JAROが2021年度上半期審査状況を公表 「健康食品」が大幅減、「化粧品」「医薬部外品」が急増
JARO(公益社団法人日本広告審査機構)は、2021年度上半期審査状況についてまとめ、その内容を公表した。ここではその概要についてポイントを絞って見ていく。
総受付件数7,292件、依然増加傾向
2021年度上半期(2021年4月~9月)にJAROが受け付けた広告・表示に対する相談は7,292件(前年同期比91.5%)で、677件の減少となった。しかし、前年同期は新型コロナ状況下で136.6%という著しい伸びを記録したため、コロナ前の2019年度同期比では119.1%と依然として増加傾向である。
各件数を見ると、「苦情」(意見も含む)5,594件、「称賛」4件、広告制作・審査に関する相談である「照会」1,317件、「JARO 関連」61件、記事や番組などの「広告以外」316件で、「照会」を除き、いずれも減少となった。「照会」は年々増加しており、好評な企業向けセミナーとともにコンプライアンス向上のため活用されている。
受付経路別では、JAROウェブサイトの送信フォーム経由の「オンライン」が伸びており、2018年度に総受付件数の約半分(49.0%)だったものが、今期は65.2%を占めた。
業種別:「健康食品」が大幅減、「化粧品」「医薬部外品」が急増
コロナ禍の前年同期に苦情が急増した反動で今期は減少した項目もある中で、「化粧品」「医薬部外品」「買取・売買」が増加した。その一方で「健康食品」が大きく減少した。
「化粧品」は、医薬品的な効能効果を表示した、後述の内容別分類でいう「表示(品質・規格等)」152件、鼻の角栓の画像が気持ち悪いという苦情など「表現(音・映像)」224件が多かった。また、480件のうち媒体「インターネット」が437件を占めた。
「医薬部外品」は前年同期に急増し、今期はさらに増加したカテゴリーである(2019年度上半期は77件)。361件中、育毛剤や口腔ケア商品などで医薬品的な効果を標ぼうした「表示(品質・規格等)」が124件、口腔ケア商品の口腔内の表現や殺虫剤の害虫表現が不快だという「表現(音・映像)」が135件あった。
その他、増加したのは「買取・売買」で、2019年度上半期に75件程度だったものが、コロナ状況下の前年同期に129 件、そして今期175件に増加した。在宅時間が増加し、不用品等の買い取り需要が高まったこと、広告出稿が増えたことなどが考えられる。
媒体は「テレビ」が最も多く63件、「ラジオ」52件、「インターネット」38 件であり、内容別では「表示(価格・取引条件)」が106件を占めた。着物が高額買い取られるかのような訴求が誤解を招く、特定ブランド品に最低額の買い取り保証があるとうたっているが実際は不明瞭な条件を付けて安く査定される、着物の買い取りで来訪依頼をしたのに貴金属を出すよう言われたという押し買いのような苦情もあった。
買い取りの場合、不当表示と思われる表示であっても、事業者が供給主体ではないため景品表示法の適用対象にならないという特徴がある。一方で、例年上位だった「健康食品」が大幅に減少した。特定商取引法や医薬品医療機器等法の改正、消費者庁によるアフィリエイト対策が進められていること、また2020年7月、2021年3月には広告主以外の事業者が逮捕される事件があったことなども影響したものと見られる。
媒体別:「インターネット」「テレビ」若干減少するもコロナ前比では増加傾向
「苦情」の媒体別は、2019年度(通期)に「インターネット」が「テレビ」を上回って以来、「インターネット」「テレビ」「ラジオ」の順が続いている。「インターネット」は前年同期に153.1%、「テレビ」129.0%と大幅に増加したため今期はいずれも減少となったが、それ以前と比べれば依然として増加傾向である。
「インターネット」で苦情が多かった業種は、「化粧品」437件(前年同期195件)、「オンラインゲーム」228件(同206 件)、「医薬部外品」225件(同188件)、「健康食品」124件(同444件)、「電子書籍・ビデオ・音楽配信」121件(同92件)である。「オンラインゲーム」はゲーム内容が広告と異なる、ひわいやグロテスクなど広告表現が不快といったものが多かった。
