顧客体験(CX)とは?施策や事例、最新の顧客体験価値ランキングも紹介
顧客体験は、一朝一夕にして改善できるものではありません。現状と課題の把握、仮説の検証を経て改善できるものです。顧客体験の改善を図る際は、顧客がどんな商品やサービスを求めているかを考えることが大切です。顧客一人ひとりのニーズを的確につかみ、サービスに反映していくことが良質な顧客体験につながるでしょう。昨今、消費者のトレンドや市場の変化に対応していく上で、そもそも顧客体験とはなにか、向上させるための手法や施策、事例までを解説します。
顧客体験(CX)とは?
顧客体験とは、商品を通じて企業と顧客が接するときに生じる体験のことです。Customer Experienceの頭文字をとってCXとも呼ばれています。顧客体験は、アメリカの経営学者であるバーンド・H・シュミットによって提唱され、顧客体験によって生み出される価値は以下の5つです。
● Sense(感覚的):おいしい・気持ちいいなど、五感(視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚)によってもたらされる価値
● Feel(情緒的):かわいい・感動など、感情や感覚に訴える価値
● Think(知的):興味深い・勉強になるなど、知的好奇心や創造性が満たされる価値
● Act(行動、ライフスタイルにかかわる):新しい体験や習い事などから感じる価値
● Relate(社会的):ファンクラブや趣味の集まりなど、特定の集団に属すことで生まれる価値
これらの顧客体験は、単に商品を購入するときだけではなく、商品を知ったときから再購入するまでのすべての体験が含まれています。
顧客体験が重視される理由
顧客体験は、私たちが普段暮らしている中で、商品を選んだり、問い合わせをしたりする際に当然のように生まれるものです。なぜ顧客体験はビジネスの場において重視されているのでしょうか。背景には、以下のような理由があります。
● モノ消費からコト消費へのシフト
● SaaSやサブスクリプションの台頭
● 消費者による発信力の増大
続いては、それぞれの理由について解説します。
モノ消費からコト消費へのシフト
現代の市場では、画期的な商品が出てもすぐに類似の商品があふれ、商品そのものの価値だけでは差別化が難しくなっています。そんな中で起こった変化がモノ消費からコト消費へのシフトです。具体的には、商品を選ぶ際に商品そのものの価値ではなく、精神的な価値を重視することへのシフトです。精神的な価値とは、顧客体験によって感じることのできる価値ともいえます。つまり、消費者が商品を利用することで、特別な体験や経験を得られる付加価値がないと、商品が売れない時代になっています。
SaaSやサブスクリプションの台頭
従来、メーカーや小売店の目的は、商品を購入してもらうことでした。しかし、アプリケーションを購入せず、クラウド上でサービスを利用するSaas、毎月定額の料金を支払ってサービスを利用できるサブスクリプションなどの台頭によって、事業者側の販売スタイルにも変化が生じています。
継続型サービスは、企業にとっては安定した売上をつくりやすく、消費者にとっては大きな初期投資が不要な点がメリットです。一方、顧客と長期にわたって良好な関係を築けなければ、売上をあげられない販売モデルであるため、より消費者の感情に訴えることのできるサービスが生き残るようになります。
消費者による発信力の増大
インターネットが普及する以前、商品の情報を得る手段は、テレビや雑誌などがメインでした。しかし、現在では消費者がSNSや口コミサイトなどに情報を投稿でき、Web上の評価によって商品の売上が左右される時代です。そのため、顧客に感動体験を与えられる商品は、口コミによって訴求力を大幅に高められます。
顧客体験を向上させるためのステップ
いまや、消費者のトレンドや市場の変化に対応するうえで、顧客体験を重視することは必須です。しかし、顧客体験を向上させるためには、どのような行動を起こせばいいのでしょうか。顧客体験を向上させるには、3つのステップがポイントになります。
1. 現状の顧客体験を把握する
2. 顧客体験の課題・企業のミッションを確認する
3. 仮説を立てて検証する
以下では、それぞれのステップについて解説します。
現状の顧客体験を把握する
まずは、施策を練る前に現状を把握することが重要です。現状の顧客体験を洗い出す方法として、カスタマージャーニーマップという考え方があります。カスタマージャーニーマップとは、自社の商品を認知してから、実際に購入して、リピートを検討するまでのタイムラインを想定したものです。
