ヤフーショッピング無料の影響は?(上) “売り場”の趨勢が変化か
仮想モールの出店料および売上高手数料を無料化。10月7日にヤフーの孫正義会長から衝撃的な新戦略が発表(=画像)されてから数日。ネット販売業界の内外問わず期待や不安を含め様々な声があがっている。今回の大胆な戦略転換はEC市場に何らかの変化をもたらすということは間違いなさそうだが、具体的に"ヤフーの無料化"は市場や業界にどんな変化をもたらすことになるのだろうか。
“ヤフー無料化”による変化としてまずあげられるのは「ネット販売における売り場の趨勢の変化」だろう。これまでその規模や集客力から見る限り、仮想モールは「楽天市場」の独占状態だった。しかし、そうした状況はすでに変化を見せ始めている。
ヤフーによると10月7日の発表直後から新規出店を希望する問い合わせが急増。「ヤフーショッピング」に出店したいとする事業者は"発表後1日"で1万件に。また、年内をメドに解禁する個人出店希望者数も1日で約1・6万件に達した。現状、「ヤフーショッピング」の出店者数は約2万店。現在の店舗数を優に上回る合計2・6万件の新規出店希望者がわずか1日で集まったということになるわけで、その反響がいかに凄まじかったのかを物語っている。
今まで出店料をネックに出店を控えてきた事業者が出店を決意したことはもちろん、仮想モールへの出店はこれまで基本的には1年契約などが多かったため「収穫があった時期だけ農産物を売りたい農家や、コンサート開催期間だけ関連グッズを販売する店を出店したいといった、これまでの契約形態では対応できず取りこぼしていたニーズを無料化で拾える」(同社)ことも新規出店希望者の激増につながっていると見られる。
また、単純な店舗数だけでなく、現状、どの仮想モールにも未出店だった「ユニクロ」を始め、イオン、コナカ、カクヤス、大塚家具、ガリバー、エディオン、ファミリーマート、ローソンなどによる新規出店やポイント施策など諸事情で今年6月に「ヤフーショッピング」から退店したばかりの「HMV」の再出店など有力有店舗小売事業者が相次いで「ヤフーショッピング」への参戦を決めているようだ。
ヤフーの無料化は仮想モールを支える既存出店者たちの動きにも変化をもたらしているようだ。これまで多く出店者は「人も金も余っている大手ならいざ知らず結局、人的リソースの問題で、注力できる『売り場』は限られているために、最も売り上げが得られる楽天にリソースを配分せざるを得なかった」(雑貨A社)わけだが、今回のヤフーの方針転換でこれまで徴収されることが当たり前だった出店料金が無料になることになったため、「単純に出店料金分が儲かるわけで、ヤフーにリソースを割かざるを得ない。これまで楽天を『主』、ヤフーは『従』として事業配分してきたが今後はヤフーに力を入れたい」(健食B社)との声もすでに出ており、出店者の「注力すべき売り場の選択基準」がこれまでと変わり始めているようだ。
ただ、「楽天市場」はヤフー無料化以降も少なくとも当面はこれまで通り、規模や集客面ではトップであり、優良な売り場であることは変わりない。そのため、「確かにヤフーの無料化は儲けが増える点だけ見ても魅力的。ただ、楽天でなくヤフーを選ぶには"それなりのこと"をやってもらわないと難しい。無料化よりむしろそっちがどう改善されるかの方が気になる」(衣料品C社)との声も多く、これまで使いにくかったとされる"システム"や精度に問題ありとされる現状の"商品検索"などバックヤード部分について早急な改善がなされなければ、引き続き、力点を「楽天市場」に置き続ける出店者も多いと思われる。そうした改善も「11月~12月までが当面のメド。そこで少なくとも楽天並みに機能が整い、商流が伸びて来ないと『ヤフーで売るぞ』というムードが冷え込むのでは」(食品D社)との声もあり、そうした改善スピードと目に見える効果をどう短期間であげられるかが1つの重要なポイントとなりそうだ。
ヤフーの無料化は「対楽天市場」のみならず、他のモールや自社ECサイトといった売り場にも影響を与える可能性がある。前述通り、「楽天市場」は「ポイントモールとしても最大級であり、(ヤフー無料化後も)直近での影響は軽微だろう」(家電E社)と見る出店者は多いが、「そのほかのモールには手が回らなくなるため、退店しようか検討中」(日用品F社)との声は少なからずあり、新興モールにとっては厳しい状況となる可能性がある。また、同じ観点から「出店料が無料のため、自社サイトを持つ必然性がなくなりそう」(食品G社)とし、独自ドメインECサイト構築支援ツールなどを提供している企業などは大きな打撃を受けることも考えられそうだ。
(つづく)