「テレビ」では、「携帯電話サービス」187件(同208件)、「医薬部外品」126件(同77件)、「行政」76件(同55件)、「健康食品」73件(同117件)、「自動車」63件(同104件)の順となった。「携帯電話サービス」は料金やプランが分かりにくい、音声がうるさいといったもの、「医薬部外品」は殺虫剤の表現が不快というもの、「行政」はワクチン接種に関するものなどが目立った。
苦情申立者の年代・性別、若年層と女性が増加傾向
苦情申立者の年代・性別内訳は表の通りである。前年同期に大きく増加したことから今期は多くの年代・性別で減少となっているが、10代女性と60代女性、70代に増加が見られた。
男女比では男性61.8%、女性37.8%であり、近年は女性からの苦情が逓増している。ここ10年ほどで最も男性の比率が高かった2012年度には男性69.5%、女性28.9%であり、女性は約9 ポイント上がっている。
「表現」に関する苦情が増加
「苦情」は申し立て内容別に、(1)表示、(2)表現、(3)広告の手法に分類している。(1)表示に対する苦情とは、虚偽・誇大、分かりにくいといったもので、広告・表示規制に抵触するものも多い。(2)表現に対する苦情とは、広告で描かれているものが不快、好ましくないなどというもの、(3)広告の手法とは、CM の音の大きさ、広告の頻度、迷惑な表示方法などである。
最も多いのは(1)表示で、前年同期に1.5倍と大きく増加したため今期は2割ほどの減少となった。「価格・取引条件等」では「買取・売買」106 件、「携帯電話サービス」78件が多く、前者は高額買い取りするかのような訴求が、後者は安さをうたう料金プランや割引に関する訴求がそれぞれ多かった。
「品質・規格等」では、「化粧品」「医薬部外品」「健康食品」(それぞれ152件、124件、99件)に効果の表示で、「オンラインゲーム」(96 件)に広告とゲーム内容が異なることに関して苦情が目立った。
(2)表現では「音・映像」「社会規範」が大きく増加した。「音・映像」については、鼻の角栓、歯の汚れ、目の下のたるみを表示した「化粧品」「医薬部外品」(それぞれ224件、135件)の広告に対し、生理的不快感を訴える苦情が多数寄せられ、前年同期比138.2%となった。
こうした広告は医薬品的な効果をうたうなど法違反のおそれのある表示が含まれていることが多いため、委員会で審議の上、厳重警告または警告を出したものもある。「社会規範」については「電子書籍・ビデオ・音楽配信」70件、「オンラインゲーム」40件が多く、前者はストーキング、ひわい、残虐な表現を含む電子コミックや動画配信サービスの広告に対して、後者もひわい、残虐な表現に対して苦情が寄せられた。
(3)広告の手法ではインターネット広告やテレビ・ラジオCMが何度も表示・放送されるというもの、バナー広告で訴求された内容を見て飛び先の通販ページに行くと、そのようなことは書かれていないというものなどが目立った。
近年、定期購入契約の苦情が増加
近年、消費者トラブルが増えている定期購入契約に関連する苦情は144件であり、減少に転じる様子が見えない(2020年度上半期147件)。業種については、化粧品50件(同26件)、健康食品43件(84件)、医薬部外品34件(27件)と例年通り美容・健康系商材が上位を占めたが、健康食品が大きく減少するなどの変化が見られた。
144件の苦情のうち、実際に購入したとの相談が100件(69.4%)と高い水準であることも例年通りである。見解発信事例の中では厳重警告3、4、警告8、9 が定期購入契約である。
2020年度に多数寄せられた新型コロナウイルスに関連する苦情、照会は、前年同期との比較でほぼ半減した。前年同期の苦情はマスクや除菌スプレーが中心だったが、今期はワクチン接種を推奨する政府広報や屋外で飲む場面があるアルコール飲料、PCR検査をうたうクリニックなどの広告を中心に298件(前年同期598件)寄せられた。照会は92件(同160件)で、マスクや企業広告、コロナ抗体検査キット(雑貨品)の相談が寄せられた。
ECにおけるマーケティングやプロモーションを考える上でも適正な内容の広告展開は、事業体やブランドの信頼性にも直結する部分であり、引き続き充分な注意が必要となってきそうだ。