カスタマージャーニーマップでは、それぞれのフェーズにおいて顧客との接点、顧客の行動を洗い出します。
上記のように、顧客が商品を購入するまでの間にはいくつかの接点があります。顧客体験の内容や質を把握するには、どのような接点があるのかを洗い出してみることが大切です。
顧客体験の課題・企業のミッションを確認する
次に、カスタマージャーニーマップをもとに、各フェーズにおいてどのような感情が生まれているのかを検証します。検証の手法として考えられるのは、サイトのアクセス解析、アンケート、SNSでの口コミなどです。なお、顧客体験を調査する目的でアンケートを行う際には、従来の満足度の調査ではなく、NPS(ネットプロモータースコア)を用いる方法をおすすめします。NPSでは、顧客の商品やサービスに対する満足度ではなく、友人や同僚にすすめたいかを調べます。NPSは、表面上の満足度ではなく、再購入に対する意欲を調査するうえで有効な手法です。
仮説を立てて検証する
最後に、現状の顧客体験から洗い出した課題やミッションへの改善策を検討します。カスタマージャーニーマップで示したとおり、企業と顧客の接点はあらゆる場所にあります。そのため、改善策を検討する際は、部署の垣根を越えて検証することが大切です。また、実際の店舗に赴き、現場の声を聞いたり、顧客の様子をみたりするのもよいでしょう。
顧客体験を向上させる施策
課題を特定できても、なかなかよい改善策が思いつかず、悩んでしまうケースもあるはずです。そんなときは、カスタマーサービス・顧客ニーズ・One to Oneマーケティングの3つの観点から顧客体験を振り返ってみるのがおすすめです。以下では、それぞれのポイントについて解説します。
カスタマーサービスを充実させる
顧客に対するサービスを充実できれば、顧客の感情もプラスに動く可能性が高まります。しかし、実店舗でサービスを向上させるには、研修や人員増加などが求められるため、多大なコストがかかります。そこでオンラインサービスの充実化を図るのも一つの手です。たとえば、オンラインショップや公式サイトからの問い合わせが多い場合、チャットボットを導入することができます。チャットボットとは、顧客の問い合わせに対して、あらかじめプログラムされた内容を自動的に回答するシステムです。さらに、チャットボットに寄せられる問い合わせを分析し、より自社に合わせたカスタマイズを行えば、顧客体験の向上につながるでしょう。
顧客ニーズをもとにサービスを提供する
顧客体験を向上させるための施策の基本は、顧客のニーズを叶えることです。顧客アンケートや口コミ、店舗における接客などをもとに、顧客のニーズを的確に把握できれば、サービスの改善につながります。サービスの改善施策を社内で検討することも大切ですが、顧客の声に耳を傾けることがもっとも重要です。
One to oneマーケティングを心がける
顧客は一人ひとり違う個性をもっています。今までは顧客一人ひとりがどのように考え、商品を選んでいるのかを把握することはできませんでした。しかし、オンラインにおける顧客の動きを分析すれば、導線を追跡することが可能です。ユーザーの行動履歴を可視化して管理することによって、一人ひとりの顧客の考え方を把握できます。One to Oneマーケティングを徹底できると、ベストなタイミングでベストな商品をレコメンドできるようになるでしょう。
顧客体験を改善した企業の成功事例
顧客体験の改善施策を検討する際は、企業の成功事例から学ぶことも重要です。以下では、実際に顧客体験の改善によって、事業を成功させた企業の事例を5つ紹介します。
【自動車】ガリバー
ガリバーは、株式会社IDOMが運営する中古車販売サービスです。ガリバーは、多くの顧客が中古車を購入する前にWeb上で下調べをする点に着目しました。そして、オンラインでも実店舗と変わらない情報提供ができるよう、チャットボットを導入しました。その結果、全体の利益を10%成長させています。
【アパレル】DIFFERENCE
DIFFERENCEは、株式会社コナカが運営するオーダースーツブランドです。DIFFERENCEは、FABRIC TOKYOと同じく、オンラインでオーダーできるうえ、一歩踏み込んだレコメンドが特徴的です。一度スーツをオーダーすると、オーダーしたスーツに合うコーディネートをスタッフが提案してくれます。細やかなアフターフォローがリピーターの育成につながっています。
【スポーツ】東京ヤクルトスワローズ
