ビジネスアイデアを広く精鋭から発掘する「”Innovation Cloud」/博報堂コンサルティング

■ 革新的なアイデアを生むイノベーターの「社会知」

株式会社博報堂コンサルティングは10月30日、ビジネスアイデアを発掘するための新しい試み「Innovation Cloud(イノベーションクラウド)」を開始した。これはアイデアを求める企業や団体などを対象に、MBA学生、クリエイターなど厳選された会員からアイデアを募るサービスである。
会員数は現在約1000名。今後は増えていくと思われる。

企業をめぐる情勢は厳しい。輸出産業は安価で優秀な人材を多数抱えるアジア企業に対抗していくことを求められ、国内を市場とする企業でも景気回復が完全でない中、来年の消費税アップを見据えて、商品やサービスを売っていかなくてはならない。
しかし、我が国は成熟市場であり、消費者はほしいもの・必要とするものの多くをすでに持っている。成熟市場でものを売るのは、困難なことだ。

結果、多くの製品やサービスは供給過剰に陥り、競争ばかりが熾烈になっている。このような状況を打破して利益を確保するためには、既存の枠組みを超えた革新的なアイデア=イノベーションが必要となる。

しかし、アイデアを生み出すには心のゆとりも必要であるのに、知的ワークに従事する人々の多くは仕事漬けの日々を送っている。また、仕事へのスキルが高い人ほど、そのスキルに囚われて斬新な発想を得にくいという逆説もある。

実際、経済産業省による研究会が2010年に上場企業にアンケート調査を行った際にも「新事業創造を牽引する人材」が社内にいない、と答える代表者が約6割を占めていた。

そのような状況に対し、有効と考えられるのが、外部からの視点だ。
”Innovation Cloud”では、MBA学生やクリエイターなどにより「社会知」ネットワークを構築し、社内には存在しない価値観や参加メンバーが持つ多様な視点や独創的な発想をもって、アイデアを創造しようとするものだ。

アイデアは数が集まるだけでは役に立たない

ネットワークを活用して多様な意見を集めるといっても、誰にでも聞けばよいものではない。
従来のクラウドソーシングにはさまざまな分野のプロも登録しているが、専門的な技術を持たないアマチュアの登録者が多い。優秀な人材はクラウドソーシングで仕事を探さなくても仕事が入って来るため、登録しても普段は忘れていることが多い。そのため仕事案件を公開して、よい作業者に恵まれるという保証もない。

そのようなクラウドソーシングの弱点をカバーするために、”Innovation Cloud”ではまず人選を行い、精鋭メンバーを揃えている。
さらに必要に応じて、博報堂や博報堂コンサルティングのコンサルタントから、アイデアの具現化に向けた提案や、実行サポートを受けることもできる。
また、既存のコンサルティングプロジェクトと、”Innovation Cloud”の「社会知」を組み合わせ、発想力と実効性を高める手法、「キュレーションコンサルティング」という新しいサービスも展開する。

ちなみに「クラウド」というIT用語には、「cloud=雲」と「crowd=群衆」がある。クラウドソーシングの場合は「crowd=群衆」だが、”Innovation Cloud”では「cloud=雲」を採用している。群衆を利用するものではないという考えなのだろう。

課題は優秀な人材の継続的な確保

博報堂コンサルティングでは、オープン前にトライアル期間を設け、大手フィットネスクラブである株式会社ティップネスへのアイデア提供において、約10日間という日数で157案のアイデアを集めることができ、フィットネスクラブや業界に通じたスタッフでは、発想し得ない多くのアイデアが生まれ、いくつかのコンセプトが具現化に向けて動いているという。

”Innovation Cloud”にもし弱点を挙げるとすれば、アイデアを出す人材の確保だろう。仮に157案のうち、上位数人しか報酬を受け取れないとすれば、優秀な人材ほど、参加する意欲を減退させていくだろう。

そのような不明瞭な点はあるが、”Innovation Cloud”という発想そのものは面白い。今後の展開を見守っていきたい。