらえないと、どんどん他のブランドに移ってしまいます。小売だけに留まらずに、メディア、テック領域にも手を伸ばし続けるD2C企業。創業者自身がどれくらい覚悟を持って自身のブランド価値を深掘りし、提供できるかが一番重要な気がしています。どれくらいのファンとなる顧客を獲得できるか、そのためにどれくらい自社を好きな社員を採用できるか、などD2Cを運営する上で経営者が考えるべき事は非常に多いです。そのような考えを突き詰めたブランドの価値は、今後もさらに高まっていくのではないでしょうか。

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