ヤクルトスワローズは、株式会社ヤクルトが運営するプロ野球球団です。ヤクルトスワローズが取り組んでいるのは、主な収入源であるファンクラブの価値を高める施策です。NPSを用いたアンケートをもとに、入会特典を充実させたり、選手と触れ合う場所を増やしたりして、入会数を2.5倍まで成長させています。また、アンケート結果から地方のファンの顧客体験が不十分であることがわかり、限定のグッズ販売なども行いました。その結果、会員数の増加だけでなく、顧客単価の高い「プラチナ会員」を増やすことにも成功しています。
【旅行】H.I.S
株式会社エイチ・アイ・エスは、国内外の旅行商品を販売する旅行代理店です。顧客の行動を分析した結果、海外旅行に行く顧客は、旅行先でオプショナルツアーに申し込むケースが多いと判明しました。しかし、申し込む段階では、すでに予約が埋まっていることが多かったため、海外旅行を申し込んだ顧客の会員ページ内に、オプショナルツアーのバナーを設置する施策に取り組みました。その結果、高いクリック率を実現しており、売上の向上につながっています。
【保険】メディケア生命
メディケア生命は、住友生命のグループ会社として保険事業を手がける企業です。メディケア生命における課題は、顧客が申し込みに至るまでに複数回サイトに訪れないといけないことでした。初回訪問時はCV率が低く、訴求が不十分であると考えられていました。そこで導入したのがキャンペーンサイトに誘導するポップアップです。さらに、ポップアップは一定時間、LPサイトを閲覧していた場合に表示する仕様にしました。ポップアップを導入した結果、メディケア生命の資料請求率は0.8%から1.2%に上昇しています。
【最新版】顧客体験価値ランキング2021
顧客体験の改善を図るには、実際に良質な顧客体験を提供している企業について知ることも大切です。以下では、インターブランドジャパンが調査した「顧客体験価値ランキング2021」をもとに、質の高い顧客体験を提供している企業を5つ紹介します。
星野リゾート
高級リゾート施設で知られる株式会社星野リゾートは、コロナ禍にもかかわらず、ホテル事業で業績を伸ばしています。さらに、今回投票した人の7割が実際には星野リゾートを利用したことのない人であったのも興味深い点です。星野リゾートを利用したことのない人からも高い評価を受けたのは、積極的にメディアなどで自社の考えを情報発信したためです。具体的には「経営者が色々考えて企業活動を進めている」という理由で1位に選出されました。星野リゾートの事例からは、実際に商品に触れたことがなくても、ブランドとしての価値を伝えられることがわかります。
ワークマン
株式会社ワークマンは、職人向けの衣料品を販売しています。これまではニッチな需要に応えるブランドとして展開してきましたが、現場仕事で活躍する丈夫さは一般の顧客にとっても需要があると考え、販売層を拡大しました。ワークマンでは、顧客体験の向上を図るうえで、SNSで情報発信している顧客を活用する「アンバサダー制度」を導入しています。アンバサダーは、社内イベントや商品開発などに携わるほか、サンプル商品を使用して感想をSNSで発信する役目を担っています。
サントリー
飲料水や酒類の販売で知られるサントリー株式会社は、小売店での販売が多くを占め、顧客一人ひとりの体験を把握することが難しい課題を抱えていました。そこで市場調査によるデータ分析を重視しています。市場調査をもとに強化したのが、健康志向にマッチした商品やおうち時間を楽しむ商品です。また、近年ではYouTubeやTwitter、InstagramなどのSNSで情報を発信し、顧客との接点を増やすことにも注力しています。
帝国ホテル
株式会社帝国ホテルは、コロナ禍で宿泊業の業績が伸び悩むなか、ホテルに住む「帝国ホテルサービスアパートメント」という新しい価値観を創出し、売上を伸ばしました。帝国ホテルサービスアパートメントは、ホテルの一室を自宅のように使えるうえ、プールやルームサービスも利用できるサービスです。新たな日常を生み出すことも顧客体験を向上させるうえで効果的な手段です。
任天堂
任天堂株式会社は、ゲームの概念を変えて顧客体験の向上を図っています。WiiやSwitchなどのゲームでは、コントローラーを持って、座りながら操作するだけではなく、実際に体を動かして遊ぶ体験を得られます。また、ゲーム=遊びという概念を覆し、子どもの学習に役立つソフトを数多くリリースしている点も特徴的です。実際にゲームを楽しむ子どもだけでなく、親世代の顧客体験も重視しています。
まとめ
顧客体験は、一朝一夕にして改善できるものではありません。現状と課題の把握、仮説の検証を経て改善できるものです。顧客体験の改善を図る際は、顧客がどんな商品やサービスを求めているかを考えることが大切です。顧客一人ひとりのニーズを的確につかみ、サービスに反映していくことが良質な顧客体験につながるでしょう。